2014年2月28日金曜日

芦辺拓『奇譚を売る店』(光文社 - 2013)

奇譚を売る店奇譚を売る店
(2013/07/18)
芦辺 拓

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毎回「―また買ってしまった。」という主人公のつぶやきで始まる連作短編集。「本に憑かれた人」の姿を悲喜こもごもを絡めてリアリスティックに書いたのは梶山季之氏の名作『せどり男爵数奇譚』ですが、本書はその業の深いテーマを怪奇と幻想を絡めて料理し、提示した作品といえます。本書は全六編から成り、主人公は誘われるかのようにして古書に綴られた世界へとずるずると入り込み、現実と虚構を行き来しながら、背筋を寒からしめる奇妙な体験が綴られていきます。一冊の古びた病院のパンフレットから明らかになる数奇な縁と恐るべき事実を書いた「帝都脳病院入院案内」。謎の作者の足跡を追ううちに半ば取り憑かれていく「這い寄る影」。古き良き少年探偵モノへの愛も込められた「こちらX探偵局/怪人幽鬼博士の巻」。妖美なミステリ「青髯城殺人事件 映画化関係綴」。まさに梯子を外されたようなオチが待っている「時の劇場・前後編」。そして最後の「奇譚を売る店」では先の五編の出来事の恐るべき真実とともに総括する一方で、読み手にまでおぞましい怪奇をブン投げてくるという趣向。「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ」と、かのニーチェは言いましたが、オレンジ色の装丁に惹かれて手にとった瞬間から、自分も本という魔物に魅入られていたのかもしれません。

2014年2月27日木曜日

泉陸奥彦、テクノウチ(竹ノ内祐治)『ヘンリーエクスプローラーズ オリジナル・ゲーム・サントラ』(1996)

HENRYEXPLORERSHENRYEXPLORERS
(1996/02/21)
ゲーム・ミュージック

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'95年にコナミより発表された3Dガンシューティングゲーム「ヘンリーエクスプローラーズ」。襲い来るモンスターを撃ち倒しながらジャングルや洞窟、遺跡などのステージを攻略してゆくという「インディージョーンズ」的なイメージも踏襲した内容で、'97年にはプレイステーションとセガサターンでコンシューマー版もリリースされておりました(ガンコン対応)。サウンドトラックは'96年にリリースされており、BGMはルーズベルト泉こと泉陸奥彦氏と、テクノウチこと竹ノ内祐治氏のお二人による競作。タイプの異なる二人の音楽性の持ち味も感じられる内容にもなっています。ちなみに両氏はこれ以前にコナミのレーシングゲーム「スピードキング NEO KOBE 2045」のアーケード版のサウンドも手がけております(泉氏がBGM、テクノウチ氏がSEを担当)。



テクノウチ氏はシンセサイザー中心のテクノ・ミュージックを展開しており、スピード感抜群のアッパーチューン"High N-R-G Protection"や、トライバルなテクノ"Walter Tribe" "Acid Pyramidian""Global Elements" "Meditation Trax"のようなアンビエントなトラックや、おどろおどろしいムードを醸す"Ghost Gate"のようなサウンドトラック風の楽曲など、ゲームのコンセプトに沿った"秘境"や"洞窟"をイメージさせる空間的な仕上がり。制作にあたっては、音色用の容量が多めに確保出来たこともあり、今まで出来なかった「シンセのフィルター開閉」にこだわったサウンド作りを行えたとライナーノーツでコメントされております。



一方の泉氏は激しいギターサウンドをフィーチャーしたハード・ロック/プログレッシヴ・ロック路線の楽曲を中心に展開しています。即興やエスニックなテイストもあり、緊張感とミステリアスなムードもたっぷり。ライナーノーツの泉氏による楽曲解説も、かなりプログレファン向けのものになっており、思わずニヤリ。LED ZEPPELINの"Kashmir"のドラムを参考にして制作した"Spiral Stair"。MAHAVISHNU ORCHESTRAの"Meeting Of The Spirits(精霊の出会い)"を意識した"Falling"。そしてタイトルからして既にまんまな"Crimson Power"は、アルバム『RED』の頃のKING CRIMSONを倍速にしたようなヘヴィなスピードチューン。ジョン・ウェットン風のドスの効いたベースプレイも聴ける"Stalactite"や、『Discipline』に紛れていてもおかしくないポリリズミックな"Four Guitars"という曲もあり、氏のKING CRIMSONへの愛も改めて感じられる仕上がりです。



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01. HENRY EXPLORERS タイトルデモ
02. DIFFERENT JOURNEYS エントリー受付
03. GLOBAL ELEMENTS セレクト
04. GHOST GATE ヤー・ノーザのテーマ
05. A THICK FOREST ステージA1 (森)
06. WALTER TRIBE ステージB1 (湖畔)
07. SCHIZOPHRENIA ステージA2&B2 (神殿/遺跡)
08. SCRATCH "P" ステージA3&B3 (水路/洞窟)
09. CRIMSON POWER ステージA&Bボス (メデューサ/阿修羅)
10. BEYOND THE EYE 導きの瞳 (登場)
11. CLEAR クリア
12. ACID PYRAMIDIAN ステージC1 (エジプト屋内通路)
13. STAR LIGHT ステージD1 (エジプト屋外通路)
14. GEOMETRIC BRICK YARD ステージC2&D2 (ピラミッド内部)
15. FALLING ステージC3 (無限の地底へ落下)
16. SPIRAL STAIR ステージD3 (螺旋階段の塔)
17. HIGH N-R-G PROTECTION ステージC&Dボス (ツタン仮面/スフィンクス)
18. RITUAL PHUNK ステージE1 (廃坑)
19. STALACTITE ステージF1 (鍾乳洞)
20. MEDITATION TRAX ステージE2&F2 (廃坑2/腐食洞窟)
21. CAVE ステージE3&F3 (溶岩洞窟/地下水路)
22. STORM BRINGER ステージE&Fボス (ゴーレム/地底竜)
23. EYE OF GUIDANCE 導きの瞳 (ハメ込む)
24. WORLDLY GOODS エンディング1 (財宝の山)
25. LEGENDARY SWORD エンディング2 (伝説の剣)
26. NO WAY OUT エンディング3 (ボス)
27. MOVIE STARS エンディング4 (映画撮影)
28. FINAL FRONTIER スタッフロール
29. FAMOUS LAST WORDS ジ・エンド
30. NIGHTMARE ゲームオーバー
31. FOUR GUITARS ランキング

composed by 泉陸奥彦、テクノウチ

Producer 福武茂
Sound Produce コナミ矩形波倶楽部
Director テクノウチ

[KICA-7693](1996.2.21)


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竹ノ内裕治 - Wikipedia
竹ノ内裕治 - VGMdb
泉陸奥彦:Wikipedia
泉陸奥彦 - VGMdb

泉陸奥彦、E.G.A『メタモルフィックフォース』(KONAMI - ARCADE - 1993)
KENNEDY(泉陸奥彦)『Kennedy!』(1987)
KENNEDY(泉陸奥彦)『Twinkling Nasa』(1986)
泉陸奥彦『Heaven Inside』(2006)

2014年2月26日水曜日

どついたるねん『ピラミッドをぶっ壊せ!』(2014)

ピラミッドをぶっ壊せ!ピラミッドをぶっ壊せ!
(2014/02/19)
どついたるねん

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 2007年に結成され、高円寺を拠点にしてのおバカでアホで愉快な音楽性や周りも巻き込む活動でビリー・ジョー(GREEN DAY)や曽我部恵一やファレル(N.E.R.D)や峯田和伸からも一目置かれたりしている、ワトソン、先輩、山ちゃん、マイネームイズうがい、BASS MAN 木本の5人からなるパンクバンド どついたるねんの5枚目のアルバム。2月5日にリリースされたばかりの4枚目『サムライ伝説どついたるねん』に続き、3ヶ月連続リリースの第二弾となる作品で、99曲入りだった3枚目のアルバム『どどどどどついたるねん』を上回るCD2枚組198曲入り。歌詞カードの裏はアルバム曲数にちなんで198マスのすごろくになっており、バンドのバイオグラフィーやメンバーのアレコレも追えるシロモノ。ジャケットはホログラム仕様で無駄に目立ちます。

 アルバムは当然ながら数秒もしくは十数秒のトラックが大半で、YouTubeに連日アップロードしていたネタも混ざっております。パンク、ニューウェイヴ、ヒップホップ、テクノ、フォークがテキトーに混在しながら、生活音やひった屁を録音しただけのトラック(たまに不発)、大滝秀治や古畑任三郎のモノマネ、食レポ、一発ネタ、下ネタ、シャウト、ぼやき、思いつき…などなど。日常生活の断片をそのままレコーダーにぶち込んだぜ!といわんばかりのクッソしょうもないネタも、これだけ多量にポンポン繰り出されるとついダラダラと聴いてしまう不思議。さらに黒夢、GOING STEADY、メガマサヒデ、A-HA、マイケル・ジャクソン、坂本龍一、赤い鳥、RCサクセション、ゴールデンボンバーなどのカバー(替え歌)も紛れ込んでおり、実にスカム。時に下世話な趣向も炸裂しており、井上陽水&玉置浩二の名曲のワンフレーズのカヴァーをバックに脱糞音が鳴り響く"夏の終わりのハーモニー"は、続く"hot chocolate"が明らかにアレを示唆しているのも含めて臭気漂うものになっています。

 DISK 2は全6話からなるドラマ「恋する般若心経」で50分弱を占めており、もはや音楽アルバムからも逸脱。全寮制の仏教系男子高校 私立即身仏学園を舞台に、主人公の中曽根がクラスメイトの鳩山に半殺しにされ、あの世で大滝秀治や岡田真澄、長嶋茂雄と邂逅し、半沢直樹やあまちゃんと死闘を繰り広げながらバンド結成に情熱を注いだり注がなかったり、紆余曲折を経てゆるキャラとして大学受験に臨むというテキトーな内容。セリフをどれだけ噛もうが吹こうがリテイクなしというのもミソ。内容より見た目のインパクトとネタ重点ということで、良くも悪くもまともに聴いてはいけないアルバムですが、冒頭を飾る銀杏BOYZみたいなラヴソング"遠浅の部屋"や、テキトーだけど存外味わい深い"わたるちゃん アコースティック"、そしてLINKの柳井良太氏が提供したラストナンバー"GO FOREVER feat.GO"はネタ抜きで良い曲だと思います。話題性狙いという部分もありますが、このご時勢に面白いか面白くないかというのもそっちのけでわけのわからんアルバムを次々量産する底抜けにバカたれなスタンスも含めて、生暖かい目でついつい見守りたくなるバンドだなと。3月19日には第三弾アルバム『grandmother's milk』のリリースも控えており、ANAL CUNTがかつて発表した5643曲入りシングルを上回る6008曲収録。もはやどこを目指しているのか皆目検討もつきませんが、人生楽しんでんなあと。








vol.003 どついたるねん | 高円寺を愛するひとへ、ビビッと通電!高円寺のWEBマガジン【Concent】

2014年2月25日火曜日

平沢進『グローリー戦記 イメージアルバム』(1993)

グローリー戦記グローリー戦記
(1993/01/25)
イメージ・アルバム

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OVA『デトネイター・オーガン』柿沼秀樹氏の原作によるファンタジー小説『グローリー戦記』のイメージアルバム。前年まで制作されていたデトネイター・オーガンのサウンドトラック三部作に引き続き、平沢進氏が全曲の作編曲を担当されております。デトネイター・オーガンでは壮大にして強靭なヒラサワ流シンフォニック・サウンドを響かせておりましたが、本作はニューエイジ/民族音楽テイストを押し出した仕上がり。企画ものアルバムということもあって曲数は6曲と少なめですが、ゆったりと幽玄な情景をイメージさせるアジアン・ミュージックから、バグパイプの音色をふんだんにフィーチャーしたアイリッシュ・ミュージック、インダストリアルなビートによるシリアスなテクノ、アコースティック・ギターがまろやかに爪弾かれる静謐なインストと、各曲のカラーはハッキリとしております。ラストの"After The Wars"は"バンディリア旅行団"や"魂のふる里"、"カムイ・ミンタラ" なども思わせる壮大なスケールを感じさせる佳曲で、このアルバムでしか聴けないというのもまたポイントです。本作自体は廃盤ですが、2012年にケイオスユニオン/テスラカイト・レーベルよりリリースされた平沢進作品の16枚組BOXセット『HALDYN DOME』のDISC 9に、『デトネイター・オーガン OST3』の楽曲と併録されています。



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01. GLORY
02. LUKE
03. WAR MANUAL OF "GEAR"
04. VILES IMPERIAL
05. RULILIAN
06. AFTER THE WARS

composed & arranged by 平沢進

[POCH-1183](1993.1.25)


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柿沼秀樹 - Wikipedia
平沢進 - Wikipedia

2014年2月23日日曜日

CHARISMA【泉陸奥彦&菅沼孝三】(1974~1977)

「CHARISMA(カリスマ)」は、泉陸奥彦氏と菅沼孝三氏によって'74年に関西で結成されたバンド。KING CRIMSONからの影響もあるハードなジャズ・ロック・サウンドを展開していたそうで、その頃の楽曲のひとつは'94年にマーキー/ベル・アンティークからリリースされた発掘音源オムニバスアルバム『70's West Japanese Rock Scene』に収録されています。タイトルは"赤と黒の戦い"。演奏メンバーは泉陸奥彦(g)、福山宣司(g)、近藤研之(b)、菅沼孝三(ds)の4人。弾きまくり叩きまくりのスリリングなインスト曲です。この頃、泉氏も菅沼氏も高校生だったというから、いやはや恐ろしい。



CHARISMAは'77年ごろまで活動し、解散。泉陸奥彦氏はバンド「飢餓同盟」に在籍していた小西健司氏とエレクトロニック・ミュージック・ユニット「DADA」を結成、'78年のローランド主催のシンセサイザー・テープ・コンテストの入賞を経て、同年に自主レーベル VANITYより1stアルバム『浄』を、'81年にキングレコードのNEXUSレーベルから2ndアルバム『DADA』をリリースします。その後の活動は以下の通り。


DADA(泉陸奥彦&小西健司)『DADA』(1981) / 『城壁/鏡の中の家』(1994)
KENNEDY(泉陸奥彦)『Kennedy!』(1987)
KENNEDY(泉陸奥彦)『Twinkling Nasa』(1986)
MILLPLAT(五十嵐久勝&泉陸奥彦&細川博史)『Millplat』(1994)
泉陸奥彦『Heaven Inside』(2006)


'78年のシンセサイザー・コンテストの入賞楽曲を収録したオムニバスアルバム『驚異のシンセサイザー軍団登場!!』がこちら(未CD化)。小西健司名義の"ユークリッドの平行線"(0:00~4:56)、泉陸奥彦氏名義の"アトミック・フュージョン"(26:40~31:35) の2曲を聴くことが出来ます。また、後のAfter Dinnerの宇都宮泰氏、FILMSやTPOの岩崎工氏、EP-4の川島裕二氏(BaNaNa-UG)の若かりし頃の楽曲も聴けるのもまた興味深いところです(ちなみに'78年には、平沢進氏も週刊プレイボーイ主催のシンセサイザーコンテストで入賞しております)。

一方の菅沼孝三氏は「だるま食堂」やフュージョン・バンド「99.99(フォーナイン)」を経て、小川文明氏も在籍されていたことで知られるプログレッシヴ・ジャズ・ロック・バンド「BLACK PAGE」に参加。その後も数々のバンドへの参加やサポートミュージシャンとしての活動を展開し、"手数王"として著名になるのは周知の通り。

泉氏、菅沼氏のお二人が数十年ぶりに共演を果たしたのが、2007年に行われたコナミの音楽ゲーム「ギタドラ」シリーズのライヴイベント「THE GITADO LIVE」。泉陸奥彦(g)、菅沼孝三(ds)、黒沢ダイスケ(g)、白船睦洋(b)、佐藤和豊(kbd)というメンツで凄まじい演奏を繰り広げております。





ちなみにその後、菅沼氏は2011年に発表された泉氏の2ndソロアルバム『ポン太と巡る世界の音楽』のレコーディングにも参加されております。ドラム、パーカッションは勿論、ディジュリドゥも吹いており、菅沼氏のブログの2011年の記事にその時の写真が載っています

ポン太と巡る世界の音楽ポン太と巡る世界の音楽
(2011.4.20)
泉陸奥彦

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泉陸奥彦:Wikipedia
菅沼孝三 - Wikipedia

2014年2月22日土曜日

A.C.T『Circus Pandemonium』(2014)

CIRCUS PANDEMONIUMCIRCUS PANDEMONIUM
(2014/02/19)
アクト

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スウェーデン有数のプログレッシヴ・ハード・ポップ・バンド アクトの5thアルバム。2006年発表の4thアルバム『Silence』から実に8年ぶりとなる新作です。2007年のヨーロッパツアーの後、数年来のマネージャーと袂を分かち、長らくライヴ活動を休止していた彼らですが、水面下ではアルバムの制作を行っており、数年前からmyspaceやfacebookなどでレコーディングの進捗状況をこまめに公開しておりました。それだけに、まさに満を持しての完成といった感があります。メンバーのラインナップは3rd、4thアルバム制作時と同様、Herman Saming(Vo)、Jerry Sahlin(kbd)、Ola Andersson(g)、Peter Asp(b)、Thomas Lejon(ds)の5名。ゲストでSara WendelfordLinnea Olnertという二人の女性シンガーと、Imogen RossPeter Riderという二人のヴォイス担当、そしてカナダのプログレッシヴ・ハード・ロック・バンド SAGAのキーボーディスト Jim Gilmourを迎えています。SAGAはフロントマンのジェリー・サーリンが特に敬愛しているバンドであり、SAGAと共にツアーをしたこともあるだけあって、氏の今回のゲスト参加はなかなか感慨深いものがあったのではないでしょうか。

ヘルマン・サミングの甘いヴォーカル、QUEENを彷彿させるブ厚くも華麗なるコーラスワーク、RUSHやSAGA、IT BITESからの流れも汲んだ、巧みな緩急と併せてより一層のカタルシスを与えてくれるテクニカルなバンド・アンサンブル(現ドラマーのトーマス・レイオンはプログレッシヴ・メタル・バンド ANDROMEDAのドラマーも兼任しています)、Electric Light Orchestraや10cc、CITY BOYなどの往年のブリティッシュ・ロック・バンド譲りともいえるポップなメロディ・ライン、ストリングスにこだわったシンフォニックなアレンジなど、バンドがこれまでに培ってきたものはより一層の洗練のもとに提示されており、互いに邪魔をすることなく鮮やかかつ澱みなく聴かせられる手腕はやはり流石と言わざるを得ません。キャッチーな甘さを控えたヘヴィなサウンドを聴かせる場面も多く、プログレッシヴ・ハード・ロック色の強いバンドサウンドで勝負していた初期の頃を思わせるゴリゴリな押しの展開も復活しています。

また本作は、とあるサーカスが大混乱に至る顛末を描いたストーリー・コンセプト・アルバムとなっています。邪悪な表情のサーカス団員と鎖に繋がれた一人の男をあしらった穏やかならぬアルバムジャケットや、爆発炎上するビッグトップから逃げ出す団員や動物達が描かれたブックレット内のイラストが象徴するように、詞のテーマは終始暗いムードが覆っております。これまでもバンドは決して明るいとは言えないテーマの楽曲をユーモアとペーソスを絡めていくつも歌ってきましたが、本作では醜くも悲しい人間模様の縮図をサーカスに見ております。鞭打たれ疲弊した動物達、情け容赦のないマネージャー、痛ましく涙に暮れるピエロ、醜い風貌のために虐げられる団員、危険な状況に追い込まれる空中ブランコ乗りの女…彼らの悲哀と屈辱そして怒りと絶望が、存分に磨きのかかったポップでキャッチーなサウンドに載せて歌われる、その複雑な味わいたるや。

アルバムは短めのイントロダクションを経て、エッジも効いたテクニカルチューン"The End"で幕開けし、8年のインターバルを感じさせない不変のA.C.Tのサウンドの魅力をこれでもかと示しています。また、この曲は本作のストーリーのハイライトにあたる楽曲でもあります。アルバムが始まっていきなり結末部分を歌うという趣向もさることながら、"調教師のルイスが動物達を解き放ち、たちまちのうちに阿鼻叫喚となるサーカス。その混乱の中でサーカスのバンド(その名も「A.C.T」)が「ショウは続けなければならない(Show Must Go On)」と高らかに宣言し、演奏を続けていく…"という内容の詞も実にメタな仕掛けだなあと。これ以降、サーカスの面々のバックグラウンドにスポットを当てた楽曲が続いていくというアルバムの構成と併せて見てみると、なおのことそう思います。続く"Everything's Falling" "Manager's Wish"でも爽やかなヴォーカル/コーラスと鮮やかな起伏に富む楽曲展開のキャッチーな駆け引きが繰り広げられ、裏打ちのリズムも交えて一際ポップに躍動する"A Truly Gifted Man"は、終盤に盛り込まれたシンセの泣きのメロディラインも印象的な1曲に仕上がっています。これら前半パートの澱みなくスピーディーな構成だけとってみても、飢えたファンの渇きは十分に癒されるのではないかと思います。

中盤では1~2分ほどの楽曲がいくつも続き、丸ごと寸劇やSEから成る"Presentation" "Argument"も交えて、シアトリカルな趣向もより強まります。大仰なヴォーカルと凝りに凝ったコーラスワークで目まぐるしく駆け抜ける"Look At The Freak"や、SAGAのジム・ギルモアがハイヴォルテージなキーボード・ソロで参加した怒涛のプログレ・メタル・インスト"Confrontation"、サラ・ウェンデルフォード嬢とのエモーショナルなデュエットによるバラード"A Mother's Love"という一連の流れは聴きものです。観衆の前で愉快な狂人として演じ続けたあまりに擦り切れ、自分の「顔」を完全に喪失してしまうピエロを描いた"The Funniest Man Alive"は、とびっきりのポップ・センスの裏に内包された凄まじい悲壮感が心を打つ1曲。「死刑」という最後のショウに赴かざるを得なくなったダンサーを描いた"Scared"は、日本盤ボーナス・トラックです。ボートラながらテーマはサーカスというコンセプトと通底しているため、しっかりとアルバムの1曲として溶け込んでいます。ここからからラストまでは重厚な楽曲が続きます。メタリックなリフとシンフォニックなアレンジが美しくも哀しいサビへと収束する"A Failed Escape Attempt" "Lady In White"のドラマティック極まる構成は、もはやロック・オペラの域。ヘルマンのヴォーカルの素晴らしさも改めて実感させられます。また、"A Failed Escape Attempt"では、フリークスと蔑まれてきた一人のサーカス団員が逃げ出すチャンスを与えられるというストーリーが展開されているのですが、彼が喪失感と共に虐げてきた者達への復讐を誓うのがラストを飾る"Freak Of Nature"。ミドルテンポの曲調にも象徴されるかのように、深い影を落としながらアルバムは終幕を迎えます。その余韻はあまりにも重いものです。

まさにデビューからの十数年間の総決算と言うべき仕上がり。8年分の説得力も最後の最後まで伝わってきました。曲・構成・コンセプトそしてアレンジと、細部に至るまでじっくり丁寧に練り込まれたそのこだわりには頭が下がりますし、素晴らしいアルバムでもって示したバンドの鮮やかな復活劇を改めて喜びたいと思います。本作は海外では3月にリリースされるのですが、それに伴って本国でのライヴも既にいくつか決定しているようです。願わくば是非とも来日して欲しいところ。同じくスウェーデンのバンドで、ポップでメロディアスなサウンドを志向しているMOON SAFARIとカップリングで来日してくれたら言うことはないなあ、なんて。



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2014年2月20日木曜日

泉陸奥彦、E.G.A『メタモルフィックフォース』(コナミ/1993)



1993年にコナミからアーケード筐体で発表されたベルトスクロールアクションゲーム「メタモルフィックフォース」。基盤の出回りが良くなかったこともあってかコンシューマー版は出ておりませんが、本作の楽曲は同年にリリースされた2枚組アルバム『コナミ・アミューズメントサウンズ'93…秋』に、 仲野順也氏による「マーシャルチャンピオン」と、東野美紀さんによる「プレミア・サッカー」のBGMと併せて収録されています。音楽は矩形波倶楽部のルーズベルト泉こと泉陸奥彦氏と、E.G.A氏のお二人が担当(E.G.A氏のその他の参加作品などのプロフィールは不明)。獣人に変身するプレイヤーキャラを操り、終末的世界観のステージを攻略していくというゲーム内容にふさわしく、荒々しさを前面に押し出した楽曲群はいずれも秀逸。DEEP PURPLEを思わせる正統派ハード・ロック・チューン"バキャロスの遺跡" "復讐のコロシアム"や、様式美なフレーズが炸裂するネオクラシカルメタル"氷の洞窟" "デスシャドウ城の戦士"、スラッシュ・メタル調の"急げ!"など、打ち込みでありながら極めてハードなバンドサウンドに仕上がっています。重厚なバックのサウンドと縦横に弾きまくるギターとの対比も秀逸な"炎の洞窟"、神秘的なムードも織り込まれた"邪悪なる森"、プレイヤーの焦燥感を煽る"恐怖のドラゴン"など、緊迫感も十分。ヘンデル『メサイア』の第二部から「Surely He hath borne our griefs...(まことに彼はわれわれの病を負い…)」を抜粋してアレンジした"合唱"は、流石にコーラスは入っておりませんが、元が元だけに荘厳な1曲。



泉氏がかつて在籍されていたプログレッシヴ・ロック・バンド KENNEDYの作風を思わせる部分もあります。氏はバンド時代にアメリカのジャズ・ロック・バンド MAHAVISHNU ORCHESTRAの名曲"Birds Of Fire"をカヴァーしたことがあるのですが、本作にはそのものズバリ"火の鳥"(2面&6面中ボスBGM)というド直球なタイトルの楽曲があります。シンセが派手に切り込むハード・ロック・チューンであり、本作を代表するテンションの高い1曲。後に"MODEL DD 6"としてギタドラシリーズでリメイクされるというのも見逃せないポイントでしょう。同様に、ベースが激しい主張を繰り広げる楽曲である"コロシアムの女悪魔"(5面ボスBGM)も、後に"MODEL DD 7"としてギタドラプレイヤーの前に立ちはだかる楽曲となります。そして極めつけの1曲と言えるのが"デスシャドウ"(最終ボスBGM)。"Birds Of Fire"のフレーズが挿入されていたり、ギターソロに加えて長めのドラムソロパートもあるなど、ラストにふさわしく縦横無尽にやりたい放題やっています。



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コナミ・アミューズメントサウンズ’93…秋~マーシャルチャンピオンコナミ・アミューズメントサウンズ’93…秋~マーシャルチャンピオン
(1993/10/21)
不明

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≪DISC 1≫

Track 1~31:「マーシャルチャンピオン」 (composed by 仲野順也、DEEP SLEEP Sugisawa)
Track 32~47:「プレミア・サッカー」 (composed by 東野美紀)


≪DISC 2≫

01. 西暦199X
02. 伝説の英雄達
03. 新たなる旅立ち
04. バキャロスの遺跡
05. カプリオス登場~山羊と巨人
06. 勝利の時
07. 炎の洞窟
08. 火の鳥
09. ファンファーレ
10. 破壊せよ!
11. 祝典
12. 凍る大地
13. 邪悪なる大地
14. 4人の戦士
15. ガンオー現る~森の死闘
16. 急げ!
17. 復讐のコロシアム
18. コロシアムの女悪魔
19. デスシャドウ城の戦士
20. 合唱
21. デスシャドウ
22. 恐怖のドラゴン
23. デスシャドウの最後
24. 傷だらけの栄光
25. 希望の空へ
26. 立ち上がれ!
27. 終曲

composed by 泉陸奥彦、E.G.A.

[KICA-7620~1](1993.10.21)


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「ACT SingleGM メタモルフィックフォース」- ニコニコ動画
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4193848

メタモルフィックフォース - Wikipedia
泉陸奥彦:Wikipedia
泉陸奥彦 - VGMdb
コナミ・アミューズメントサウンズ'93…秋 - VGMdb

DADA(泉陸奥彦&小西健司)『DADA』(1981) / 『城壁/鏡の中の家』(1994)
KENNEDY(泉陸奥彦)『Kennedy!』(1987)
KENNEDY(泉陸奥彦)『Twinkling Nasa』(1986)

2014年2月19日水曜日

泉陸奥彦『Heaven Inside』(2006)

HEAVEN INSIDEHEAVEN INSIDE
(2006/12/22)
泉 陸奥彦

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 '74年に菅沼孝三氏らとジャズ・ロック・バンド「カリスマ」を結成。その後、小西健司氏との電子プログレ・ユニット「DADA」を経て、'80年代中期に結成した「KENNEDY」で2枚のアルバムを発表し、同バンド解散後は五十嵐久勝氏との「KREMLIN」「MILLPLAT」での活動を展開。また、ギタリストとしてSADATO GROUPやAfter Dinnerへ参加する一方、'80年代末からは「ルーズベルト泉」の名でコナミのサウンドチーム 矩形波倶楽部の一員として「スナッチャー」「メタルギア2 ソリッドスネーク」「メタモルフィックフォース」などのタイトルに参加され、'90年代終わりごろからはコナミの音楽ゲーム「BEMANI」シリーズに楽曲を提供、同ゲームのコンポーザーの一人として現在も高い人気を誇る泉陸奥彦氏。

 2006年にコナミスタイルの通販限定でリリースされた本作は、ギタドラシリーズにこれまで提供した楽曲に書き下ろしの新曲を加えたベストアルバムであります。アツく燃えるメロディック・ハード・ロック"Heaven Inside"(vo:ステファン・マックナイト) "LET ME BELIEVE"(vo:ブレンダ・ヴォーン)や、80年代テイストも香るスピード・メタル"涙のregret"(vo:くにたけみゆき)といった、実力派ヴォーカリストを迎えてのパワフルな歌ものをはじめ、ギターとキーボードの白熱したソロバトルも圧巻な超絶インスト"MIDNIGHT SUN"、痛快にハジけたロックン・ロール"USED TO ROCK'N'ROLL"、歌謡ロック調のパワーバラード"水晶~瞳の中の未来~" "WISH"、スロウにタメるブルース・ロック"Cry in the Rain"、さらには"ALWAYS" "Be Proud"といったしっとりとしたバラードまで、バラエティ豊かな楽曲を14曲収録。

 泉氏の真骨頂とも言える縦横無尽に弾きまくるギタープレイが存分に味わえるのはもちろんですが、バックを固めるのは、佐藤和豊(kbd)、白船睦洋(b)、吉田太郎(ds)といった手練揃いなのも見逃せません。また、ゲスト・ギタリストとしてマーティー・フリードマン中村康三氏(Kozo Nakamura)の2人が参加し、マーティーは"LIBERTY" "MODEL DD8"で、中村氏は"RISE"で、泉氏と共にパッション溢れるギターバトルで凌ぎを削っております(ちなみに中村氏も「ラ・ナカムール」という名義で、かつてコナミ矩形波倶楽部の一員でありました)。「MODEL DD」シリーズはゲームでも屈指の難曲として知られ、毎度のようにしてプレイヤーを苦しめるのですが、この時点での最新作であった"MODEL DD8"も変拍子や不協和音込みの激烈なテクニカル・プログレッシヴ・メタルとなっており、期待を裏切らないものになっています。マーティーのプレイも流石の一言。






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01. HEAVEN INSIDE [GuitarFreaks 8/DrumMania 7]
02. LIBERTY
03. ALWAYS (A HAND TO HOLD Japanese version) [GuitarFreaks 3]
04. 涙のregret [GuitarFreaks 9/DrumMania 8]
05. MIDNIGHT SUN [GuitarFreaks 6/DrumMania 5]
06. USED TO ROCK'N'ROLL [GuitarFreaks 9/DrumMania 8]
07. LET ME BELIEVE [GuitarFreaks 11/DrumMania 10]
08. Cry in the Rain
09. Glorious Days
10. 水晶~瞳の中の未来~ [GuitarFreaks 10/DrumMania 9]
11. RISE [GuitarFreaks 10/DrumMania 9]
12. WISH [GuitarFreaks V3/DrumMania V3]
13. MODEL DD8 [GuitarFreaks V4/DrumMania V4]
14. Be Proud [GuitarFreaks V2/DrumMania V2]

泉陸奥彦(g.b.kbd.prog)

Marty Friedman(g) ②⑬
中村康三(g) ⑪
佐藤和豊(kbd) ②③⑤⑥⑧⑪⑬
白船睦洋(b) ②④⑤⑥⑧⑨⑪⑬
吉田太郎(ds) ①②④⑤⑥⑧⑨⑪⑬
Stephen McKnight(vo) ①
Roxie(vo) ③⑧⑨
くにたけみゆき(vo).cho ④⑩⑭
Brad Holmes(vo) ⑥
Brenda Vaughn(vo) ⑦
mira(vo.cho) ⑫

[LC-1500](2006.12.22)

コナミスタイル - 泉 陸奥彦「HEAVEN INSIDE」

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泉陸奥彦 - VGMdb
MODELDDシリーズ - ニコニコ大百科

DADA(泉陸奥彦&小西健司)『DADA』(1981) / 『城壁/鏡の中の家』(1994)
KENNEDY(泉陸奥彦)『Kennedy!』(1987)
KENNEDY(泉陸奥彦)『Twinkling Nasa』(1986)

2014年2月16日日曜日

KENNEDY(泉陸奥彦)『Twinkling Nasa』(1986)

トゥインクリング・ナサ(紙ジャケット仕様)トゥインクリング・ナサ(紙ジャケット仕様)
(2013/10/09)
ケネディ

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 現在はコナミの音楽ゲーム『ギタドラ』シリーズの人気コンポーザーの一人としても知られる泉陸奥彦氏がかつて在籍していたプログレッシヴ・ロック・バンド ケネディが1986年に発表した1stアルバム。昨年、キングレコードよりめでたく再発(初CD化)されました。ケネディの音楽性の母体となったのは、後にP-MODEL、4-Dなどでも活動される小西健司氏と70年代後半に結成されたエレクトロ・プログレ・ユニット「DADA」。同ユニットはTANGERINE DREAMやVANGELISからの影響を感じさせる実験的な方向性のシンセサイザー・ミュージックを展開しておりましたが、81年にアルバム『DADA』を発表した後に解散。泉氏は同ユニットで培った音楽性をさらに発展させるべく、ケネディを立ち上げます。本作は81年から85年にかけて録音された楽曲を収録したアルバムであり、楽曲ごとに奏者を迎えるというスタイルをとっているところから、この頃はまだ泉氏のソロ・プロジェクトの色合いが強かったことを感じさせます。また、当時TERU'S SYMPHONIAやPale Acute Moonで活動されていた仙波基氏や、ケネディの要とも言える存在だった北岡敦氏がそれぞれ作曲を手がけたコンパクトなシンセサイザー・インストも収録されています。

 "Flying Ship Part 1" "Flying Ship Part 2"は、共にDADA時代の楽曲のリメイク・ヴァージョン。オリジナルのスペイシーなテイストはそのままに、さらに厚みが増したシンセサイザー/メロトロンのバッキングの上を、泉氏のギターソロが縦横無尽に駆け巡る熱気に溢れた仕上がり。ちなみに、前者でキーボードソロで参加されている深見誠一氏は、後に泉氏と共にコナミ矩形波倶楽部のメンバーに加わり、「プロフェット深見」としてスナッチャーやサンダークロス、グラディウスIIIなどの楽曲に携わられます。"Prelude"も同じくリメイク曲ですが、こちらはDADA時代の面影が色濃く残った仕上がり。浮遊感と軋みを伴ったギターソロがゆるやかに空間を支配してゆく、情緒的なメディテーショナル・ミュージックであります。偏執狂的なシンセサイザーのシーケンスの上を攻撃的なギターソロが攻め立てる"Boctok"は一触即発的なテンションの漲りを感じさせる1曲。"Explorer 1958 Alfa"は本作におけるハイライトであり、仙波基・北岡敦の両氏が左右で展開するキーボードソロや、フリーキーなサックスソロも絡んで白熱の一途を辿るパフォーマンスが聴きものです。プログレッシヴ・ハード・ロックな疾走感で攻め立てる怒涛の七分間がここにあると言っても過言ではありません。



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01. Twinkling Nasa [1981.12]
02. Burning Days [1985.1]
03. Flying Ship Part 1[1981.12 & 1984.12]
04. Elliptic Orbit [1982.4]
05. Explorer 1958 Alfa [1984.12]
06. Boctok [1982.4]
07. Prelude [1981.12]
08. Flying Ship Part 2 [1984.12]
09. Florida [1985.1]

※[]カッコ内は録音年

①③~⑧ composed by 泉陸奥彦
② composed by 仙波基
⑨ composed by 北岡敦

泉陸奥彦(syn.g.computer.arrange)
伊藤宏二(sax on ⑤⑧)
宇佐見斉(ds on ③⑥)
太田由美(voice on ⑤)
深見誠一(kbd solo on ③)
仙波基(kbd on ②.solo on ⑤[Right])
北岡敦(kbd on ⑨.solo on ⑤[Left])

LP盤: [K28P-597](1986)
CD盤: [KICS-91945](2013.10.09)


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DADA(泉陸奥彦&小西健司)『DADA』(1981) / 『城壁/鏡の中の家』(1994)
KENNEDY(泉陸奥彦)『Kennedy!』(1987)

2014年2月15日土曜日

SOPHIA『Defiance』(1986)

ディファイアンス(紙ジャケット仕様)ディファイアンス(紙ジャケット仕様)
(2013/09/04)
ソフィア

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 昨年、キング・レコードのジャパニーズ・プログレ紙ジャケット再発シリーズのラインナップに加わり、KENNEDYと共に本邦初CD化となったタイトル。関西のプログレッシヴ・ハード・ロック・バンド「ソフィア」が'86年にリリースした唯一のフルアルバム作品。初期NOVELAのコピーバンドとして活動していたというソフィアが結成されたのは80年代後半。結成当時はツインギター、キーボードを含む6人編成だったそうで、メンバーには、後にLAZY(影山ヒロノブ氏や高崎晃氏も在籍していたハード・ロック・バンド)の井上俊次氏と田中宏幸氏によるバンド ネバーランドに引き抜かれる貴智明氏(vo)や、本家NOVELAの第二期メンバーとして加入する西田竜一氏(ds)も在籍しておりました。最終的なラインナップは土坂健司(g)、森川健司(vo)、林伸哉(b)、細川博史(ds)の4人に落ち着きます。サウンドはNOVELAの影響下の耽美なムードをまとったトリッキーなプログレッシヴ・ハード・ロックなのですが、中性的な声質の持ち主である森川健司氏のハイトーン・ヴォーカルは、高いヴォルテージで突き抜ける五十嵐久勝氏のそれとは異なり、シャープでありながらどこかスウィートな印象もあります。NOVELAと同等、もしくはそれ以上に好みを分けるところかもしれませんが、個人的には森川さんのヴォーカル、好きです。

 '84年末にリリースされた4曲入りミニアルバムを経て、'86年の2月にリリースされた本作は、プロデューサーにURBAN DANCEの成田忍氏、サウンドスーパーバイザーにDADAの小西健司氏という、後の4-Dのメンバーでもある二人を迎えて制作されたアルバム(ちなみに、成田氏はこれ以前に五十嵐氏の1stソロアルバム『Puzzle』のプロデュースも手がけております)。ゲートリバーブをかけたドラムをはじめとしたフワーンとした音作りや、煌びやかな楽曲アレンジなど、ニューウェイヴ色が強い仕上がり。同時期のNOVELAも同様にニューウェイヴ路線を展開しておりましたが、シンフォニックな色合いも強かった第三期NOVELAと比べると、随分とポップな感触。このあたりは、やはり成田氏のプロデュースによるものなんだろうなあと思います。楽曲とアレンジが嚙み合わない場面もあるものの(9分の大曲"Prism"や、"Liberal"など、テクニカルな展開のある曲が特にそう感じます)、ミステリアスなイントロをハイトーンで突き破る瞬間のインパクトも絶大な疾走チューン"Defiance"や、洗練されたアレンジと構成で伸びやかなヴォーカルもバッチリと決まる"Lacher"は名曲です。結局このニューウェイヴ化はファンには受け入れられず、アルバム発表の数ヵ月後にバンドは解散してしまいますが、時代の流れも含めて考えると、やはり難しいものがあったんだなあと感じます。四半世紀を経た今こそ、再評価されて欲しいですね。

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01. Defiance (作詞・作曲:土坂健司)
02. Dancin' Doll (作詞・作曲:土坂健司)
03. Monologue (作詞・作曲:土坂健司)
04. Lacher (作詞・作曲:土坂健司)
05. Prism[Instrumental Version] (作詞・作曲:細川博史)
06. Liberal (作詞・作曲:土坂健司)
07. In Tears (作詞・作曲:細川博史)

Sound Produced 成田忍
Sound Supervised 小西健司

土坂健司(g)
森川健司(vo)
林伸哉(b)
細川博史(ds)

LP盤[K28P-600](1986.2)
CD盤[KICS-91940](2013.9.4)


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 バンド解散後の各メンバーについて。林伸哉氏のみ、その後の動向や近況は不明なのですが、森川健司氏は、OSAKA NEON KNIGHTSや、元ページェントの中嶋一晃氏率いるGo To HongKongなどで現在も活動中。土坂健司氏はプログレ・ハード・バンドVirgin Sabelのフロントマンとしてライヴを行っているようです。細川氏は'94年に泉陸奥彦氏や五十嵐久勝氏とMILLPLATを結成し、同年に1枚のアルバムを残しております。近年はギタリストとのインスト・デュオ・ユニットSTRANDで活動中(Virgin Sabelとの対バンも行っていたようです)。また、2011年に行われたギタドラのライヴイベントに、泉氏と共に参加されておりました。その後、STRAND名義でギタドラへの楽曲提供もされたようです。これがまたテクニカルな1曲なのです。


SOPHIA『Defiance』(1986)
KENNEDY(泉陸奥彦)『Kennedy!』(1987)
KENNEDY(泉陸奥彦)『Twinkling Nasa』(1986)

2014年2月12日水曜日

maigoishi『Encounter』(2013)

EncounterEncounter
(2013/12/04)
maigoishi

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ユニークで魅力的なエレクトロニカ系アーティストの作品をリリースしているレーベル「elegantdisc」から昨年アルバムデビューした、若干22歳の新人コンポーザー/トラックメイカー maigoishiの1stアルバム。両親譲りというジャズ、エレクトロニカ嗜好に、光田康典氏や植松伸夫氏などの90年代ゲーム・ミュージックからの影響も取り込んだ颯爽としたエレクトロニック・フュージョンを展開しており、そのハイブリッドなサウンドはとにかく気持ち良くツボにハマってきます。各ジャンルの美味しい部分を選りすぐり、巧みにミックスして独自のサウンドを作り上げていくセンスの冴えはなるほど新世代的。

エレクトリック・ギターが切れ込むハード・フュージョンと軽快なピアノ・ジャズの二つのパートをクラブ・ジャズ・スタイルでまとめ上げたオープニング曲"Aftershock"は、氏の才気が如実に伺えるキラーチューンであります(ちなみに、シュレッドなギタープレイで客演しているのは、マーティー・フリードマンのアシスタントであるArise Enmi(延味有瀬)氏)。小気味良い変拍子をオリエンタルなムードと絡めて聴かせる"Dream Dancing"や、キース・エマーソン、というよりは松谷卓を思い起こさせる、プログレタッチのピアノ・フュージョン"Diastrophism"のしなやかな力強さも耳を惹きます。また、抜けの良さが光る"Midnight Vision"や、澄み切った夜空のようなイメージを湛えた"Zuan Wu"からは、maigoishi氏がフェイバリットに挙げている光田康典氏の作風に通じるものを感じました。彼のゲーム・ミュージック原体験には、光田氏の「クロノトリガー」や、デヴィッド・ワイズ氏の「スーパードンキーコング2」があるのだとか。そのことを踏まえると、情景が浮かぶようなサウンド作りも少なからず納得がいきます。

声明や笛、鼓などをバックに織り込み、厳かな情緒と風景を演出する"Shishi-Odoshi"、散りばめられた和のエッセンスとゆったりとしたメロディラインがさながら桃源郷のようなイメージを描き出す"Footprints of Giant Asian"、シューティングゲームで使用されてもおかしくない疾走ドラムンベース"Qinglong"など、耳馴染みの良さに特化しつつもイージーリスニングに堕することなく、一味二味とスパイスの効いたスタイリッシュな楽曲が目白押し。ピアノ・インストゥルメンタル、ゲーム・ミュージックなどを好むリスナーにも強くオススメしたいです。



maigoishi『Encounter』 - elegantdisc
maigoishi - soundcloud

2014年2月10日月曜日

土橋安騎夫、Ivan Kral 他『AKIO DOBASHI feels 夜桜四重奏』(2008)

TBSアニメーション 夜桜四重奏 オリジナルサウンドトラック AKIO DOBASHI feels 夜桜四重奏TBSアニメーション 夜桜四重奏 オリジナルサウンドトラック AKIO DOBASHI feels 夜桜四重奏
(2008/11/19)
TVサントラ、Ivan Kral 他

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「月刊少年シリウス」にて連載されている、ヤスダスズヒト氏による漫画「夜桜四重奏~ヨザクラカルテット~」。昨年二度目のTVアニメ化がされましたが、こちらは2008年の一度目のTVアニメ版のサウンドトラック。元レベッカのキーボーディストである土橋安騎夫氏が劇伴のトータル・プロデュースとインストゥルメンタル曲の作編曲を担当し、パティ・スミスやイギー・ポップのサポート・ギタリストとしても活動したSSW/プロデューサーのアイヴァン・クラール氏がヴォーカル曲を3曲提供しております。また、木暮"shake"武彦氏、是永巧一氏、遠藤一馬氏(SIAM SHADE)、北島健二氏(FENCE OF DEFENCE)、野村義男氏といったヴェテラン・ギタリスト陣がフィーチャリング参加しているのも大きなポイントでしょう。サックスをプレイしているのは、SOLID BRASSやオルケスタデルソルなどの活動で知られる竹野昌邦氏。マニュピレートには、プログレッシヴ・ロック・バンド ASTURIASの大山曜氏が関わっております。木暮氏はレベッカの初代ギタリスト、是永氏はレベッカのサポート・ギタリストでありましたし、大山氏はレベッカのアルバムのマニュピレートを担当されていたことを考えると、レベッカ時代からの繋がりも活きている1枚とも言えますね。



アルバムはクラール氏のヴォーカル曲を区切りとした三部構成となっており、全体的なサウンドの方向性はギター・ロック/デジロックを中心としたスピード感のある仕上がり(ちなみに、監督の松尾衡氏からはイメージベクトルでブライアン・イーノやT-REX、ジャンルでグラム・ロックという指針を出されていたとか)。5人のギタリスト各氏の持ち味を生かした起用をアコースティック/エレクトリック・サウンドの両面的に渡ってされており、土橋氏のキーボーディスト/プロデューサーとしての視点やこだわりが伺えます。1曲目の"Wild Children"は5人全員が参加しており、バックを是永氏と野村氏が、途中のソロを木暮氏と遠藤氏が弾き、ラストで北島氏が加わるという趣向のロックンロール・チューン。その他、唸りを上げて暴れ回るギターをフィーチャーしたデジロック"Real Crime" "Power Of The Will"や、乾いたグルーヴ込みのヘヴィ・ロック"Heavy Wall"、こってりとした泣きのロングトーンを聴かせる"Rhapsody of Recollection" "Beyond The Prophecy"、土橋氏自ら「REBECCAっぽいかも」と語る"Breakneck Speed"(スパイ映画のテーマっぽさも少々)なども聴きもの。誰がどの曲のどのパートのギターを担当されているのか、細かくは明らかにされておりませんが、各ギタリストのプレイを聴き分けてみるのもまた本作の一つの楽しみかと思います。



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01. Wild Children
02. Innocent Voice
03. Run Run Run
04. Real Crime
05. Power Of The Will
06. Shock Me
07. Heavy Wall
08. Breakneck Speed
09. Pellucid Mind
10. Midnight Mission
11. TELL ME I'M ALIVE
12. Sternly Universe
13. Poetry
14. Break The Silence
15. Love Moment
16. Calm Waltz
17. Magic Boogie
18. Brilliant Sky
19. After The Grief
20. Alone
21. Confuse The Body
22. CRAZY ABOUT YOU
23. Foggy Waltz
24. The Killing Star
25. Boyhood
26. Rhapsody of Recollection
27. Nostalgia
28. Beyond The Prophecy
29. Tears
30. DON'T HAVE ANSWERS
31. Memories of You


[VTCL-60079](2008.11.19)

M1~10、M12~M21、M23~29、M31 composed by 土橋安騎夫
M11、M22、M30 performed by Ivan Kral

土橋安騎夫(prog & kbd & A.piano)
木暮"shake"武彦(E.Guitar)
遠藤一馬(E.Guitar)
北島健二(A.Guitar & E.Guitar)
是永巧一(A.Guitar & E.Guitar)
野村義男(A.Guitar & E.Guitar)
竹野昌邦(Tenor & Soprano Sax)
大山曜(manipulator)


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夜桜四重奏~ヨザクラカルテット~ - Wikipedia
土橋安騎夫 - Wikipedia
アイヴァン・クラール - Wikipedia

2014年2月9日日曜日

服部克久、M.I.D.、吉良知彦、かしぶち哲郎 他『無限のリヴァイアス キャラクターソング・コレクション あしたから』(2000)

無限のリヴァイアス キャラクターソング・コレクション「あしたから」無限のリヴァイアス キャラクターソング・コレクション「あしたから」
(2000/05/03)
TVサントラ、保志総一朗 他

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1999年10月から2000年3月にかけて放送された、サンライズ制作のSF群像劇アニメ「無限のリヴァイアス」。谷口悟朗氏の初のTVシリーズ監督作品でもありました。本アルバムは、作中の主要キャストが歌うキャラクターソングを6曲収録したミニアルバム。本編の劇伴を担当された服部克久氏、M.I.D.をはじめ、ヴォーカリスト 菅井えりさんや、馬場孝幸高川善和の師弟コンビの作編曲による楽曲のほか、ムーンライダーズのかしぶち哲郎氏、ZABADAKの吉良知彦氏による提供曲があるのも見逃せないポイントになっています。



かしぶち氏による"masquerade"は、三拍子に乗せてアコーディオンが哀愁のメロディを奏でるワルツ調の1曲。シンプルながらメロディアス、かしぶち氏らしい仕上がりです。吉良氏の提供曲"Sacred Sacrifice"は、ハンドクラップを交えての祝祭的ムード溢れる間奏、長めのシンセサイザーソロから加速度的な盛り上がりを見せるフィナーレと、大仰なプログレ路線の1曲に仕上がっております。また、保志総一朗氏はザバダックのファンだそうで、このコラボを何より喜んだのは彼だとか。心なしか歌い回しも吉良さんを意識しているように思います。ちなみに、ソロ期ZABADAKの代表作のひとつにして大作プログレッシヴ・ロック・アルバムである『IKON~遠い旅の記憶~』がリリースされたのは本CDの数ヶ月前('00年の1月)です。もしかしたらアルバムの作風がこのキャラソンにも反映されたのではないかなあと思ってなりません。



その他、初期のゆずを思わせるストレートな(そしてどこかやけっぱちな)フォーク・ソング"がんばれ"や、アイドルポップス調の"ホントの笑顔で"、フルートやハープをフィーチャーしたバンド編成でしっとりと歌い上げられるバラード"独り立つ、私"といった明るめな曲調の中、M.I.D.による淡々としたトラックに乗せて各キャラクターのセリフが間断なく続く"自分の自由は自分で決めろ"は、本編の閉塞感が反映されたかのような趣向のヒップホップチューン。執拗かつ無感情に繰り返される「自分の自由は自分で決めろ」の斉唱や、千葉一伸氏演じるシュタイン・ヘイガーによる自己弁護めいた長口上パートがやたらと耳に残ります。ちなみにM.I.D.は「Mixs International DJ」の略称であり、モンチ田中氏、DJ YUTAKA氏ら10名以上のメンバーからなる大所帯のリミックス&トラックメイカー集団。80年代後半には、F.O.E.(細野晴臣&野中英紀&西村麻聡によるヒップホップユニット)とともに、近田春夫氏主宰のヒップホップレーベル「BPM」からカップリングシングルをリリースしたこともある人たちです。本編の劇伴ではストリングスを取り込んだ軽快かつクレバーなエレクトロ/ヒップホップ トラックを提供しており、こちらも秀逸。




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01. Sacred Sacrifice
作詞:北川恵子
作編曲:吉良知彦
歌:保志総一朗(相葉祐希)

Sound Produced By:吉良知彦(for ZABADAK)
吉良知彦(g.b.kbd.cho.prog)


02. がんばれ
作詞・作曲:高川善和
編曲:馬場孝幸
歌:白鳥哲(相葉昂治)、関智一(尾瀬イクミ)

馬場孝幸(prog.acoustic guitar)
小杉雅之(acoustic guitar)


03. ホントの笑顔で
作詞:弥勒
作曲:菅井えり
編曲:矢田部正
歌:桑島法子(蓬仙あおい)

鈴木雅企(acoustic guitar)
菅井えり(cho)


04. 自分の自由は自分で決めろ
作詞:中野航空
作編曲:M.I.D.(DJ MA$A)
歌:檜山修之(エアーズ・ブルー)、千葉一伸(シュタイン・ヘイガー)、
堀江由衣(ミシェル・ケイ)、長澤直美(クリフ・ケイ)、江川央生(フー・ナムチャイ)

Sound Produced By:田中"MONCHI"正彦


05. masquerade
作詞:北川恵子
作編曲:かしぶち哲郎
歌:氷上恭子(ユイリィ・バハナ)

Sound Produced By:かしぶち哲郎
かしぶち哲郎(prog)
鶴来正基(accordion)


06. 独り立つ、私
作詞:北川恵子
作編曲:服部克久
歌:丹下桜(和泉こずえ)

Conducted By:服部克久

渡辺直樹(b)
松原正樹、笛吹利明(g)
木村誠(perc)
山田秀俊(p)
服部克久(kbd)
鈴木"太郎"直樹(synth operation)
矢島富雄(cello)
朝川朋之(harp)
高桑英世(fl)
丹下桜(cho)

[VICL-60559](2000.5.3)

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服部克久 - Wikipedia
かしぶち哲郎 - Wikipedia
吉良知彦 - Wikipedia

2014年2月8日土曜日

Vince DiCola & Kenny Mariedeth『Saturday Morning RPG Original Soundtrack』(2014)



Saturday Morning RPG Original Soundtrack By Vince DiCola & Kenny Meriedeth (SMRC-1003)
Scarlet Moon Productions


80年代に『ロッキー4』『トランスフォーマー・ザ・ムービー』のスコアを手がけたことで一躍有名になり、90年代以降は自身によるプログレッシヴ・ロック・バンドTHREADやSTORMING HEAVENや、グレン・ヒューズやT-SQUARE Plusのアルバムへの参加、映画やゲーム・ミュージックへの楽曲提供・アレンジなどで精力的に活動を続けているアメリカのキーボーディスト/コンポーザー ヴィンス・ディコーラ氏。彼が2011年に楽曲を手がけた、Mighty Rabbit Studios制作のiPhoneアプリゲーム「Saturday Morning RPG」のサウンドトラックが、先ごろゲーム・ミュージック系新興レーベル「Scarlet Moon Records」より配信リリースされました。BGMは、アレンジ・ヴァージョンを含め全27トラック収録。フルアルバムの形でヴィンス氏の作品が聴けるのは実に十数年ぶりということで、まさに待望の作品と言えるでしょう。





本編の楽曲は2000年代からヴィンス氏とコンビを組んでいるギタリスト/コンポーザーのKenny Meriedeth氏との共作。シンセサイザーによる壮大なシンフォニック・スコアから、シリアスなイメージのアンビエント/エレクトロ、ブルージーなギターをフィーチャーしたインスト、エッジの効いたハード・ロック、ヴィンス氏が敬愛してやまないキース・エマーソンからの影響がモロに出たキーボード・プログレまで、ヴィンス氏ならではの独特のメリハリを効かせたサウンドと共に展開されております。また、『トランスフォーマー・ザ・ムービー』の劇伴として書かれた"Escape" "Legacy"や、同作のために書かれたもののお蔵入りとなり、後にAOR系のコンピレーションに収録された幻のヴォーカル曲"No Risk No Glory"が再録されているのも見逃せないところでしょう。"No Risk No Glory"のオリジナル・ヴァージョンはスタン・ブッシュが歌っておりましたが、今回の再録版ではRobert Reynoldsなるヴォーカリストが歌っております(The Mavericksの同名メンバーとは恐らく別人)。



さらに、それぞれゲーム・ミュージック界隈で活躍している Stemage(Grant Henry)C-jeff(Dmitry Zhemkov)Virt(Jake Kaufman)の3人がゲストでアレンジを提供しております。Stemage、C-jeffの連名アレンジによる"Dawn of a New Day"は、80年代のテイストも感じさせるプログレ・ハード色を強めた仕上がり、Virtによる"SATURDAY MORNING ARCADE SHOOTER"は、"Battle Scene"のプログレッシヴなチップチューンアレンジと、非常に「わかっている」のが嬉しい。近年、ヴィンス氏の影響を受けたコンポーザーが続々と登場してきているのは、いちファンとして頼もしい限りに思います。『トランスフォーマー・ザ・ムービー』で聴かせてくれたあのテイストが二十数年ぶりに蘇ったと言っても過言ではないですし、これからのヴィンス氏の活動にもますます期待が寄せられる、まさに渾身の作品だと思います。新旧のファンはもちろん、プログレッシヴ・ロック、AORファンにも、是非聴いていただきたい。







Vince DiCola - Wikipedia
TDRS Music - Vince DiCola
Vince DiCola - AllMusic
Talking Music with Vince DiCola - seibertron.com
Melodic Net: Vince DiCola Interview[2004.12.09]

2014年2月7日金曜日

サブリナ『SABRINA』(1986)

サブリナ(紙ジャケット仕様)サブリナ(紙ジャケット仕様)
(2013/11/06)
サブリナ

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ガールズ・ハード・ロック・バンド FLYING VISIONのヴォーカリストだったSHIMAこと田中志摩子さんをフロントに立て、ヘヴィ・メタル・アーミー(イースタン・オービット)のキーボーディストである中島優貴氏らを迎えて80年代半ばに結成されたバンド サブリナが86年に発表した唯一のアルバム。昨年のキングレコードのジャパニーズ・プログレッシヴ・ロック紙ジャケット再発シリーズのラインナップに本作が入り、実に27年ぶりとなるCD再発となりました。サブリナは前述した田中志摩子(vo)、中島優貴(kbd)のお二人に、高橋彰(g)、朝田啓介(b)、石井健司(ds)の三人を加えた5人組。ちなみに高橋氏は元 十二単のギタリストであり、ANTHEMのオリジナル・メンバーでもあった小柳彰史氏その人。泣きのギターソロが炸裂する"Slave In Star"は、彼と中島氏の共作曲です。また、アン・ルイス嬢が"Virgin Street" "Danger Night"の2曲に作詞を提供しております。サウンドは、レベッカやプリンセス・プリンセスなどのガールズバンドも意識しつつの、キャッチーな面を重視した歌謡ハード・ポップ路線であり、中島氏によるロマンティックで暖かみを感じさせるキーボード・アレンジがバッキングを分厚く支えているのも特徴です。煌びやかなアレンジが前面に押し出された"Far-Eyes"や、FLYING VISION時代もかくやといった感のあるエッジの効いた疾走チューン"Danger Night"、ピアノ/シンセによるウェットな演奏をバックに歌い上げられるパワーバラード"Image"といった佳曲もあるのですが、アルバムとしては無難にまとまり過ぎたという印象が否めないのが惜しまれます。結局、様々な事情によりバンドはこの1枚で解散してしまいます。



サブリナ解散後の田中志摩子さんの活動については詳しくはわからないのですが、しばらくはセッション・ミュージシャンとして活動されていたのではないかと思われます。89年にキングレコードからリリースされた、高河ゆんさんの漫画作品「マインドサイズ」のイメージアルバムにコーラスとして参加されているのは確認いたしました。中島氏は90年代以降、コミックスのイメージアルバムやヒーリング・ミュージックなどの制作活動にシフトされていくのですが、氏がYUHKI名義で2000年ごろにBGMを担当した「ヴォイス・ラヴ・レター」という、声優とヒーリングミュージックをコラボレーションさせたドラマCDシリーズの共通テーマ曲に、なんとサブリナの"Image"が"愛のイマージュ"と改題されて使われております。ちなみにこの「ヴォイス・ラヴ・レター」シリーズは第6弾まで存在し、菅原祥子、桑谷夏子、倉田雅世、田村ゆかり、橘ひかり、今井麻美の6名の女性声優が参加されておりました(今井さんにとっては、デビューして間もない頃のお仕事ということになります)。

中島優貴 - Wikipedia

2014年2月6日木曜日

鶴田海生、木村賢一『あさぎり夕 紅伝説 イメージアルバム』(1992)

紅伝説
紅伝説
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イメージ・アルバム
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講談社の月刊少女フレンドで90年代初頭に連載されていたあさぎり夕さんの漫画作品『紅伝説』のイメージアルバム。インストゥルメンタルが6曲、富沢美智恵さん、山寺宏一氏、手塚ちはるさん、矢尾一樹氏がそれぞれヴォーカルをとるキャラクターイメージソングを4曲収録。ドラマパートはなく、完全なミュージック・アルバムです。鶴田海生氏は、後にTOKIOやKinki Kids、ZONEなどのアルバムの作編曲/プロデュースを手がけられる御仁(またの名を"Ocean Born")。本作を含め、90年代にはコミックスのイメージアルバムや声優アルバムでお名前を見かけます。木村賢一氏については詳しいデータがないのですが、彼もJ-POP方面コンポーザー/アレンジャーとして活動されている方のようです。"沢木崖のテーマ"では、サックス奏者の昼田洋二氏が参加しております。

楽曲はほぼシンセサイザーによる打ち込み、アルバム後半へ行くほどイージーリスニング/ポップス寄りになりますが、アルバム前半は緊密なテンションが維持されており、ニューエイジ・ミュージックを通り越してニューウェイヴ/プログレに向かっているようなところも見受けられます。手塚ちはるさんが歌う"命がけでも抱かれたい"は、北欧のFra Lippo Lippiを思わせる冷ややかなニューウェイヴ風ポップスといった感。和楽器の音色とグリグリ動くベースラインも印象的な"伊賀一族"や、ちょいとポリリズミックな"舞王輝羅のテーマ"も耳を惹きます。そして本アルバムの白眉が、山寺宏一氏が歌う"風雲の悲劇"。ハモンドオルガンサウンドをフィーチャーした、プログレ風味のニューウェイヴ・ポップスといった趣の疾走感に富む1曲。この曲が聴けたのは収穫でした。



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01. 紅伝説~紅 彩香のテーマ~ (作詞:谷亜ヒロコ - 作編曲:木村賢一 - 歌:富沢美智恵)
02. 伊賀一族 (作編曲:鶴田海生)
03. 風雲の悲劇 ~風王早手のテーマ~ (作詞:谷亜ヒロコ - 作編曲:鶴田海生 - 歌:山寺宏一)
04. 雪王のテーマ (作編曲:木村賢一)
05. 舞王輝羅のテーマ (作編曲:木村賢一)
06. 命がけでも抱かれたい~妖子のテーマ~ (作詞:谷亜ヒロコ - 作編曲:鶴田海生 - 歌:手塚ちはる)
07. 鳳凰の一族 (作編曲:木村賢一)
08. 戦い (作編曲:木村賢一)
09. 沢木崖のテーマ (作編曲:鶴田海生)
10. 君をずっと抱いていたい~緋場 炎のテーマ~ (作詞:谷亜ヒロコ - 作編曲:鶴田海生 - 歌:矢尾一樹)

Sound Produced:鶴田海生
Keyboard:木村賢一(Track①④⑤⑦⑧)、鶴田海生(Track②③⑥⑨⑩)
Synthesizer:木村賢一(Track①④⑤⑦⑧)、鶴田海生(Track②③⑥⑨⑩)
Sax:昼田洋二

[CYCC-10006](1992.9.25)


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あさぎり夕 - Wikipedia

2014年2月5日水曜日

タケカワユキヒデ、浅野孝己 他『県立地球防衛軍 オリジナルアルバム』(1985)



週刊少年サンデー増刊号に1983年から1985年にかけて連載されていた安永航一郎氏のスラップスティックギャグ漫画『県立地球防衛軍』。同作品は86年にOVA化されるのですが、それに先駆けて、85年の8月に東芝EMIのアニメ専門レーベルであるフューチャーランド(ユーメックス)よりLPリリースされたのがこのイメージアルバム(※)。同年春に解散を発表したゴダイゴのタケカワユキヒデ氏と浅野孝己氏のお二人が全面的に参加されています。また、タケカワ氏は前年に光瀬龍原作のSF小説「百億の昼と千億の夜」の、萩尾望都によるコミカライズ版のイメージ・アルバムを手がけておられました。

アルバムは歌ものとインストを交互に配した構成で、全10曲。インスト曲はシンセサイザーによる打ち込みで、アルバムの始めと終わりではスペイシーかつ勇壮なテーマが聴けます(これだけ聴くとこのCDがギャグ漫画のイメージアルバムだとは到底想像がつきません)。それ以外のインストは全て「電柱組」関係の楽曲で、"念力イモとばし" "電柱組下部組織"はどこかトボけた印象も感じさせるコミカルなテクノ・ポップに仕上がっております。縦横無尽に弾きまくる浅野氏のギターに乗せて 「マッスル日本!」のコールがしつこく差し挟まれる"マッスル日本"はインパクト抜群のスピード・チューンで、マッスル日本のムチャクチャなキャラクターをイメージしたドライヴ感がまた素晴らしい1曲。



柿沢美貴さんのデビュー曲でもあるという"CHICK-A-BOON-BOON TIGER FEET -どうせ私はきれいです-"は、あどけなさの残る彼女の声質と煌びやかで躍動的なサウンドのマッチングが秀逸なテクノ歌謡。彼女はこのしばらく後「戦え!!イクサー1」の主題歌"戦え!!イクサー1"を歌われます。"ひとりぼっちのサイボーグ -カレーの国からきた男-"を歌うのは、70年代から活動を続けるAPRIL BANDのヴォーカリスト/ギタリスト 加藤隆之氏。リバーブ/エコーのかかったギターとヴォーカルがむわっとした空気感や胡散臭さをたっぷりと演出しております。"私思っているほど子供じゃない -バラダギのラブソング-"は、「おれは鉄兵」「パタリロ」の主題歌でも知られる藤本房子さんのコケティッシュな声がスロウなテンポの曲調にのせて運ばれる、思わずまどろみを誘う1曲。"ふれてもいいですか"は、奥土居祐子さんのアダルティーなヴォーカルを聴かせるソリッドなエレポップ。そして、"元旦が来た"は、奇人変人まみれの本編でも一二を争う人気を誇る(?)正月仮面のテーマ曲。元旦を祝い、世界平和を願う、おめでたさとユルさがポップに融合した屈指の名曲。毎年正月が来るとこの曲が聴きたくなります。また、ヴォーカルのマーチン氏は翌年に「マシンロボ クロノスの大逆襲」の主題歌"マシンロボ・炎"を歌われます。



ユニークなイメージアルバムとしてはもちろん、タケカワ氏のソングライティングの素晴らしさも味わえる名盤なのですが、OVA版サウンドトラックと同様、こちらも現在に至るまで一度も再発されておらず、プレミアアイテムと化しております。過去のアルバムとして埋もれたままというのは何とも勿体無いので、コミックスの完全復刻版の刊行の流れに乗って、こちらも再発してくれないかなあ、なんて思うのですよ。



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01. 県立地球防衛軍オープニング
02. CHICK-A-BOON-BOON TIGER FEET -どうせ私はきれいです- (作詞:小泉長一郎 - 歌:柿沢美貴)
03. 念力イモとばし
04. ひとりぼっちのサイボーグ -カレーの国からきた男- (作詞:ささだるい - 歌:加藤隆之)
05. 私思っているほど子供じゃない -バラダギのラブソング- (作詞:すぎむらひなこ - 歌:藤本房子)
06. マッスル日本
07. ふれてもいいですか (作詞:ささだるい - 歌:奥土居祐子)
08. 電柱組下部組織
09. 元旦がきた (作詞:ささだるい - 歌:マーチン)
10. 県立地球防衛軍エンディング

作編曲:タケカワユキヒデ(ゴダイゴ)
ギター:浅野孝己(ゴダイゴ)


[LD32-5002](1986.2.1)


(※)半年後の1986年2月1日に上の品番でCD盤もリリースされています。「やじきた学園道中記」「ファントム無頼」「炎の転校生」のイメージアルバムのCD盤もこの日のリリース。いずれもフューチャーランドより。
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2014年2月4日火曜日

羽田健太郎、忌野清志郎、ジョニー・ルイス&チャー『県立地球防衛軍 サウンドトラック』(1986)

県立地球防衛軍県立地球防衛軍

忌野清志郎

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週刊少年サンデー増刊号に連載されていた安永航一郎氏のスラップスティックギャグ漫画『県立地球防衛軍』。コミックスは昨年12月より(ほぼ)完全復刻版が順次刊行されており、私も正月仮面に再びあいまみえんがため、順次買い求めているところです。同作品は86年に一度アニメ化(OVA)されているのですが、未だDVD化はされておりません。実現するのはいつになるのでありましょうか。……さて、こちらはそのOVA版のサウンドトラック。東芝EMIのアニメ専門レーベルであるフューチャーランド(ユーメックス)より、86年の3月にカセット版とLP版が、同年10月にCD版がそれぞれリリースされました。8曲あるインスト全て羽田健太郎氏の作編曲によるもので、オーケストラ編成やブラス・セクションによる壮大なスコアから、リズム・セクションも交えたムード・ジャズ、ポピュラー・ミュージック調のコミカルなスコアまで、流石のバラエティ。また、"原滝の母"というやたら重低音の効いた曲があるのですが、これは伊福部昭氏のスコアのパロディと思われます(そういえばバラダギこと原瀧龍子の元ネタは「大怪獣バラン」でしたっけ)。主題歌・挿入歌は忌野清志郎氏とジョニー・ルイス&チャーの面々の共作によるもので、軽快なドライヴ感がたまらない"S.F.(エスエフ)"、やけっぱちなラヴソング"プライベート"、寂しさ漂うアコースティック・ナンバー"かくれんぼ"の3曲を収録。このうち、"プライベート"は、90年代に「忌野清志郎&2.3'S」でリ・レコーディングされます(93年のアルバム『MUSIC from POWER HOUSE』に収録)。



2005~2006年ごろに企画された、忌野清志郎氏のデビュー35周年に際してのカタログ・リイシューのタイトルにこのサウンドトラックも含まれており、ザ・タイマーズや忌野清志郎&2.3'S、HIS(細野晴臣、忌野清志郎、坂本冬美)のカタログなどと共にリリースされる予定だったのですが、発売中止になっております。そのため86年に出たCD盤は現在でもプレミアアイテムとなっており、Amazonのマーケットプレイスでは10万円を越える値で出品されているものもあります。



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01. S.F.(エスエフ) (作詞・作曲・編曲:忌野清志郎 + CHAR)
02. 終わりなき戦い (作編曲:羽田健太郎)
03. 原滝の母 (作編曲:羽田健太郎)
04. 脱線と追突のサンバ (作編曲:羽田健太郎)
05. 今津留の星 (作編曲:羽田健太郎)
06. 放課後のバラダギ (作編曲:羽田健太郎)
07. プライベート (作詞:忌野清志郎 - 作曲:忌野清志郎 + 三宅伸治 - 編曲:忌野清志郎 + CHAR)
08. 地方の長い夜 (作編曲:羽田健太郎)
09. サンチン怒る (作編曲:羽田健太郎)
10. 史上最大の省略 (作編曲:羽田健太郎)
11. さようなら裕子 (作編曲:羽田健太郎)
12. かくれんぼ (作詞・作曲・編曲:忌野清志郎 + CHAR)


[LD32-5015](1986.10.22)

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県立地球防衛軍 オリジナルサントラ盤 (LD32-5015) - VGMdb

2014年2月3日月曜日

大坪砂男『「零人」(大坪砂男全集4)』(創元推理文庫 - 2013)

零人 (大坪砂男全集4) (創元推理文庫)零人 (大坪砂男全集4) (創元推理文庫)
(2013/07/27)
大坪 砂男

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昨年、東京創元社から全4巻で刊行された、日下三蔵氏編纂による大坪砂男氏の全集を一通り読みました。元警視庁鑑識課吏員であり、江戸川乱歩によって称された「戦後派五人男」の一人に数えられる探偵小説作家であり、谷崎潤一郎『蓼喰ふ虫』の登場人物のモデル、都筑道夫の師であり、自らは佐藤春夫に師事、晩年は柴田練三郎のアイデアマンとして糊口を凌いだという、その生涯においても興味深いトピックが多い砂男氏。本格推理小説をはじめ、奇想小説、幻想小説、時代小説、サスペンス、SF、果てはショートコントや、アメリカ映画のノベライズ(「ヴェラクルス」「24時間の恐怖」)など、様々なジャンルの短編を遺した氏ですが、今回の全集にはそれらの作品群に加え、未収録のエッセイや初稿・異稿版、種々の評論・関係者や解説なども収められており、資料的にも充実しております。また、最終巻の編者解題において、ニトロプラスのゲーム作品や、『魔法少女まどか☆マギカ』『仮面ライダー鎧武』などの脚本家で知られる虚淵玄氏が砂男氏の孫にあたるということが明かされております。

砂男氏の代表作として挙げられる「天狗」は、「黄昏の町はずれで行き逢う女は喬子に違いない。喬子でなくてどうしてあんな素知らぬ顔をして通り過ることができるものか」という書き出しで始まり、主人公の偏執的言動と周到に計画されたトリックを書いたミステリ短編。全編に立ち込める静かな狂気がトリックの荒唐無稽さを呑み込んでおり、ただならぬ異様さを醸し出しております。私を蔑った彼女は公衆の批判を受けるべきだしその命は奪われねばならないしブルーマースを穿った下肢は白日の下に晒されねばならないと、主人公がその思考を方程式にして吐き出すくだりは忘れようにも忘れられません。「天狗」収録の第2巻も捨てがたいものがあるのですが、1冊の内容として個人的には好きなのは「幻想小説篇」「コント篇」「SF篇」と、エッセイ、そのほか多数の資料からなるこの第4巻。

こだわりのもとに推敲に推敲を重ねて書かれる砂男氏の文体はとっつきづらいとはいえ、「天狗」のように妄執的な人物を書かせたときの氏の筆の冴えには、否応もなく惹き込まれるものがあります。「幻想小説篇」の冒頭を飾る、花に憑かれた男の偏愛と幻視の顛末を書き出した表題作「零人」も、ある種の蟲惑的な熱を感じさせる一編。「コント篇」の収録作品は、「コント・コントン」「階段」「ビヤホール風景」など、人間模様をサスペンス/ホラー/ユーモアを絡め切り取った十数編。印象こそ小粒ですが、読みやすく小洒落た仕上がり。「SF篇」収録の4編は、中学生向け雑誌に書かれた「宇宙船の怪人」「プロ・レス・ロボット」、こちらもロボットプロレスネタを絡めたSFミステリ「ロボット殺人事件」、皮肉の効いたショートコント「ロボットぎらい」と、いずれもロボットSFものであり、1950年代中期に書かれた作品。アイザック・アシモフからの影響を色濃く感じさせるものになっています。ところで、ロボットプロレスといえばリチャード・マシスンの名作「四角い墓場(Steel)」が浮かびますが、こちらが発表されたのは1956年。「プロ・レス・ロボット」「ロボット殺人事件」の雑誌掲載はそれぞれ1955年、1956~57年であることを考えると、ほぼ同じ時期なんですよね。時代によるものと言ってしまえばそれまでですが、なかなか興味深いものがありました。後半の資料編は、山村正夫氏の「推理文壇戦後史(抄)」「夢幻の錬金術師・大坪砂男―わが懐久的作家論」と、色川武大氏の砂男氏にまつわるエッセイが特に面白く感じました。「推理文壇戦後史(抄)」では、高木彬光&山田風太郎 VS 大坪砂男という図式で繰り広げられた「魔童子論争」の顛末にも触れられております。

「創元推理文庫版〈大坪砂男全集〉全4巻刊行記念 和田周インタビュー(聞き手・日下三蔵)[2013年2月]」
http://www.webmysteries.jp/japanese/wadakusaka1302.html

大坪砂男氏の息子である和田周さんへのインタビュー。柴田練三郎のアイデアマンだった時期についても触れられている。ヴィリエ・ド・リラダン、G.K.チェスタトン、久生十蘭はともかくとして、ロバート・シェクリィやジャック・フィニィも息子に薦めるほど好きだったとは。

大坪砂男 - Wikipedia

2014年2月2日日曜日

長岡成貢『コミック・イメージ・ソング ああっ女神さまっ』(1991)

ああっ女神さまっああっ女神さまっ
(1991/03/13)
イメージ・アルバム、山口勝平 他

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メルダックから1991年5月にリリースされた、「ああっ女神さまっ」のドラマ&イメージソング集。初回特典にはキャスト・トークを収録したカセットテープが付属。ちなみに、アニメ化される前(OVA版は1993年発表)のCDなので、キャストはアニメ版とは全く異なります。サウンド・プロデュースは長岡成貢氏。数多くのJ-POPアーティストへの楽曲提供・編曲や、映画、ドラマ、アニメなどの劇伴などを数多く手がけられ、クラシックからロック、ジャズ、ソウル、R&B、エレクトロと多彩なジャンルを股にかけ、現在も一線で活動されている氏の初期のお仕事になります。近年のサントラ作品ではオーケストラによる壮大なスコアが中心ですが、本CDではシティ・ポップ調の"キャンパス・アイドルは女神さま"を皮切りに、唸るギターサウンドを押し出したハード・ロック・チューン"突っ走る自動車部"、ハードにグイグイと引っ張るフュージョン"ラッキー・スターはどこに?"、少々ミニマルなテイストも感じさせる6拍子のリリカルな"精霊たちよ"、アダルト・コンテンポラリーな"女神さまのいる町"といったタイプの異なるインストを提供されております。4曲あるヴォーカル・ナンバーは、いずれも時流を反映させたしっとりめの歌謡ポップスが中心。ベルダンディー役の日高のり子さんが歌う"いつまでもここにいます"は名曲であります。また、ウルド役の松井菜桜子さんが歌うアダルティーな1曲"ま~~~かせなさ~~~いっっっ"は、勝気なキャラクターでもってハイテンションでまくし立てるモノローグが差し挟まれていることもあって、ある種異様な存在感を示しております。


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1.鏡をぬけて (歌:山口勝平 - 作詞:谷亜ヒロコ - 作編曲:長岡成貢)
2.ドラマPart1
3.キャンパス・アイドルは女神さま (作編曲:長岡成貢)
4.ドラマPart2
5.突っ走る自動車部 (作編曲:長岡成貢)
6.ドラマPart3
7.ま~~~かせなさ~~~いっっっ
(歌:松井菜桜子 - 作詞:谷亜ヒロコ - 台詞:藤島康介 - 作曲:杉村雅祥 - 編曲:長岡成貢)
8.ドラマPart4
9.ラッキー・スターはどこに? (作編曲:長岡成貢)
10.ドラマPart5
11.精霊たちよ (作編曲:長岡成貢)
12.ドラマPart6
13.女神さまのいる町 (作編曲:長岡成貢)
14.ドラマPart7
15.いつまでもここにいます (歌:日高のり子 - 作詞:谷亜ヒロコ - 作曲:杉村雅祥 - 編曲:長岡成貢)
16.ドラマPart8
17.AH! MY GODDESS (歌:日高のり子、松井菜桜子、横山智佐 - 作詞:谷亜ヒロコ - 作編曲:長岡成貢)

サウンド・プロデュース:
長岡成貢

ドラマ・キャスト:
ベルダンディー(日高のり子)
森里螢一(山口勝平)
ウルド(松井菜桜子)
恵(横山智佐)
田宮(塩屋浩三)
ナレーション(堀内賢雄)


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ここからは余談。上で紹介した『ああっ 女神さまっ』アルバムのカタログナンバーはMECH-30005ですが、長岡さんはこの前後にリリースされたメルダックの「MECH-」品番の一連のカタログの作編曲に関わられております。

【MECH-30001 [1990.11.21]】『NEWドリームハンター麗夢 夢の騎士達』
同名OVAの先行イメージアルバム。全曲の作編曲、演奏を担当。

【MECH-30003 [1991.1.1]】松井菜桜子『世界征服』
松井さんの1stアルバム。作曲(5曲)と編曲(全曲)を担当。



【MECH-30004 [1991.1.21]】OVA「NEWドリームハンター麗夢 夢の騎士達」VOICE MOVIE
OVAのサントラ。松井菜桜子さんの歌う"少女期の終わりに"の作編曲を担当。

【MECH-30006 [1991.3.21]】JOKERシリーズ 1~ファースト・コンタクト
麻城ゆう原作の同名コミックのドラマCD。石橋"ZUN"強氏と共にサウンドを担当。

ああっ女神さまっ - Wikipedia
長岡成貢 - Wikipedia

2014年2月1日土曜日

Soundgarden Therapy? Monster Magnet Swervedriver 他「Road Rash (3DO/Windows)」 (1994)



「ロード・ラッシュ」は、 Electronic Artsより91年に発表されたエキサイティング&ヴァイオレンスなバイクレーシングゲーム。91年のメガドライブ版を皮切りに、ゲームボーイ、AMIGA、セガ・マスターシステム、ゲームギア、3DO、Windows、ニンテンドー64、プレイステーションといった各ハードでタイトルが制作され、1999年ごろまでシリーズが続いた作品であります。メガドライブ版(「Road Rash」「Road Rash II」)にはコンポーザーに大御所 Rob Hubbard氏が関わってもおりました。今回ご紹介するのは1994年、1995年に相次いで発表された3DO版 / Windows95版の楽曲についてでございます。ゲームのサウンドルームでは、SOUNDGARDENPAWHAMMERBOXTHERAPY?MONSTER MAGNETSWERVEDRIVERといった、A&Mレコーズ(ユニヴァーサル・ミュージック傘下)に当時所属していたオルタナ/ハード・ロック/ブルース・ロック/シューゲイザー系アーティストの楽曲を1~4曲ほど聴くことが出来ます。バンドのチョイスがどれも轟音系かつ雄臭を放っているのが実にイカします。ゲームのパッケージにはA&MレコーズのサンプラーCDも同梱されていたとか。

Road Rash Jukebox [Youtube Playlist]



【収録曲】
SOUNDGARDEN 「Rusty Cage」「Outshined」「Kickstand」「Superunknown」
PAW 「The Bridge」「Pansy」「Jessy」
HAMMERBOX 「Trip」「Simple Passing」
THERAPY? 「Teethgrinder」「Auto Surgery」
MONSTER MAGNET 「Dinosaur Vacume」
SWERVEDRIVER 「Last Train To Satansville」「Duel」


ちなみに、「Road Rash 3D」や「Road Rash 64」では、SUGAR RAY、 KID ROCK、 CIV、 THE MERMEN、 FULL ON THE MOUTH、 THE TEA PARTYの楽曲が収録されているそうな。

Road Rash - Wikipedia