スウェーデン有数のプログレッシヴ・ハード・ポップ・バンド
アクトの5thアルバム。2006年発表の4thアルバム
『Silence』から実に8年ぶりとなる新作です。2007年のヨーロッパツアーの後、数年来のマネージャーと袂を分かち、長らくライヴ活動を休止していた彼らですが、水面下ではアルバムの制作を行っており、数年前からmyspaceやfacebookなどでレコーディングの進捗状況をこまめに公開しておりました。それだけに、まさに満を持しての完成といった感があります。メンバーのラインナップは3rd、4thアルバム制作時と同様、
Herman Saming(Vo)、
Jerry Sahlin(kbd)、
Ola Andersson(g)、
Peter Asp(b)、
Thomas Lejon(ds)の5名。ゲストで
Sara Wendelford、
Linnea Olnertという二人の女性シンガーと、
Imogen Ross、
Peter Riderという二人のヴォイス担当、そしてカナダのプログレッシヴ・ハード・ロック・バンド
SAGAのキーボーディスト
Jim Gilmourを迎えています。SAGAはフロントマンのジェリー・サーリンが特に敬愛しているバンドであり、SAGAと共にツアーをしたこともあるだけあって、氏の今回のゲスト参加はなかなか感慨深いものがあったのではないでしょうか。
ヘルマン・サミングの甘いヴォーカル、QUEENを彷彿させるブ厚くも華麗なるコーラスワーク、RUSHやSAGA、IT BITESからの流れも汲んだ、巧みな緩急と併せてより一層のカタルシスを与えてくれるテクニカルなバンド・アンサンブル(現ドラマーのトーマス・レイオンはプログレッシヴ・メタル・バンド
ANDROMEDAのドラマーも兼任しています)、Electric Light Orchestraや10cc、CITY BOYなどの往年のブリティッシュ・ロック・バンド譲りともいえるポップなメロディ・ライン、ストリングスにこだわったシンフォニックなアレンジなど、バンドがこれまでに培ってきたものはより一層の洗練のもとに提示されており、互いに邪魔をすることなく鮮やかかつ澱みなく聴かせられる手腕はやはり流石と言わざるを得ません。キャッチーな甘さを控えたヘヴィなサウンドを聴かせる場面も多く、プログレッシヴ・ハード・ロック色の強いバンドサウンドで勝負していた初期の頃を思わせるゴリゴリな押しの展開も復活しています。
また本作は、とあるサーカスが大混乱に至る顛末を描いたストーリー・コンセプト・アルバムとなっています。邪悪な表情のサーカス団員と鎖に繋がれた一人の男をあしらった穏やかならぬアルバムジャケットや、爆発炎上するビッグトップから逃げ出す団員や動物達が描かれたブックレット内のイラストが象徴するように、詞のテーマは終始暗いムードが覆っております。これまでもバンドは決して明るいとは言えないテーマの楽曲をユーモアとペーソスを絡めていくつも歌ってきましたが、本作では醜くも悲しい人間模様の縮図をサーカスに見ております。鞭打たれ疲弊した動物達、情け容赦のないマネージャー、痛ましく涙に暮れるピエロ、醜い風貌のために虐げられる団員、危険な状況に追い込まれる空中ブランコ乗りの女…彼らの悲哀と屈辱そして怒りと絶望が、存分に磨きのかかったポップでキャッチーなサウンドに載せて歌われる、その複雑な味わいたるや。
アルバムは短めのイントロダクションを経て、エッジも効いたテクニカルチューン
"The End"で幕開けし、8年のインターバルを感じさせない不変のA.C.Tのサウンドの魅力をこれでもかと示しています。また、この曲は本作のストーリーのハイライトにあたる楽曲でもあります。アルバムが始まっていきなり結末部分を歌うという趣向もさることながら、
"調教師のルイスが動物達を解き放ち、たちまちのうちに阿鼻叫喚となるサーカス。その混乱の中でサーカスのバンド(その名も「A.C.T」)が「ショウは続けなければならない(Show Must Go On)」と高らかに宣言し、演奏を続けていく…"という内容の詞も実にメタな仕掛けだなあと。これ以降、サーカスの面々のバックグラウンドにスポットを当てた楽曲が続いていくというアルバムの構成と併せて見てみると、なおのことそう思います。続く
"Everything's Falling" "Manager's Wish"でも爽やかなヴォーカル/コーラスと鮮やかな起伏に富む楽曲展開のキャッチーな駆け引きが繰り広げられ、裏打ちのリズムも交えて一際ポップに躍動する
"A Truly Gifted Man"は、終盤に盛り込まれたシンセの泣きのメロディラインも印象的な1曲に仕上がっています。これら前半パートの澱みなくスピーディーな構成だけとってみても、飢えたファンの渇きは十分に癒されるのではないかと思います。
中盤では1~2分ほどの楽曲がいくつも続き、丸ごと寸劇やSEから成る
"Presentation" "Argument"も交えて、シアトリカルな趣向もより強まります。大仰なヴォーカルと凝りに凝ったコーラスワークで目まぐるしく駆け抜ける
"Look At The Freak"や、SAGAのジム・ギルモアがハイヴォルテージなキーボード・ソロで参加した怒涛のプログレ・メタル・インスト
"Confrontation"、サラ・ウェンデルフォード嬢とのエモーショナルなデュエットによるバラード
"A Mother's Love"という一連の流れは聴きものです。観衆の前で愉快な狂人として演じ続けたあまりに擦り切れ、自分の「顔」を完全に喪失してしまうピエロを描いた
"The Funniest Man Alive"は、とびっきりのポップ・センスの裏に内包された凄まじい悲壮感が心を打つ1曲。「死刑」という最後のショウに赴かざるを得なくなったダンサーを描いた
"Scared"は、日本盤ボーナス・トラックです。ボートラながらテーマはサーカスというコンセプトと通底しているため、しっかりとアルバムの1曲として溶け込んでいます。ここからからラストまでは重厚な楽曲が続きます。メタリックなリフとシンフォニックなアレンジが美しくも哀しいサビへと収束する
"A Failed Escape Attempt" "Lady In White"のドラマティック極まる構成は、もはやロック・オペラの域。ヘルマンのヴォーカルの素晴らしさも改めて実感させられます。また、
"A Failed Escape Attempt"では、フリークスと蔑まれてきた一人のサーカス団員が逃げ出すチャンスを与えられるというストーリーが展開されているのですが、彼が喪失感と共に虐げてきた者達への復讐を誓うのがラストを飾る
"Freak Of Nature"。ミドルテンポの曲調にも象徴されるかのように、深い影を落としながらアルバムは終幕を迎えます。その余韻はあまりにも重いものです。
まさにデビューからの十数年間の総決算と言うべき仕上がり。8年分の説得力も最後の最後まで伝わってきました。曲・構成・コンセプトそしてアレンジと、細部に至るまでじっくり丁寧に練り込まれたそのこだわりには頭が下がりますし、素晴らしいアルバムでもって示したバンドの鮮やかな復活劇を改めて喜びたいと思います。本作は海外では3月にリリースされるのですが、それに伴って本国でのライヴも既にいくつか決定しているようです。願わくば是非とも来日して欲しいところ。同じくスウェーデンのバンドで、ポップでメロディアスなサウンドを志向しているMOON SAFARIとカップリングで来日してくれたら言うことはないなあ、なんて。
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