2008年12月17日水曜日

アーバンギャルド『少女は二度死ぬ』(2008)

少女は二度死ぬ少女は二度死ぬ
(2009/03/06)
アーバンギャルド

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 サブカルチャーテクノポップ&パンクバンド アーバンギャルドの1stフルアルバム。童貞、処女、射精、妊娠、思春期などを織り込んだコンセプトに基づく詞世界、濃いキャラクター性、渋谷系ポップスや80'sテクノポップ、特にナゴムレコード系の流れにある音楽性、その他オマージュが乱れ飛び、とりとめなく混ざり合うことで生まれる畸形じみたエネルギーをドバドバとぶちまけております。打ち込みフレンチポップス(ヴォーカルの浜崎容子嬢はシャンソンシンガーとしても活動しているそうな)のオサレな雰囲気と、筋肉少女帯ばりのつんのめった疾走感が雑然と共存した楽曲のインパクトは絶大。裏も表もある音の弾けっぷりがまさに着色料たっぷりの菓子のようなキュートなゲテモノじみた様相を成している「セーラー服を脱がないで」「ファッションパンク」、まくしたてる啖呵から突然メタリックなクサいギターソロに突入し鰻上りにテンションが上昇する「オギノ博士の異常な愛情」、バッキングの分厚さと疾走感で勢いよくラストを締めにかかる「四月戦争」、これら4曲はかなりのキラーチューン。いずれの曲においてもバッキングで暴れまわるピアノや浜崎嬢のヴォーカルに絡みつく松永天馬氏の下世話な掛け合いヴォーカルが非常にいい味を出してます。あまりにもサブカり過ぎて精神的・生理的にキッツイ部分も多々ありますが、そのあたりの痛し痒しなところも含めてこの人達は確信犯的にやってるような気がします。でも、このなりふり構わずの何でもあり感はまさにインディーズだからこそ、ドロドロしたものが渦巻いていて面白いです。



アーバンギャルド:Wikipedia
アーバンギャルド:公式
アーバンギャルド~今度は戦争です!:All About

2008年11月27日木曜日

IT BITES『The Tall Ships』(2008)

The Tall ShipsThe Tall Ships
(2010/05/25)
It Bites

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 イギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド、イット・バイツの約20年ぶりとなる新作。数年前にオリジナルメンバー全員での再結成の話もあったそうですが、フロントマンであるフランシス・ダナリーはバンド解散後、拠点をアメリカに移して現在まで活動しているため、イギリスに戻っての活動は様々な事情により困難ということでその話は実現することなくお流れに。このまま宙ぶらりんの状態かと思いきや、IT BITESの長年のファンであり、KINO、ARENAのメンバーであるジョン・ミッチェル(vo.g)を新たにフロントマンに迎えることで新生IT BITESとして復活。アルバムの制作中にオリジナルメンバーでベースのディック・ノーラン(b)が音楽性その他の相違により脱退(ディックは新作の制作に関与しておらず、ベースはミッチェルとジョン・ベック(kbd)の二人が弾いているとのこと)するというニュースもありましたが、リリースに至ったのは何にしてもめでたい。この復活を大いに喜びたいです。聴き手をしっかりと掴みにかかるメロディの心地良さ、身を任せられるハーモニーの安心感、わかりやすい楽曲構築など、ポップなプログレとしてはこれ以上ない要素がたっぷり詰まった往年のバンドの持ち味は全くブランクを感じさせることなく、伸びやかなメロディーが弾む冒頭の3曲を聴いただけでアルバムに引き込まれることは必至。一方でスリリングでソリッドな疾走感はいくぶんマイルドなものになっており、またバラードやミドルテンポのナンバーの多さも相まって、なだらかなポンプ・ロックの色合いが強まっているという印象も無きにしも非ず。バンドのサウンドの絶妙なバランス感を舵取っていたフランシスがいないというのはやはり大きいなとも改めて感じます。とはいえジョン・ミッチェルはヴォーカルにおいてもギタープレイにおいてもこれ以上ないほどバンドにハマっているし(ミドルテンポのバラードを歌わせたらこの人の右に出る人物なんてなかなかいないと思います)、甘美なメロディーに満ちた楽曲の充実度も嬉しい。往年のファンだけでなく新規ファンもすんなり入り込める、魅力的なアルバムなのは間違いありません。



IT BITES「Once Around The World」(1988)
It Bites:公式

2008年5月19日月曜日

泉昌之『かっこいいスキヤキ』(1983)

かっこいいスキヤキ (扶桑社文庫)

扶桑社
売り上げランキング: 7,930


  ウルトラマン同士でセックスしたり、プロレス馬鹿親父が大暴れしたり、いかに他者に悟られずにスキヤキの肉を沢山食うかあれこれ策を講じたりと、どれもこれも語りどころのある短編が詰まったいろんな意味で濃い一冊。中でもトレンチコートのハードボイルドなオッサンが夜行列車で駅弁を 異常なこだわりを持って食らう処女作「夜行」は飛びぬけて秀逸。弁当を食べる時、おかずとご飯の配分を間違えてどちらかを先に食べ切ってしまったり、肉だと思ったらタマネギのフライだったりといったことで苦い敗北感を味わってしまったということは誰しもあるかと思いますが、そういった何ともいえないむずが ゆさを、この「夜行」はそれこそ重箱の隅ならぬ弁当箱の隅をつつくようなみみっちいまでの細かい描写でもってジワジワと思い起こさせてくれます。普通の弁 当一つ食うことですらここまでドラマティックに出来るのだということを知ってしまったら、明日から弁当の食い方が多少ながら変わっちゃいます。実際コレ読 んでからどの順番で食ってやろうかニヤニヤ思案しながら弁当食ってますもん、自分(笑)。「孤独のグルメ」に繋がる久住氏のこだわりの原点がここにあるの で、井之頭五郎に惚れた方はこちらも是非。ちなみに「夜行」は2度映像化されており、1度目は原作に近い形での映像化で、玄田哲章氏が主役のオッサンにアテレコ、2度目は02年度の『世にも奇妙な物語』で「夜汽車の男」というタイトルで、アレンジが大きく入ってのドラマ化、主演は大杉漣。


2008年5月13日火曜日

泉昌之『ジジメタルジャケット』(1990)

ジジメタルジャケット (単行本コミックス)
泉 昌之
角川書店
売り上げランキング: 155,743


 もうなんべん読み返してんだかわかりません。4人のジジイどもがエネルギッシュに繰り広げる痛快ロックマンガ。各ジジイのキャラが立ってる上に挙動言動がいや~にリアルなのもスルメ的魅力のひとつ(このみみっちいところの細やかさが泉昌之作品の特徴でもあります)。「ゼフベックと大橋巨泉は何年経っても顔が変わらん」「草加煎餅手焼き特製フライングV」「ドタマチック魔羅バンド」「世田谷の土地を売却して購入したシンセサイザー、機材しめて3億2千万也」だのといったセリフ回しに始まり、アルバム・ディスコグラフィ型 目次、町田康氏による帯の文句(――寿命を燃やして暴走する爺どもの魂の地獄巡り 笑いの骨壷)に至るまで、妙味の連続。ストーリー的にはジジメタルのプロトタイプとも言える「素敵な好々爺」や、長次郎!秀次郎!直次郎!安次郎!四人合わせてCSNY、またの名をジローズ!!といういきなりのネタで出オチな「CSN&Y」もジジメタル同様「ガハハ、このクソジジイどもめ!」と思わず快哉を叫びたくなる作品とストレートに評するにはちとトゲのある内容。ガスの元栓を閉め忘れたかもしれないという小さなことをやたら気に病む若いパンクスを描いたラストの「LET'S GO NERVOUS」はストレートながら琴線にむずがゆーく触れる。終始ニヤニヤできることでしょう。ちなみにジジメタルジャケット、ブルースに焦点を当てた続編も出ているらしいですが、調べてみるとどうやらそっちは再版していないようですね……。


ジジメタル・ジャケット (2) (ジジメタルジャケット)
泉 昌之
ブルースインターアクションズ
売り上げランキング: 175,492

2008年3月25日火曜日

死蝋月比古『純血鬼爛』(2008)

純血鬼爛純血鬼爛
(2008/03/07)
死蝋月比古

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 コンポーザー/作詞家の畑亜貴さんがフロントを務めるプログレッシヴ・ロック・バンド「月比古」。その別働隊となるアコースティック・ユニット 死蝋月比古(シロウツキヒコ)が、先ごろ1stアルバムをリリースいたしました。メンバーは畑さんに、ヴァイオリニストの岡田鉄平氏、作編曲家の森藤晶司氏の3名。また、月比古メンバーの並木晃一氏がサウンド・エンジニアを務めております。作風はピアノ/チェンバロの音色によるゴシック/バロック調のシーケンスとヴァイオリンの雅な音色を主軸に、畑嬢が退廃様式美な詞を歌い上げていくというもの。極彩色の砂糖菓子のような甘味の強いヴォーカルはやや好みが分かれるところですが、ゴシックな雰囲気と甘美なメロディを存分に織り込みつつも、クドくならずにスッキリと聴かせるアレンジは流石の仕上がり。優美なニュアンスに富みながらも、どこかゾクリと背筋を寒からしめる怖気も孕んでいるのは、やはりアコースティックという編成ならではのニュアンスでありましょう。ささやきかけるようなヴォーカルと躍動的なストリングスで、妖しさと美しさが交互に顔を覗かせる「純血鬼爛」「瓦礫の正体」「とりこ」はチェンバー・ロックと言っても遜色ないですし、「治まる御世の」「夢見たさに夢を見た」は、狂おしきメロディを切々と展開していく様が秀逸な楽曲であります。黒百合姉妹やALI PROJECTがお好きであれば、こちらも大いにオススメの1枚。本家 月比古ともども、今後の活動に注目です。

畑亜貴:Wikipedia

2008年1月24日木曜日

APOGEE『Touch in Light』(2008)

Touch in LightTouch in Light
(2008/01/16)
APOGEE

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 したたかなるロック/ポップス・バンド アポジーの2ndアルバム。変幻自在の柔軟なサウンドにフワっとしたヴォーカルが混ざり合い、夢と現実を狭間を行き来するようだったドリーミーな前作には大変お世話になりました。2年ぶりとなる本作ですが、焦点を絞りつつバンドの足場をしっかりと固めてきているのがよくわかる仕上がりになっています。放射状に放たれる鮮やかなキーボードサウンドが聴き手に瑞々しさと夢心地を与えてくれる一方で、バンドサウンドは前作以上に鋭角的な音を掻き鳴らしスタイリッシュに肉付け、そしてヴォーカルは両者のコントラストに更なるハリを与える、といった感じ。そのため楽曲は前作に比べると随分と地に足が着いているなあという印象で、1曲1曲の新鮮味は薄れましたが、安定度は更に磨きがかかっています。この人達のミドルテンポナンバーの展開作りの巧さ、味わい深さは絶品の域にあるなと改めて認識させられました。レトロなオルガンサウンドと幾重にも重なるコーラスワークが極彩色の空間を演出する中盤の長尺ミドルバラード「The Sniper」、目の前の風景が徐々に鮮明になっていくような開けた盛り上がりを見せる展開が気持ち良い「Just a Seeker's Song」の2曲は白眉、いつまでも浸っていたいと思わせてくれます。



APOGEE:Wikipedia
APOGEE:公式

APOGEE『APOGEE』(2006)