蒼星石の中の人 森永理科嬢の在籍するバンドのインディーズ1stアルバム。ALI PROJECTやJ・A・シーザーからの影響を感じさせる耽美ゴシックな雰囲気の楽曲と、エモーショナルなギターロック/ポップスが半々で収まった構成の作品です。月蝕歌劇団のメンバーでもある森永嬢のシアトリカルなアングラ嗜好と、ギタリスト兼プロデューサーであるH.L.EURO氏の構想するGARBAGE系統のオルタナロックサウンド、この両方を盛り込むのはなかなか面白いと思うんですが、チグハグしててまだ発展途上といった印象なのは否めません。とはいえアレンジはそれなりに凝っており、とりわけ終盤「The Existence Of Love」「行方」の2曲は良い感じに仄暗くミステリアスな雰囲気を醸していて秀逸でした。先月メジャーデビューしたそうなので、今後のアルバム発表でバンドの作風をどのように展開していくのか期待したいところ。J・A・シーザーの作風を標榜するならもっとエキセントリックでもいいんじゃないかなと個人的には思います。
80年代後半から90年代にかけてのジャーマン・メタルシーンを牽引してきたハロウィンの通産12作目。もうそろそろこのバンドを追っかけるのも潮時かなと思い始めるようになっていたのですが、今作聴いてその考えを保留しました。バンドサウンドと楽曲のアグレッションはここ数作を凌ぐほどに強烈で刺激的。かの「Push」を髣髴とさせるアンディのハイテンションシャウトとサビの「Kill It!」コールがガツンとキメる「Kill It」、長尺ギターソロ&長尺キラーチューンという恒例のヴァイキー様式ナンバー「The Saints」、ピアノをアクセントにしつつサビでスカっと開けるシングルカット曲「As Long As I Fall」と、序盤は相変わらずテンプレ通りとも言えるキラーな流れですが、今作ではそのガツガツした勢いが終盤まで途切れることなく維持されており、近作にはなかったその思い切りの良さが今作のヴィジョンの定まったパワフルな印象作りに大きく貢献しています。中でも中盤は良曲揃いで、「The Beels Of The Seven Hells」「Fallen To Pieces」「I.M.E」といった山あり谷ありの劇的トリロジーは本作の目玉。良い具合に力が抜け過ぎて明らかに浮いてるポジティヴなポップメタル「Can Do It」でようやく一息ついたかと思えば、続く様式美ナンバー「Dreambound」で再び勢いを取り戻す。ラストは怒涛のイントロでいきなりクライマックス状態な「Heaven Tells No Lies」で手堅く締め。「Final Fortune」然り、今回のマーカス曲はドラマティックなフレーズが際立っててアンディ曲と何ら遜色ない仕上がりなのが素晴らしい。気がつけば今作、バラードナンバーがないんですね、これもバンドの状態が相当充実しているということの表れなんでしょうか。発売日を急遽一週間早めたのも十分うなづける快作だと思います。
イスラエル現地録音を敢行し、イスラエル・フィルハーモニック・オーケストラによる重厚な演奏をフィーチャーした楽曲をメインに構成された第一弾サントラ。張り詰めた緊迫感や雄大に飛翔する爽快感など、様々なニュアンスを見せるオーケストレーションは迫力の一言。「Fly Up To The Air~Tension」や「Break Out~Cantabile」を聴いていると心なしか故.羽田健太郎氏による初代マクロスのスコアを彷彿させられます。また、本編に登場するヴァーチャルアイドル シャロンアップル名義のヴォーカル曲である「After In The Dark~Torch Song」(歌 - 山根麻衣/Gabriela Robin) 「SANTI-U」(歌 - Gabriela Robin)は、双方ともミステリアスかつドラッギーな雰囲気を漂わせる大作志向の楽曲。後者はダウナーなコーラスが覆い尽くす序盤、めくるめるサウンドコラージュがカオティックな中盤、そして四つ打ちシーケンスと、美狂乱やadi、ヒカシューのメンバーとしても知られる佐藤正治氏によるヴォイス・パーカッションが奇妙な対比を見せる終盤という独特の構成が不気味でありながら一際印象的なインパクトを放つ名曲。そして本作のもう一つのハイライトと呼べるのが、作中でミュンも歌っている主題歌「Voices」(歌 - 新居昭乃)。シャロンの楽曲とは対照的にシンプルな構成でありながら、とことんまで澄み切った新居嬢の歌声が心を打ちます。
「Voices」とは対照的に新居嬢がコケティッシュなヴォーカルを聴かせるエレクトロポップス「Idol Talk」。トロピカルなアコースティック・ギター・サウンドがまどろむアコースティック・ブルース「Welcome to Sparefish」。バルカン・トラッドのようなニュアンスを感じるサックスとジャンベが躍動する「Nomad Soul」。アフリカン、ラテン、オリエンタルと様々な要素が入り混じり独特のカラーを生み出す「Go Ri A Te」。遥か雄大な自然を想起させるアジアンポップス「Pulse」(歌:Wu Yun Ta Na)。ブルガリアンヴォイスが神秘的な「A Sai en」。「SANTI-U」にも登場した佐藤正治氏によるヴォイス・パーカッションがシンセサイザーのバッキングとアグレッシヴに絡む迫真の1曲「Bad Dog」。艶やかな琴の調べによる小品「Child MYUNG」など、2枚目は民族色豊かな楽曲が並んだヴァラエティに富んだ構成で、ただならぬ懐の広さを誇る菅野さんの本領発揮といったところでしょうか、1枚目よりもこちらの方が自由奔放な印象が強いです。……ところで、サントラIとIIにそれぞれ収録されているピアノ曲「More than 3cm」「3cm」は、彼女がかつて在籍していたファンク・ロック・バンド「てつ100%」の2ndアルバム『あと3cm』にちなんでいるのでしょうか。
既発表曲数曲に、サントラ未収録曲、アレンジヴァージョン、劇場版用に用意された新曲を加えて構成されたアルバム。ファンサービス的な1枚でありながら、劇場版マクロスプラスのサントラとも、ベスト盤的サントラともとれる内容。へっぽこなノリとズレのあるチンドン的アンサンブルが妙味な「Tepee」は菅野さんらしい遊びが伺えて微笑ましい。シャロンのヴォーカル曲はショートヴァージョンになっていますが、「SANTI-U」「Torch Song」の2曲はシームレスに繋がっており、サントラとはまた違う印象を与えています。シンプルな美しさの極みが味わえる「Voices」のアカペラヴァージョン、原曲のトラッド色や粘っこさがサラリと料理された「Nomad Soul」のピアノヴァージョンもなかなかですが、当時、菅野さんの旦那さんであった溝口肇氏によるチェロをフィーチュアした「MYUNG Theme」は本作におけるアレンジ・ヴァージョンでダントツではないでしょうか。チェロの物悲しさがしみじみとした余韻を誘います。劇場版のみの挿入歌「WANNA BE AN ANGEL」(歌 - 新居昭乃)と、本編終盤のイサムVSガルドのバトルで使用された「Dog Fight」の2曲は本作のハイライト。前者は浄化されんばかりの神々しさを放つヴォーカル&アレンジがあまりにも眩しく、後者はチェコ・フィルによる勇ましくダイナミックなアンサンブルがバトルのフィナーレを演出します。
めでたく再結成した米米CLUB。実に10年ぶりとなるオリジナルアルバムでございます。いやはや、どれだけヴェテランになってもやっぱりお馬鹿なノリはやめられないようで(笑)、メンバーの方々は相変わらず良い感じに弾けていて何よりでございます。あまりにそっけないジャケットですが、内容はシングル曲5曲含んだ全16曲全77分という限界ギリギリのヴォリューム。しっとりと落ち着いたアレンジでさらに味を見せるようになったかつての名曲のリメイク「浪漫飛行'07」を皮切りに、「君を離さない」「ひとりじゃないだろう」といった往年を思わせる甘口の正統派ラブバラードや、ホーンセクションや石井氏の歌声の伸びやかなハリが映える「We Are Music!」「WELL COME 2 ~Album Mix~」「MATA(C)TANA」などのイキのいい歌謡ファンクロックの健在ぶりも何よりですが、やはり米米の魅力と言えばおふざけたっぷりのSORRYミュージック(通称うんこ曲)テイスト。何だかわからんけどとにかくイーヨイーヨなノリでゆる~く愉快に押し通す「E-ヨ」、ふざけた歌い回しやカマっぽいコーラス、「くされ縁 くされ縁 くっさ~」のフレーズでシメる石井&ジェームス小野田のデュエット曲「くされ縁」、ドサクサまぎれにま○こ(締まる)のことを歌ってる「この宇宙で」、ロシア人のルームメイトというこれまたわけのわからんテーマを、巻き舌がかった歌唱と若干007のテーマを意識してるようなフシが伺える歯切れの良い演奏でとびっきりカッコ良く聴かせる「ロシアン・ルームメイト」、ひたすら『スゴクおいしい』を連呼して、日清とのタイアップを狙ってるのかそれともケンカ売ってるのかどっちつかずなラーメン・ファンク「スゴクおいしい」、と、中盤からはスイッチ入って本領発揮。ってか、結構SORRYテイスト多めですね。米米らしいクール&ユーモアなエンターテインメント精神、ごちそうさまでした。
しかしやはりこれらはあくまでファンサービス、語るべきはやっぱり久々となるオリジナル曲でしょう。ジョン・ウィンダムの破滅SF小説『トリフィド時代―食人植物の恐怖』をモチーフにしたセカイ系の詞が何ともオーケンらしい「トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く」は、かつての「小さな恋のメロディ」「機械」「僕の歌を全て君にやる」といった後期筋少の流れを受け継ぐ劇的なスピードメタルチューン。筋少史上最速とも言える気合の入ったハイスピードな演奏を繰り広げる「ヘドバン発電所」と共に、筋少の新しいキラーチューンとなるにふさわしいナンバーではないでしょうか。また、「生きてあげようかな」を思わせる、本城氏作曲の「その後 or 続き」は、再編を果たした今だからこそより味わいを感じるナンバーだなあと。威勢のいいコーラスが飛び交う特撮テイストに溢れた「未使用引換券」。サビが一際キャッチーに決まる「愛を撃ち殺せ!」。チープに抜けるオルガンサウンドにベンチャーズ風のフレーズが乗る、「俺の罪」を思い起こさせる内田氏らしいユルいナンバー「抜け忍」。KISSの「Love Gun」風のリフに淡いピアノのアクセントが交錯する「交渉人とロザリア」など、捨て曲は一切なし。発売前の不安が全て杞憂に終わるほどの大健闘ぶりを見せてくれました。最後はバンド再結成を自虐ネタにした「新人バンドのテーマ」で和気藹々とした雰囲気で幕。目の付け所とオチをしっかりつけるあたりは流石オーケンだなと(笑)。再結成一発目としてはこれ以上ないほどの充実した作品に仕上がっています。
テクノ・ポップ・ユニット サイズの5thアルバム。アート志向なジャケットや、アルバムタイトルでもあるATLAS(地図)にまつわる雑感をつらつらと綴ったブックレットを見るに、前作までのPSY・Sが持っていたPOPな雰囲気とは明らかに異なった冒険的なものを感じますが、それは音楽面でも同様。小ぶりな主張を効かせるベース、有機的な息遣いを感じさせるドラム、そして歯切れの良さが前に出るようになったギター、と、アンサンブルは生音の感触を重視するようになり、更にレズリースピーカーでのレコーディングを敢行したことでサウンドはレトロなニュアンスを強め、ぼんやりと柔らかい味わいを滲ませています。これまで以上にグッと大人びた姿を見せながら、これまでのPSY・Sの流れをしっかり汲んだポップスナンバー「Wondering Up And Down~水のマージナル」「ファジィな痛み」は鉄板ですが、それぞれレゲエ/ダブアレンジで異なった表情を見せる「WARS」「WARS~Reprise」、チャカ嬢のそっけない歌い回しとエスニックなバッキングの組み合わせが味な「STAMP」、円を描いて吸い込まれるかのようにゆるやかな空間音響的趣向が気持ち良い「引力の虹」などの新しい方向性を見せる多彩な楽曲や、アコギの躍動感が膨らんでいく「遠い空」、さりげないハモンドのバッキングが彩を添える「See-SawでSEE」といった、フレッシュなバンドサウンドを押し出したナンバーも同等の魅力を持ち合わせています。程良いバランスの上に成り立ち、かつ聴き手にある種の幻想性やセンチメンタリズムを抱かせる楽曲が多く、アルバムのトータル感においては本作はズバ抜けていると言っても過言ではないでしょう。松浦氏曰く、ユニットの目指していた目的はこの時点で果たされたそうで、そのため1stアルバムから続いてきたフェアライトをフル活用しての作品作りは本作が最後になり、ユニットにとっても松浦氏にとっても本作は一つの節目となりました。
関西のコミックバンド おかげ様ブラザーズの2ndアルバム。楽曲「すもうとりゃ裸で風邪ひかん」がNHKで放送禁止を喰らったり、デビューアルバム『ばつぐん』がお笑いコンビ「X-GUN」のコンビ名の由来となったり、吉本新喜劇をネタに1曲作ったり、という数々のエピソードがなんとも関西のバンドらしい。楽曲タイトルや歌詞の内容は近親相姦だとか金縛りだとか大阪崩壊だとかセックステレフォンだとかいったアレな方向にバラエティに富んだものばかりですが、各人の技量は確かなモノがあり、ホーンセクションを交えた演奏はタイトかつスタイリッシュでたまらなくカッコ良いのです。やはりコミックバンドは一朝一夕にして務まるものではないのです。米米CLUBのカールスモーキー石井氏は彼らをリスペクトしていたそうで、ユーモラスな歌謡ファンク「原色人種」「禁断の妖精」を聴いていると、なるほど納得出来るものがあります。布団の上にババアが座り、お菊人形の髪の毛が伸びるなど、真夜中の金縛りにおける怪奇現象をひたすら羅列し続ける「カナシバリ」、スターウォーズ風の壮大なイントロからクールなファンク・ロックに突入という導入で痛快に予想を裏切ってくれる「大阪崩壊」は抱腹絶倒。また、DEEP PURPLE、EUROPEのパロディみたいな「HARD ROCK DE Let's go!」「NEW RELIGION」、さだまさし「北の国から」のパロディみたいな「ホ・ン・ト・ウ・ノ・キ・モ・チ」など、頭から尻まで面白おかしくエンターテインメントな歌謡ロックしてます。バンドは劇団☆新感線とのコラボレーションも行っていたようですが、96年に活動休止を宣言(【追記】その後、2007年に活動再開します)。メンバーは実家に帰ったりセッション・ミュージシャンになったりと、各々別々の道を歩んでいくことになります。ちなみに、おかげ様ブラザーズのギタリストであるスマイリー司こと岡崎司氏と、ドラマーであるブラッキー岡部こと岡部亘氏は劇団☆新感線の音楽担当/楽器隊として現在も活躍中。
COALTAR OF THE DEEPERSの元メンバーであり、アルバム『COME OVER TO THE DEEPEND』『No Thank You』に参加していたイチマキ嬢が、ディーパーズ加入前に在籍していた4人組バンド BP.。本作はバンドがZK RECORDSから97年に発表したミニアルバム。イチマキ嬢のフワフワぼんやりと浮かんだキュートなヴォーカルと、ヘヴィ・ロック&シューゲイザーの轟音ミクスチャーサウンドが交錯する音楽性は、強烈な第一印象。硬軟併せ持った独特の雰囲気にディーパーズと共通するものを感じます。ぶっきらぼうなまでにささくれ立った予測不可能のストップ&ゴーな展開は、混沌としていながらもスウィートでポップであり、どこか人懐っこさを感じさせるのが何とも魅力的です。中でも、爽やかな轟音を疾走感もろとも叩きつける「ES」や、バンドの黒一点イマニシの激烈なシャウトがイチマキ嬢の浮遊ヴォーカルと絡み合う、感傷と激情、静と動ない交ぜのハードコアチューン「Diving Death Drive」は抜群の歯ごたえ。これからというところでバンドが「冬眠」してしまったのは残念ですが、十分インパクトを残しています。音質の悪さや演奏の荒さも、また味。
【後記】
2011年12月になんとバンドは再結成ライヴを行っていたようで、翌年には7インチ・アナログ『GIANT.ep』、ミニ『ゴールデンBP』、そして90年代に録音されたデモ音源を1枚にまとめたコンプリート・アルバムもリリースされています。そして2013年1月には待望の新作EP『THE NEW BP.』がリリース。見事に第二の出発を果たしたバンドの今後の活動にますます期待がかかります。
フレッド・フリス率いるギターカルテットにも参加歴のあるギタリスト/コンポーザーのニック・ディドコフスキ率いる、アメリカはニューヨーク出身のアヴァンギャルド/プログレッシヴ・ロック・バンド ドクター・ナーヴの5thアルバム。ディドコフスキによる楽曲には「HMSL」なる独自の音楽記述言語を駆使しての構築的でポリリズミックなモノもありますが、メインとなっているのはメタリックにザクザクと食い込む轟音ギターをバッキングに、鼓膜を鋭く貫通するかのような絶叫ブラスセクションを上モノにした、神経を逆撫でし徹底的にアジる超攻撃的ジャズ・ロックです。バンド名は「神経医」ですが、その正体は聴き手の神経を執拗にいじくりまわすマッドサイエンティスト。中指を突き立てたファッキンなぶっ放しっぷりはとてもハードコアに近いものを感じます。ギターの殺傷性とブラスの痙攣性が混線し凌ぎを削る「Preaching To The Converted」「Dead Silence」など、強烈な刺激に次ぐ刺激に満ちた1枚。
フランスのART ZOYDと共にチェンバー・ロックを代表するバンドとして筆頭に挙げられる、ベルギーのユニヴェル・ゼロの3rdアルバム。邦題「祝祭の時」。妖艶優美なる室内楽と力強く躍動的なロックの暗黒の異種姦が生み出すもの、それがチェンバー・ロックであり、中でも重量感と共にただならぬ雰囲気を醸しだす彼らのサウンドは、スタイリッシュにしてストイック。邪悪なイマジネーションをこの上なく掻き立てられ、お先真っ暗な洞窟の奥底で触手達によるエロティックな狂宴というような爛れたイメージも目に見えて浮かんできそうです。室内楽寄りかつダーク・ゴシックな大曲志向であった前作『Heresie』とは打って変わって、本作は大曲・小曲がバランスよく配された構成で、ロック度も増しております。粘液をしたたらせながらのたうつかのような変拍子のめまぐるしい展開と、腹の中で蠢くエイリアンが今にも腹を喰い破って出てきそうな緊張感を漲らせた冷淡な展開が表裏一体となった「Dense(濃厚)」。ヘヴィな唸りを上げるベースとオーボエ、鋭くも張りと艶のあるヴァイオリン、加速度と重量感を増してゆくアンサンブルが聴き手にゆるやかに興奮を促しつつも一抹の不安を抱かせる、美しくも危険な「Combat(戦闘)」。この2つの長曲は名状し難いほどに不気味なたたずまいで、本作のハイライトといえる楽曲の役割を担っています。もちろんその他の楽曲も容赦なく黒い瘴気を撒き散らしており、木管楽器が生み出すゴシックなムードがズルズルと楽曲を引き摺る「La Corne du Bois des Pendus(コルヌ・ドゥ・ボア・デ・ペンドゥス村)」。躁状態なアンサンブルがひっちゃかめっちゃかにかき回し、短いながらも強いインパクトを与える「Bonjour Chez Vous(こんにちは、諸君)」。H.P.ラヴクラフトの同名作品をテーマにし、最初は生理的嫌悪感を催すだけだった軋む様なヴィオラの音が、次第に巨大な戦慄へと変貌を遂げて文字通り聴き手に襲い掛かってくる、冒涜的にして狂気の極み「La Musique D'enrich Zann(エーリッヒ・ツァンの音楽)」……などの楽曲が、徹底的に得体の知れない闇の恐怖を味わわせてくれます。気を抜けば即喰われかねない、禍々しさたっぷりの作品。異形を孕む音楽。
半身不随の重傷を負う大事故から復帰したオリジナルメンバーのニコ・ディ・パーロを加え、今年4月に新作のワールド・プレミアも兼ねての二度目の来日公演を行った、ヴィットリオ・デ・スカルツィ率いるイタリアのシンフォニック・ロック・バンド ニュー・トロルスの通産18作目となるアルバム。76年発表の『Concerto Grosso N2』から実に30年ぶりとなる、「Concerto Grosso」シリーズの新作です。バンドの代表作とも言えるアルバムの続編ということで期待も不安もありましたが、率直に言って本作は素直に「良い」と呼べる作品に仕上がっていると思います。サウンド・プロダクションはやはり現代的であり、各曲とも小奇麗にまとまっているので、70年代の頃とは異なる毛色を感じざるを得ませんし(当然と言えば当然ですが)、シリーズ前二作でのオーケストラ・アレンジを手がけた映画音楽の巨匠 ルイス・エンリケス・バカロフも本作には参加しておりません。それでも、クラシック、プログレッシヴ・ロック、ハード・ロックが自然に調和した不変不朽のニュー・トロルス・サウンドは、しっかりと息づいています。哀愁と優雅さを背負い込んだストリングスと、ソフトからハードまで、ニュアンスに富んだバンドアンサンブルのストレートかつダイナミックな絡み合いには、滲み出てくる渋さと、まだまだ若手には負けぬという意欲的な若々しさが同居しております。実に感慨深い。とりわけ、バラード・ナンバーのドラマ性の演出においては尋常ならざるものがあり、終盤の「The Ray Of White Light」「To Love The Land」のこれでもかと言うほどに胸を打つ展開の流れは、個人的にハイライトに推したいくらい気に入りました。アコースティック・パートの比重も多く、ゆったりと味わいたい熟成品のようなアルバムに仕上がっています。