山瀬まみ嬢の1989年発表の3rdソロアルバム。アイドル歌手としての活動はうまくいかなかったようですが、そんな彼女のカタログの中でも本作と次作『親指姫ふたたび』は聴き所が盛り沢山の内容と言えます。「山瀬まみロック化計画」という企画の元制作された本作は、聖飢魔IIのデーモン小暮、パール兄弟のサエキけんぞう、奥田民生、矢野顕子、泉麻人、そして筋肉少女帯の大槻ケンヂ、内田雄一郎が作詞や作曲に、三柴江戸蔵(三柴理)と横関敦がプロデューサー/編曲/演奏に関わっているという豪華布陣。筋肉少女帯のメンバーの殆どがバックアップしているわけですが、中でも鬼気迫るピアノソロからダイナミックなシンセアレンジまでこなす三柴氏と、"ジェットフィンガー"の異名通りのハイテクソロを惜しげもなく披露する横関氏の貢献度は高く、もはや「筋肉少女帯 meets 山瀬まみ」または「山瀬まみ with 筋肉少女帯」と言ってしまっても十分な出来。
主役である山瀬嬢のヴォーカルも彼らのアレンジに負けない存在感を発揮して見事互角に渡り合っており、ドスを効かせてしゃっちょこばった歌い方がハイテンションなオープニングナンバー「ゴォ!」や、『仏陀L』『Sister Strawberry』の筋少の作風に近いスピード・チューン「I WANT YOU」は強力。一方でシリアスに歌い上げる「YAMASEの気持ち」(作曲:デーモン小暮)は、彼女の歌唱力の確かさを伺わせるハードなミドル・チューン。ちなみに「I WANT YOU」「YAMASEの気持ち」の2曲には、今は亡き諸田コウ氏(DOOM)が参加。フレットレスベースで紡ぎ出される印象的なフレーズがたまりません。「ヒント」(作曲:矢野顕子)は、山瀬嬢が若干矢野さんっぽく歌っているのが微笑ましいですが、三柴氏が矢野さんの曲を編曲するとこうなるのか!というのが伺えるのが興味深いポイントでありましょう。
山瀬嬢の作詞曲は3曲あるのですが、「かわいいルーシー」「本日はSEITEN成り」がアイドルらしい可愛らしい内容なのに対し、「芸能人様のお悩み」はアイドルとしての彼女の鬱憤をぶちまける内容になっていて明らかに浮いてます。次作ではこれがさらに大爆発することになるのですが・・・。アルバムを締め括る「恋人よ逃げよう 世界はこわれたおもちゃだから!」は、タイトルから察しがつくかと思いますがオーケンの作詞。作曲は内田氏。後にオーケンがセルフ・カヴァーしたヴァージョンはバンドアレンジでしたが、こちらはシンセ/ピアノのクラシカルなアレンジを押し出したシンプルなもの、山瀬嬢の大人びた歌唱も聴ける、素晴らしいラストナンバー。ジャケットのセンスは今見ても正気の沙汰とは思えませんが。
山瀬まみ
キングレコード (1990-12-31)
売り上げランキング: 224,011
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1990年に発表された4thソロアルバム。前作に引き続き横関敦&三柴理の筋少コンビが全面サポートしている他、戸城憲夫(ZIGGY)、奥田民生、サエキけんぞう、岡野ハジメ、田村直美、吉田美奈子、東京スカパラダイスオーケストラ、と、これまた豪華なゲストを迎えております。流石に前作のインパクトを越えるものは出せないだろうなと思いきや、さらに強烈なものをぶつけて来たのが本作。
のっけからギターがオーヴァーダビングでむせび泣き、大きなスケールを予感させるアンセム調のイントロダクション「親指姫の讃歌」から続くドラマティックなハード・ロックナンバー「花売り娘」にはド肝を抜かれ、突拍子もない展開といい、"ブサイクな新人なんてまばたきする間にみんな消えていく" "年とりゃドライフラワー"など、営業アイドルの心情をなりふりかまわずブチ撒けた山瀬嬢の詞といい、あまりに突き抜けてしまった感がもはや笑うしかないですが、本作を象徴するナンバーと言えます。山瀬嬢のヴォーカルもますます戸川純みたいなドスの効いた多重人格ぶりを披露するわと、前作以上にフリーダム。フェードアウトしていくアウトロでの三柴氏のピアノがまたことのほか美しいのがまた何とも言えません(笑)。「地球よ私のために廻れ!」「You are happy」といったビート・パンク系チューンが多いですが、横関氏と三柴氏がイントロ/アウトロやソロで奔放なプレイを展開しており、半分ハード・ロックに片足突っ込んでます。「198」はイントロだけ聴けばスピードメタルチューンかと勘違いすることうけあい。しかしアルバムのラストはちゃっかり正統派バラードへと収束してまっとうに締められるというしたたかさ。相変わらずトンでおり、バラエティという点でも前作以上に豊んでるアルバムです。
前作と本作の二作に渡って続いた「山瀬まみロック化計画」ですが、その後の活動を決定付けるものになったかというと、残念ながらそうはならず、1993年の『マイト・ベビー』ではこれまでのポップス路線へと戻ってしまい、さらにこれが現時点での彼女の最後のアルバムとなってしまいます。以降は歌手活動からバラエティアイドルに転向ということで、まさに時代の徒花といえましょう。音楽活動で彼女のタガが外れていたのはわずかな期間でしたが、それだけに忘れられない作品であります。