2010年10月25日月曜日

山瀬まみ『親指姫』(1989) / 『親指姫ふたたび・・・』(1990)

親指姫
親指姫
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山瀬まみ
キングレコード
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 山瀬まみ嬢の1989年発表の3rdソロアルバム。アイドル歌手としての活動はうまくいかなかったようですが、そんな彼女のカタログの中でも本作と次作『親指姫ふたたび』は聴き所が盛り沢山の内容と言えます。「山瀬まみロック化計画」という企画の元制作された本作は、聖飢魔IIのデーモン小暮、パール兄弟のサエキけんぞう、奥田民生、矢野顕子、泉麻人、そして筋肉少女帯の大槻ケンヂ、内田雄一郎が作詞や作曲に、三柴江戸蔵(三柴理)横関敦がプロデューサー/編曲/演奏に関わっているという豪華布陣。筋肉少女帯のメンバーの殆どがバックアップしているわけですが、中でも鬼気迫るピアノソロからダイナミックなシンセアレンジまでこなす三柴氏と、"ジェットフィンガー"の異名通りのハイテクソロを惜しげもなく披露する横関氏の貢献度は高く、もはや「筋肉少女帯 meets 山瀬まみ」または「山瀬まみ with 筋肉少女帯」と言ってしまっても十分な出来。

 主役である山瀬嬢のヴォーカルも彼らのアレンジに負けない存在感を発揮して見事互角に渡り合っており、ドスを効かせてしゃっちょこばった歌い方がハイテンションなオープニングナンバー「ゴォ!」や、『仏陀L』『Sister Strawberry』の筋少の作風に近いスピード・チューン「I WANT YOU」は強力。一方でシリアスに歌い上げる「YAMASEの気持ち」(作曲:デーモン小暮)は、彼女の歌唱力の確かさを伺わせるハードなミドル・チューン。ちなみに「I WANT YOU」「YAMASEの気持ち」の2曲には、今は亡き諸田コウ氏(DOOM)が参加。フレットレスベースで紡ぎ出される印象的なフレーズがたまりません。「ヒント」(作曲:矢野顕子)は、山瀬嬢が若干矢野さんっぽく歌っているのが微笑ましいですが、三柴氏が矢野さんの曲を編曲するとこうなるのか!というのが伺えるのが興味深いポイントでありましょう。

 山瀬嬢の作詞曲は3曲あるのですが、「かわいいルーシー」「本日はSEITEN成り」がアイドルらしい可愛らしい内容なのに対し、「芸能人様のお悩み」はアイドルとしての彼女の鬱憤をぶちまける内容になっていて明らかに浮いてます。次作ではこれがさらに大爆発することになるのですが・・・。アルバムを締め括る「恋人よ逃げよう 世界はこわれたおもちゃだから!」は、タイトルから察しがつくかと思いますがオーケンの作詞。作曲は内田氏。後にオーケンがセルフ・カヴァーしたヴァージョンはバンドアレンジでしたが、こちらはシンセ/ピアノのクラシカルなアレンジを押し出したシンプルなもの、山瀬嬢の大人びた歌唱も聴ける、素晴らしいラストナンバー。ジャケットのセンスは今見ても正気の沙汰とは思えませんが。 






親指姫ふたたび…
親指姫ふたたび…
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山瀬まみ
キングレコード (1990-12-31)
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 1990年に発表された4thソロアルバム。前作に引き続き横関敦&三柴理の筋少コンビが全面サポートしている他、戸城憲夫(ZIGGY)、奥田民生、サエキけんぞう、岡野ハジメ、田村直美、吉田美奈子、東京スカパラダイスオーケストラ、と、これまた豪華なゲストを迎えております。流石に前作のインパクトを越えるものは出せないだろうなと思いきや、さらに強烈なものをぶつけて来たのが本作。

 のっけからギターがオーヴァーダビングでむせび泣き、大きなスケールを予感させるアンセム調のイントロダクション「親指姫の讃歌」から続くドラマティックなハード・ロックナンバー「花売り娘」にはド肝を抜かれ、突拍子もない展開といい、"ブサイクな新人なんてまばたきする間にみんな消えていく" "年とりゃドライフラワー"など、営業アイドルの心情をなりふりかまわずブチ撒けた山瀬嬢の詞といい、あまりに突き抜けてしまった感がもはや笑うしかないですが、本作を象徴するナンバーと言えます。山瀬嬢のヴォーカルもますます戸川純みたいなドスの効いた多重人格ぶりを披露するわと、前作以上にフリーダム。フェードアウトしていくアウトロでの三柴氏のピアノがまたことのほか美しいのがまた何とも言えません(笑)。「地球よ私のために廻れ!」「You are happy」といったビート・パンク系チューンが多いですが、横関氏と三柴氏がイントロ/アウトロやソロで奔放なプレイを展開しており、半分ハード・ロックに片足突っ込んでます。「198」はイントロだけ聴けばスピードメタルチューンかと勘違いすることうけあい。しかしアルバムのラストはちゃっかり正統派バラードへと収束してまっとうに締められるというしたたかさ。相変わらずトンでおり、バラエティという点でも前作以上に豊んでるアルバムです。

 前作と本作の二作に渡って続いた「山瀬まみロック化計画」ですが、その後の活動を決定付けるものになったかというと、残念ながらそうはならず、1993年の『マイト・ベビー』ではこれまでのポップス路線へと戻ってしまい、さらにこれが現時点での彼女の最後のアルバムとなってしまいます。以降は歌手活動からバラエティアイドルに転向ということで、まさに時代の徒花といえましょう。音楽活動で彼女のタガが外れていたのはわずかな期間でしたが、それだけに忘れられない作品であります。 



2010年10月7日木曜日

ザ蟹(三柴理/塩野道玄)『サウンドギャラリー』(2001)

サウンドギャラリー

 映画、CM、アニメと、様々な方面に楽曲を提供している、ピアニストの三柴理とベーシスト/コンポーザーの塩野道玄の二人からなるユニット ザ蟹の、結成15年目にしてリリースされた初のアルバム。扶桑社刊行の「月刊ビジネスSPA!e+B」の付属CD-ROMにおける音楽連載企画「サウンドギャラリー」で作曲された7曲の楽曲を収録。この企画、毎月お題(サラリーマンの日常にちなんだものが多し)が出され、それを元にザ蟹が楽曲を作るというもので、ひと月1曲ペースで7ヶ月間連載されていたそうです。瑞々しさを放つピアノ&シンセフレーズ、小洒落たドラムンベースサウンドが、春の訪れやアンニュイな午後の昼下がり、フレッシュなおろしたてのYシャツといった数々のイメージを、落ち着いた一枚の絵画のような印象で見せてくれる良質のイージーリスニング系インストゥルメンタル。ほっとさせられます。

 かと思えば、シンセと蠢くベースが絡みつき不穏なグルーヴを捻り出し、強烈な印象を残すアヴァン風味のジャズ・ナンバー「Pulsar」や、筋肉少女帯の楽曲「モーレツア太郎」(アルバム『仏陀L』収録)のイントロ部分「黎明」のエクステンデッドヴァージョンとも言える「黎明 第二稿」、同じく筋少曲「夜歩く」(アルバム『Sister Strawberry』収録、ちなみに同アルバムに収録されている「ララミー」の編曲者は塩野氏)のセルフカヴァーの存在に身を引き締められます。特に「夜歩く」は軽やかな打ち込みシーケンスの上をピアノがスタイリッシュに躍るという、筋少版よりさらに輪をかけてクールで、そしてちょっぴりヘヴィなアレンジになっており、非常に新鮮な印象を与えてくれます。そして「ホワイトチョコレート」は、筋肉少女帯の内田雄一郎氏の未発表曲。シンセのみで構成された小品で、どこか懐かしさを誘う音色でレトロな雰囲気を醸す曲調が何とも内田氏らしい。「戦闘妖精雪風」のサウンドトラックがユニットの"動"の側面を展開した作品とするなら、こちらは"静"の側面を追求した作品であると言えます。三柴氏、塩野氏のリリカルな魅力が満載です。



三柴理:Wikipedia
三柴理 ピアノのなせる業と神髄

2010年10月2日土曜日

ザ蟹(三柴理/塩野道玄) 他『戦闘妖精雪風 オリジナルサウンドトラック Vol.1&2』(2002/2005)

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オリジナルビデオアニメーション「戦闘妖精雪風」オリジナルサウンドトラック2オリジナルビデオアニメーション「戦闘妖精雪風」オリジナルサウンドトラック2
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 機械と人間、そして異星体との関係を、思弁と葛藤を交えて重厚に描く、神林長平の傑作SF小説「戦闘妖精・雪風」シリーズ。GONZO制作による、そのOVA版のサウンドトラック。筋肉少女帯や特撮のメンバーであり、現在はソロピアニストとしても活躍する三柴理氏と、元コザーノのベーシストで、現在はコンポーザーとして活躍中の塩野道玄氏によるユニット「ザ蟹」と、その兄弟ユニットである「THE金鶴」Clara氏が劇伴を担当。

 アニメ本編は、さながらプロモーションビデオのような断片化された内容(それでもラストは収まるところに収まっていましたが)で賛否両論の分かれる内容でしたが、緻密なヴィジュアルデザインやドッグファイトの臨場感、そしてそれらを彩るサウンドは文句無く素晴らしいものでした。ブレイクビーツ/エレクトロニカをベースとした、緊張感を与える無機的なバッキングと、豊かな情感を含めて奏でられる三柴氏のピアノ、両者の対比が絶妙に調和した、プログレッシヴなテイストも含んだ楽曲はスパイシーな魅力を放っており、ヘヴィな音色と繊細なメロディが交錯する「Lynn Jackson」、シャープなイメージをダイレクトに投影した「零のテーマ」、空間を緩やかにたゆたうベースラインが有機的な息遣いを感じさせる「Light Trap」、モーグの音色とジリジリとしたノイズが渾然一体となった、刺激的な耳触りの「糸」(ちなみに、ザ蟹の初期からあるレパートリーの1曲)などが印象深い。また、メランコリックなメロディを奏でる切なげなピアノ・インスト・バラードの数々は、説明不足な感が否めなかったOVAの場面や登場人物の心情を補う役割を大きく担っていたように思います。

 一方、サントラVol.2は、DVD第5巻特別限定盤の同梱品。全8曲/30分に満たないヴォリュームもあってか、Vol.1と比べるとやや淡白な印象ですが、ラストに収録された7分半の「Apotheosis~終曲」は力作。重々しくも、シンフォニックな美しさに満ちた1曲です。また、オープニングテーマ「Engage」が収録されているのも見逃せない。颯爽と流れるピアノの滑らかなシークエンスが、流線を描くシンセとコシの太いベースサウンドと共に高みへと昇る名インスト。雪風のイメージとこれほどシンクロした曲もないと思います。なお、"Engage" "RTB"(ムッシュかまやつ)の2曲は、06年にリリースされたGONZO制作作品の主題歌を集めたコンピレーションアルバムにも収録されております。



Reunion-GONZO Compilation 1998~2005-Reunion-GONZO Compilation 1998~2005-
(2006/07/05)
アニメ主題歌、木村郁絵 他

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「戦闘妖精雪風 オリジナルサウンドトラック Vol.1」楽曲解説
三柴理 ピアノのなせる業と神髄
戦闘妖精雪風:公式
戦闘妖精・雪風:Wikipedia