2016年10月29日土曜日

新メンバー三人を迎えた「七人編成カンサス」入魂の一作 ― KANSAS『The Prelude Implicit』(2016)

暗黙の序曲
暗黙の序曲
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カンサス
SMJ (2016-09-28)
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http://kansasband.com/prelude-implicit.php


 じつに16年ぶり、通産15枚目となる、アメリカン・プログレッシヴ・ハード・ロックの雄 カンサスの完全新作アルバム。『Somewhere to Elsewhere』以来久々のアルバムということで、国内盤は「暗黙の序曲」という邦題で、メガヒットアルバム「永遠の序曲」「暗黒への曳航」に寄せてきていますが、かつてのサウンドの要を担っていたケリー・リヴグレンがバンドを去ってから久しく、スティーヴ・ウォルシュも、2009年のデビュー35周年記念ライヴを収めた『There's Know Place Like Home』(2013)のリリース後にバンドを離れました。しかし、彼らに代わって加入した三人の新メンバーを擁した「七人編成KANSAS」がつくりあげた本作は、非常に手応えのある内容に仕上がっています。

 KANSASとしては十年以上新作アルバムのリリースがありませんでしたが、じつは2009年に「NATIVE WINDOW」名義でアルバムが一枚出ています。同バンドはフィル・イハート、リチャード・ウィリアムス、ビリー・グリアー、デヴィッド・ラグスデールの四人による別働隊バンドなのですが、つまるところは、スティーヴ・ウォルシュを抜いた状態のKANSAS。作風も『Somewhere to Elsewhere』の路線をいくらか継ぎつつ、バンドのAOR的側面を抽出した歌ものを中心とした内容の好作になっており、本隊での新作リリース前の「手ならし」として、ワンクッション置かれた形になっていました。

 また、ベースのビリー・グリアーはこの十六年の間にSEVENTH KEYという骨太のプログレッシヴ・ハード・バンドを結成してアルバムを三枚出しており、そこからのフィードバックも本作に良好にはたらいています。新メンバーのひとりであるキーボーディストのデヴィッド・マニオンは、SEVENTH KEYのメンバーでもありますし、ギタリストのマイク・スラマー(彼はスティーヴ・ウォルシュが80年代に結成したバンド STREETSのメンバーでもありました)は本作の"Refugee"の共同作曲者にクレジットされてもいます。そして、新ヴォーカリストをつとめるロニー・プラットはKANSASのフォロワーバンドであるSHOOTING STARのメンバー。そしてセカンドギタリストとして加入したザック・リズヴィは、2000年に再編されたHAPPY THE MANのドラマーであるジョー・ベルガミーニによるインスト・フュージョン・バンド 4FRONTでもプレイしている人物。いずれも脇を固める人材として申し分のないキャリアの持ち主なのであります。




 ケリー・リヴグレンが全曲の作曲を手がけた前作はブルージーなロックチューンやカラっとしたバラードが多くを占めた伸び伸びとした作風でしたが、本作は改めてプログレッシヴ・ハード路線で見つめなおしたという印象を強く感じました。冒頭の二曲"With This Heart" "Visibility Zero"はハードな見せ場もガッツリと詰まっていますし、ロニーのヴォーカルが頼もしい、どっしりとしたミドルチューン"The Unsung Heroes" "Rhythm in the Spirit" "Camouflage"も嬉しい。そして、中盤に収められた8分18秒の長尺曲"The Voyage Of Eight Eighteen"はアルバムの白眉。全盛期に負けずとも劣らないドラマティックなつくりで期待に応えてくれます。最後は、「セクション60」(イラク・アフガニスタン戦争の退役死亡兵たちが埋葬されているアーリントンの国立墓地)に眠る兵士たちに捧げた哀切のインストゥルメンタル・バラード"Section 60"で幕を閉じます。ボーナストラックの二曲"Home on the Range(峠の我が家)" "Oh Shenandoah(オー・シェナンドー)"は、どちらも民謡のカヴァー。ちなみに"峠の我が家"はカンザス州の州歌でもあります。





http://kansasband.com/

2016年10月23日日曜日

〈となりのせきのますだくん〉シリーズのすすめ

 武田美穂さんの絵本『となりのせきのますだくん』を十数年ぶりに読み返し、第二作目以降の〈ますだくん〉シリーズも全作読みました。……実を言うと、シリーズだったということをつい最近まで知りませんでした(一作目の刊行と二作目の刊行の間には四年半ほどのスパンがあり、それで当時、うっかり見逃してしまっていたようです)。そんな自分が言うのもなんですが、全作オススメです。シリーズを通して描かれているますだくんとみほちゃんの関係性は、むしろ年を重ねた今読むと味わい深いものがあります。



『となりのせきのますだくん』
(1991年11月|えほんとなかよし12)

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武田 美穂
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 第一作目。1993年度講談社出版文化賞絵本賞受賞。みほちゃんの視点では意地悪なますだくんは「怪獣」に見えるのですが、彼が「人間の姿」で描かれるラスト1ページは、大人になった今あらためて見てもハッとさせられます。テキストが少なめなのも、内気なみほちゃんの視点でのモノローグだから、と考えることもできなくもないですね。「みほちゃん」であることから察しがつくでしょうが、武田先生ご本人の実体験がベースとなっており、カバー折り返しの先生のコメントには、こうあります。

 わたしが小学校に入学して、一番さいしょにとなりのせきにすわった男の子が「ますだくん」でした。学校でさんざんいじめるくせに、学校からかえると、うちの門のまえで「あそぼーぜ」と、まっているヘンな男の子。あの「ますだくん」は、いまどうしているのでしょう。すてきなおとなになっているでしょうか。



『ますだくんのランドセル』
(1995年10月|えほんとなかよし37)

ますだくんのランドセル (えほんとなかよし)
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 前作から四年半後に刊行された第二作目。一作目と比べると、二作目以降はコマ割が細かくなり、テキストもグンと増え、絵本という以上に漫画的な趣向になっているのもポイントです。ますだくんが憧れの赤色のランドセルを背負うまでの話であり、みほちゃんとの初めての出会いの話でもあります(また、ますだくんには お姉ちゃんが一人、お兄ちゃんが二人いるということもわかります)。ますだくんは赤色のランドセルに愛着と誇りを持っている一方で、みほちゃんは自分の意に沿わない青色のランドセルを背負っており、赤色のランドセルが羨ましいと思っています。男の子・女の子のそれぞれのランドセルの色の選択は昔よりも自由度が高くなってはいるようですが、それでも議論は今もなお尽きないようです。



『ますだくんの1ねんせい日記』
(1996年4月|えほんとなかよし43)

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 ますだくんが自分の日記を初公開するという導入で始まる第三作目であり、『となりのせきのますだくん』の続編。みほちゃん視点であった同作のエピソードを ますだくん視点で展開するという、ちょっとした倒叙的趣向であります。積極性と面倒見のよさにあふれる彼の視点からだと、情報量も格段に違ってきます。ますだくんの自信にあふれまくった言動と、それゆえに起こってしまう みほちゃんとの微妙な噛み合わなさに苦笑しつつも、最終的には微笑ましくなるのです。



『ますだくんとはじめてのせきがえ』
(1996年12月|えほんとなかよし46)

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 ざっくり言うと「なかよくケンカしな」といった感のある第四作目。ますだくんの積極性はやっぱりちょっとニガテだなと思いながらも、みほちゃんが思い切って自らの本音をほんのちょっとだけさらけ出す巻でもあります。そのシーンの構図は非常にエモーショナルであり、本作のハイライトと言えるのではないかと。



『ますだくんとまいごのみほちゃん』
(1997年12月|えほんとなかよし53)

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 第五作目。おもな舞台は学校から街へと移り、タイトル通り みほちゃんが迷子になる話なのですが、一方で本作は彼女の憧れの存在である友人 ようこちゃんの話でもあり、また、クラスメイトとの友情、ちょっとした冒険と成長が描かれた話でもあります。

 ところで、武田先生はNHKの人形劇「ざわざわ森のがんこちゃん」のキャラクターデザインも担当されているんですよね。また、ますだくんは2009年に発売された『武田美穂の四字熟語かるた』でもメインキャラクターを張っています。

武田美穂の四字熟語かるた ([かるた])
武田 美穂
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2016年10月20日木曜日

ベルギー産アダルト・オリエンテッド・ドゥーム・ポップ ― Future Old People Are Wizards『M』(2016)




 ベルギー・ヘント出身のバンド フューチャー・オールド・ピープル・アー・ウィザーズ(FOPAW)の二作目。シューゲイザー/メタルバンド DRUMS ARE FOR PARADESのStijn Vanmarsenille(guitar, vocal, synthesizer)、ダークなエレクトロポップバンド MAYA'S MOVING CASTLEのNele De Gussem(bass, synthesizer)、そしてSylvester (Wallace) Vanborm(drums, piano)のトリオとして、2014年にアルバム『Faux Paw』でデビュー。月刊〈ムー〉かよという感のあるジャケットヴィジュアル。ドゥームな味付けと妖しくスウィートなヴォーカル、そしてポップ&キャッチーな方向性を展開するというスタイルではスウェーデンのGHOST(B.C)に近いものも感じさせますが、こちらはさらにスラッジにも寄せた轟音ヘヴィネスや、ブッといギラギラシンセが織りこまれているのが持ち味。また、影響元にはPART CHIMP、TANGERINE DREAM、KING CRIMSON、LED ZEPPELIN、ブライアン・イーノの名前も挙がっております。これだけゴツいサウンドをカマしておきながら、バンド自らジャンルを「AOR (Adult Oriented Rock)」とうそぶいているのも、なかなかしたたか。



http://www.futureoldpeople.com/
https://www.facebook.com/FutureOldPeopleAreWizards
http://www.youtube.com/futureoldpeople

2016年10月15日土曜日

ジェノヴァのたのしいプログレッシヴ・ジャズロック ― PROMENADE『Noi al dir di Noi』(2016)



 イタリア・ジェノヴァを拠点とする新鋭プログレッシヴ・ロック・バンド プロムナード。結成は2010年ごろ。本国で毎年開催されている、AREAの故.デメトリオ・ストラトス トリビュートコンサートイベント「Omaggio a Demetrio Stratos」の2012年度に参加しており、メンバーがインタビューを受けている映像がありました。キーボード兼ヴォーカルのマッテオ・バリゾーネを中心に、ギター、ドラムス、ベース兼サックス奏者を擁する四人組。メンバーが敬愛するデメトリオ・ストラトスやアラン・ホールズワースはもちろん、カンタベリー・ジャズロックのエッセンス、クラシカルな響きも兼ね備えたブリリアントなサウンド。軽やかにテクニックを織り交ぜていくというところでは、イギリスのGENTLE GIANTや、アメリカのECHOLYNにも近い印象です。イタリアのバンドということで挙げるならば、Deus Ex MachinaやD.F.Aあたりでしょうか。マッテオによる艶のあるヴォーカルも、単なる添えものではなく、アクセントとして効いています。ヴェテラン、新人を問わず軸をハズさないカタログを抱える信頼度の高いイタリアのプログレ/ジャズロックレーベル Altrockからリリースされたというのも大きなアドバンテージ。アルバム1曲目を飾る大曲"Athletics"をどうぞ聴いてみてください。めくるめく楽しい10分間が待っています。





 ちなみに彼らはYouTubeアカウントで演奏動画をアップしているのですが、ポケモンのメインテーマのカヴァーをしています。ちょっとAREAっぽくなるアレンジ、ほほえましい。




https://www.facebook.com/Promenade-112931495433989
https://soundcloud.com/la-promenade
https://www.youtube.com/channel/UCSy1CiXzPALRS6Y56rYQK8w


ノイ・アル・ディル・ディ・ノイ
プロムナード
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2016年10月8日土曜日

「大仙厓展」に行きました





【出光美術館】開館50周年記念 大仙厓展 ―禅の心、ここに集う
2016年10月1日(土)~11月13日(日)

http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/present/index.html
http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/present/highlight.html


 出光美術館の大仙厓展に行きました。コレクション130点以上、全六章立ての展覧。福岡市美術館、九州大学文学部のコレクションと併せた会は1986年以来なのだとか。仙厓和尚の禅アートからにじみ出る徒然なるユーモアは、KAWAIIな側面で楽しめるのはもちろんだけど、それ以上の感銘や得られるものも多く、見逃す手はないと思います。代表作であり重要作である「指月布袋図」「円相図」「○△□」は第三章で展示。その名の通り布袋が月を指している「指月布袋図」には、月(=悟り)は描かれておらず、添えられた「あの月が ほしくばやろふ 取て行け」という句がキマっているので、ユルい中にもめちゃくちゃシビれるものがあります。「円相図」は悟りの境地を円の一筆描きで表現した禅画のスタンダード。その仙厓ヴァージョンは「これくふて 御茶まひれ (そんなものは食べてしまって 茶でも飲もうや)」という一節が添えられた、これもまたある種の境地に至ったもの。ほっこりします。また、「○△□」の英題は「The Universe」となっているのですが、これは稀代の仙厓コレクターであった出光佐三がこの画から宇宙を感じたという印象を、知己の仏教哲学者である鈴木大拙が汲み、海外での展覧会に際して英題として提示したという経緯があったそうな。興味深いエピソードです。


仙ガイの書画
仙ガイの書画
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鈴木 大拙
岩波書店
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 仙厓和尚のもとには画の依頼が絶えず来たので「うらめしや わがかくれ家は雪隠か 来る人ごとに紙おいてゆく (人が来るたびに紙を置いていかれる ワシん家はトイレかいな)」と狂歌でボヤいていて、1832年、83歳のころに一度絶筆宣言をした(石碑も彫った)のだけども、それでもリクエストは絶えず、1837年に88歳で没するまで描き続けたとのこと。人柄がしのばれるというか、「しょうがねえなあ」と苦笑いしながら、それでもまんざらでもなく描いてそうなイメージがなんとなく浮かんできます。ちなみに、絶筆宣言をした年には海岸に上がったトドを目撃していて、それを描いた画が残されていたり、旺盛な好奇心はずっと持ち続けていたもよう。また、蛸の着色画「章魚(タコ)図」は東京では初公開なのだそうな。


 不敵な笑みをうかべたカエルが描かれた「坐禅蛙画賛」は、座禅だけで悟りがひらけるなら、常に坐しているカエルはとっくの昔に悟ってるはずだが、そうはなっていない(だから日々身を入れて励みなさい)という、モチベーション鼓舞の画。“きゃんきゃん”の書き文字も添えられた「狗子画賛」は、ヒモが結ばれている杭が抜けかけていて、犬はいつでも逃げられる状態にあるのだけれども、犬には逃げるそぶりがない。転じて、くびきから逃れられていない人間、という含意があるみたいです(果たしてそうかしらん?)。色々おごってくれそうな近所の気さくなあんちゃんにしか見えない「文殊師利菩薩図」(※10月30日までの展示)はやたらと親近感があるし、「達磨画賛」の「達磨忌や 尻のねふとが 痛と御坐る (ケツのできものが痛え)」というボヤきめいた句はある種のパンチラインだし、「よしあしハ 目口鼻から 出るものか」(五感でとらえられるものが果して本質なのであろうか)と、茂ったしゃれこうべで問うた「頭骨画賛」など、イチオシ仙厓アートは枚挙にいとまがないです。今回の展示ラインナップにはなかったのですが、ほかにも、牛若丸の鞍馬山での修練の様子を描いた「牛若天狗図」という作品があります。天狗の長い鼻先に牛若丸が片足一本で立っているという構図なのに、天狗が「牛やん あぶなか」と博多弁めいたセリフをしゃべっていてめちゃくちゃ味わいがあるので、図録や解説書などでぜひ見ていただきたいですね。




「指月布袋図」をあしらった仙厓ふきん(800円)、思わず買ってしまった。

2016年10月7日金曜日

三年目のテクニカルインスト法律事務所 ― LMR『From the Law Offices of Levin Minnemann Rudess』(2016)

フロム・ザ・ロウ・オフィセス(スタンダード・エディション)
マルコ・ミンネマン,ジョーダン・ルーデス トニー・レヴィン
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https://itunes.apple.com/jp/album/from-law-offices-levin-minnemann/id1139734874


 STICK MEN、KING CRIMSONのトニー・レヴィン(b)、DREAM THEATERのジョーダン・ルーデス(kbd)、THE ARISTOCRATSのマルコ・ミンネマン(ds) ―― 自他問わずのバンドやセッション、ツアーなど、ワーカホリックな活動で知られる三人が2013年に結成したテクニカル・インストゥルメンタル・バンド LMR(レヴィン・ミンネマン・ルーデス)の二作目。プロデュースは同プロジェクトの企画人であるスコット・ショアとバンド。楽曲は三人による共作です。MVなどでお茶目な姿を見せている三人ですが、今回はブックレットでも茶目っ気を発揮し、「レヴィン・ミンネマン・ルーデス法律事務所」のパンフレットという体裁をとっています。DVD付きデラックスエディションには、楽曲のwavファイル、CD盤未収録のソロ曲やデモ、彼らのディレクションにレコーディング映像が収録。また、アルバムジャケットは写真にみえますが、ニュージーランドのイラストレーターであり、ミュージシャンとしても活動するジョーダン・バーンズによるもの。DVDにはイラストの制作風景も収録されているようです。





 トニーとジョーダンの二人がかつて名を連ねたしたテクニカル・バンド Liquid Tension Experimentとはまた装いが異なる、ストイックなまでにテクニカルにならず、よりコンパクトなスタイルでポップな落としどころを設けているのがこのLMR。トニーはインタビューで、こういったプロジェクトタイプのバンドでの活動には「最高のマテリアルを書き、楽曲の取捨選択をし、スタイルを進化させる時間がない」と語っていましたが、今回はトリオの二作目ということもあり方向性がある程度つかめてきたこと、また、デビューアルバムのときよりも作曲の時間がとれたということで、楽曲のセッション一発録り感が減り、グッと練りこみがうかがえる仕上がりになっています。アルバム冒頭にふさわしいドライヴ感あふれる"Back to the Machine"。トニーとマルコがギターをプレイし、多重録音した"Riff Splat"や、過密度が増したアンサンブルを3分半の尺に凝縮した"Good Day Hearsay"などの硬質なヘヴィ・フュージョン。ジョーダンのソロ作に近いキーボード・プログレ"When The Gavel Falls"や、シンセによるサックス風サウンドをフィーチャーしたAOR調の"Shiloh's Cat"、ハートウォーミングなアコースティックチューン"Balloon"など、三人のカラーが適度に反映されたバランスのよさもうれしい。ラストの3曲は習作や別テイクのボーナストラックであり、レコーディングプロセスの一端がうかがえるものです。




http://lazybones.com/



EXCLUSIVE INTERVIEW
 【TONY LEVIN : KING CRIMSON, STICK MEN, LEVIN MINNEMANN RUDESS】
(from Marunouchi Muzik Magazine|2016.09.07)

Tony Levin / Marco Minneman / Jordan Rudess『LMR』(2013)



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2016年10月4日火曜日

スティーヴ・ブシェミとエリオット・シャープによるバロウズ朗読セッション ― 『Rub Out The Word』(2016)




 俳優のスティーヴ・ブシェミと、ニューヨーク・アヴァンギャルド・シーンの重要人物であるマルチ・インストゥルメンタリスト/コンポーザーのエリオット・シャープがタッグを組み、2014年4月21日にウィリアム・S・バロウズ生誕100周年を記念して開催されたイベントの一環としてで行われた、バロウズのテキスト朗読セッションの実況録音盤が9月初頭にリリースされました。ブシェミによる端正なリーディングに、シャープによるアブストラクトな即興が載るという、いかにもな趣向。シャープの活動はあまりにも多岐に渡り、ソロでの活動はもちろん、TERRAPLANEやOrchestra Carbonなどのバンド/ユニット、異種格闘技的コラボ、そしてジャズ、ブルース、ノイズ、テクノ、オーケストラと変幻自在な音楽性も兼ね備えており、すべてを追うとなると膨大な文字数を尽くさねばならないのですが(そもそも自分は把握しきれておりませんが……)、ユニークなものでは『State of The Union』と題した大規模な実験コラボレーション&オムニバスアルバムを82年にプロデュースしており、その参加者の顔ぶれは圧巻の一言(同作はその後、90年代、00年代にトラックを大量に追加して再発しています)。ミュージシャンとのコラボ以外では、〈アンビエント〉シリーズで知られるSF作家 ジャック・ウォマックの朗読やテキストにトラックを載せていたりもしますが、俳優との共演は、おそらく今回が初ではないかと思われます。

http://issueprojectroom.org/event/wsb100-elliott-sharp-steve-buscemi







 以下は、「似たような方向性」としての余談。SF作家のジェフ・ヌーンが2000年に発表した小説を、ヌーン自身による朗読と、元The Flying Lizardsのデヴィッド・トープとのコラボで音楽化した『Needle in the Groove』というものが同年にリリースされておりましたが、現在かなりのプレミアがついております。日本では、文芸作家の島田雅彦氏と、多岐に渡る活動を展開されている大友良英氏のコラボレーションによる朗読サンプリングリミックスCD&BOOK『ミイラになるまで』が1997年にリリースされ、こちらは現在もAmazonで入手可能のようです。ごくごく最近ですと、女優の内田慈さんの朗読と吉田達也氏のドラム演奏を合わせた、宇能鴻一郎作の官能小説朗読セッション「淫PROVISATION」が9月にストリーミングで放送されておりました。



Needle in the Groove
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ミイラになるまで
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2016年10月2日日曜日

プログレチップチューンピアニスト Shnabubulaの「VGMCAST」の一年ぶり新作が登場。新作EPも10月にリリース




 今年3月にリリースされたDanimal Cannonのアルバム『Lunaria』にゲスト参加もした、ニューヨークのプログレチップチューンピアニスト Shnabubulaことサミュエル・アッシャー・ヴァイス。昨年5月には全五回にわたり、ゲーム配信専門ストリーミングサービスでゲーム音楽のカヴァーを中心としたピアノソロでのライヴストリーミングを行い、その模様は「VGMCAST」シリーズとして配信音源としてまとめられました。

▼Shnabubulaのゲーム音楽ピアノカヴァー ライヴストリーミング「VGMCAST」のベスト盤が登場
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/07/shnabubula-vgmcast.html



 その「VGMCAST」が約一年ぶりに帰ってきました。全19曲。今回もダウンロードは投げ銭。選曲は相変わらず好きなものを好きなようにカヴァーしており、節操がありません。




01. トリップワールド
02. エターナルアルカディア
03. 全日本プロレス2 3・4武道館
04. デスノート(アニメ版)
05. モンスターワールドIV
06. easyFun
07. テクモスーパーボウル
08. ぷよぷよSUN
09. マルコ・ミンネマン
10. 悪魔城ドラキュラ 奪われた刻印
11. ゼルダの伝説 風のタクト
12. MOTHER2
13. シルバーサーファー
14. MOTHER3
15. ファイナルファンタジーXIII
16. Killer Instinct Season 1
17. Fearofdark
18. ロケットナイトアドベンチャーズ
19. ラース・バートクン


 また、10月11日にはPerelandra Recordsから全5曲/約26分の新作EP『Cybersoccer 4141 Perfect Best Selection』をリリースするとのアナウンスがありました。2012年にリリースされたチップチューンプログレインスト作『Cybersoccer 2099』の流れを汲むアルバム。嬉しいニュースです。







https://www.facebook.com/shnabubula
http://shnabubula.bandcamp.com/



ノスタルジーとオリジナルの融合、チップチューンの名作
 ― Shnabubula『SNESology Special Edition』(2015)

実力派チップチューン・プログレッシヴ・メタラーの面目躍如たるソロ二作目
 ― Danimal Cannon『Lunaria』(2016)

2016年10月1日土曜日

スウェーデンのDIYフォークトロニカバンド WINTERGATAN、ライヴ演奏のための「Marble Machine 2.0」を製作中




▼DIY精神とポップセンスの胸躍る融合。スウェーデンのフォークトロニカ集団
WINTERGATAN『Wintergatan』(2013)
http://camelletgo.blogspot.jp/2016/03/wintergatan-album2013.html





 制作に丸一年を費やし、3000個にわたるパーツと、2000個のビー玉を使用した大型マルチ打楽器「マーブル・マシーン」を今年3月に発表。大反響を巻き起こしたスウェーデンのフォークトロニカ・インストゥルメンタル・バンド WINTERGATAN。その後、世界各国のメディアから取材が殺到し、より広くその名を知られることになった彼らが、"Marble Machine"のバンド・スタイル&ライヴ・ヴァージョンを、さる9月26日付けで公式bandcampアカウントで配信リリースしました(ダウンロードは投げ銭)。現在、ステージ演奏用に改良を施した「マーブル・マシーン 2.0」を製作中とのことです。





 また、彼らは二つの新楽器を製作しています。ひとつは、ホイールに巻きつけたパンチカードを流し込んでビブラフォンを打鍵する「Music Box」。もうひとつは、モジュラーシンセサイザー("MODU" lar syntheseiser)とヴァイオリン(vio "LIN" )の特性を組み合わせ、テルミンのようなサウンドを奏でる「Modulin」。製作過程の動画が公開されているほか、"All was Well"(デビューアルバム『Wintergatan』収録曲)の、同楽器を使用した新ヴァージョンが7月1日に配信リリースされています。







 8月13日にドイツで開催された「Haldern Pop Festival 2016」での"Starmachine 2000"のパフォーマンス映像。「Music Box」も早速投入されています。




http://www.wintergatan.net
https://www.facebook.com/wintergatan
https://www.youtube.com/channel/UCcXhhVwCT6_WqjkEniejRJQ