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じつに16年ぶり、通産15枚目となる、アメリカン・プログレッシヴ・ハード・ロックの雄 カンサスの完全新作アルバム。『Somewhere to Elsewhere』以来久々のアルバムということで、国内盤は「暗黙の序曲」という邦題で、メガヒットアルバム「永遠の序曲」「暗黒への曳航」に寄せてきていますが、かつてのサウンドの要を担っていたケリー・リヴグレンがバンドを去ってから久しく、スティーヴ・ウォルシュも、2009年のデビュー35周年記念ライヴを収めた『There's Know Place Like Home』(2013)のリリース後にバンドを離れました。しかし、彼らに代わって加入した三人の新メンバーを擁した「七人編成KANSAS」がつくりあげた本作は、非常に手応えのある内容に仕上がっています。
KANSASとしては十年以上新作アルバムのリリースがありませんでしたが、じつは2009年に「NATIVE WINDOW」名義でアルバムが一枚出ています。同バンドはフィル・イハート、リチャード・ウィリアムス、ビリー・グリアー、デヴィッド・ラグスデールの四人による別働隊バンドなのですが、つまるところは、スティーヴ・ウォルシュを抜いた状態のKANSAS。作風も『Somewhere to Elsewhere』の路線をいくらか継ぎつつ、バンドのAOR的側面を抽出した歌ものを中心とした内容の好作になっており、本隊での新作リリース前の「手ならし」として、ワンクッション置かれた形になっていました。
また、ベースのビリー・グリアーはこの十六年の間にSEVENTH KEYという骨太のプログレッシヴ・ハード・バンドを結成してアルバムを三枚出しており、そこからのフィードバックも本作に良好にはたらいています。新メンバーのひとりであるキーボーディストのデヴィッド・マニオンは、SEVENTH KEYのメンバーでもありますし、ギタリストのマイク・スラマー(彼はスティーヴ・ウォルシュが80年代に結成したバンド STREETSのメンバーでもありました)は本作の"Refugee"の共同作曲者にクレジットされてもいます。そして、新ヴォーカリストをつとめるロニー・プラットはKANSASのフォロワーバンドであるSHOOTING STARのメンバー。そしてセカンドギタリストとして加入したザック・リズヴィは、2000年に再編されたHAPPY THE MANのドラマーであるジョー・ベルガミーニによるインスト・フュージョン・バンド 4FRONTでもプレイしている人物。いずれも脇を固める人材として申し分のないキャリアの持ち主なのであります。
ケリー・リヴグレンが全曲の作曲を手がけた前作はブルージーなロックチューンやカラっとしたバラードが多くを占めた伸び伸びとした作風でしたが、本作は改めてプログレッシヴ・ハード路線で見つめなおしたという印象を強く感じました。冒頭の二曲"With This Heart" "Visibility Zero"はハードな見せ場もガッツリと詰まっていますし、ロニーのヴォーカルが頼もしい、どっしりとしたミドルチューン"The Unsung Heroes" "Rhythm in the Spirit" "Camouflage"も嬉しい。そして、中盤に収められた8分18秒の長尺曲"The Voyage Of Eight Eighteen"はアルバムの白眉。全盛期に負けずとも劣らないドラマティックなつくりで期待に応えてくれます。最後は、「セクション60」(イラク・アフガニスタン戦争の退役死亡兵たちが埋葬されているアーリントンの国立墓地)に眠る兵士たちに捧げた哀切のインストゥルメンタル・バラード"Section 60"で幕を閉じます。ボーナストラックの二曲"Home on the Range(峠の我が家)" "Oh Shenandoah(オー・シェナンドー)"は、どちらも民謡のカヴァー。ちなみに"峠の我が家"はカンザス州の州歌でもあります。
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