2016年8月31日水曜日

日常に柔らかに寄り添う、カラフルなヴァイオリン・ポップ サウンド ― スイスカメラ『酸素と丘とレンズ』(2016)

酸素と丘とレンズ
酸素と丘とレンズ
posted with amazlet at 16.08.30
スイスカメラ
DOG AND ME RECORDS (2016-08-10)
売り上げランキング: 25,512


 シンガーソングライター、ヴァイオリニストの梶山織江さんと、ミュージシャン、歌人、怪奇・幻想文学翻訳家、小説家、アンソロジストと多くの顔を持つ西崎憲氏を中心に、ベーシストの阿部昭彦氏とドラマーの川島浩平氏を擁する四人組ヴァイオリン・ポップバンド スイスカメラ。梶山さんも西崎氏もその活動キャリアは長く、梶山さんはヒートウェイブのアルバム『1995』(1995)や、SIONトリビュートアルバム『Ain't Nothing I Can Do』(1995)への参加や、岩井俊二監督の初期映像作品、小林沙苗さんの"永遠の祈りを捧げて"(2003)、堀江由衣さんの"お気に入りの自転車"(2003)などの楽曲提供を。一方の西崎氏は、古くは、姫神 With YAS-KAZ『まほろば』(1984)への奏者としての参加、うしろゆびさされ組"女学生の決意"(1985)、おニャン子クラブ"シーサイド・セッション"(1986)の楽曲提供などを手がけられております。そのほか、梶山&西崎コンビによる仕事では、鈴木真仁さんのアルバム『絶対少年』(1997)、野中藍さんのデビューシングル「夢のドライブ」(2005)、堀江由衣さんのアルバム収録曲"day by day"(2005)などがあります。ネオ・アコースティックやギターポップ系レーベルであるdog and me recordsから作品をリリースしているスイスカメラのサウンドは、各メンバーのバックグラウンドや多方面な活動からのフィードバックもあり、鮮やかな魅力をたっぷりと含みこんでいます。

 本作『酸素と丘とレンズ』は、2002年の4曲入りミニアルバム「about our life」以来、約14年ぶりのリリースとなった1stフルアルバム。梶山さんの颯爽としたヴァイオリンのメロディとやさしい歌声、そして日常のすきまや人間模様をふわりとくすぐっていく詞世界を中心に、サックス、フルートなどの金管楽器やコーラスなどのアレンジがさりげなく顔を出す。非常に丁寧に練りこまれたサウンドです。疾走感あふれるロックチューン"車の時間"や、ドリーミーなアレンジの"サイダーレイン"。ややアンニュイなトーンのヴォーカルと躍動的な楽曲の対比が絶妙な"はじめてだこんな気持ち"。B級映画風の導入で幕開けする、ひとときのシネマティックなアドベンチャー"ムービートラベル"も好きですが、ひときわ印象的に映ったのは"アニメの世界"。ハッとさせられるメロディやアレンジもさることながら、「背丈と同じ長さのアンテナで 世界の電波を集めている」「4コマ漫画では終われない 複雑なんだ毎日は」のフレーズにグッときます。また、西崎氏の作詞作曲による"あの時ぼくは青空を汚したかったんだ"は、ギター、ヴァイオリン、コーラスが一体となってじんわりと迫るスロウバラード。日常に優しくそっと寄り添う楽曲群は、何度も身をゆだね、聴きかえしたくなります。「これはポップ&ロックへの新しい挨拶です」というのは帯のキャッチフレーズですが、こちらもつい「新しい挨拶」で応えたくなる、そんなサウンドです。また、CDの盤面には西崎氏による掌編があしらわれており、アルバムタイトルへと有機的に繋がっています。




http://dog-and-me.d.dooo.jp/swiss_camera2.html
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《関連》

『サウンドコミックス 月のうまれる夜』(1996)
ドラマCDアルバム。結城比呂(優希比呂)氏と関智一氏のヴォーカルによるヴァイオリンポップチューン"君の瞳だけ映してる"の作曲を梶山さん、編曲を西崎氏が手がけております。

『がんばれ!ご主人様 オリジナルアルバム』(1992)
西崎氏が作曲&ヴォーカルで参加。

2016年8月27日土曜日

上松範康(Elements Garden)『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS Original Soundtrack』(2016)


http://store.jp.square-enix.com/item/SQEX_10536_7.html


 2015年10月にサービスを開始した、〈ファイナルファンタジー〉シリーズの派生タイトルであり、エイリム開発/スクウェア・エニックス運営のソーシャルゲーム「FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS」(FFBE)のサウンドトラック。コンポーザーは、音楽制作集団「Elements Garden」の代表として数多くのアニメ、ゲーム作品や声優に楽曲を提供、近年は作編曲のみならずアニメ原作者としても活動し、〈戦姫絶唱シンフォギア〉シリーズや〈うたの☆プリンスさまっ♪〉シリーズを手がける上松範康氏。スクウェア・エニックスでは〈CHAOS RINGS〉シリーズのメインコンポーザーも担当されております。ライナーノーツの上松氏のコメントによると、本作のサウンドをオファーを受けた頃は「BGM制作からの引退」を考えていたとのこと。長年の憧れであったタイトルへの挑戦、そして「上松範康のBGMを引退する音楽作品」として世に送り出すという並々ならぬ決意のもと、数十名の演奏者を迎えてのホール・レコーディングを敢行。ありったけの情熱と気合が注ぎ込まれています。その後の反響もあり、結果的に作曲活動からの引退は「これで終わってはいけない」という想いのもとに撤回されましたが、本作の存在は氏のキャリアの中で大きな節目となったのは間違いありません。


「DUEL!!」



 オーケストレーションを手がけたのは、〈イナズマイレブン〉シリーズ、「艦隊これくしょん」(アニメ)などのコンポーザーであり、ゲーム音楽コンサート「Press Start」をはじめ、オーケストラコンサートイベントの編曲も数多く手がける亀岡夏海さんと、2012年よりElements Gardenに参加し、水樹奈々"アヴァロンの王冠"、茅原実里"ありがとう、だいすき"などの編曲や、「戦姫絶唱シンフォギアG」「Dance with Devils」「シュヴァルツェスマーケン」などの劇伴・キャラソンの作編曲を手がけてきた、バークリー音楽大学出身のアメリカ人 エヴァン・コール氏(その後、契約期間満了に伴い、2016年6月末をもってElements Gardenを脱退されました)。エピックなシンフォニックサウンドに強い両者の協力もまた大きなポイントです。


「Moment of Recall」



 Elements Gardenとして参加した〈ワイルドアームズ〉シリーズ第六作「ザ フィフスヴァンガード」、第七作「クロスファイア」でも、シリーズの代名詞である荒野と口笛のイメージや、なるけみちこさんのサウンドを踏襲しつつ、新しい風を吹き込んでいましたが、「FFBE」においても、植松伸夫氏のサウンドを踏襲しつつ、上松氏の持ち味も含めたさらなるプラスアルファでまとめ上げるという見事な手腕を発揮されています。時にエッジィなギターサウンドやクワイアコーラスも交えた絢爛かつ壮麗な仕上がりには一部の緩みもなく、初期シリーズでおなじみの戦闘曲イントロをフィーチャーしながら、それぞれ異なるアプローチで聴かせる"DUEL!!" "Onslaught"や、たちまちのうちにクライマックス級の高まりを感じさせてくれる"Celestial Battle"はその最たる楽曲でありましょう。また、シリーズおなじみの"ファンファーレ"や"チョコボのテーマ" "プレリュード"そして"メインテーマ"は、アレンジで登場しています。サントラCDの一般流通はしておらず、スクエア・エニックスの公式通販限定というところは惜しまれますが、購入者にはさらにCD未収録曲"United We Stand" "Candle in the Darkness"の二曲がダウンロードできます。


「Prelude」

http://www.jp.square-enix.com/FFBE/

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『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS Original Soundtrack』
[SQEX-10536~7|SQUARE ENIX MUSIC|2016.02.26]

http://www.square-enix.co.jp/music/sem/page/FFBE_ost/

【Disc 1】

01. Moment of Recall
02. To the Horizon
03. Into the Labyrinth
04. DUEL!!
05. Victory's Fanfare
06. Peaceful Village
07. Not of This World
08. Rain in Forest
09. The Ancient Life
10. The Initiation
11. Monument Valley
12. Supreme Mission
13. Devided We Fall
14. The Emergency
15. Onslaught
16. The Suspicion
17. Walkabout
18. Overcome the Menace
19. Tree of Tales
20. Once more Dance?
21. Prelude


【Disc 2】

01. Great Voyage
02. State of Grace
03. The Oath
04. Snowdrop
05. Joie de Vivre
06. Mirage Palace
07. Sacred Ground
08. Amigo de Chocobo
09. Antiquities
10. The Imperial Capital
11. Shadow of Doubt
12. Mystic Ruins
13. The Ghostship
14. Secrets in her Eyes
15. Nothing's in Vain
16. Odyssey
17. Force and Furious
18. End is Nigh
19. Celestial Battle
20. Triumph of Destiny
21. Final Fantasy


《Music Composed & Produced》
上松範康 (Elements Garden)
[ Original Music Composed by 植松伸夫
 (Disc1 M5, M21 / Disc2 M8, M21) ]

《Orchestrator》
エヴァン・コール[Elements Garden]
亀岡夏海
宮野幸子[SHANGRI-LA INC.]

《Musicians》
加納望(E.guitar)
藤永龍太郎(E.guitar)[Elements Garden]
根岸和寿(A.Guitar/E.Guitar/Banjo/Ukulele)
吉田太郎(Drums)

高桑英世(Flute/Piccolo/Tinwhistle)
若松純子(Flute/Piccolo)
庄司知史、森明子(Oboe)
山根公男、糸井裕美子(Clarinet)Kimio Yamane, Yumiko Itoi
石川晃、笹崎雅通(Bassoon)
藤田乙比古、和田博史、大東周、堂山敦史、上間善之、大野雄太、山岸リオ(Horn)
奥村晶、内藤知裕、安藤真美子、高荒海、小貫誉(Trumpet)
中川英二郎、半田信英、鳥塚心輔(Trombone)
山城純子、藤井良太(Bass Trombone)
本間雅智(Tuba)
高田みどり(Timpani & Percussion)
EKS Masters Orchestra(Strings)
小森谷巧、長原幸太、森下幸路、岩村聡弘、渡邉ゆづき、對馬哲男、奥村愛、上保朋子(1st Violin)
石田泰尚、執行恒宏、赤池瑞枝、瀧村依里、森山梢、横山彩(2nd Violin)
榎戸崇浩、渡邊信一郎、青木史子、金孝珍、生沼晴嗣、西悠紀子(Viola)
笠原あやの、木村隆哉、篠崎由紀、向井航、清水詩織、浅井智佳子(Cello)
米長幸一、市川哲郎、瀬泰幸(Contrabass)
門脇大輔(Violin)
掘沢真己(Cello)
エバン・コール(Chorus)
岩橋星実(Percussion)
Marissa Steingold(vocal)

上松範康、エヴァン・コール(All Other Instruments & Programming)


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2016年8月25日木曜日

FLOWER KINGS、元SPIRITUAL BEGGARS周辺人脈による北欧のゲームサウンドチーム「Retro Family」について





 THE FLOWER KINGSのロイネ・ストルト率いるスウェーデンのプログレッシヴ・ロック・バンド AGENTS OF MERCYのドラマーであり、ギリシャのプログレッシヴ・メタル・バンド VERBAL DELIRIUMの元ギタリストのソロプロジェクト METHEXISにも参加しているマイケル “ヴァッレ” ヴァルグレン。彼はロックマン2の「メタルマンステージ」や星のカービィの「バター・ビルディング」、ファイナルファンタジーVIIの「更に闘う者達」、ゼルダの伝説 風のタクトの「Outset Island」など、ゲームミュージックのバンドカヴァー演奏動画をYouTubeにアップしているという顔も持っています。このカヴァーバンド「Retro Family」は、元SPIRITUAL BEGGARSのクリスティアン “スパイス” ショーストランド率いるグルーヴ・メタル・バンド KAYSERのギタリストであるヨッケ・ペテルソンと、ベーシストのアルフレッド・アンダーソンとのトリオ。サウンドチームとして活動もしており、ストックホルムのゲームデベロッパー「Might and Delight」に参画し、これまでに「PID」(2012)、「Shelter」(2014)、「The Blue Flamingo」 「Shelter 2」(2015)、「Paws: A Shelter 2 Game」(2016)といったゲーム作品のサウンドトラックを手がけております。パズルアクションゲーム「PID」にはトリッキーでコンパクトなインストゥルメンタルを、シューティングゲーム「The Blue Flamingo」にはジャジーな小品を、そしてM&D社の看板タイトルであるアニマルアドベンチャー〈Shelter〉シリーズでは、乾いた空気感のあるインストゥルメンタルをそれぞれ提供しています。


「PID」サウンドトラックからの一曲



http://mightanddelight.com/



Profile – Retro Family
(from northlandsquare|2014.04.25)
Retro Family - vgmdb
Retro Family - YouTube
Walle Wahlgren - YouTube
Retro Family - facebook

ユニークな浮遊能力を使う新作パズルアクション『Pid』が今月末に配信へ
(from gamespark|2012.10.13)

『Shelter 2』スタンドアロン拡張「Paw」発表―親とはぐれた子ヤマネコを描く
(from gamespark|2016.01.21)

2016年8月20日土曜日

今年第二弾のソリッド・プログレ・フュージョン ― Ludrium (Cody Carpenter)『Through Sentinent Eyes』(2016)



 コディ・カーペンターによるプログレッシヴ・インストゥルメンタル・ユニット Ludriumの約7ヶ月ぶりのリリースにして、通産四作目のフルアルバム。今年4月に発表された、父 ジョン・カーペンターの二作目のソロアルバム『Lost Themes II』での楽曲・演奏面での貢献、そしてカーペンターバンドの一員として、同作を引っさげての世界各国のライヴやフェス出演など、今年に入ってますます活発化した活動を展開しているコディ氏。本作の楽曲のほとんどは今年3月から5月にかけて書かれたもので、一部は古いマテリアルをリファインしたものとのこと。先行公開された"Years" "Last Line of Resistance" "Cave of Time" "Subtle Cosmos"の4曲をふくむ全12曲を収録。本作のマスタリングは、2015年に誕生したばかりのフランスのシンセウェイヴレーベル LASERDISCS RECORDSの筆頭アーティストであり、プロデューサー Absolute Valentine。ちなみにコディ氏は同レーベルが今年3月にリリースしたコンピレーション第一弾に新曲"Starlight Desire"を提供しております。





 EL&P、GENESIS、スティーヴ・モーズ、ヴィンス・ディコーラ、細江慎治などからの影響を独自に昇華・ミックスし、ゲーム音楽、プログレ、フュージョン、シンセウェイヴの各要素を散りばめた四本柱のインストゥルメンタルサウンドはますます磨きがかかっており、冒頭を飾る"Last Line of Resistance"は、「慈悲のないはるか未来の世界で、人間が生んだ人工知能ロボットによる世界征服に立ち向かうのが、私達しかいない……」(コディ氏のコメント)というコンセプトのスリリングな疾走チューン。同曲しかり、"Misty is Our Love" "Jagged Hag" "Mind Over Matter"しかり、プログレとフュージョンが巧みにせめぎあうソリッドな楽曲展開がより練られた仕上がりです。FM音源とギターフュージョンをミックスしたノスタルジックな趣の"Cave of Time" "The Labyrinth"や、チャーチオルガンサウンドによるRPGライクな小品"Held"、80年代以降のポップ期GENESISに通じるきらびやかなメロディが躍動する"Subtle Cosmos"などを間あいだにはさみ、テンポよくまとめられています。


https://www.facebook.com/ludrium
https://soundcloud.com/john-cody-carpenter
https://www.youtube.com/channel/UC2hboJKaYwHLZQWWCyI9zOg
https://twitter.com/Ludrium


「Exclusive: Cody Carpenter talks Ludrium and tour with John Carpenter」
(from axs.com|2016.07.03)

受け継がれる音楽的遺伝子。ジョン・カーペンターの息子コディ率いるプログレッシヴ・ロック・バンド ― Ludrium『Zeal』(2012)

ゲーム音楽、フュージョン、プログレの折衷をより推し進めた、コディ・カーペンターの二作目 ― Ludrium『Pleasure of a False Past』(2015)

コンスタントなリリース、コンパクトなグッドメロディ ― Ludrium『Unity』(2016)


 ところで、8月頭にiOSでリリースされたスポーツアクションゲーム「Tap Track Heroes」のBGMをコディ氏が手がけており、Ludriumが昨年リリースした2ndアルバム『Pleasure of a False Past』の収録曲が使われています。


2016年8月15日月曜日

スーパーファミコン〈スーパーボンバーマン〉シリーズのサウンドを振り返る

 1983年にリリースされた「爆弾男」から数えると実に三十年以上の歴史を誇る長寿作となった〈ボンバーマン〉シリーズ。派生作品やメディアミックスも含めるとその数は膨大になります。すべてのタイトルを掘り下げていくのも一興ではありますが、今回はスーパーファミコン(SFC)でリリースされた7タイトルのサウンドにクローズアップさせていただきます。〈ボンバーマン〉シリーズのサウンドの重要人物といえば、アラブ音楽の演奏家/ナイ(民族楽器)奏者であり、ハドソンの数多くのゲームタイトルのサウンドも手がけられた竹間ジュンさん。コンポーザーとしてはもちろん、アレンジャーとしても素晴らしい仕事をされており、ひとつのテーマメロディを数多くのヴァリエーションでカラフルにアレンジする手法は、まさに職人的であります。


スーパーボンバーマン (1993年4月) 
スーパーボンバーマン2 (1994年4月) 
スーパーボンバーマン ぱにっくボンバーW (1995年3月)
スーパーボンバーマン3 (1995年4月)
スーパーボンバーマン4 (1996年4月)
ボンバーマンビーダマン (1996年12月)
スーパーボンバーマン5 (1997年2月)



「スーパーボンバーマン」のコンポーザーは竹間ジュンさんと濱田智之氏(現 5pb.)。ファミコン版から連綿と受け継がれてきたメインテーマとボーナスステージBGMはハードも代わったことでグレードアップ。ボス戦BGMは戦隊ヒーローもののようなアツいメロディラインが印象的です。





「スーパーボンバーマン2」は、当時「エメラルドドラゴン」(PCエンジン版)のサウンドを担当され、作編曲家のみならずマルチな方面でも活動を展開され始めていた福田裕彦氏がメインコンポーザーを務められたタイトル。テーマパーク的なニギニギしさにあふれ、オーケストラヒットがガンガン炸裂するなど、高い密度とテンションがキープされたエキサイティングな異色作。ボスバトルBGMやステージ5BGMは、半ばプログレかネオクラシカルメタルかというほどに怒涛の展開が炸裂。






スーパーボンバーマン3
スーパーボンバーマン3
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ゲーム・ミュージック
ポリスター (1995-08-25)
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「スーパーボンバーマン3」は、再び竹間ジュンさんがメインコンポーザーに(ハードなスピードチューンである二曲のボス戦BGMは、サウンドプログラミングも担当された星恵太氏の作曲)。わりあいストレートなメロディとサウンドだった1から大きく趣が変わり、オリエンタルなテイストも織り交ぜたテクノサウンドで、チルアウトできる仕上がり。また、〈スーパーボンバーマン〉シリーズで唯一、単体のサントラCDがリリースされたタイトルでもあります。CDは現在もなお中古市場で超プレミア価格なのですが、竹間さんのsoundcloudアカウントにて、星氏の二曲を除くすべてのBGMを聴くことが可能。再生リストの最後には、サントラCD未収録のデモトラック/ミックス「Super Bomberman 3 Private Remix」が追加されているという嬉しいおまけも。





コンポーザーに竹間ジュンさん、アレンジャーに福田裕彦氏に迎えた「スーパーボンバーマン4」は過去作のアレンジが中心であり、五つのステージBGMはPCエンジンの「ボンバーマン'93」「ボンバーマン'94」、スパボン1とスパボン3のアレンジとなっています。単体サントラCDこそ出なかったものの、オムニバスCD『1996 ハドソンゲーム音楽全集』にステージBGMが全て収録されています。





SFCシリーズ最後のタイトルとなった「スーパーボンバーマン5」もアレンジが中心ですが、スパボン1(ステージ1)、スパボン2(ステージ1、バトルステージ1)、スパボン3(ステージ2)、スパボン4(亜空間ステージ)アレンジなどを含む、SFCシリーズの集大成的な内容。アレンジャーは松前公高氏です。非売品のハドソンオムニバスCD『Caravan on the Radio』には、"ゾーン5 競技場"と"ラストボス"の二曲が収録されています(同CDはほかに「ボンバーマンビーダマン」からも二曲収録)。





 派生タイトルの二作について。1994年にエイティングが開発を手がけたアーケード版にオリジナル要素を加えたSFC移植版(開発・移植はハドソン)であり、落ちモノパズルゲーである「スーパーボンバーマン ぱにっくボンバーW」のコンポーザーは竹間ジュンさんと、小谷野謙一氏。小谷野氏によるメタルボンバー戦BGMは秀逸なスーファミメタルです。また、マニュピレート・SE周りは崎元仁氏が担当されており、スタッフロールでは「YmoH.S」名義でクレジットされています。近年も玩具展開されている「ビーダマン」の一番最初のゲーム化タイトルである「ボンバーマンビーダマン」のコンポーザーは、アニメ「Bビーダマン爆外伝」の劇伴も手がけられた(竹間ジュンさん、安西史孝氏と共同)、KENYUこと貫田顕勇氏です。





June Chikuma BOMBERMAN MUSIC


《余談》

 2005年にサイトロンからリリースされた(現在は廃盤)『ボンバーマン ザ ミュージック』は、PC-6001MKIIの「爆弾男」「三次元ボンバーマン」から、ニンテンドーDS版「ボンバーマン」まで。いくつか割愛されたタイトルがあるため完全とはいきませんが、シリーズのサウンドの変遷をある程度俯瞰できる内容です。


ボンバーマン ザ ミュージック
ゲーム・ミュージック
サイトロン・デジタルコンテンツ (2005-10-19)
売り上げランキング: 211,863



 竹間さんのsoundcloudアカウントより、1990年にファンハウスからリリースされたCD『ボンバーマン名曲集』に収録された3曲のアレンジヴァージョン。竹間さん(keyboard, accordion, programming)を筆頭に、太田恵資氏(violin, vocal)、葛生千夏さん(vocal)、大坪寛彦氏(bass)、川口雷二氏(drums)、高木潤一氏(guitar)、菱田吉美さん(programming)といった面々が結集しての民族音楽ヒップホップハウスミクスチャー。バツグンの強度を誇るアレンジです。





《クレジット》

スーパーボンバーマン


スーパーボンバーマン2


スーパーボンバーマン ぱにっくボンバーW


スーパーボンバーマン3


スーパーボンバーマン4


ボンバーマンビーダマン


スーパーボンバーマン5

2016年8月13日土曜日

90年代悲運のマイナー・マルチメディア「CD-i」版テトリスが奏でた、美しき環境音楽の響き




 まさかの映画化も現在進行中である「テトリス」。同ゲームのBGMというと、一般的に想起されるのはロシア民謡"コロブチカ"のメロディ、もしくはBPS版テトリスに収録された、YMO meets ブルグミュラー風のテクノポップチューン "テクノトリス"を思い浮かべられる方が多いと思います。が、そんなシリーズのなかでも異色のサウンドを奏でたタイトルが90年代に存在しました。それがCD-i版テトリス。「CD-i」は、オランダのフィリップス社が開発し、1991年末にリリースされたマルチメディア規格「コンパクトディスク・インタラクティヴ」のこと。独自CD規格であり、専用プレイヤーでないと再生ができません。マルチメディア機(ゲームもできる)というふれこみでCD-iプレーヤーを売り出したものの、メガCDやセガサターン、プレイステーションとのシェア争いであえなく敗北。ゲーム機としての認知度もまったく上がらず、全世界累計出荷台数は約57万台。結果的に、任天堂のバーチャルボーイの全世界累計出荷台数である約77万台を大きく下回る「売れなかったハード」となり、1998年にひっそりとその姿を消してしまいました。CD-i対応のゲームソフトの数も非常に少なく(一応、フィリップスは任天堂の許諾を得て「マリオ」「ゼルダ」を冠したタイトルも出していたのですが、出来はイマイチ。ともに日本未発売です)、そんな同作に対応したテトリスCD-iは、フィリップスP.O.V.エンターテインメントグループの開発のもと1992年にリリースされました。1994年11月には日本マランツから日本向けにもリリースされたのですが、先に述べた事情もあり、どれほど国内で出回ったのかは不明です。





 さて、そのCD-i版テトリス。ハイスコアBGMこそロシアンなイメージですが、あとはほぼニューエイジ・ミュージックという一線を画した作風になっています。CDメディアなので、当然高音質。生演奏風のサウンド、静かにあふれだす美しいメロディの数々は、まさに浸れることうけあいです。背景の自然の一枚写真と、テトリスの無機質プレイ画面という対比もあいまって妙な味わいが醸し出されており、海外の一部界隈では「これはまさにvaporwaveゲームだ!」という声とともに再評価する人もいるようで、(ナナメ上の形で)時代が追いついた感があります。その楽曲に魅了された人は多く、有志によってYouTubeにいくつもアップロードされていることからも評価のほどがうかがえます。同作のコンポーザーであったJim Andron氏は、同じくフィリップスP.O.V.開発による恐竜モノSFアドベンチャー「Zombie Dinos from Planet Zeltoid」(1992)や、後にビクター音楽産業がPCエンジンに移植して国内発売した「ライジングサン(Lords of the Rising Sun)」のCD-i版(1992)、ゲームボーイアドバンスやプレイステーション2、ゲームキューブ、XBOXなど各種ハードで出た「パックマンフィーバー」「ナムコミュージアム」(2000~2002)の海外版などにコンポーザーとしてクレジットされてもいます。ゲームタイトル以外では、1988年公開(1990年日本公開)の映画「エイリアン from L.A」の劇伴への参加が確認できました。そのほか色々と調べてみましたが、2000年代以降の活動については不明です。





CD-i ハード ソフト 解説及び一覧 - Gamest
CD-i - giantbomb
TETRIS(CD-i)- mobygames
Jim Andron - mobygames
Jim Andron - IMDb


2016年8月9日火曜日

祝「デスクリムゾン」20周年――せっかくだから、俺はデスクリムゾンのサウンドを改めて振り返るぜ






 セガサターンの伝説のクソゲーであり、ゲーム史においても燦然とクソゲーとして輝く“デス様”こと「デスクリムゾン」。他の追随を許さないゲーム内容についてはもはや何をかいわんやですが、同作がエコール・ソフトウェアより発売されたのは1996年8月9日。本日、2016年8月9日をもって、発売20周年を迎えました。なぁんということだぁ。同シリーズは1999年に「デスクリムゾン2 ―メラニートの祭壇―」、2000年にアーケードで「2」のリメイク「デスクリムゾンOX」がリリース(その後2001年にDC、2003年にPS2に移植)され、1999年11月には「デスクリムゾン2」のサントラ『デスクリムゾン2 ―Yuri Rosenbergー』が、2001年5月には「デスクリムゾン」と「デスクリムゾンOX」の楽曲をカップリングした『デスクリムゾン ヒストリー』がエコールの公式通販限定で販売されていました。独自レーベル「Crimson Record」の品番「ECAP」をもつカタログは、後にも先にもこの二枚だけです。リアルタイムで入手できなかった私は未だに中古市場にCDが出回るチャンスを待っているのですが、望みは限りなく薄く……。これを手にすることが出来たとき、私の魂は救済されるのでしょう。せっかくだから、まだまだ待ち続けます。





 初代「デスクリムゾン」のコンポーザーはK.Watanabeこと渡辺邦孝氏。真鍋社長に「プログレッシブロックの熱狂的なマニアの作曲家の方」と言わしめた渡辺氏は元々キーボーディストとしてバンド活動をされており、70年代には、後にACTIONを結成する高橋ヨシロウ氏と共にハード・ロック・バンド「山水館」のメンバーとしてプレイされていました。山水館は五十嵐久勝氏や平山照継氏を擁していたSCHEHERAZADEと合流して1979年初頭にプログレッシヴ・ロック・バンド NOVELAになるのですが、渡辺氏はその少し前にバンドを脱退されております。その後、マルチパフォーマー/コンポーザーとして現在も活動されており、〈必殺仕事人〉シリーズ映画「必殺!主水死す」(1996)の劇伴や、「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」の番組テーマ曲("元町チャチャ")も氏による仕事です。また、これまでに二枚のソロアルバム『エスカルゴ・アバンチュール』『エスカルゴ・スーベニール』を出されております(奇しくも今年、再プレスされました)。YouTubeに投稿されている数多くのカヴァー演奏動画も素晴らしいのでぜひ。デスクリムゾンのBGMは思いっきりプログレに寄せた作風であり、EL&PやKING CRIMSONを意識したフシもある仕上がり。ちなみに、2014年に渡辺氏は制作当時のMIDIファイルをバックに、ヴィンテージシンセサイザーの生演奏で同作の楽曲のセルフアレンジを五曲投稿されております。感涙モノの内容であり、クリムゾナー必見です。




"メインテーマ"
"赤の扉"
"デスマスク"
"ファーストボス"
"ムーラ"





「デスクリムゾン2」のコンポーザーは「ソニック・ザ・ヘッジホッグCD」(1993)、「luv wave」(1998)、「ガイアマスター ~神々のボードゲーム~」(2000)、「サモンナイト4」(2006)などにも参加された尾形雅史氏。ハード・ロック、テクノ、シンフォニック調と、ツボを押さえた仕上がり。また、エンディングテーマ"Maybe Someday"は、同作のヒロイン ユリ・ローゼンバーグのCVも担当されていたMOMOさんによるヴォーカル曲。ゲーム本編の内容のアレコレすらも、この曲の前では浄化されてしまいます。道下さんはその後コンポーザーとして「ドリームクラブ」(2009)、「NEWラブプラス」(2012)などを手がけられています。渡辺氏の「1」、尾形氏の「2」の楽曲のリメイクも含む「デスクリムゾンOX」のメインコンポーザーはK.Mizukiこと瑞木薫氏("ザッハウ"のみ如月ゆうき氏)。シリーズの集大成といえる、バラエティに富んだ良曲・良編曲の宝庫です。また、『デスクリムゾン ヒストリー』はゲーム本編で流れたサウンドをそのまま収録しているというわけではなく、収録に際して瑞木氏によるデータアレンジが加えられており、ショボい鳴りのサウンドではなくなっているようです。CD、欲しいなあ(血涙)



[ECAP-0001] Death Crimson 2 -Yuri Rosenberg- - vgmdb
[ECAP-0002] Death Crimson History - vgmdb

「神との対話」99年8月6日 エコール巡礼オフ会レポート
(from デスクリムゾンリンク集|1999.08.10)
エコール真鍋社長との対話。貴重な記録です。

音で綴る歴史。デスサントラ「Death Crimson -History-」
(from Crimson Farityale|2001.04.26)
15年前にサントラを購入された方のレポート。やはり貴重な記録です。

デスクリムゾンリンク集
エコール情報

2016年8月7日日曜日

映画『ハイ・ライズ(HIGH-RISE)』 雑感アレコレ



 高層マンション内で起こったヒエラルキー闘争と、人々の剥き出された獣性の果ての退化の姿を描いた、J・G・バラードの『ハイ・ライズ(旧題:ハイ―ライズ)(1975)。自動車衝突事故に対する異常な執着とフェティシズムを描いた『クラッシュ』(1973)、高速道路のスキマに落ち込んだ男の彷徨を描いた『コンクリート・アイランド』(1974)とともに《テクノロジー三部作》と称された傑作小説であります。2015年にベン・ウィートリー監督によって映画化された同作が先ごろ日本公開されたので観てきました。都内での上映はヒューマントラストシネマ渋谷。会場は高層ビル、というほどではないですが、ビルの8階にあるシネコンであり、原作が原作だけになかなかに味わい深いものを感じます。ちなみに、売店では犬の焼肉は販売されていませんでしたが、「ハイ・ライム」ドリンクが販売されていました。おいしかったです。


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 70年代といえば、「ハイテク建築」が台頭してきた時代でもあります。ちなみに、本作で描かれた高層マンションは全40階で1000戸/2000人を擁するという規模ですが、二十一世紀の現在ではそれを優に超える規模のものが出てきています。日本では2008年に「THE TOKYO TOWERS」という、地上58階建て、全2794戸というシロモノが東京都中央区に完成しています。設定こそ現代社会に追い抜かれた形ですが、作品のテーマ性は先鋭化する現代においてますます響くものであることに間違いはありません。原作が発表されてから40年、デヴィッド・クローネンバーグによる映画『クラッシュ』から20年を経て『ハイ・ライズ』を映画化したというのは、タイミング的にも良かったと思います。


 以下はネタバレ込みでアレコレととりとめなく書いているゆえ、映画未見の向きはリターンを推奨。あっ、全裸中年男性が出てくるということはバラしてもいいですよね?(予告編でトム・ヒドルストンが思いっきり全裸日光浴してますし)。






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 軒並みハイセンスなヴィジュアルで打ち出したポスター、セレブのエレガンスなムードたっぷりの予告編は確信的に本編のアレコレを「隠しおおせ」ています。実際は原作以上にエロ/グロ/ヴァイオレンスなシーンが数多くあり、事前情報を何も知らないと見事にスクリーンで一撃見舞われるテイになっています。そして、原作既読者であればほとんどの人が気になる部分であろう(?)「ロバート・ラングがベランダで犬の肉を喰いながら三ヶ月前に起こった出来事を回想しはじめる」という強烈な冒頭シーンですが、ご安心ください。ちゃんと映像化されています。目をやった先には愛らしいワンチャン! → 次の瞬間、ジュージューに焼けた足! というコンボです。

 トム・ヒドルストン演じる、知的で冷静沈着な(そして時に何を考えているのかわからない)イメージを崩さないロバート・ラング。ルーク・エヴァンス演じる、モッサリとしたルックスで、野趣と野心にあふれるリチャード・ワイルダー。ジェレミー・アイアンズ演じる、独自の美学を貫くダンディーな壮年アンソニー・ロイヤルと、三者のヴィジュアルはやはりクッキリと明確にされています。原作小説ではラング、ワイルダー、ロイヤルの三者の視点が順番に入れ替わりながら章を展開していくのですが、映画ではラングをメインキャラクターにして、ほとんど彼の視点で進んでゆきます。それに伴い、ラングの医師という設定や内面の描写は原作よりもクローズアップされており、同僚であり彼より高層のフロアに住むマンローというキャラクターの存在もそれに一役買っています。彼は原作の「宝石商の男」の役割を担っており、つまるところ、最上階近くから駐車場に飛び降りてボンネットにめり込むポジションです。また、原作ではアリス・フロビジャーというラングの姉がラングと秘め事めいたやり取りをするのですが、映画では彼女は「写真の中だけの存在」であります。彼女のポジションは、ワイルダーの妻へレンが担う形になりました。削られたり変更されたキャラクターは他にもいるのですが、その違いはご自身でお見比べあれ。

 原作小説では30ページぐらいでマンション全体が闘争状態に突入していましたが、映画ではそこに至るまでをじっくりとしたテンポで描いております。あまりサクサク進めると置いてけぼりになりそうなのと、重苦しさに欠けてしまいそうなので、英断だと思います。原作小説のテイストは大部分で尊重しつつ、肉付けするところはしっかり肉付けしていっており、スタッフの手腕の確かさを感じさせました。映画本編でロイヤルが「手のひらと五本の指」に例えていた五棟のビルの全体図や設計図はほんの少しだけ出てくる程度ですが、ブルータリズム建築(1950年代に見られた建築様式)の流れを汲んだ見事なヴィジュアルです。




 本作のいくつかの挿入歌(後述)と絡んでもくるのですが、パーティーのシーンが数多く挿入されているのも印象的でした。上層の住民が一様に中世貴族の格好をしてパーティに明け暮れ、現代風の出で立ちを逆に馬鹿にするという酔狂なシーンです。「服を着ているよりも裸でいるほうが素敵な男性というのはそうそういない」(ややうろ覚えですが)という序盤のセリフも、文明の数々を荒々しく投げ捨ててゆく展開を考えるとなかなかニヤリとさせられます。序盤のハイライトと言える、飛び降りたマンローがボンネットに頭からめり込むシーンはスローモーションでかなり視覚的に映像化されており、衝突の美学という意味でどこか『クラッシュ』にも通じるものを感じました。


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 『ハイ・ライズ』のコンポーザーはクリント・マンセル。80年代から90年代後半にかけてインダストリアル・ロック・バンド Pop Will Eat Itselfのヴォーカルとして活動した後、劇伴作曲家の道へ。美しいストリングス、淡々としたエレクトロニクスが織り成すエピックミュージックに定評があり、『レクイエム・フォー・ドリーム』『ブラック・スワン』『ノア 約束の舟』など、90年代後半以降のダーレン・アロノフスキー監督作品のスコアをすべて手がけ、ほかに『月に囚われた男』『イノセント・ガーデン』『フィルス』など。ゲーム「Mass Effect 3」にもコンポーザーの一人としても参加しています。本作のスコアは、ストリングスやマリンバ、ハープ、口笛、メロトロン、そしてシンセを織り込み、優雅で不穏な響きの双方を孕んだもの。幾度となく破滅的な表情を剥き出しにした、スレスレの境にある仕上がりです。ハープのゆったりと典雅なムードから静かにストリングスが反復して高まりをみせる"“Built, Not for Man, But for Man's Absence”は、ラングが外で周囲の五棟のマンションを一望するシーンと相まって特に印象深い一曲です。また、中世貴族仮装パーティのシーンで流れる、ABBA"SOS"の弦楽四重奏アレンジも忘れ難い。オリジナルの面影をすべて剥ぎ取って、凄まじく病的なアレンジで極北へと到達した感のあるPORTISHEAD版カヴァーの"SOS"が終盤で挿入歌として流れますが、マンセルの編曲によるこちらのカヴァーも素晴らしい仕上がりです。サントラ未収録なのが誠に惜しい。







 PORTISHEAD以外の挿入歌ですが、「70年代」にこだわったがゆえなのか、それとも企画者の趣味なのか、ジャーマン・ロックがやたらと多いです。Amon Düül II、CAN、GILAの曲がまとめて聴けるなんて、他の映画でもそうそうないのでは。選曲者の満面の笑みが浮かぶようです。この三バンドの曲はいずれも乱痴気パーティーのシーンで流れます。ほか、スーパーマーケットのシーンではDAFが流れ、エンディングではThe Fallと、これまたどえらい選曲です。曲目は以下の通り。


■GILA "Sundance Chant"
『Bury My Heart at Wounded Knee』(1973)収録
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■Amon Düül II "Fly United"
『Vive La Trance』(1973)収録
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■CAN "Spoon"
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■CAN "Outside My Door"
『Monster Movie』(1969)収録
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■DAF( Deutsch Amerikanische Freundschaft) "Co Co Pino"
『Die Kleinen und die Bösen』(1980)収録
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■The Fall "Industrial Estate"
『Live at the Witch Trials』(1979)収録
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http://www.transformer.co.jp/m/high-rise/


「High Rise is "not a criticism of post-war architecture" says director Ben Wheatley」
(from dezeen|2016.03.25)

「Dystopia in the Sky」
(from METROPOLIS|2016.06)

「Don’t think, feel: Clint Mansell on High-Rise, ABBA and getting Portishead back in the studio」
(from FactMAG|2016.03.21)

「Method Scoring: An Interview with Clint Mansell」
(from criterion|2016.05.06)

「High-Rise (2015) Soundtracks」- IMDb


2016年8月5日金曜日

映画『日本で一番悪い奴ら』雑感

 上映がそろそろ終わりそうだったので、映画『日本で一番悪い奴ら』を観てきた。実話を元にした実録モノの作品に「面白い」と言ってしまうのは語弊があるかもしれないのだけれども、めちゃくちゃ面白かった。稲葉圭昭氏の告白の書『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』はガッチリと基盤になっていたし、適度な痛快さのあるエンターテインメントとして脚色しつつ、腹に鈍痛を見舞う悪徳&破滅のジェットコースターだった。しかもそのレールはあちこち破損した状態。タガの外れた個人の行動すらも呑み込む組織ののっぴきならなさが徐々に出てくる。ゆえに「悪い奴」ではなく「悪い奴ら」。拳銃200丁と覚醒剤20キロ(実は130キロ)の密輸手引きを画策し、県警関係者一同と税関の役人が逡巡するシーンで「シャブとチャカ、一体どっちが大事なんですか!」と吠えるくだり、強烈だった。関東のヤクザとの取引のときに「ギョウザ耳」で警察だとバレそうになって拳銃を突きつけられるという危機的状況を「アマレスやってたんだ」というエスのとっさの機転で事なきを得たというエピソードは『恥さらし』ではサラっと触れられた感じだったのだけど、スリリングに映像化していた。堕ちてゆく三十数年間をあふれる顔面力で演じた綾野剛氏の役への入り込みっぷりはもちろん凄まじいのだけど、未成年淫行で途中退場した面倒見のよい先輩警 官役のピエール瀧、「頼むよォ~」と言いながらガッツリ利用していく上司役のみのすけ、二人目のエス役のYOUNG DAISも忘れがたい。とにかくコワモテ顔面揃い。



http://www.nichiwaru.com


『恥さらし』はもちろん必読なのだけど、元北海道警察釧路方面本部長の原田宏二氏の『たたかう警官(警察内部告発者 ホイッスルブロワー)』も併せて読むとさらに補完できる。北海道県警の一連の不祥事をベースに、悪徳警官とヤクザの「はみだし者」同士という面に焦点を当てて、惹かれあう人間模様を身をギリギリ削るようなセックス&ヴァイオレンスノワールとして描き切った梶本レイカさんの『コオリオニ』もぜひ推したいですね。


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2016年8月2日火曜日

冥府魔道を往くシンセサイザーサウンド。米国編集版「子連れ狼」サントラ ― 『Shogun Assassin OST』(1980)

Shogun Assassin
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 小池一夫(原作)/小島剛夕(画)による不朽の傑作時代劇画『子連れ狼』は、若山富三郎主演で1972年から1974年にかけて勝プロダクションによって六本の映画化作品が製作されているのですが、そのうち第一作「子を貸し腕貸しつかまつる」と第二作「三途の川の乳母車」を一本に編集したものが1980年にロジャー・コーマンのNew World Picturesの配給でアメリカで公開されました。それが「Shogun Assassin」。いやあ、改めてみてもド直球なタイトルです。元の映画版で使用されていた桜井英顕氏の劇伴は大部分でThe Wonderland Philharmonicなるグループの手によるものに差し替えられています。同グループの中心となったのは、60年代~70年代にアメリカで人気を博したガレージ・ポップ・バンド ポール・リヴィア&レイダース(Paul Revere & The Raiders)のフロントマン兼ヴォーカリストであったマーク・リンゼイと、「燃えよNINJA」「ニンジャII/修羅ノ章」などのコンポーザーでもあるW・マイケル・ルイス。また、両人は、日米合作によるドキュメンタリーフィルム「アメリカン・バイオレンス(The Killing of America)」(1981)の劇伴も手がけています。そのほか、「Shogun Assassin」監督のロバート・ヒューストン、レイニー・クック、マーク・シンガーの三人の名前がソロイストとしてクレジットされています。ちなみにマーク・シンガーは、SLAPP HAPPYの名曲"Casablanca Moon"のレコーディングに参加したパーカッショニストです。



Shogun Assassin [Analog]
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https://itunes.apple.com/jp/album/shogun-assassin-original-motion/id545225987


 劇伴はモーグシンセサイザーをフル活用して製作されており、スペイシーなサウンドで冥府魔道の境地を表現しています。英語吹替えによる拝一刀や大五郎のモノローグや、剣戟などのSEを配したプロローグ"Legend of Lone Wolf"や、わびしさ漂う"Daigoro's Theme"など、粛々とメロディを湛えているA面収録の楽曲はまだイメージとして理解できるのですが、エイジアンな風味たっぷりな"Voyagers"や、ズンドコズンドコしたシンセポップチューン"Crimson Sky"、バンドスタイルでジャーマン・プログレにも通じる趣を感じさせる"Dune" "Lone Wolf's Theme"などが収録されたB面に入ってからは、どういうイメージなのかわからなくなっていきます。とはいえ、個々の楽曲は瞑想的なシンセサイザー・ミュージックとして非常に秀逸な仕上がりですし、一周半して、マッチしているように思えてくるので、これはこれでアリではないでしょうか。





 サウンドトラックは映画公開当時、プロモーション盤として製作されたものが関係者に流通していたのみでした。その後、プロモ盤の製作元であるBaby-Cart Productionsが少数プレスでLP/CDを非公式にリリースしていたようですが、2012年にW・マイケル・ルイスが主宰するデジタル配信専門音楽レーベル SnailWorx/S.Cargo ProductionsよりiTunesやAmazon MP3などで公式に配信リリースが開始され、ようやく広く聴かれる環境が整いました。2015年には、新旧問わず精力的にサントラのリリースを行っているLight in the Attic RecordsのCINEWAXレーベルが、レコード・ストア・デイの目玉アイテムとしてカセット/LPをそれぞれ300本、4000枚限定でリイシューしています。ちなみに、このリイシュー盤LPを開くと、こうなっております。ド迫力。




http://lightintheattic.net/releases/1665-shogun-assassin-original-motion-picture-soundtrack

Shogun Assassin (1980) - IMDb
Mark Lindsay - IMDb
W.Michael Lewis - IMDb

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『Shogun Assassin (Original Motion Picture Soundtrack)』
[CINE-804|CINEWAX|2015]

01. Legend Of Lone Wolf
02. Daigoro's Theme
03. Assassin with Son
04. The Ninja
05. Voyagers
06. Crimson Sky
07. Eyes of a Demon
08. Dune
09. Lone Wolf's Theme

Music Produces by
MARK LINDSAY

Composed By
W.MICHAEL LEWIS
MARK LINDSAY
ROBERT HOUSTON

Voice of Daigoro
GIBRAN EVANS

Performed by
THE WONDERLAND PHILHARMONIC

Soloists
W.MICHAEL LEWIS
MARK LINDSAY
MARC SINGER
LAINE COOK
ROBERT HOUSTON

Design
DAVID WISEMAN

Illustration
JIM EVANS



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