2007年1月28日日曜日

Metal Service『YELLOW METAL ORCHESTRA』(1998)

YELLOW METAL ORCHESTRAYELLOW METAL ORCHESTRA
(1998/02/25)
METAL SERVICE

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 「HELLEN」「PLANET EARTH」といった様式美系メタルバンドのメンバーが集って結成したバンド「メタル・サーヴィス」による、YMO楽曲のメタル・カヴァー・アレンジ・アルバム。Yセツ男率いる「Yセツ王」や、細江慎治氏率いる「O.M.Y」など、YMOのコピー/パロディバンドはいくつかありますが、これは異色の存在と言えるでしょう。ポージングから小物に至るまで、細かいところまで再現した『Solid State Savivor』のパロディジャケットから漂うイロモノ臭が素晴らしい!これがYMOと同じアルファ・ミュージックからリリースされていたというのがまた何とも面白い話です。さて、バンドのフロントマンを務めるのは、80年代にHELLENで活躍し、後に全盛期のファルコムJ.D.K.BANDのキーボーディストを務め、現在は和風ハードロックバンド六三四や、コンポーザーとして活躍している高梨康治氏。

 まず、北欧系様式美を放出しまくる「ライディーン」に大爆笑。メタルアレンジになるとオリエンタルなフレーズが全然オリエンタルに聴こえなくなるこの不思議。この曲をはじめ、本作におけるOHATA氏のギタープレイは唸りを上げた「泣き」を随所に見せ、かなりの活躍を見せています。「君に、胸キュン。(浮気なヴァカンス)」は女性ハイトーンヴォーカルをフィーチュアした爽やかな80'sHRアレンジ。やや強引に押し切ってます。キャッチーなハード・ポップにアレンジされた「Nice Age」。J.D.K.BANDよろしくキーボード主体のプログレ・ハード・アレンジ「MASS」(けっこうUFOの「Doctor Doctor」っぽい仕上がり)。「MASS」もそうですが、本作には「KEY(手掛かり)」や「FOCUS」など、マニアックな選曲でのカヴァーナンバーも少々目立ちます。「中国女」はキーボードがバックを彩る正統派NWOBHM系ファスト・チューン、勢いづいた中盤の展開が聴きモノ。「Behind The Mask」はコーラスに原曲の面影は伺えるものの、いきなりの大仰なイントロといい、疾走するコーラスワークといい、ジャーマン・メタル以外の何者でもない仕上がり。「東風」はエッジーなハード・ロック・インスト・ナンバー。ラストはフックを持ったアレンジによる「テクノポリス」でシメ。様式美とエッジの効いたサウンドでとことんまでビルドアップしたアレンジのせいか、原曲のカタチを殆ど留めてないカヴァーが多く、意識しなければ普通にジャパメタバンドのアルバムとしか思えません。YMOだけにイモ臭いメタルにでもなってるのかと想像していましたが、アレンジもサウンドも練られていて聴かせる仕上がりになっているのには驚きました。ここまで開き直って徹頭徹尾メタルしてると逆に好感が持てます。純粋なYMOファンには全くオススメできない代物ですが、ジャパメタ好きは聴いておいて損はないと思います。


高梨康治:Wikipedia
YMO カヴァーアルバム一覧

2007年1月24日水曜日

ECHOLYN『As The World』(1995)

As the WorldAs the World
(2005/07/05)
Echolyn

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 アメリカのテクニカル・ロック・バンド「エコーリン」の、初のメジャーレーベル(Epic/Sony)からのリリースとなった4thアルバム。GENTLE GIANTからの影響を強く感じさせる、三度のメシよりまず変拍子なテクニカル・アンサンブルに、キャッチーなポップ・センスをまぶして仕上げた作品。プロデュースは、「ラスト・エンペラー」をはじめとした映画音楽サントラのミキシングを手がけていたエンジニア グレン・ローゼンステインと、バンドによる共同プロデュース。アンサンブルはちょっと気を抜いたスキにこれでもかこれでもかと変拍子をキメていくので、テクニカル系が好きな人にはカウパー噴出モノかと。そのまま行くと超ストイック路線な孤高の作風になってしまいますが、ネアカなヴォーカル&めくるめくコーラスワークで歌モノとしても十分なクオリティも持っているため、ストイックな印象はさほど感じません。逆に聴いててすごく爽やか。湿り気が殆どなくてカラッカラなあたりは凄くアメリカのバンドらしいものを感じます。

 エレピとピアノが躍動的な「Best Regards」や、コーラス&アンサンブルで隙間なく攻める「The Cheese Stand Alone」あたりはインパクト十分です。アルバムは単独の小曲6曲に加え、小曲10曲で構成される40分近い組曲「LETTERS」で構成されていますが、どのパートもたっぷりテクニカル&ハーモニー尽くしで歯応えバツグン。盛り上げるために様々な展開やあの手この手が尽くされていて楽曲単体の密度は濃く、じっくりと腰を据えて聴く気にさせてくれる求心力もあります。メジャーデビューに恥じない見事な作品を彼らは残したのですが、レーベル側はあまりにもお粗末なサポートしかしなかった上に簡単に切り捨ててしまい、バンドは96年に活動停止という憂き目にあってしまいます。しかし2000年に再結成を果たし、現在も順調に活動しているとのこと。また、『As The World』は現在は自主レーベルからリマスター&ボーナスDVD付きで再発リリースされております。



2007年1月22日月曜日

Steven Anderson『Gypsy Power』(1994) / 『Missa Magica』(1996)

ジプシー・パワージプシー・パワー
(1994/10/19)
スティーヴン・アンダーソン

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 今は亡きHR/HM系レーベル ゼロ・コーポレーションが世に送り出したアーティストの中でも屈指の技量を誇り、現在もひそかに語り継がれているスウェーデン出身のギタリスト スティーヴン・アンダーソンの1stアルバム。泣きの速弾きギターをジプシー・ミュージックと融合させたインスト作品であります。速弾き特有のストイックさは感じますが、ギタートーンが鋭角的なものではなく、やや丸みと太さを兼ね備えているためか耳に優しく、聴きやすいです。何より曲調が一辺倒ではなく、北欧の哀愁もたっぷり含みこんだカラフルなものであることもかなりポイントが高い。エスニックなムードを匂わせた中で繰り広げられる「Dance Of The Fortune Teller」。ゆったりとした展開の中でこれでもかと泣きに泣きまくる「The Child Within」。"狂い弾き"という表現がピッタリな「Gypsy Fly」。列車が発車する一連の動作をギタースクラッチ等で再現してみせるという離れワザを冒頭でやってのける「Orient Express」。9分間に渡り情緒のあるプレイを聴かせる、本作のハイライト「Paw-Kwa And The Great Monade」。ラストは、2拍子のリズムとクラシカルなフレーズの融合した「The Scarlet Slapstick」。全6曲、収録時間35分と、この手のアーティストにしてはヴォリュームが少ないものの、個人的にはこれぐらいがしつこくなくてちょうどいい。各曲のユニークさもさることながら、粒の揃い具合も見事で、まさにジャケットのような鮮やかなイメージが広がっています。今となってはすっかり古典となった感のあるネオ・クラシカル系ですが、彼のサウンドは今なお評価されてしかるべきでしょう。この後、96年にスティーヴンは大作主義を打ち出した2ndアルバム『Missa Magica』を発表するものの、以降はとんと音沙汰がなく、シーンから姿を消してしまいます。




ミサ・マジカミサ・マジカ
(1996/09/26)
スティーブン・アンダーソン

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 スウェーデンのギタリスト スティーヴン・アンダーソンの、事実上の最終作となった2ndアルバム。凡百のテクニカル系ギタリストとは一線を画す形でネオ・クラシカル・サウンドをアプローチしていた彼が、何故本作を最後にシーンから姿を消してしまったのか、本作を聴くと、そうなってしまったのもなんとなく納得できるものがあります。エキゾチックなムードを押し出すことに重点を置くようになった楽曲は、大作志向になったことも相まって完全にプログレッシヴ・ロック的な方向性にどっぷりと浸っています。奔放なセンスと抜群のテクニックの相乗的な狂い咲きでインパクトを残した前作とは完全に趣を異としており、ジプシー・ミュージックとネオ・クラシカルの融合をもう一歩進めにかかったというのが伺える一方で、悟りを開いてアッチの世界へ旅立ってしまったという印象も。それが如実に伺えるのは五部構成の一大組曲「Missa Magica」の最終楽章「Missa Magica Part V」。ストリングスやチェロが奏でる甘美なメロディーに呼応するかのように、世を儚むような泣きのロングトーンが9分間に渡って鳴り続ける、美しさとやるせなさをこの上なく味わえる渾身の名曲です。これだけ行くとこまで行ってしまったらそりゃもう現世に帰ってこれないな、と。悟りの世界を垣間見たギタリストというのは数多くいますが、本作を以って彼はそんな悟り系ギタリストの系譜にひっそりと名を刻んだのではないでしょうか。