2006年12月26日火曜日

IT BITES『Once Around The World』(1988)

Once Around the WorldOnce Around the World
(1988/03/21)
It Bites

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 イギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド「イット・バイツ」の88年発表の2ndアルバム。国内盤の邦題は『限りなき挑戦』。プロデュースは前半半分がGONG~System 7のスティーヴ・ヒレッジ、残り後半がバンドのセルフ・プロデュースによるもの。ハード・ロック、プログレッシヴ・ロック、フュージョン、そのいずれの要素もバランスよく消化し、コーラスのハーモニー(YESからの強い影響を感じさせます)や、キーボードのリリカルなフレーズがのびやかに彩るキャッチーな音楽性。ソリッドでわかりやすく進んでいく展開作りながらも、変拍子やスリリングでハッとするフレーズもバッチリ盛り込まれている。かといってテクニックに溺れるようなそぶりは全くなく、キュンとさせる歌心も忘れない。その辺りが凡百のポンプ・ロック・バンドとは一線を隠す、このバンドの立ち位置の絶妙さを示す要因であり強みなのかもしれません。あと、個人的なことを言わせていただくと、初めてこのバンドを聴いたとき、自分の中に浮かんだのは「グラディウス」あたりのコナミ矩形波倶楽部のサウンドでした。どちらもプログレとフュージョンの要素を兼ね備えているので、似ていると感じるのもそれほど無理のないことなのかも。

 ポップでキャッチーな躍動感が素晴らしい「Kiss Like Judas」、ひねりのたっぷり入ったハード・ロック・チューン「Rose Marie」、トリッキーなコーラスハーモニーの心地の良さと全編に漂う小気味の良さで9分半の長さを微塵も感じさせない中盤の目玉曲「Old Man And The Angel」、リリカルな側面を全面的に押し出した、この上なく甘美なメロディを孕んだ小品「Plastic Dreamer」、そしてラストは15分に及ぶ展開構築の健闘が光るタイトル曲「Once Around The World」と、充実の楽曲群で構成されています。彼らのサウンドに爽快感のみならず優雅な気品すら漂ってくるのは、少なからずブリティッシュ・ロックのイディオムを継承しているがゆえなのでしょう。80年代という時代の流れに沿わず、思ったような結果が出せないまま活動休止に至ってしまったというのはとても残念であります。しかし、最近になってバンドは再編し、アルバム発表の動きもあるとのこと。サウンドの方向性の一翼を担っていたフランシス・ダナリーはおりませんが、彼のポジションにはARENA~KINOのジョン・ミッチェルが抜擢されています。確かな実力の持ち主だけに、今後の動きにも大いに期待できます。



It Bites:Official Site

2006年12月6日水曜日

APOGEE『APOGEE』(2006)

FantasticFantastic
(2006/11/22)
APOGEE

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 永野亮(Vo.Gr)、間野航(Dr.)、大城嘉彦(Syn)、内垣洋祐(Ba)によるポップ・ロック・バンド「アポジー」のデビュー1stアルバム。夢と現実を狭間を行き来するようなマイルドなヴォーカル、軽めのギターサウンドに対して、くるまったグルーヴを弾き出すベースやドラムのコントラストも面白いのですが、変幻自在なトーンで煌びやかに空間を引き伸ばしたり鮮やかに彩色してゆくシンセの思い切った使い方には凄く惹かれるものを感じます。捻くれながらもポップなメロディがドパンドパンと弾けていく作りの楽曲展開と相まってこのバンドのポップ・プログレらしさを滑らかに引き出してるようで好奇心がくすぐられることしきり。ニューウェーヴやファンク、R&B、ポスト・ロックやプログレなど、メンバー各々の嗜好は明らかに異なっているということはわかるのに、持ちネタの引き出しがどこか霞がかっているような印象を受けるのが何とも不思議。蜃気楼のようにたたずみながら、澄み切った空気や懐かしい匂いをポンポンと飛ばしてくるというこの妙なカラフルさの前に聴き手の思惑は良い意味で裏切られていきます。レトロな響きの中でメロディのキャッチ&リリースが目の醒めるほどハッキリした「Let It Show」。カラリと乾いたファンク風味のフレーズにドキリとさせられるかと思えば、囁き掛けるようなサビ、歌詞の語感の浮遊感が病み付きになりそうな「ゴースト・ソング」。夕暮れ時の情景を一気に星の輝く夜景へと塗り替える「夜間飛行」。方や煙の立つかのようなシンセワークで2分間のトリップへと誘い込み、方やテープノイズがある種のノスタルジーを喚起させる実験性のある曲「Mother,I Love You」「ロードムービー」。聴けば聴くほどに、バンドが生み出すイマジネーションのまどろみの中へと誘われてしまいます。



APOGEE:Wikipedia
APOGEE:公式
HOTEXPRESSインタビュー

栗コーダーポップスオーケストラ『「よつばと!」イメージアルバム「よつばと♪」』(2005)

「よつばと!」イメージアルバム「よつばと♪」「よつばと!」イメージアルバム「よつばと♪」
(2005/04/02)
栗コーダーポップスオーケストラ

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 "あずまきよひこと、彼の所属するよつばスタジオの高度技術が遺憾なく発揮された、近代芸術作品「よつばと」"(アンサイクロペディアより)。本作は、栗原正己氏率いる栗コーダーポップスオーケストラによって作り上げられた同作品のイメージ・アルバム。よつばの一日を数十曲の小曲(最短8秒、最長5分)で表現したコンセプト・アルバムであります。リコーダーをはじめとした多種多様な楽器の親しみやすい音色が、原作のあの世界観と空気を見事に醸し出しており、目覚ましや腹の鳴る音、踏切の警笛などを楽器で再現するというギミックと相まって、やわらかなノスタルジアを感じさせる1枚。1曲1曲は短いですが、そこで展開されている演出や空間作りは、聴けば聴くほどよく考えられてるなあと感心させられてしまいます。「よつばのちいさなだいぼうけん」でのドラムとリコーダー、「カレーをつくる」「カレーをたべる(とてもおいしく)」でのリコーダー、ホーン、ストリングス・アンサンブル(桑野聖ストリングス)の絡みなど、聴いていて思わず笑みのこぼれる瞬間もあちこちにあります。個人的な雑感ですが、本作を聴いていて思わずTHE MOODY BLUESの『Days Of Future Passed』が頭に浮かびました。あちらは「人生を一日で表す」というコンセプトであり、スケールの違いこそありますが、「一日」というテーマ性も含めてどこか相通ずるものを感じてしまいます。「この一日は永遠に続くだろう(This Day Will Last A Thousand Years) あなたがそう望みさえすれば(If You Want It To)」とムーディーズはかつて歌いましたが、そんな永遠に続いて欲しいと思わせるものが、このイメージ・アルバムにも秘められているのです。

「よつばと♪」:試聴
よつばと!:Wikipedia
よつばスタジオ
栗コーダーカルテット:公式
栗コーダーカルテット:Wikipedia

2006年12月5日火曜日

野獣王国『Sweet&The Beast』(1999)

スイート&ザ・ビーストスイート&ザ・ビースト
(1999/07/23)
野獣王国

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 是方博邦(g)、難波弘之(kbd)、鳴瀬善博(b)、東原力哉(dr)といった名うてのミュージシャン達によるハイブリッドなフュージョン・バンド「野獣王国」の3rdアルバム。バンド名の由来は、「四者のパフォーマンスの暴れっぷりが野獣のようだった」と、とあるファンが感じた印象が元になっているとか。フュージョンの洗練されたしなやかさはもちろん、ロックの野趣溢れる醍醐味も押し出した彼らのサウンドは、まさにパワー・フュージョンと呼ぶに相応しいものです。鳴瀬氏のチョッパー・ベースが跳ね回るハードなファンク・チューン「Three Funk Bears」を皮切りに、東原氏の豪快なドラミングと難波氏のオルガン&シンセ捌きが楽曲にヘヴィでプログレッシヴな趣をたっぷりと与えている「Hurricane-Z」。KING CRIMSONの代表曲をパロったタイトルのお遊びにニヤリとさせられつつも、バンド・アンサンブルが一体となってジワジワと密度を熱量を増してゆく展開が、まさに"ビースト・キング"のイメージに相応しい貫禄を感じさせてくれる「The Court of The Beast King」。難波氏の縦横無尽のプレイを中心に、コーラスも交えてドラマティックな楽曲構成で聴かせる「Violet Papillon」。これらのパワフルな楽曲の間あいだには、ボサノヴァ・テイストの「Ripplet」や、ヴィクター・ヤングのカヴァー「My Foolish Heart」、ブルージーでメロディアスなフレーズを味わえる「European Rats」といったまったりとした楽曲が挟まれています。ラストは「E.Tのテーマ」をしっとりとしたアレンジでカヴァー。ライヴでは他にも鉄腕アトムやゴジラのテーマ、スティーヴィー・ワンダーにCAMELなど、かなり手広くカヴァーしているようですね。【Beast】と【Sweet】のイメージをそれぞれ感じさせる楽曲群がバランス良く配された、フュージョンの枠に収まらない痛快で刺激的な1枚であります。



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