Once Around the World (1988/03/21) It Bites 商品詳細を見る |
イギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド「イット・バイツ」の88年発表の2ndアルバム。国内盤の邦題は『限りなき挑戦』。プロデュースは前半半分がGONG~System 7のスティーヴ・ヒレッジ、残り後半がバンドのセルフ・プロデュースによるもの。ハード・ロック、プログレッシヴ・ロック、フュージョン、そのいずれの要素もバランスよく消化し、コーラスのハーモニー(YESからの強い影響を感じさせます)や、キーボードのリリカルなフレーズがのびやかに彩るキャッチーな音楽性。ソリッドでわかりやすく進んでいく展開作りながらも、変拍子やスリリングでハッとするフレーズもバッチリ盛り込まれている。かといってテクニックに溺れるようなそぶりは全くなく、キュンとさせる歌心も忘れない。その辺りが凡百のポンプ・ロック・バンドとは一線を隠す、このバンドの立ち位置の絶妙さを示す要因であり強みなのかもしれません。あと、個人的なことを言わせていただくと、初めてこのバンドを聴いたとき、自分の中に浮かんだのは「グラディウス」あたりのコナミ矩形波倶楽部のサウンドでした。どちらもプログレとフュージョンの要素を兼ね備えているので、似ていると感じるのもそれほど無理のないことなのかも。
ポップでキャッチーな躍動感が素晴らしい「Kiss Like Judas」、ひねりのたっぷり入ったハード・ロック・チューン「Rose Marie」、トリッキーなコーラスハーモニーの心地の良さと全編に漂う小気味の良さで9分半の長さを微塵も感じさせない中盤の目玉曲「Old Man And The Angel」、リリカルな側面を全面的に押し出した、この上なく甘美なメロディを孕んだ小品「Plastic Dreamer」、そしてラストは15分に及ぶ展開構築の健闘が光るタイトル曲「Once Around The World」と、充実の楽曲群で構成されています。彼らのサウンドに爽快感のみならず優雅な気品すら漂ってくるのは、少なからずブリティッシュ・ロックのイディオムを継承しているがゆえなのでしょう。80年代という時代の流れに沿わず、思ったような結果が出せないまま活動休止に至ってしまったというのはとても残念であります。しかし、最近になってバンドは再編し、アルバム発表の動きもあるとのこと。サウンドの方向性の一翼を担っていたフランシス・ダナリーはおりませんが、彼のポジションにはARENA~KINOのジョン・ミッチェルが抜擢されています。確かな実力の持ち主だけに、今後の動きにも大いに期待できます。
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