1980年から1981年にかけて双葉社の〈アクションデラックス〉〈週刊漫画アクション増刊 スーパーフィクション〉に全四回にわたり連載され、100ページの描き下ろしを加えて1983年に双葉社より単行本が刊行。漫画界のみならずさまざまな方面へ絶大なる影響を与えた大友克洋氏の漫画『童夢』。団地での謎の変死事件をめぐって繰り広げられるサイキック・アクションであり、「AKIRA」の原点ともいえる傑作です。映像化とは今なお無縁の同作ですが、唯一、音楽作品が出ております。それが、この『コミックス・オリジナル・アルバム 童夢』。桜田淳子"ロープ・ダンサー" "シンガポール・ナイト"(1979)や、中森明菜"キャンセル!"(1982)などの作曲者であり、大友作品の熱烈なファンである伊豆一彦氏が1981年に本人に企画を持ち込んだことで制作がスタート。配給元のレコード会社さがしにはかなり難航していたようですが、1984年6月にキングレコードよりリリースされました。ジャケットは大友氏の描き下ろし。ライナーノーツには大友氏と伊豆氏の対談が収録されています。リリースに際して、予約特典ポスターや、イラスト入りの特製レコード袋プレゼント(抽選1000名)といったキャンペーンが当時行われていましたが、その後、再販やCD化などはされていません。原作単行本ともども、現在ではちょっとしたプレミアアイテムです。
アルバムは打ち込みとバンドスタイルでのロック、ポップス、ジャズ、ラテン、電子音楽と、バラエティに富むインストゥルメンタルが不気味なイメージを湛えながら収められています。子どもたちの声や、公園の遊具のきしむ音、ガラスの破砕音やヘリのローター音など、随所で挿入されている各種のSEは大友氏のディレクションによるもの。また、B面一曲目"Act6 Scene24"がオルガンハードロックなのは、「以前、ディープ・パープルに凝っていた」大友氏の意向を汲んでのものです。氏のDEEP PURPLEへの傾倒は、「ハイウェイスター」「Fire-ball」といった初期の短編タイトルからもうかがえます(そういえば『童夢』は、THE MOODY BLUESの同名のアルバム邦題からでしたね)。ヴァイオリンやサックス、フルート、パーカッションなどもふくめて多数のスタジオミュージシャンが迎えられているのですが、T-SQUAREの和泉宏隆氏や、NAZCAの土方隆行氏、FENCE OF DEFENCE結成前の北島健二氏、スペクトラム~AB'Sの岡本郭男氏、当時、実験的音楽ユニット「ラーゲル」で活動中だった濱瀬元彦氏など、かなり豪華な顔ぶれ。"Act6 Scene24"のギターとオルガンの白熱のソロバトルはまさに痛快の一言ですし、子どもたちのコーラスをのせた軽快なシンセポップ"Act4 Scene14"や、中西俊博氏が印象的なヴァイオリンソロをとるアコースティックな小品"Act3 Scene8"、濱瀬氏のウッドベースと和泉氏のピアノがウェットに奏でるジャズ"Act7 Scene23"など、楽曲単体としてみても見所が多いです。
余談ですが、1983年1月に刊行されたSF雑誌〈SFイズム〉の第五号で組まれた大友克洋特集では、アルバム『童夢』についてのページがあり、伊豆氏の寄稿もあります。1981年の秋に大友氏にイメージアルバムの企画を持ち込んだ時のやりとりや、あちこちのレコード会社にたらい回しにされていたこと、大友氏の立会いのもとにレコーディングや編集を進めていた1982年の状況などが語られているほか、この時点では東芝EMIからのリリース予定であったこと。A面・B面ともに4曲ずつ収録した全8曲構成であり、曲名も「団地のテーマ」「女の子のテーマ」「殺人事件のテーマ」といったものであったこと。短編「Fire-ball」のイメージアルバムを1984年春に発表予定であったことが記事からわかりました(なお、このアルバムの企画は頓挫した模様)。
LPのライナーノーツで大友氏はフェリーニの映画とニーノ・ロータの劇伴の関係について語っていましたが、アート雑誌〈芸術新潮〉の2012年4月号の大友克洋特集での大友氏と中条省平氏の対談インタビューでは、同名の短編の扉絵でマイルス・デイヴィスの「Round About Midnight」のジャケットパロディを描いた大友氏の初マイルス作品は『On the Corner』(1972)であったとか、「普通のロックやプログレより、どこか民族音楽っぽいものに惹かれていたんでしょうね。サード・イアー・バンドの『錬金術』っていう、ちょっと民族音楽っぽいLPなんかも聴いていましたし」といったことが語られており、興味深い内容でした。
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『コミックス・オリジナル・アルバム 童夢』
[K28G-7184(LP)/K28H-4204(CT)|1984.06.21|KING RECORDS]
【Side-1】
01. Act1 Scene7
02. Act2 Scene26
03. Act3 Scene8
04. Act4 Scene14
05. Act5 Scene10
【Side-2】
01. Act6 Scene24
02. Act7 Scene23
03. Act8 Scene11
04. Act9 Scene27
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原作・構成:大友克洋
プロデュース・音楽:伊豆一彦
ディレクター:高塚俊紀
ミキサー:福島良治
カッティング・エンジニア:牧野晃
伊豆一彦(acoustic & electric piano, synthesizer)
和泉宏隆(acoustic & electric piano, synthesizer)
土方隆行(acoustic & electric guitar)
北島健二(acoustic & electric guitar)
武藤祐二(electric bass)
浜瀬元彦(woodbass)
岡本郭男(drums)
横山達嗣(percussion)
片岡郁雄(sax, flute)
中西俊博(violin)
和智秀樹(mandolin)
森達彦(MC-4 & synthe operator)
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□原作:坂田靖子/音楽:伊豆一彦『闇夜の本 オリジナル・アルバム』(1985)