2017年11月30日木曜日

Yomi no Kuni『Horrors』(2017)

 フィリピン・ケソンシティのインストゥルメンタル ポストメタルバンド Yomi no Kuniのデビューアルバム『Horrors』が先ごろ(11月15日)リリースされました。地元の音楽シーンにうんざりしたのが高じて2013年に結成されたニューカマーであり、ヴァイオリン兼任のキーボーディストを擁する四人組。バンド名の「黄泉の国」はそのまま主たる音楽的イマジネーションにも直結しており、本作のテーマもズバリ「地獄めぐり」。スラッジ、ドゥーム、ヘヴィロック、ポストメタルのエクストリームなフルコースです。バンドの影響元にはKING CRIMSONやPINK FLOYDといった定番どころから、Boris、ISIS the band、Russian Circles、TOOLといったヘヴィネス重点バンド、さらにデヴィン・タウンゼンド・プロジェクトやバルトーク・ベーラなどを挙げています。




 この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ、といわんばかりの激重スラッジを叩きつける「Welcome to Yomi」や、太いうねりを伴うなかでフュージョン的な展開が光を射す「Judgement」。10月13日の金曜日に先行シングルとしてリリースされた「Jardin d’Éros」や、本作最長(12分半)を誇る「Eosphoros」、ギタリストのケネス・カスティロのペンによる「...In the Dead of Night」といった大曲では、ギターのメロウなアルペジオや歌うようなベース、そして一服の清涼を与えるヴァイオリンが折り重なって黄昏た抒情性をじっくりと演出してゆく場面もあり、このバンドが単におどろおどろしさやヘヴィネス一辺倒ではないところを雄弁に示しております。キーボーディストのミゲル・エイドリアン・デロス・サントスによる、ピアノと泣きのギターによる小品「Prelude」もまたしかり。メロトロンサウンドや、トリッキーな展開も存分に盛り込まれた「The Dance of Spirits」は堂々たるプログレッシヴ・メタルとして見事なラストチューン。手ごたえのあるデビューを飾ったことを寿ぎたく思います。

https://www.facebook.com/yominokunimusic/

2017年11月25日土曜日

PROG FLIGHT@HANEDA(ERA、SENSE OF WONDER、Lu7、ELECTRIC ASTURIAS)2017年11月25日(土)@羽田ティアットスカイホール

 PROG FLIGHT@HANEDAに行ってきました。ERA、SENSE OF WONDER、Lu7、ELECTRIC ASTURIAS+αのパフォーマンスが一堂に会した至福の4時間半。会場のティアットスカイホールは羽田空港の4階レストラン街と同じフロアにある小型ホールなので、周辺環境的なもてなしのよさも含めると会場的にトップクラスのハコだと思いましたね。ライヴを観た後に土産物屋で散財しそうになる誘惑にかられるという。
http://www.tiatskyhall.jp/





《ERA》
実のところERAのライヴを観るのは実は初めてだったのですが、まさに圧巻の一言。ギターとヴァイオリンのアコースティック・デュオの音の芳醇な厚みと可能性をまざまざと観た感があります。スペースやセッティングがコンパクトで済むということで「立って半畳、寝て一畳」と壷井さんがMCで例えていたのは言いえて妙でしたw

【セットリスト】
1. Sailing Stone
2. 忘れられた舟
3. Pica
4. Under the Red Ground
5. Three Colors of the Sky
6. 金環食

鬼怒無月(guitar)
壷井彰久(violin)


《SENSE OF WONDER》
よくよく思い返してみると、自分が前回SoWのライヴを観たのは2005年の神戸チキンジョージ以来であり、12年ぶりでした。そうる透氏のドラムは前回観たとき以上のパワフルさでぶっ飛ばされたり、昨年の「鍵盤生活40周年記念」アルバム『一生鍵命』のヴォーカル曲「ココロと心臓」「浮遊」はどちらも染みる名曲だと改めて。ラストはやはり「DUNE」。

【セットリスト】
1. パーマー・エルドリッチの三つの聖痕(Part.2)
2. ココロと心臓
3. 虚無回廊
4. 夏への扉
5. 浮遊
6. DUNE

難波弘之(keyboards, vocal)
松本慎二(bass, chorus)
そうる透(drums, chorus)


《Lu7》
Lu7のライヴを観るのは二年半ぶり三度目。大曲「トキヲコエテソラニカエリ」がいきなり一曲目に来てビックリしたのですが、さらに怒涛の流れで「ミドル・ロングサーキット(チョロQ2)」「L'esprit de l'exil」を含む数曲を演奏。単独ライヴ時とは一味違うスリルがありました。そのあと、大木理沙さんと壷井彰久氏を迎えて、ともに久々の演奏だという「雨夜の月」「Canary Creeper」を。ちなみに「雨夜の月」は梅垣さんがアムゼル瑞氏(vocal)と本山明燮氏(guitar)と2013年に結成されたトリオ もすもすぷらむ(Mos Mos Plum)による幻想的な楽曲です。

【セットリスト】
1. トキヲコエテソラニカエリ
2. 12th Tree
3. Bluetail Of Passage
4. Flying Seed(Landscape37)
5. L'esprit de l'exli
6. ミドル・ロングサーキット(ゲーム「チョロQ2」より)
7. 雨夜の月(with 大木理紗/壷井彰久)
8. Canary Creeper(with 大木理紗/壷井彰久)

梅垣ルナ(keyboards)
栗原務(guitar)
岡田治郎(bass)
嶋村一徳(drums)


《ELECTRIC ASTURIAS》
トリはエレクトリック・アストゥーリアス。選曲は難曲&変拍子尽くしのストロングスタイル。エフェクトをたっぷりかけて歪ませたベースを弾く大山氏と、凶悪なヴァイオリンを弾くテイセナさんの「組曲 ゴルゴ―ン」の凄みたるや、アルバム収録が改めて楽しみです。大木理沙さんを迎えての「Barren Dream」(ミスターシリウス)、「木霊」(ページェント)のカヴァーも極上でありました。ラストは エレアス with 大木理沙&栗原務&梅垣ルナ&鬼怒無月&難波弘之の総勢十名による圧巻の「燃ゆる灰」(ルネッサンス)のカヴァーセッションで〆。

【セットリスト】
1. 時を支配する人々
2. Double Helix
3. Skelter(ゲーム「神獄塔 メアリスケルター」より)
4. Barren Dream [ミスターシリウス] ~木霊 [ページェント](with 大木理沙)
5. 組曲 ゴルゴ―ン
(i)メデューサ
(ii)ステンノー
6. Tangram Paradox
7. 燃ゆる灰 [ルネッサンス]
(with 大木理沙/栗原務/梅垣ルナ/鬼怒無月/難波弘之)

大山曜(bass)
平田聡(guitar)
テイセナ(violin)
川越好博(keyboards)
田辺清貴(drums)


 タイムスケジュールがなかなかタイトだったので、果たしてこの通りに行くのか開演前まではちょっと気にかかっていたのですが、終わってみれば ほぼ時間通り。滞りのない転換と進行に尽力されたスタッフ、関係者そして出演者のみなさん、本当にお疲れさまでした。また是非ともこういった形のイベントを企画していただけると嬉しいです。

2017年11月24日金曜日

Opposite Day『I Calculate Great』(2017)

 グレッグ・ヤンシー(bass, vocal)とサム・アーノルド(guitar, vocal)の二人を中心として2001年にテキサス・オースティンで結成された、「動物のための教育的アートロック」を標榜するミクスチャー・プログレ・バンド オポジット・デイ。マドンナを筆頭に、PRIMUSやFAITH NO MORE、スティーリー・ダン、エイドリアン・ブリューなどを音楽提供元として挙げ、バイオグラフィには「動物、歴史、安全性、マドンナの80'sヒット、宇宙怪物たちは、フリーキーなリフとジャズのハーモニーとポップなフックと高速でシコるようなインストと合理的で熱心的な感情とシリアスなヘヴィネスとともにケンカしていたが、次第に彼らは戦っていたことも忘れ恋に落ちて家族となり子を授かり、OPPOSITE DAYと名付けられた」とあり、相当に人を喰っております。しかしながら、プログレ&ポップ&メタル&エキゾチカ&ファンク&ヒップホップ&Sci-Fiのエッセンスが入り混じった「ジグソーパズル・アートポップ」サウンドは一筋縄ではなく、ジャンルのタガを外しながらもフックまみれで、とことん人懐っこいサウンドが最大の武器であります。




 2016年にドラマーが交代しているものの、デビュー時から一貫してトリオスタイルを崩さず、自主制作でこれまでに10枚以上のアルバムやEPを発表。ここ数年のリリースでは、ビルマ、モンゴル、中央アジアのエッセンスを採り入れた「Mandukhai」(2010)、Sleepytime Gorilla Museumのダン・ラスバンをコ・プロデューサー/ミキサーに迎えた「Space Taste Race Part 1」(2013)の二枚のEP。敬愛するマドンナのグレイテストヒッツ『The Immaculate Collection(ウルトラ・マドンナ)』(1990)を全く同じ曲順で全曲カヴァーしたフリーダウンロードアルバム『Unlike a Virgin』(2012)。「トロン」「月世界旅行」へのトリビュートを含んだ『Reindeer Flotilla』(2012)、『Space Taste Race Part 2』(2015)があり、様々なネタを仕込んでいます。また、サム・アーノルドは並行してソロプロジェクト(Sam Arnold and the Secret Keepers)も展開しており、まさに汲めども尽きぬクリエイティビティ。




 即興ライヴレコーディング作『14 mics, 0 plans, volume 1』に続いて、2017年二枚目のリリースとなる『I Calculate Great』は、プログレメタルとファンクの影響を要とした一作。ファンキーなベース、端正なドラムのビート、ねじくれたリフが三位一体でキャッチーなハーモニーを成す「Radar Face」「Panda Formula」、音の厚いDEVOとでもいいたくなるようなパンキッシュでヘヴィなリフで押す「Rules are Rude」。プログレッシヴ・メタル、マスロックの様式にのっとった中盤の「Making Tornadoes」「Do Over Utopia」「All of Our Mission」は、いずれもこのバンドのリフワークの良さを知らしめる仕上がり。デヴィッド・ボウイの「Life on Mars?」のカヴァーは、とびっきりヘヴィでポップな仕上がり。そしてラストナンバーはまさかのラヴェルのボレロ。こちらはマス・ポップ調なアレンジが施されており、つくづく自分たちの曲に昇華するのがうまいなと感じさせる好カヴァーです。




http://oppositeday.com/
https://www.facebook.com/Opposite-Day-52790728943/

2017年11月21日火曜日

Simon Stålenhag『The Electric State』(2017)



http://www.simonstalenhag.se/


 巨大構造物や機械、クリーチャーのたたずむ情景を描き、日常をSF的に侵食する作風で、近年とみに注目を浴びている、1984年生まれのスウェーデン・ストックホルム出身のデジタルアーティスト、Simon Stålenhag(シモン・ストーレンハーグ)氏。幼少のころから風景や動物の絵を描き、バードウォッチングやSF映画に親しみ、80年代~90年代のスウェーデン郊外の風景や十数年以上にわたって撮りため続けている4万枚以上の写真からインスピレーションを育んできたという氏がインターネット上で作品を発表し始めたのは2013年のこと。ほどなくしてVergeやWIRED、The Guardianなどのメディアからの注目と絶賛を続々と受け、2014年9月にスウェーデンのブックフェアにおいて初の画集『Ur Varselklotet』を販売します。そして翌2015年4月にkickstarterで同書と二冊目の画集の英語版(『Tales from The Loop』『Swedish Machines, Lonely Places』)のハードカバー刊行のキャンペーンを立ち上げるやいなや さらなる注目を集め、最終的に目標金額である10000ドルを30倍以上も上回る金額を3800人以上から集めました(『Swedish Machines, Lonely Places』はその後『Things from the Flood』と改題され、2016年6月に刊行されています)。

https://www.kickstarter.com/projects/cabinetentertainment/simon-stalenhags-tales-from-the-loop


Tales from the Loop
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Things from the Flood
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 そして今年7月には三冊目となる画集『The Electric State』の刊行キャンペーンを立ち上げます。画の舞台はスウェーデンからアメリカへと移り、十代の少女と黄色いおもちゃのロボットが架空の1990年代アメリカを西へと旅していくというコンセプト。約三週間という短期間で5000人以上から3000000スウェーデンクローナ=約5300万円以上を集め、7つの特典が用意されたストレッチゴールを全て達成してもいます。デジタル版は11月、ハードカバー版は12月のリリースを予定しているとのこと。

https://www.kickstarter.com/projects/1192053011/the-electric-state-simon-stalenhags-new-narrative





 また、『The Electric State』の6つ目のストレッチゴール(2000000スウェーデンクローナ)のbacker特典として設定されていた「サウンドトラック」は、10月下旬にbandcampで単体リリース(6クローネ=約80円)されています。全9曲のアンビエント/サウンドスケープを収録しており、すべてがシモン氏本人のプロデュースと作曲によるものであることも大きなポイントでしょう。じつはシモン氏はイラストレーターである一方で、コンポーザー/チップチューン アーティストの顔も持っております。コンポーザーとしての作品には、2013年6月にPixeltrussからリリースされた「Ripple Dot Extra」があります。同作はシモン氏と旧知の間柄であるトミー・サロモンソンが制作したオンラインの2Dアクションゲーム。シモン氏は90年代の香りただよう軽快なFMポップ/フュージョンな楽曲を38曲制作しており、サントラが配信リリースされています。
http://www.rippledotzero.com/


Ripple Dot Extra
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 また、ロシアのチップチューンレーベル「Ubiktune」からこれまで3枚リリースされている、世界各国のアーティストがオリジナル曲を提供したFMサウンドコンピレーションシリーズ「FM FUNK」には、氏の提供曲が1曲ずつ収録されています。これがまた実にブリリアントな仕上がりであり、メロディメイカーとしても一級のセンスの持ち主であるということがわかります。


"Ripple Boogie"
from『SOUNDSHOCK: FM FUNK MADDNESS​!​!』(2011)



"Fluvial Beat Deposits"
from『SOUNDSHOCK 2: FM FUNK TERRROR​!​!』(2012)



"The Lacustrine Beat Machine"
from『SOUNDSHOCK 3: FM FUNK NIRVANA​!​!』(2017)



Interview / Simon Stålenhag
(from Werth com|2014.01.27)

SIMON STÅLENHAG the future’s so yesterday
(from LodownMagazine)

2017年11月19日日曜日

Major Parkinson『Blackbox』(2017)

 2003年に結成されたノルウェー・ベルゲンを拠点とするアヴァン・ロック・バンド メジャー・パーキンソン。2004年にセルフタイトルEPをリリースし、その後、RED HOT CHILI PEPPERSやTOOL、SYSTEM OF A DOWNなど数々のバンドのアルバムに携わりヒットさせてきたプロデューサー シルヴィア・マッシーのもと、2008年にセルフタイトルのフルアルバム『Major Parkinson』で正式デビュー。同作は好意的レビューで迎えられ、2010年には二作目となる『Songs from a Solitary Home』をリリースしています。その後、2011年にアルフ・ボルゲ、2014年にアンドレ・ルンドと、オリジナルメンバーのギタリスト二人が脱退するものの、より音楽性を先鋭化させ、2014年にリリースした三作目『Twilight Cinema』で一層の評価を確立。その勢いで2015年にライヴアルバム『Live at Ricks』をものしてもいます。2016年には新たにヴァイオリニストをふくむ三人のメンバーが加入し、現行ラインナップは七名。





 バンドの音楽性(とくに初期)の根幹には、フィンランドで1960年代に隆した「Rautalanka」(いわゆるベンチャーズやシャドウズなどのスタイルをとった、軽快なギターサウンドをメインにしたインストゥルメンタル・ロック)からの影響があり、また、フロントマンでリードヴォーカリストのジョン・イーヴァル・コルボスはシャドウズのハンク・マーヴィンとイギリスのエキセントリック・ポップ・バンド CARDIACSからの影響を公言しているところからも、目指す方向性がうかがえます。ロカビリー、カントリー、プログレッシヴ・ロック、パンク、ハードコアなど複数ジャンルのミクスチャーである一方で、アメリカのMr.Bungleやフランスの6:33といったミクスチャー勢の狂暴性やメタリックな要素はほとんどないのもポイント。むしろ、同じノルウェーのKaizers Orchestraに近い、時にキャバレースタイルのようないかがわしさと、愛嬌すら感じさせるポップセンスがたっぷり詰まっています。アジるようなヴォーカルパフォーマンスがこれでもかと絡みつき、独特の高揚感のある仕上がり。





 バンドとしての脂がたっぷりと乗り、満を持しての四作目である本作『Blackbox』は、管弦楽器隊&ホーンセクション+α、十名のコーラス隊を贅沢に起用して妖しいシネマティック・ロックに磨きをかけた意欲作。ギターサウンドはぐぐっと後退し、よりシンセサイザーの濃度を高めたことでニューロマンティックな趣向も顔を出し、厚みを増した男女混声のヴォーカル/コーラスとダイナミックに一体となったミクスチャーサウンドを聴かせます。ゲテモノになってもまずおかしくないストロングスタイルなのですが、先の大規模起用もあってしなやかさも相当にキープされており、ユニーク極まるバランスで成立。改めて、バンドの卓越した手腕のなせるわざといったところです。「Night Hitcher」「Blackbox」でディープな闇をグリグリグリグリ広げたかとえば、「Before the Helmets」「Strawberry Suicide」ではクラシックな正統派歌ものバラードを聴かせ、かと思えば「Isabel - A Report to an Academy」ではブッといエレクトロ・チェンバー・ロックとでもいうようなドスを効かせ、「Madeleine Crumbles」ではダンサブルなのにアンニュイという情緒不安定ぶり。そして最大の眼目は、シングルカットもされた10分越えの大曲「Baseball」。美しくも醜い、そんな矛盾を孕んだかのような魅力渦巻くロックオペラであり、聴けば聴くほどバンドの生み出した深淵に吸い込まれそうになります。


http://www.majorparkinson.com/


Interview with Major Parkinson
(from Sideburns Movement.|2014.01.14)

2017年11月7日火曜日

ケビン・ペンキン (Kevin Penkin) 氏のこれまでの音楽活動について



 アニメ「メイドインアビス」のサウンドトラックでさらなる注目を集めたケビン・ペンキン氏は、1992年オーストラリア生まれ/イギリス在住の作曲家・編曲家。ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックでクラシックと現代音楽を学び、植松伸夫氏とのコラボレーションなども重ね、ジャンルを股にかけた多彩な音楽性でワールドワイドな活動を展開している気鋭の若手です。本エントリでは、氏がこれまでに手がけてきた、または今後手がける予定の作品(※2017年11月1日時点)について紹介するとともに、並行して展開している音楽ユニット「Cycle~ 440」のこれまでの活動についても触れたいと思います。


【ゲーム・アニメ劇伴】


ゲーム「Defender's Quest: Valley of the Forgotten」(2012年1月19日)
http://playism.jp/game/263/defenders-quest

ゲーム「Defender’s Quest II: Mists of Ruin」(リリース日未定)
https://www.defendersquest.com/2/

 Level Up Labs開発によるタワーディフェンスRPG。第一作「Valley of the Forgotten」のパッケージにはデジタルサントラ(18曲収録)が同梱されておりました。ケビン氏は現在制作中である第二作「Mists of Ruin」のスコアも手がける予定です(ちなみに、メインテーマに植松伸夫氏が参加するというアナウンスが2014年4月の時点でされていました)。



ゲーム「十三支演義 偃月三国伝」(2012年5月24日)
http://www.otomate.jp/jyuzaengi/

ゲーム「十三支演義 偃月三国伝2」(2014年4月17日)
http://www.otomate.jp/jyuzaengi2/


 アイディアファクトリー開発の恋愛アドベンチャーゲーム。ケビン氏はメインコンポーザーを担当(一部楽曲は植松氏とケビン氏の共作)。第一作目はサントラがデジタルリリースされています。
http://itunes.apple.com/jp/album/shi-san-zhi-yan-yi-yan-yue/id529827417


『十三支演義 ~偃月三国伝~オリジナルサウンドトラック』itunes Storeで配信開始!
(from DOGEARRECORDS|2012.05.24)


  
ゲーム「NORN9 ノルン+ノネット」(2013年5月30日)
http://www.otomate.jp/norn9/

アニメ「NORN9 ノルン+ノネット」(2016年1月~3月)
http://norn9-nonet.com/

 オトメイトから発売されたPSP用恋愛シミュレーションゲーム。サントラは『ノルン+ノネット オリジナルサウンドトラック PLUS』としてリリースされました。本編BGMはケビン氏、メインテーマの作曲は植松伸夫氏(編曲はケビン氏)。2016年に放送されたアニメ版(キネマシトラスとオレンジがアニメーション制作を担当)の劇伴もケビン氏であり、こちらは二枚組のサントラとしてリリースされています。


NORN9 ノルン+ノネット サウンドトラック Plus
(アニメCD)
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アニメ 『ノルン+ノネット』 オリジナルサウンドトラック
kevin penkin
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ゲーム「Deemo」(2013年)
http://deemojapan.com/music/

 台湾のデベロッパー「Rayark」が開発したスマートフォン用音楽ゲーム。ケビン氏は「I race the dawn」(Kevin Penkin feat. Michiyo Honda)を提供。同曲は海外のゲーム音楽情報ポータルサイト「VGMO」主催による「Annual Video Game Music Awards」で2013年度のヴォーカル賞を受賞しました。その後、2016年4月にリリースされた『「DEEMO」SONG COLLECTION VOL.2』に収録されています。


「DEEMO」SONG COLLECTION VOL.2
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VARIOUS ARTISTS
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CD『STEINS;GATE SYMPHONIC REUNION』(2013年9月)
http://5pb.jp/records/release/FVCG-1265/

 2012年5月に発売されたPS3版「シュタインズ・ゲート ダブルパック」限定版特典CD「STEINS;GATE SYMPHONIC MATERIAL」。その拡大版&一般流通盤としてリリースされたオーケストラアレンジアルバムが『SYMPHONIC REUNION』。同CDに追加収録されたメドレー「Ringing Medley」の編曲をケビン氏が手がけています。


STEINS;GATE SYMPHONIC REUNION
STEINS;GATE SYMPHONIC REUNION
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(4:37~)


ゲーム「絶対防衛レヴィアタン」(2013年4月)



 GREEで2013年4月29日から10月29日にかけて配信されたソーシャルゲーム版。本編BGMは非常に芳醇なオーケストラサウンドだったのですが、どうもケビン氏が噛んでいたようです(ケビン氏のサイトの「credit」のページに「Leviathan: The Last Defence, Developed by GREE Inc. - 2013」の記載あり)。となればこのクオリティの高さもうなづけようというものです。



ゲーム「Implosion: Never Lose Hope」(2015年4月8日)
https://www.rayark.com/g/implosion/

アニメ「Implosion: Zero Day」(2018年1月予定)
http://www.rayark-movies.com/

 Rayark開発によるスタイリッシュアクションゲーム(2017年7月にニンテンドースイッチ版がリリース)。BGMは〈BEMANI〉シリーズで知られる榊原琢(TaQ)氏との共作。ケビン氏はストーリー部分のBGMを、TaQ氏はボス戦BGMを担当しています。メタルギアソリッドVの「Sins of the Father」の歌唱でも知られるドナ・バークをフィーチャーした主題歌「Way in the Dark」の作編曲もケビン氏は担当しており、同曲は配信シングルとしてリリースされています。また、同作をベースにした90分の長編アニメ「Implosion: Zero Day」が、来年リリース予定。

https://itunes.apple.com/jp/album/way-in-the-dark-implosion-never-lose-hope-theme-song-single/id983420495





アニメ「Under the Dog」(2016年8月1日)
https://www.kickstarter.com/projects/774031583/under-the-dog

 2014年にトレイラーが公開され、その後、小島秀夫氏ら著名クリエイターの告知支援などもあり、kickstarterで12000人以上から875,000ドルの出資額を集めるという快挙を成し遂げ、キネマシトラスによるアニメーション制作が決定した30分のOVA作品「Under the Dog」。当時のキャンペーンで35ドル以上の出資者にはサントラ音源(12曲収録)を手に入れることができました。演奏はF.A.M.E.'S Project(マケドニアン・シンフォニック・オーケストラ)。


「Kevin Penkin氏による音楽」
(from「Under the Dog」公式サイト|2015.07.01)

「Soundtrack」
(from「Under the Dog」公式サイト|2016.02.24)



アニメ「メイドインアビス」(2017年7月~9月)
http://miabyss.com/

 つくしあきひと原作、《WEBコミックガンマ》連載の奈落の冒険譚「メイドインアビス」のアニメ版。アニメーション制作はキネマシトラス。ウィーンの「Synchron Stage Vienna」にて、19名のチェンバー・オーケストラを編成してのレコーディングを敢行。CD二枚組のサントラとしてリリースされました。

『メイドインアビス オリジナルサウンドトラック』(2017)


TVアニメ「 メイドインアビス 」 オリジナルサウンドトラック
Kevin Penkin
メディアファクトリー (2017-09-27)
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ゲーム「Project Phoenix」(2018年予定)
http://projectphoenix.info/

 2013年にKickstarterで100万ドルを超えるクラウンドファンディングを成功させた、Creative Intelligence Arts(CIA)開発によるストラテジーゲーム。植松伸夫氏、三好智己氏(「ソウルキャリバーV」「いけにえと雪のセツナ」etc)との連名でコンポーザーとしてクレジットされています。ゲームは2015年リリース予定だったものの、種々の事情による開発の遅れにより2018年予定とアナウンスされました。






ゲーム「Necrobarista」(2018年予定)
http://www.necrobarista.com/
オーストラリア・メルボルンのインディーデベロッパー「Route 59」開発による、3Dインタラクティヴ・ヴィジュアルノベル。


ゲーム「Kieru」(2018年予定)
https://www.pinefirestudios.com/kieru/
オーストラリア・キャンベラのインディーデベロッパー「Pine Fire Studios」開発による、白・黒・赤を基調としたニンジャアクションゲーム。





【「Cycle~ 440」】

https://cycle440.bandcamp.com/

 西オーストラリアのパースで2009年に結成された、ケビン氏(piano/voice)とサム・ジャイルズ氏(electronics)によるアブストラクトなエレクトロ/アンビエント・デュオが「Cycle~ 440」。ちなみに、「メイドインアビス」のサントラで「アンビエントサウンドデザイン」を担当されているのもサム氏です。ユニットは2011年にアルバム『The Geography Of Collapsing Structures』でデビュー。2012年に現地のインディーズレーベル「Twice Removed」から2ndアルバム『The Cartography of Shifting Planes』をリリース。100枚限定(手書きナンバー入り)だったCDはすでに完売済みながら、レーベルのbandcampアカウントで配信音源が投げ銭でダウンロード購入可能です。








 2013年2月には大阪や東京(最終日は六本木Super Deluxeでの公演)で来日ツアーも行っており、ツアーのために用意された8曲入りのアルバム『On Distant Shores With Friends』はbandcampで聴くことができます(このとき共演した同郷のキーナン・タンとは2012年にすでにライヴでコラボレーションをしており、こちらもbandcampに音源がアーカイヴされています)。






 また、来日ツアーの音源からセレクトされた12曲入りアルバム『17843+』を「Wood & Wire」からリリース。同作はフリーダウンロードアルバムとして、レーベルのサイトやアカウントで公開されています。また、ユニットのsoundcloudアカウントでは、bandcampアカウントの方にはないトラックやライヴ音源も聴けます。





 2014年にはシドニーの「Hospital Hill」より3rdアルバム『The Topography of Ascending Frameworks』をリリースし、〈Constructions〉三部作の最後を飾りました。



【コンサート曲】


 2013年9月にロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックの修士号を取得したケビン氏は、地元オーストラリアをはじめとした交響楽団や室内管弦楽団から作曲を依頼されていくつかの楽曲を毎年コンスタントに制作されており、氏のsoundcloudアカウントでそのなかのいくつかを聴くことができます。









【その他】

 ケビン氏は2009年ごろから自主制作映像作品などの音楽を担当されているということがIMDbのフィルモグラフィを見るとわかるのですが、詳細が不明なものも多く、氏の公式サイトの「credit」のページで公表されているタイトルは、カートゥーン作品「The Adventure of Chipman and Biscuit Boy」と、同作の原作者による「Binge Inferno」の各パイロット版の各音楽と、2013年から2014年にかけて制作され、Youtubeで公開された、Leon Films制作のドラマシリーズ「My Life as a Video Game」の三つです。



 また、海外のゲームミュージックアレンジ/リミックス投稿・配信サイトの最大手である「Ocremix」には、ケビン氏がかつて「Hibiki Haruto」名義で投稿したリミックスが二つ存在します。ひとつは2012年に投稿された、ファイナルファンタジーVIIとVIIIのリミックスメドレー「Duel of the Blades」。もうひとつは2014年に投稿された、ICOとワンダと巨像のリミックスメドレー「Trico Files」。

http://ocremix.org/artist/11490/kevin-penkin



「Duel of the Blades」




「Trico Files」

2017年11月3日金曜日

映画『アトミック・ブロンド』雑感



http://atomic-blonde.jp/
http://www.thecoldestcity.com/


The Coldest City
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Oni Press (2012-05-16)


『アトミック・ブロンド』を観た。かのグレッグ・ルッカやアラン・ムーアも賛辞を贈った、アントニー・ジョンストン原作/サム・ハート画のグラフィック・ノベル『The Coldest City』(2012)を、『ジョン・ウィック』のプロデュースを手がけたデヴィッド・リーチ監督、シャーリーズ・セロン主演のもと映像化したスパイアクション作品。スパイものなのだけれども、銃より肉弾戦の方が圧倒的に多く、むしろ最後のシーンがボーナスステージなのではと思えるくらい泥臭いステゴロ率。それでいながら騙し騙され嘘を嘘で塗り固めた上をさらに塗り固めるスパイものとしてのストーリーがいい塩梅で仕上がっていて、ベルリンの壁崩壊前後のドラマとして見せたのも見事。腹にズンとくる良作でした。




『アトミック・ブロンド』怒涛のワンカット・アクション舞台裏 ― キャスト・スタッフ全員消耗
(from The River jp|2017.10.23)


 主人公はM16のスパイ ロレーン・ブロートン。「最強の女スパイの華麗な活躍!」というのは間違いではないのだけど、敵対陣営のザコがとにかくしぶとい。そこには肉弾戦における男と女のパワータフネスの差というのも出ていて、ロレーンが十数発以上殴る蹴る(かつ、周りのものは何でも攻撃に利用する)でようやく相手一人沈黙するという具合なので、つねにシビアな戦いを強いられていたし、これでもかと鈍い音が鳴りっぱなしのハードな殴り合いの連続でした。ロレーンを演じたセロン姐さんは撮影に伴うトレーニングで歯が二度ほど欠けたというのも、さもありなんといったところ。終盤のキモとなる階段での殴り合いから外に出て車で脱出するシーンに至っては、BGM一切なしのほぼ長回し状態、本作屈指の息詰まるハイライトというのも伊達ではない凄みにあふれていました。一方で、ロレーンとフランス側スパイのデルフィーヌ(演:ソフィア・ブテラ)との強い絡みがあるので百合面もあるのだけど、百合を過度に期待すると色んな意味でダメージを喰らうのではないかなと。しかし、超コワモテであるロレーンが嘘をつかなかった数少ない顔を見せたのが、ベッドでのデルフィーヌとの会話だったわけで……尊さを感じてくれよな。


Atomic Blonde (Original Motion Picture Soundtrack)
Back Lot Music (2017-07-21)
売り上げランキング: 77



 作品の時代性を反映して、80'sロック、ポップ、パンク、ニューウェイヴのヒット、もしくはカヴァーが劇中曲としてたっぷり盛り込まれているのも、コンセプトとして満点でした。挿入曲としてうまい使い方をしていたかというと必ずしもそうではないのだけれど、そんな不器用さ・無骨さも本編の醸し出すゴツゴツした肌触りに一役買っていた気はします。権利的な関係からか、サントラには全て収録されていないのが惜しまれるところ。たとえばニューオーダーの「Blue Monday」のクインシー・ジョーンズによるリミックス版(1988)や、QUEENの曲などは入っていません。また、作中で、テレビがニュースを映した際、キャスターが「サンプリングは芸術か盗作か?(sampling - is it art or plagiarism?)」と述べるくだりがあったのも、なかなか含みがあったなと。作中で印象的に使われていたQUEEN&デヴィッド・ボウイの1982年の名コラボ曲「Under Pressure」は、ヴァニラ・アイスが1989年に発表した「Ice Ice Baby」でサンプリングされていましたし。ある意味、60~70'sヒット曲を景気良く巧みに使った『ベイビー・ドライバー』との真っ向から対極をいった感。現マリリン・マンソン・バンドのギタリストであり、「ウォッチメン」「ジョン・ウィック」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー2」などを手がけてきたタイラー・ベイツの劇伴も、モダンなタッチながら、本編のムードを汲んだ仕上がりでした。MINISTRYの「Stigmata」(1988)をベイツがアレンジし、マリリン・マンソンがヴォーカルをとるというおっかないカヴァーが本作のために用意されています(サントラにも収録)。


 小ネタといえば、ロレーンが「東側」に入って映画館で殴り合いになったシーンでバックのスクリーンに流れていたのがタルコフスキーの「ストーカー」だったり、ある人物を逃がす手引きのシーンでテトリスで遊んでいるヤツがいたり、「外にデヴィッド・ハッセルホフが」といったほのめかしがありました。デヴィッド・ハッセルホフのくだりは、1989年の上半期にドイツのチャートでハッセルホフの「Looking for Freedom」が数週連続で一位だったことに絡めたものと思われます。ちなみにホフは、壁崩壊後の大晦日に現地でパフォーマンスをしているんですよね。





ストーカーをバックにしたシーンはこっちのトレイラー版で映っている。

2017年11月1日水曜日

リリース情報・備忘録 2017年10月