謎の生命体により壊滅の危機に瀕したアメリカを、
極東から飛来した天狗(の面)が救う――
1990年にメルダックより発売された横スクロールのシューティングゲームであり、稀代のバカゲー『暴れん坊天狗』。ナムコ時代に『源平討魔伝』『超絶倫人ベラボーマン』『未来忍者 慶雲機忍外伝』などに関わられた源平プロの
中潟憲雄がディレクター&サウンドを、同じく源平プロに所属していた
大久保高嶺氏が企画&サウンドを担当され、何から何までエキセントリックな方向性で仕上がった怪作奇作であります。
■暴れん坊天狗を創った男:中潟憲雄氏インタビューについて
- れとろげーむまにあ
そんな暴れん坊天狗ですが、2013年の今年、20年以上の時を経てまさかのサウンドトラック発売決定というニュースが飛び込んで来た時には、嬉しくて嬉しくて思わずエキサイテングしました。しかも暴れん坊天狗の楽曲だけでなく、中潟氏、大久保氏が関わられたメルダックのゲームボーイ用ソフト
『天神怪戦』(1990)、『読本夢五誉身~天神怪戦2~』(1992)『平安京エイリアン』(1990)の楽曲も余さず収録という嬉しい内容。
非売品の8cmプロモCDより
"京の都でROCK'n ROLL!(VSモードBGM)" "検非違使のテーマ(中潟憲雄アレンジバージョン)"の2曲が収録されていて、抜かりもなし。発売元の
クラリスディスクさんの大英断には大きな拍手を送りたいですし、心の底から感謝したいです。ありがとう!
■ファミコンの怪作『暴れん坊天狗』を収録したサントラ『暴れん坊天狗音楽集 -Rom Cassette Disc In MELDAC-』が6月22日に発売! - 電撃オンライン
■クラリスディスク - 公式サイト
サイトの紹介文や帯のタタキ文句には
「狂気と混沌が交錯するプログレッシブでエキサイテングなサウンド」「ファミコン最高峰のサウンドが奏でるプログレミュージックを体感せよ!」とあるのですが、これは実際その通りで、一切の誇張なしであります。中潟氏のプログレ志向と、大久保氏のヘヴィ・メタル志向がガッチリと組み合わさっており、捨て曲なしです。ちなみに中潟氏はナムコに入社される前は、シンフォニックな方向性のプログレッシヴ・ロック・バンド
「AQUAPOLIS(アクアポリス)」で活動されていたことがあり、その当時の音源もいくつか残っております(このことについては別のエントリで改めて語りたいと思います)。源平討魔伝や未来忍者の楽曲でもそういった方向性の楽曲があるのですが、暴れん坊天狗は中潟プログレの集大成とでもいうべき仕上がりになっています。何につけても
"Tengulila"は、暴れん坊天狗を語る上ではハズせない不朽の名曲。
プログレ的なポイントとしては、
"Cream Zone"(ステージ4ボス)に注目したいところです。CRIMSONと引っ掛けたタイトルといい、ポリリズム&変拍子な曲調といい、80年代のKING CRIMSON(『Discipline』発表以後)のサウンドを意識したのは明白でありましょう。
また、
"Oyagi"(ステージ2ボス)はEmerson,Lake&Palmer…というよりは、The Niceの
"America"あたりをオマージュしたのかなあと思うところがあります。鍵盤を弾き倒すキース・エマーソンの姿がおぼろげながら浮かんでくる…かも?
退廃的な
"Strontium 90"(ステージ3前半)、躁鬱的なアップダウンを見せる
"Delusion"(ステージ3後半)、屈指のテンションの高さを誇る
"Streamer"(ステージ4)など、聴き手はシリアスなムードと不安を煽る音の流れに翻弄され幻惑されることしきり。また、ステージセレクトやコンティニュー時に流れる
"Verge Of Danger"は、ループを繰り返すごとに1音ずつ際限なく上がっていくという仕様の楽曲なのですが、それを考慮してサントラにはたっぷり7分間に渡って収録されています。些細なものかもしれませんが、こういうこだわりもやはり大事なポイントですね。エンディングで流れるアメリカ国歌の疾走感溢れるアレンジ
"Song For U.S.A"、ハイスコアを叩き出した者のみが聴く事が出来る驚異のファミコン・テクノ
"Delta Rap"も、短いながら必聴です。
『天神怪戦』『読本夢五誉身~天神怪戦2~』『平安京エイリアン』は、ハードがゲームボーイということもありファミコンよりも小粒ですが、ツボを押さえた素晴らしき和風チップチューンの数々は流石の仕上がり。天神怪戦の
"プロローグ・イベントシーン1"や、平安京エイリアンの
"検非違使のテーマ"のメロディアスなフレーズ、また、ゲームボーイ2台を使っての対戦モードで流れるノリの良いロックンロール調のBGM(
MMSS[マルチ・マトリックス・サウンド・システム]により、二台のゲームボーイから別々の音が出て楽曲が奏でられていたというのも非常に画期的だと思います。)は特に聴きものです。
ライナーノーツには各ゲームの解説や大久保氏へのインタビューをはじめ、当時のメルダックの販促計画(銀座の空を「暴れん坊天狗」宣伝気球が舞ったという衝撃のプロモーション)や販促用グッズの写真(ハイセンスなデザイン!)なども掲載されており、非常に興味深い内容。2002年に刊行された太田出版の
「CONTINUE」Vol.4に掲載された
「暴れん坊天狗を創った男:中潟憲雄氏インタビュー」と併せて読みたいところです。
ちなみに、中潟憲雄氏をして「正しく荒唐無稽な感性の持ち主」と言わしめた大久保氏が、暴れん坊天狗の発表からしばらく後に携わられた、1992年発表のPCエンジンのソフト
『冒険男爵★ドン サン=ハート編』(発売:アイマックス/開発:漫充堂)も色々と必見のカルトなバカゲーたる内容であります。いわば、暴れん坊天狗の(正しく荒唐無稽な)後継作品。
■冒険男爵★ドン サン=ハート編 - ゲームカタログ
●暴れん坊天狗 - Wikipedia
●中潟憲雄 - Wikipedia