2011年3月30日水曜日

CMB『Sound Majesty』(2011)



 茅原実里「Key for Defection」ツアーの会場で販売された、彼女のバックバンドCMB(Creative Music Band/Chihara Minori Band)のアルバム。メンバーは須藤賢一(kbd)、岩田ガンタ康彦(dr/per)、山本直哉(b)、加藤大祐(g)、室屋光一郎(vln)の5名、2008~2011年のツアーで演奏されたオリジナル楽曲を中心とした全10曲を新規スタジオ・レコーディングで収めています。アルバムの試聴PVが上がったときから大いに期待していたのですが、いやはや、これは凄い。ここぞと弾きまくり、叩きまくる強靭でパワフルなバンド・アンサンブルの醍醐味が存分に味わえる、ド直球のプログレッシヴなインスト・アルバムであります。ヴァイオリン奏者を擁するプログレ・バンドと言えばイタリアのPFMやアメリカのKANSASが思い浮かびますが、CMBはどちらかというと後者のタイプに近い印象。メンバー全員のプレイが素晴らしいのですが、時に情感豊かに、時にキレ味抜群のプレイでサウンドに一層のメリハリを与える室屋大先生のヴァイオリンは非常に耳を惹きます。

 ハードな疾走感を味わうなら「Shining Mosh」「Soldiers of the Queen」、バンドの一体感を味わうなら「Hot Colosseum」「Sound Majesty」あたりでしょうか。YESの「Changes」EL&P「Black Moon」のパロディ的なフレーズも盛り込まれており、そのあたりもニヤリとできます。中でもこれは!と思ったのが「Open the new century」。ベートーヴェンの第九のフレーズをフィーチャーしたRAINBOWの楽曲「Difficult To Cure」の明らかなオマージュなのですが、バンドがオーケストラ帯同で行った1984年の来日公演ヴァージョンのアレンジを意識したのではないかと思われるダイナミックな仕上がり。終盤ではクワイア・コーラスが入り、大仰な盛り上がりを見せます。「君がくれたあの日-Adult refrain-」「純白サンクチュアリィ-sweet midnight-」の2曲は茅原嬢のアルバム曲のアレンジ・ヴァージョン。こちらもプログレ・テイストを強めたアレンジが施されており、原曲とはまた違ったドラマティックな印象。流通が限られているのが勿体無いとこれほどまでに思ったことはありません。プログレ・リスナーは是非一聴されることをオススメいたします。



【追記】
 『Sound Majesty』は当初会場限定のみでの流通でありましたが、現在はランティス公式通販で入手可能です。また、2012年の3月3日には渋谷O-EASTでCMBの単独ライヴが開催、後にこのライヴの模様を収録したDVDがリリースされました。そして同月にCMBメンバーチェンジが発表され、大幅にラインナップが刷新されました。CMBのプログレ的側面の要を担っていた須藤氏の脱退は特に大きな変化をもたらすのではないかと思われますが、今後の活動に期待ですね。



須藤賢一/菊谷知樹 他
「宇宙をかける少女 O.S.T Vol.1 LEOPARD」「Vol.2 P.O.D.」「BEST Collection」(2009)
須藤賢一WORKS プログレ・パロディ曲聴き比べ

【CMB:Lantis内情報サイト】

2011年3月10日木曜日

Autumn Moonlight『The Sky Over Your Shoulders』(2010)




 南米のプログレッシヴ/ジャズ・ロック系カタログを多くリリースしているVIAJERO INMOVIL RECORDSより新たに登場した、ギタリストとベーシストのデュオによるアルゼンチン出身のユニット オータム・ムーンライトのデビューアルバム。SIGUR ROSやGod Is An Astronautといったバンドからの音楽的影響を公言しているだけあって、どっぷりと感傷に浸れる、浮遊感たっぷりのメランコリックなポスト・ロック/アンビエント・サウンドを基調としているのですが、このユニットの面白いところは、存外シンフォニック・プログレ的なアプローチも強いところ。

 さざ波や子供達の声など、いかにもな趣向も凝らしつつも、時に惜しげもなくグワッと押しだされるシンフォニックなオーケストレーションの味付けや、オープニングとエンディングにタイトル曲のパート1、パート2をそれぞれ配する趣向に、この人たちの隠し切れないプログレへの愛が伺えます。「Autumn Moonlight Part I」「The Outsider」などは、ハードなエッジも効かせたモダンなメロディック・ロックとしても聴ける曲。イントロから既に最高潮の盛り上がりに達しているシンフォニックなストリングスアレンジをバックに、ギターの乾いたアルペジオや、抜けの良い泣きのトーンを反復させる「Letters To God」や、「The Sky Over Your Shoulders」は、欧州的なウェットなメランコリーを感じさせる楽曲。同様に「T.O.R.」も、ピアノやギターのアコースティックな響きを大切にしつつ、後半では徐々にストリングスアレンジとメロディアスなギターで壮大に盛り上がっていく王道の趣向がたまりません。打ち込みと思われるドラムスの軽さも、心なしかサウンドの方向性にマッチしています。ポスト・ロックの静の面と、シンフォニック・プログレの動の面、両者の美味しい部分を殺すことなくソフトに融合させたこういったユニットが南米から出てきているというのも非常に面白いなと思いつつ、最近のお気に入りアルバムのひとつとして何度もリピートしております。


Autumn Moonlight:bandcamp
Autumn Moonlight:myspace
Autumn Moonlight:Prog Archive

2011年3月3日木曜日

Barroquejón『Concerning the Quest the Bearer and the Ring』(2003)


 南米チリのマルチ・コンポーザー デヴィッド・ハヌスによる一人シンフォニック・プログレ・プロジェクト:バロックエジョンの1stアルバム。トールキンの「指輪物語」をコンセプトに、デヴィッド氏が全楽器&コーラスを一人で担当して作り上げた作品で、彼のマルチな才能を存分に発揮したトータルアルバム。管弦楽器類を前面に出した、ほぼギターレスのシンフォニックなアンサンブルと、迫るようなテンションの高さをひしひしと感じさせる多重クワイアコーラス、トラディショナルなメロディを織り込みつつ、息をつかせずに押しまくる楽曲は耳を惹くことこの上なく、そのドラマティックな作風は、さながらストーリーテリング的な方向性を打ち出していた『Nightfall In The Middle Earth』の頃のBLIND GUARDIANと、QUEEN直系の多重録音コーラスと溢れんばかりの瑞々しいセンスを巧みに絡めて楽曲を彩っていた『GAIA』の頃のヴァレンシアを髣髴とさせられます。若干打ち込み臭さが抜けない部分や、やや一本調子な楽曲展開など、少々パンチに欠ける面や荒削りな面もありますが、それを補って余りある魅力と才気に溢れており、ファンタジックなサウンドトラック作品と考えれば申し分ない内容です。

 本作発表後、2ndアルバム『Songs For Her』をリリースするというアナウンスがあったのですが、制作途中でデヴィッド氏が急性白血病であることが発覚。治療に専念するために、『Songs For Her』のリリースは頓挫となります。その後、長期に渡って闘病生活を続けたものの、2009年2月9日に若くしてこの世を去られてしまいました。享年29歳。彼が制作に着手していたというアルバム『Soundtrack To My End』は、『Songs For Her』の楽曲も収められる予定だったのですが、未完となってしまいました。訃報に際し、デヴィッド氏と親交のあったフランスのエピック・メタル・バンド FAIRYLANDのフロントマンであるフィリップ・ジョルダノ氏は、追悼のコメントを寄せておりました。BarroquejonとFAIRYLAND、両者の作風には相通ずるところが非常に多かっただけに、盟友とも呼べるデヴィッド氏の急逝を知ったフィリップ氏の心中は察するに余りあります。今後の成長ぶりを期待させてやまない音楽性を展開していた人だっただけに、あまりにも残念でなりません。改めて、哀悼の意を表します。


未完のアルバム『Songs For Her』『Soundtrack To My End』に収録される予定だった楽曲。


デヴィッド氏もメンバーとして在籍していたチリのメロディック・ポップ・ロック・バンド:Lo que Queriaのライヴ映像。中央のスキンヘッドの人物が彼。

Barroquejon:MySpace

2011年3月2日水曜日

Jinetes Negros『Omniem』(2007)



 ANIMAのキーボーディスト オクタヴィオ・スタムポラを中心としたアルゼンチンの5人組プログレッシヴ・ロック・バンド ジネテス・ネグロスの3rdアルバム。クラシカルなオーケストレイションや混声コーラスのハーモニー、フルートやヴァイオリンなどのアコースティック楽器を生かしたミドルテンポのメロディアスな楽曲が多く、ゆったりとした流れのアルバムの構成ながらも、しっかりアイデアを盛り込んで最後まで厚みを持たせたつくりは思わず愛着すら沸いてしまうほど好感が持てます。個々の楽曲は大作志向というわけでもないのですが、アルバムのスケール感は大きいですし、幅の広さも感じさせます。「La Gesta Del Poder」「El Canto Del Noctambulo」などのしっとりと哀愁を帯びたバラード曲にはスペイン語ヴォーカルの熱をたっぷり孕んだ濃密さが映えるので、AORとしての魅力も見出せそうかも。どこか懐かしさを覚える勇壮なイントロで幕開けする「Epico」や、メロディアスなハード・ロック「Dieciseis Lirios De Eternidad」「La Bestia」、イントロから一転してハードなアンサンブルがクワイアコーラスと一体になって超ハイテンションに疾走する「Pagaras Por Mi」など、壮大/ハードな側面もしっかり備えております。ブラジルのSAGRADO CORACAO DA TERRAやイタリアのNEW TROLLSあたりにも通ずるシンフォニックさ、植松伸夫・桜庭統あたりのシンフォニック・プログレ寄りなゲームミュージックっぽさも感じられたりするので、そういった手合いにもオススメではないかと。Mellow Recordsの新鋭バンドカタログの中でもかなりイイ線を行ってるバンドのひとつだと個人的に思います。アルゼンチンあなどり難し。


Jinetes Negros:Myspace
Jinetes Negros:公式

2011年3月1日火曜日

LA BANDA DEL GNOMO『El Canto Del Angel』(1980 - 1990)




 南米のプログレ系レーベルMylodon Recordsのカタログのひとつ。80年代に活動していたチリのメロディック・ハード・ロック/プログレッシヴ・ハード・ロック・バンド ラ・バンダ・デル・ノーモ。80年代後半まで活動していたそうで、その途中でアルバムのレコーディングも進められていたそうですが、結局それが当時リリースされることはなかったため、現地の一部の人のみぞ知るバンドだったんだそうな。それがここ最近になって、彼らが80年代当時に録音していた音源が発掘音源集としてまとめられ、1枚のアルバムとしてリリース。実に20年越しで日の目を見たというあたり、B級マニアにはそそられるものがありますね。

  コンパクトにテクニカルな側面を覗かせるアンサンブルでキメていくプログレ・ハード・サウンドは手ごたえもあり好感も持てる仕上がりで、さらにアルバム前半の楽曲で歌っている紅一点のヴォーカルの姉ちゃんがその風貌といい歌唱といい貫禄のある肝っ玉ぶりを発揮しており、ハードなバンドのサウンドをパワフルにグイグイ引っ張っていっているのがまた凄く頼もしく思います。そして何より真っ先に耳を惹くのがアグレッシヴなフルート。随所でこれでもかとピーヒャラピーヒャラ前のめりに鳴り響いていて熱さを滲ませているのがまた面白く、南米らしいアイデンティティを存分に感じさせてくれるのが堪りません。アルバム後半の楽曲は男性ヴォーカルにシフトしており、曲調もブルージーな渋みを感じさせる落ち着いたAORタイプに変貌しておりますが、フルートのテンションの高さは相変わらずなのが微笑ましい。B級メロディックハード好きにはたまらない発掘音源集なんじゃないでしょうか。

LA BANDA DEL GNOMO:myspace
Mylodon Records