2016年5月31日火曜日
リズムを刻んでダンジョン攻略 ― Danny Baranowsky『Crypt of the Necrodancer OST』(2014)
Brace Yourself Games開発による「クリプト・オブ・ネクロダンサー」は、リズムにノリながらランダム生成ダンジョンを攻略していく “ローグライクリズムアクション” ゲーム。迅速な判断力とリズミカルな操作に主軸をおき、運ではなく、プレイヤーのスキル次第でいかなる状況も切り抜けられるというコンセプトのRPGです。2015年4月にsteamで配信され、日本からのアクセスもふくめて好調なセールスを記録。今年1月にはスパイク・チュンソフトからPS4/PS Vita日本版がリリースされています。同作のコンポーザーは、ダニー・バラナウスキー。太めのビートがビシバシと効いたEDMやメロディアスなシンセポップサウンドを基調に、サンディエゴのシュレッド・ギタリスト FamilyJules7xをフィーチャーしてのハードエッジなチップチューンメタルテイストも盛り込んだ全42曲。このオリジナルサントラだけでもヴォリュームたっぷりなのですが、それとは別に公式アレンジサントラがゲームの追加コンテンツとしていくつも出ており、これらをBGMにしてゲームを楽しむことも可能です。steam版では、エレクトロユニット「Super Square」のメンバーでもあるA_Rival ことアレックス・エスクィヴェルによるリミックス集『The Melody Mixes』と、前述したギタリストのFamilyJules7xによるメタル・リミックス集『Aria's Ascent』の二つがありましたが、PS4/PS Vita版はさらにJohn Sagouspe、Eric Sferro、Frédéric Féretの三名によるシンセウェイヴ・リミックス集『The Synthwave Cuts』と、virtことジェイク・カウフマンによるリミックス集『Freestyle Retro』が追加されています。
ダニー氏の来歴について触れたいと思います。2000年代初頭より、海外のゲームミュージックアレンジコミュニティサイトの最大手「OverClocked Remix」においてdB Soundworks名義でリミックスを投稿していた彼は、当初は映画音楽のコンポーザーを志向していたそうですが、次第にゲームミュージック方面に足を踏み入れていくことになります。「スーパーメトロイド」「DOOM」「アースワーム・ジム」「ファイナルファンタジーVII」などのアレンジを発表しているうちに、ゲームデザイナーのアダム・サルツマンが彼に目をつけ、アダムが開発に携わったエンドレスランゲーム「Canabalt」(2010)や、アクションゲーム「Gravity Hook」(2011)に楽曲を提供したことが大きな転機となりました。同じ時期に「Super Meat Boy」(2010)、「The Binding of Isaac」(2011)の開発者であるエドマンド・マクミランとも知り合い、同作のサントラを手がけることにもなります。そのほか、「洞窟物語」の3DS版(2011/2012)の編曲や、〈バンジョーとカズーイの大冒険〉シリーズや「パーフェクトダーク」のコンポーザーであるグラント・カークホープとの共作による「Desktop Dungeons」(2013)などのサントラを制作。一方でリミックス提供やショートフィルムへの劇伴提供も行うなど、精力的に活動を展開しています。彼はインタビューで音楽的な影響元として植松伸夫氏と近藤浩治氏の名前を挙げているほか、ルーツはクラシック・ロックにあるとも述べており、デヴィッド・ギルモア(PINK FLOYD)とジミー・ペイジ(LED ZEPPELIN)を挙げてもいます。余談ですが、2011年に二枚組CDでリリースされた「Super Meat Boy」のサントラ&リミックス&未使用トラック集『Nice to Meat You』のジャケットは、PINK FLOYDの『Wish You Were Here(炎~あなたがここにいてほしい)』のパロディでした。
http://dbsoundworks.com/
http://vgmdb.net/artist/1040
http://ocremix.org/artist/4501/danny-baranowsky
▽『クリプト・オブ・ネクロダンサー』開発者を直撃。ローグライク×リズムゲームの魅力とは?【BitSummit 2015】
(from 電撃PlayStation|2015.07.12)
▽Behind the music: an interview with Super Meat Boy composer Danny Baranowsky
(from PCGAMER.com|2011.04.04)
▽Nice to Meat You - Interview with Super Meat Boy Composer Danny Baranowsky
(from g4tv.com|2011.05.30)
2016年5月20日金曜日
スカムなサウンドをブリブリと量産するブラジルの家内制手工業アヴァン・ポップ集団 ― Esmectatons
bandcampで異常なペースで作品をリリースしている手合いに遭遇することはそう珍しくはないです。Esmectatonsは、ブラジルのアンダーグラウンドで常軌を逸した活動を続けているアヴァン・ポップ・バンド。いちおう、四人組らしい。エルメート・パスコアル、アヒーゴ・バルナベー、ジョアン・ジルベルト、ジョン・サーマン、Throbbing Gristle、NAKED CITY/PAINKILLER、CARDIACS、SOFT MACHINE、VOIVODなどからの影響を挙げており、音楽性はアヴァン・ポップともポストパンクともデスメタルともスペースロックともグラインドコアともノイズともヘヴィプログレとも言ってしまえるのだけど、リリースペースをふくめてのあまりの傍若無人ぶりに、スカム・ミュージックとしかいいようがないです。スタジオのセッション一発録りをそのままリリースするし、メチャクチャなコラージュで曲をこしらえてみたりする(装甲騎兵ボトムズの次回予告をぶっこんで曲にしてしまうのは彼らぐらいのものじゃないかと)。それらは数十パターンにわたるジャケット違い(といっても雑誌やチラシなどからの切り抜き)、楽曲ランダム収録といった酔狂な仕様で手焼きCD-Rやカセットテープでも販売。軒並み完売させているあたり、色んな意味でツワモノです。配信版は基本的に投げ銭でダウンロードできるので、ちょっと聴いてみて下さい。まずはベクシンスキーに捧げられた2014年作『Slowa』あたりからどうでしょう。
https://www.facebook.com/esmectatons
https://www.facebook.com/esmectatons
2016年5月18日水曜日
奇妙なオルタナプログレで世界を救わんとする、ニューヨークの擬似スーパー戦隊バンド ― Pseudo/Sentai
Pseudo/Sentai は、ニューヨークのオルタナ・プログレ・バンド。リードヴォーカル/リズムギターのスコット・ベイカー(RED)と、リードギター/プログラミング等のグレッグ・マーフィー(BLUE)の二人を中心として2007年に結成。バンドによると「Prog Rock / AfterMath Rock」を掲げており、「賢者タイムロック」とはこれいかにといったところですが、影響やインスピレーションを受けたものとして、The Mars Volta、MASTODON、Mr.Bungle といったバンド、「聖剣伝説」「テイルズ・オブ・ファンタジア」「クロノトリガー」「アクトレイザー」「天地創造」といった主にSFCゲーム作品。「影が行く」/「遊星からの物体X」「路傍のピクニック」/「ストーカー」などのフィクション。そしてスーパー戦隊/パワーレンジャーシリーズの名前を挙げています。ハイペースでEPやシングルのリリースを重ねながら、五年にわたって書き溜めたアイデアと、古いデモ音源をもとに2013年から2014年にかけてレコーディングが行われ、2015年10月にリリースされたのが、デビューフルアルバム『Bansheeface』。ダウンロードは投げ銭。プロデュースを手がけたのは、デスメタルバンド Krallice、プログレッシヴメタルバンド Dysrhythmiaなど、一筋縄ではいかないバンドに名を連ねるコリン・マーストン。Dysrhythmiaのドラマーであるジェフ・イーバー、テクニカルプログレデュオ Bangladeafyのベーシスト ジョン・エーラスがサポートとしてレコーディングに参加してもいます。やたらと音を詰め込んでいるのに、不思議と爽快という、つかみどころのないポップサウンドが彼らの最大の持ち味です。そして先ごろ、早くも次作『Enter the Sentai』からの先行トラックを公開。次なるたくらみはいかに。
▽Adventure in music - an interview with PSEUDO/SENTAI
(from IDIOTEQ|2015.08.03)
http://www.pseudosentai.com/
https://www.facebook.com/PseudoSentai
2016年5月16日月曜日
shusei (塚本周成) 『おじさんとマシュマロ Song Collection Vol.1/Vol.2』(2016)
若林いおり(CV:喜多村英梨) MIO5(CV:花澤香菜) 向井・町田(CV:田口香織 CV:木下鈴奈) 町田真理子
埼玉音楽放送 (2016-03-09)
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埼玉音楽放送 (2016-03-09)
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若林いおり(CV:喜多村英梨) MIO5(CV:花澤香菜) 先輩・後輩(CV:吉富睦 CV:古木のぞみ) 木下鈴奈
埼玉音楽放送 (2016-03-09)
売り上げランキング: 153,847
埼玉音楽放送 (2016-03-09)
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一迅社&pixivの〈comic POOL〉で配信されている、音井れこ丸氏による「おじさんとマシュマロ」。2016年1月から3月にかけて、一話5分、全13話にわたり放送された同作のショートアニメ版の主題歌、挿入歌CD。社歌やCMソングなどもふくめたヴォーカル曲を四、五曲(+カラオケヴァージョン)収録しています。全曲のコンポーザー/アレンジャー/作詞を手がけるのは、プログレッシヴ・ロック・バンド「アウターリミッツ」「VIENNA」のキーボーディスト/アレンジャーである塚本周成(Shusei)氏。氏のアニメ劇伴仕事は昨年に放送された「だんちがい」(一迅社〈まんが4コマぱれっと〉連載)のアニメ版に続き、本作が二作目となります。リリース元は氏が代表を務める埼玉音楽放送株式会社より。前作に引き続き、伊東一豊氏がアコースティックギター/コーラスで、プログレッシヴ・ロック・バンド FANTASMAGORIAの藤本美樹さんがヴァイオリンでそれぞれ参加されているほか、シャンソンシンガーの町田真理子さんがド直球な昭和歌謡"昭和の恋の物語"を歌われています。塚本氏は町田さんの2013年のアルバムで全面的に編曲を手がけられており、その縁での参加なのでしょう。「だんちがい」では「あえてキャラソンにカッコイイ系のプログレ曲を作った所、予想通りボツになってしまいました」とのことで、「劇中で流れるアニメ」の劇伴でプログレっぽい曲をつくっていた塚本氏でしたが、今回はキャラクターソングということもあっていくらか自由がきいたのか、ソロパートともどもヒネったアレンジを仕掛けてあります。"あの時見た鳥は今"(花澤香菜)、"ラビリンス"(喜多村英梨)、"マシュマロ・ファクトリー"(吉富ちか&古木のぞみ)あたりに顕著です。
http://www.dreamcreation.co.jp/ojimasyu/
http://www.music-planet.co.jp/mp_file/anime.html
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『おじさんとマシュマロ Song Collection Vol.1』
[MP-A001|2016.03.09|埼玉音楽放送株式会社]
01. メッセージ
【歌:若林伊織 (cv 喜多村英梨)】
02. あの時見た鳥は今
【歌:MIO5 (cv 花澤香菜)】
03. エール
【歌:向井 (cv 田口香織)、町田 (cv 木下鈴奈)】
04. 昭和の恋の物語
【歌:町田真理子】
05. メッセージ (Instrumental)
06.あの時見た鳥は今 (Instrumental)
07.エール (Instrumental)
作詞・作編曲:Shusei
Total Producer:平田実
Recording Director:Shusei
伊東一豊(acoustic guitar solo, chorus)
藤本美樹(violin)
小宮亜紀、宮世真理子、桜井信行(chorus)
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『おじさんとマシュマロ Song Collection Vol.2』
[MP-A002|2016.03.09|埼玉音楽放送株式会社]
01. ラビリンス
【歌:若林伊織 (cv 喜多村英梨)】
02. 私はアイドル…デガス
【歌:MIO5 (cv 花澤香菜)】
03. マシュマロ・ファクトリー
【歌:マシュマロ工場の先輩・後輩 (cv 吉富ちか、cv 古木のぞみ)】
04. 元気田堂社歌
【歌:Shusei's Chorus】
05. 食べっこマシュマロCMソング
【歌:木下鈴奈】
06. ラビリンス (Instrumental)
07. 私はアイドル…デガス (Instrumental)
08. マシュマロ・ファクトリー (Instrumental)
作詞・作編曲:Shusei
Total Producer:平田実
Recording Director:Shusei
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▽shusei (塚本周成) 『だんちがい Music Collection』(2015)
2016年5月14日土曜日
Jean Jacques Burnel、teng、笠松広司『巌窟王 オリジナル・サウンドトラック』(2005)
メディアファクトリー (2011-08-24)
売り上げランキング: 29,439
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TVサントラ
ビクターエンタテインメント (2005-02-23)
売り上げランキング: 37,474
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売り上げランキング: 37,474
「巌窟王」は、2004年から2005年にかけてテレビ朝日系で全24話が放送されたGONZO制作によるアニメ。当初はアルフレッド・ベスターのワイドスクリーン・バロックSF『虎よ、虎よ!』のアニメ化を計画していたものの、種々の事情で出来なかったため、アレクサンドル・デュマによる復讐譚の古典『モンテ・クリスト伯』を基本骨格にしてアニメ化。エドモン・ダンテスの仇敵フェルナンの息子アルベールを主人公に据えたストーリーを、オリジナル設定や美麗なグラフィックで彩るなど、大胆なアレンジを打ち出しました。本作の楽曲を手がけたのは、スタジオジブリをはじめ、数多くの作品に携わっているサウンドデザイナーの笠松広司氏と、作編曲家のtengこと北里玲二氏(ちなみに、両人は2001年の映画版「EKOEKO AZARAK エコエコアザラク」のコンポーザーでもありました)、そしてニューウェーヴ・パンク・バンド The Strangelersのベーシスト ジャン・ジャック・バーネル。監督の前田真宏氏がストラングラーズのファンであり、いつか自身の作品に起用したいと切望していたことと、一方のバーネル氏も前々からサントラの仕事に興味があり、また作品のテーマに惹かれたことからコラボレーションが実現に至りました。
バーネル氏は7曲の楽曲を提供しており、ショパン「別れの曲」のメロディーを織りこみ、ジェントリーに歌い上げるオープニングテーマ"We Were Lovers"、マカロニ・ウエスタンのテーマ調の小品"Desire (復讐はただ我にあり)"、ドライヴ感あふれるプログレッシヴ・ハードロック調の"Anger (エドモンからの手紙)"、シンセが迸りヘヴィなベースがゴリゴリの主張を続けるエンディングテーマ"You Won't See Me Coming"など、懐の広さを感じさせる聴きどころの多い仕上がり。近年のストラングラーズのアルバムのプロデュースを手がけるルーイ・ニカストロが共同編曲者で、ストラングラーズのバズ・ワーンもギターで参加しているところもポイントです。笠松氏と北里氏による楽曲はエレクトロニカ、アコースティック、そしてコラージュがメイン。長尺でじっくりと聴かせる"謝肉祭" "海嘯"も耳をひきますが、圧巻は"Montecristo"。チャイコフスキーの"マンフレッド交響曲"、ガエターノ・ドニゼッティのオペラ"ランメルモールのルチア"、ジャコモ・マイアベーアのオペラ"悪魔のロベール"を織り込んだ贅沢な構成のシンフォニック・エレクトロチューンです。ちなみに、同年8月には本編に流れたクラシック曲をまとめた『巌窟王 クラシック・コンピレーション』なる企画盤(VICL-61587)がリリースされており、そこでは前述の三曲からの抜粋のほか、シューマンの"子供の情景 作品15 第七曲 トロイメライ"、ドビュッシーの"前奏曲集 第二巻 V.ヒースの草むら"、ラフマニノフの"ピアノ協奏曲第二番 第一楽章"が収録されています。
▼「巌窟王」|GONZO
▽JJ「巌窟王」を語る|狂人館
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『巌窟王 オリジナル・サウンドトラック』
[VICL-61551|2005.02.23|VICTOR ENTERTAINMENT]
01. 謝肉祭
02. WE WERE LOVERS
03. prologue
04. 闇色の夢
05. Anger (エドモンからの手紙)
06. 情景、ある晴れた日に彼は
07. 遠い記憶
08. MONTECRISTO
09. 天体儀
10. sorrow (宿命)
11. Auteui
12. 少年の日
13. Waltz (waltz in blue)
14. desire (復讐はただ我にあり)
15. mercedes (渚にて)
16. 地下宮殿
17. 月夜
18. 海嘯
19. You won't see me coming (TV size)
20. You won't see me coming (FULL)
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【track 2, 5, 10, 13~15, 19, 20】
作曲:Jean-Jacques Burnel
編曲:Jean-Jacques Burnel & Louie Nicastro
作詞:Jean-Jacques Burnel (2, 13, 19, 20)
extra Guitars:Baz Warne
extra Vocals:Phillipa Cookman (track 15)
produced and Engineered by Louie Nicastro
【track 1, 3, 4, 6, 7, 9, 11, 12, 16~18】
作曲:笠松広司 & 北里玲二 (teng)
ミックス:松林正志
【track 8】
作曲:TCHAIKOVSKY、DINIZETTI、MEYERBEER
contains samples from「マンフレッド交響曲」「ランメルモールのルチア」「悪魔のロベール」
編曲:笠松広司 & 北里玲二 (teng)
organized by 藤田純二 (FVM)
album sound architect 笠松広司
supervised by 前田真宏
illustration 前田真宏 & ソエジマヤスフミ / 松原秀典
design 岡野登
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2016年5月12日木曜日
ネオ・サンフランシスコを駆けるサイバーパンクADVのサントラ― 2mello『Read Only Memories OST』 (2015)
「Read Only Memories」は、サンフランシスコのインディーデベロッパー MidBossの開発によるサイバーパンク・アドベンチャー・ゲーム。プレイヤーはチューリングと名づけられたROM(Relationship and Organizational Manager)との出会いを発端に、一人のエンジニアの失踪事件の謎にせまります。2013年にkickstarterで目標金額を達成し、制作を開始。2015年10月にPC版がリリースされました。日本語化のうえでPS4/PS Vita版のリリースを今年中にそれぞれ予定しているほか、iOS/Android版「Type M」の制作も進行中です(目下、6月23日に重大発表があるとのことです)。コナミのテキストアドベンチャー「スナッチャー」(1988)や、Sierra On-Lineのポイント・アンド・クリック・アドベンチャー「Gabriel Knight」(1993)を多分に意識しているようで、たとえば本作の舞台である「2064年のネオ・サンフランシスコ」は、2042年のネオ・コウベ・シティを舞台にした「スナッチャー」のオマージュなのでしょう。
同作のサウンドトラックはゲームと同日に配信リリースされています。FMシンセが奏でるノスタルジックなメロディ、ファンキーなタッチの楽曲が彩る全41曲。楽曲を手がける2melloは、インディーズレーベル「Scrub Club Records」所属のヒップホッププロデューサー/トラックメイカーのMatthew Hopkinsによるソロユニット。本作がゲーム音楽デビュー作でもあります。オリジナル作品ではジャジー・ヒップホップな作風を得意としているほか、「ゲームセンターCX」のトリビュートEPや、JAY-Zと「クロノトリガー」のマッシュアップアルバム『Chrono Jigga』、NASと「悪魔城ドラキュラ」シリーズのマッシュアップアルバム『Nastlevania』、ノトーリアス・B.I.Gと「MOTHER2」のマッシュアップアルバム『EarthBIG』など、ギークなネタを盛り込んだトラックも精力的にリリースしています。一発ネタみたいなアイデアを見事な手腕で昇華しており、これまた聴きものです。
▽サイバーパンクなドット絵インディーADV『Read Only Memories』の日本語版配信が決定
(from ファミ通com|2015.12.06)
http://readonlymemori.es/
https://midboss.com/
http://2mello.net/
https://www.facebook.com/2mellomakes
Please join us on 6/23 for a very important announcement :3 pic.twitter.com/vCgdJU2sac— 2064//ROM (@ROM2064) 2016年5月21日
2016年5月10日火曜日
古琴奏者擁する中国の老練ポストロックバンド、初のベスト盤 ― 沼泽(Zhaoze)『Intoxicatingly Lost』(2016)
沼泽(Zhaoze)は、古琴/キーボード/ヴォーカルを担当する海亮 (Hz)を中心に、ギターの细辉 (Littledream)、ベースの阿来 (Roy)、ドラムスの海逊 (Seasean)からなる、中国のポストロックバンド。活動歴は長く、前身となったのは、1993年に結成されたThe Swamp。サイケデリック・ロック、プログレッシヴ・ロック、ネオクラシカル、実験音楽のエッセンスを取り込んだ音楽性もさることながら、同バンドは1996年から2004年にかけてロックフェス「Kaiping Music Festival」の主催に携わるなど、現地のインディーズシーンにおいて活発な活動を展開。デビューEP『Carolane』(1999)、デビューアルバム『沼澤 (The Swamp)』(2001)を皮切りに、2008年までに五枚のEPと四枚のアルバム(ライヴアルバム、カヴァーアルバムふくむ)を残しました。その後、Zhaozeに改名し、2010年にアルバム『滄浪星 Cang Lang Xing』で再出発。2011年には四つの長尺曲からなる意欲作『1911』を、2013年にはシューゲイザー色を強めた『远 Yond』を、2015年には、「夕方五時から明朝五時にかけての12時間における都市や人々の様相」を七つの楽曲でイメージしたコンセプト作『Yesternight Yes Tonight / 琴晚』を発表。なおもコンスタントな活動を展開しています。また、2012年には、ロウ・イエ監督/中国・フランス合作による映画「二重生活」のエンディングテーマとして「入夢令 Into Your Dream」を提供したというトピックもありました。今年四月にニューヨークのTrail Recordsよりリリースされた『Intoxicatingly Lost』は、彼らのキャリアでも初となるベストアルバムにして、北米でのデビューアルバム。収録曲は、現行最新作の『琴晚』からの楽曲を中心とした全9曲。カナダのGodspeed You! Black Emperorや日本のMONOなどと遜色なく肩を並べるバンドの豊饒な音楽性と確かな足跡をたどるうえでも、うってつけの一枚です。
《収録曲》
1. The Worthless 【from『琴晚』(2015)】
2. See You In The Dusk 【from『 琴晚』(2015)】
3. Luò Mù (Falling Leaves) 【from『滄浪星』(2010)】
4. 1911 Third Mov. 【from『1911』(2011)】
5. The Youngster Fishing For The Stars 【from『滄浪星』(2010)】
6. Lonely Shadow Would Dance 【from『琴晚』(2015)】
7. Sleepy Child Sweet Smile 【from『琴晚』(2015)】
8. Into Your Dream 【2012】
9. Intoxicatingly Lost 【2015】
https://zhaoze.bandcamp.com/
https://www.facebook.com/zhaozeband
https://site.douban.com/zhaoze/
https://www.youtube.com/user/zhaoze
◆『Intoxicatingly Lost』- progstreaming
全曲ストリーミングで視聴可能(※期間限定)
2016年5月8日日曜日
2010年代のロシアン・コズミック・ディスコ・ファンクでアガる ― AG&NI『Confluence』(2016)
ロシア・エカテリンブルクのシンセポップグループ AG&NIは、マルチ奏者のKidAと、ドラムとミキシング担当のGrillMkzのデュオとして2015年4月に結成(同時にKidAは、Mob Rulesというワンマンヘヴィメタルユニットでも活動している模様)されたばかりで、できたてホヤホヤ。同年11月にデビューアルバム『New Age』を、その後、DJ&ミキシング担当のBoneMCを迎え、2016年2月に2ndアルバム『Ultimate』と、ヴァレンタインシングル「Valentine's Day」をリリース。全体的にコンパクトなエレクトロハウスでまとめあげています。それから再び三ヶ月、新たにキーボード&ベース担当のDKR、ギター&ウインドシンセ担当のBad2Batを迎え、四人組バンドとして3rdアルバム『Confluence』をリリース。わずか半年で三枚もアルバムをリリースしている勘定になりますが、ここにきて一気にコズミック・シンセ/ディスコ・ファンクに振り切り、楽曲的にもサウンド的にも格段にグレードアップ。グループとしてはまだまだ試行錯誤の段階にあるようですが、有無を言わさず超アガる、攻めのファンクスタイルで昨今のシンセウェイヴ/レトロウェイヴシーンに殴りこみをかけた形にもなっており、まことに痛快なものを感じました。
https://vk.com/agandni
https://soundcloud.com/agandni
2016年5月7日土曜日
メロディアスなギターが冴える、眩惑のジャーマン・シンセウェイヴ ― Zombie Hyperdrive『Hyperion』(2016)
2000年以降に興ったシンセサイザー・ミュージックのリバイバルであり一ジャンルである「Synthwave/Retrowave」。登場からすでに10年以上が経過していますが、その活況はいまなお続いております。ゾンビー・ハイパードライヴは、ドイツのエレクトロ・ユニット。2009年より活動を開始したそうですが、プロフィールは依然として謎に包まれたままです。2013年にアルバム『The Cobalt Ship』をリリース。この時はまだ多分にアンビエント、ハウス寄りの作風で、楽曲的にも習作という印象がありました。その後、Arc NeonやAerocrushの楽曲のリミックスや、習作でdjentのリミックスなども手がけつつ、2015年にはニューヨークのシンセウェイヴレーベル「NewRetroWave Records」のコンピレーションアルバム『Magnatron』に"Gigawatt"を提供し、同レーベルに参画します。今年リリースされた『Hyperon』は、約3年ぶりとなる新作アルバムにして、シンセウェイヴアーティストとしての実質的なデビューアルバム。FMシンセと哀愁を孕んだ煌びやかなメロディという要素でガツンと押し切ってしまえるので、ことシンセウェイヴにおいては「差異化」というのはほとんどあってないようなものですが、ゾンビー・ハイパードライヴは"Red Eyes"や"Citadel"のような、メロディアスなギターソロが多分にフィーチャーされたロック寄りな楽曲がチラホラとあるところがポイント。さじ加減次第でさらに化けそうです。
『レッドライン』の映像を使用したホットなPV。ナイスなマッチング。
https://www.facebook.com/ZombieHyperdrive/
https://zombiehyperdrive.bandcamp.com/
https://soundcloud.com/zombie-hyperdrive
2016年5月6日金曜日
マドリッド発、ルルイエ行。瘴気放つアヴァンプログレメタル― Back to R'lyeh『The McMurdo Expedition 1909』(2016)
スペイン・マドリッドのアヴァンギャルド・プログレッシヴ・メタル・バンド バック・トゥ・ルルイエ。H.P.ラヴクラフトと深きものどもに心酔するバンドであり、ギタリストのエイドリアン・ヘルナンデスと、ブラックメタルバンド Nüllの元メンバーを中心に2011年に結成。音楽的影響元はVOIVOD、MINISTRY、MASTODON、VULTURE INDUSTRIESなど。2012年に2曲入りデモEP『Horrible Warning』、2013年にデビューフルアルバム『The Awakening / Last Fight of the Primordial』をいずれも投げ銭でデジタルリリース。その後、スラッシュメタルバンド KILLEMのドラマー レイモン・ニッセンが加入。2015年には新たなベーシストとキーボーディスト迎え、現行ラインナップとなります。先ごろリリースされた『The McMurdo Expedition 1909』は、現在制作中のコンセプトアルバムからの先行曲を収録した3曲入りEP。エルネスト・マクマードという一人の男の遠征と、カディシュトゥ同胞寺院(Kadishtu Brotherhood Temple)なるカルト教団の陰謀をめぐるストーリーに基づく一作で、ダウンロードは今回も投げ銭。過去作と比べるとサウンドのヘヴィネスと、トリッキーなアレンジに絡めて発散される瘴気は格段に増大しており、フルアルバムへの期待感が高まる内容です。また、「Inkisidor Dukasse」(異端審問官デュカス)なる謎の六人目の人物がメンバーとしてクレジットされており、彼の作詞による二曲目の"Failed Invocation"は、V.Braunなる人物の手によって書かれ歌われたという蠢きのインタールード。聴き手の現実すら侵しにかかってきています。禍々しき音世界で、キミもルルイエに還ろう(ニッコリ)。
https://www.facebook.com/backtorlyeh
https://www.youtube.com/channel/UC8pzbyqQ946Bdc8Thqx70dQ
2016年5月5日木曜日
折り目正しく、静かに熱い、ノルウェーのプログレッシヴ・ジャズロック新鋭 ― MOTHMAN『Mothman』(2016)
MOTORSYCHO、SHINING、Elephant9、Jono El Grande、Krokofant、Grand Generalなど、プログレッシヴ/アヴァン・ジャズの層が厚いノルウェーからまたも骨太なジャズ・ロック勢が登場。それが、アメリカで目撃されたという未確認生命体の名を冠するこのMOTHMANです。ドラマーのマルティン・ウルヴィンと彼の学友を中心として2009年にスンド・フォーク大学で結成されたバンドは、スタヴァンゲルでライヴパフォーマンスを磨き、アイスランドのジャズギタリスト ヒルマー・イェンソンのゲストサポートを得て、同地の国際的ジャズフェスティバルであるMaijazzでデビューを飾ります。その後、メンバーはスタヴァンゲルとオスロに散るのですが、オスロを拠点に活動を展開。2012年春にはノルウェーツアー、2013年夏にはヨーロッパツアーを成功させており、気鋭のバンドのひとつに躍り出ました。そんな彼らのデビューアルバムが本作。ジャズ、プログレッシヴ・ロック、コンテンポラリー・ミュージックをミックスさせたサウンドは、ラフというよりはストイックな印象。インプロヴィゼーションともども全体的にカッチリと詰め込まれており、ヘヴィメタリックな加速度を伴って段階的にギアを上げていくようなスタイル。堅実に、着々と増やされてゆく音数が、内に秘めた熱さを静かに物語っています。
https://www.facebook.com/mothmanorchestra
https://www.youtube.com/channel/UCxv20eKAGp1PMaUSGChI7eQ
2016年5月4日水曜日
サンディエゴのチープな闇鍋シンセウェイヴ ― Atomic Shrine Maiden (アトミック巫女)『The 3D Album』(2016)
サンディエゴ出身のジェーデン・エッケルによるシンセポップユニット Atomic Shrine Maiden(アトミック巫女)。ユニット名は、イラストレーターのうえむら氏のイラスト「アトミック巫女」からのいただき。いつごろから音楽活動を開始したのかは不明ですが、友人がつくったという「Charisma VI」なるゲームのサントラを2013年に、カオスなマッシュアップ曲集『Jojo's Bizarre Circus and Other Pointless Mashups』を2014年に、FL Studioと生ギターで制作したという古い7曲入りEP『7 Songs』を2015年にリリースしています。この三作はいずれも習作どまりの印象ですが、先ごろリリースされた『The 3D Album』は、シンセウェイヴ路線を打ち出し、「SIDE BLUE」「SIDE RED」に分かれたコンセプトアルバムとして制作されています。80年代シンセポップをベースに、闇鍋的にネタを放り込んで好き放題やっており、vaporwaveとは異なるチープさが妙にクセになる仕上がり。ダウンロードは$7より。別途フリーダウンロードで入手も可能ですが、有料版はジェーデン氏によるオーディオコメンタリーと、楽曲のモノラルヴァージョンがボーナストラックが追加収録されています。
http://atomicshrinemaiden.tumblr.com/
https://soundcloud.com/atomicshrinemaiden
2016年5月3日火曜日
原作:星里もちる/歌:宝野アリカ、MoJo 他『りびんぐゲーム オリジナル・アルバム』(1993)
宝野アリカ MOJO MOONLIGHT CAFE
EMIミュージック・ジャパン (1993-01-27)
売り上げランキング: 589,723
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小学館〈ビッグコミックスピリッツ〉で1990年から1993年にかけて連載され、単行本全10巻が刊行(後に全7巻の文庫版が刊行)された、星里もちる氏による住宅事情ラブコメディ漫画『りびんぐゲーム』。本作はイメージアルバムが制作されており、単行本第7巻の刊行と同時期に東芝EMIよりリリースされています。インストゥルメンタルとヴォーカル曲を交互に配した構成で、メインコンポーザーは松井寛氏と、同時期に酒井法子や中江有里などのシングルやアルバムを手がけていたプロデュースグループ「Project Moonlight Cafe」(同グループには、作編曲家・ギタリストの村瀬恭久氏がメンバーとして在籍されていました)。松井氏はレイヴ/テクノな"TOKYO~Afternoon Noise"、インダストリアル/ロックな"りびんぐ三拍子~せまい!きたない!金がない!"、Project Moonlight Cafeはフュージョン/イージーリスニングタッチの楽曲をそれぞれ提供しています。なかでも"そのままの君でいい"は秀逸なバラードナンバー。ヴォーカル曲では"何もない、何もない、何もない"でMoJo氏が、"もうすぐ16!" "Yesterdays"の二曲でALI PROJECTの宝野アリカ嬢が参加されています。蟻プロジェクトからALI PROJECTに改名してメジャーデビューして間もない頃ゆえか、ブックレットでは蟻プロジェクトの表記になっています。
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『りびんぐゲーム オリジナル・アルバム』
[TYCY-5275|1993.01.27|東芝EMI(Futureland)]
01. TOKYO~Morning Call
(作編曲:Project Moonlight Cafe)
02. もうすぐ16!
(作詞:田口俊/作編曲:多田光裕/歌:宝野アリカ(蟻プロジェクト))
03. 何もない、何もない、何もない
(作詞:田口俊/作編曲:松井寛/歌:MoJo)
04. TOKYO~Afternoon Noise
(作編曲:松井寛)
05. そのままの君でいい
(作詞・作編曲・歌:Project Moonlight Cafe)
06. りびんぐ三拍子~せまい!きたない!金がない!
(作編曲:松井寛)
07. それぞれの時間の中で
(作詞・作編曲・歌:Project Moonlight Cafe)
08. TOKYO~Night Light
(作詞・作曲:Project Moonlight Cafe)
09. Yesterdays
(作詞:田口俊/作曲:沢田聖子・宮原恵太/編曲:Project Moonlight Cafe/歌:宝野アリカ(蟻プロジェクト))
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原作・イラストレーション:星里もちる
プロデューサー:奥野敏聡
ディレクター:浅井裕子
E.guitars:
村瀬恭久 ①⑤⑨
増崎孝司 ②
Takeo Sugita ③
A.guitars:
笛吹利明 ⑦⑧
Alto sax:
春名正治 ①
多田光裕 ②
Backing vocal:
Project Moonlight Cafe ⑤
MOJO ③
Hiroko Fujiya ②③
Keyboard & All synth programming
Project Moonlight Cafe ①⑤⑦~⑨
松井寛 ③④⑥
多田光裕 ②
【Project Moonlight Cafe】are
岸忠明(作曲, manupiration)
森保道(作曲)
村瀬恭久(編曲, keyboard, guitar)
塚本亜矢子(作詞)
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小学館 (2013-06-24)
売り上げランキング: 80,924
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2016年5月2日月曜日
原作:坂田靖子/音楽:伊豆一彦『闇夜の本 オリジナル・アルバム』(1985)
朝日ソノラマ〈DUO〉に1982年5月号~1983年1月号にかけて連載され、1983年~1985年にかけてサンコミックスより新書版全3巻が刊行(のち、1995年にハヤカワ文庫JAより再刊)された、坂田靖子さんによる珠玉のユーモア・ファンタジー短編集『闇夜の本』。本作は単行本第3巻の刊行に先がけてイメージアルバムがリリースされており、現時点で唯一の坂田作品のオフィシャルアルバムであります。インナーには、B2サイズの描きおろしポスターが付属していました。リリースから30年以上経った現在もCD化などはされていません。コンポーザーは、前年にリリースされた大友克洋氏の『童夢』のイメージアルバムを手がけられた伊豆一彦氏。坂田さんとの打ち合わせのすえ、楽曲は単行本に収録されたそれぞれの作品をイメージしたものではなく、「闇夜の本」というシリーズ自体のイメージで制作されたという、いわば番外編といえるユニークなものになっています。ライナーノーツの坂田さんのコメントには『「どうせレコードをつくるのなら、聴いた人が「何だっ?!これはいったい何なんだっ?!」と頭を抱えて町内一周マラソンをしてしまうようなのにして下さい」―――と私は作曲者の伊豆さんにお願いしました』ともありました。
『童夢』のイメージアルバムではスタジオミュージシャンを多数迎え、ハードロック調の楽曲なども収録されていましたが、本作はコンパクトな編成で制作された暖色系のシンセサイザー・ミュージック。ちなみに、ベースでクレジットされている小林まこと氏は、漫画家の小林まこと氏その人です(氏は昔からベーシストとしての顔も持っているのです)。時期的には、講談社の週刊モーニングで『ホワッツマイケル』を連載されてまもない頃ですし、〈週刊ヤングマガジン〉で『柔道部物語』を連載開始前ですね。アルバムは、風雨と遠来、モンキーシンバルと笑い袋のSEによるイントロダクション"ダークナイト(雨~日没の風)"で幕を開け、"DNAとRNA"の幻想的なムードで一気に引き込まれます。『童夢』のイメージアルバムより引き続き参加の片岡郁雄氏によるハリのあるサックスソロも印象的な"フライング・プレート"は、スタジオミュージシャンとしての活動まもない頃の宮路一昭氏がギターソロでシャープに弾きまくるシンセポップチューン。しっとりとした長尺曲"夜の窓"、メルヘンチックな小品"Dance"と続き、ここまでがA面の収録曲です。B面一曲目の"バンBUu(竹の音)"不気味なメロディの反復の上で竹笛の音色がこだまする異様な雰囲気の一曲。荒涼としたイメージただようエスニックなインスト"砂漠の星"、マイク・オールドフィールドにも通じる、ふんわりと牧歌的なミニマルミュージック"両手ひろげて"を経て、ラストは再び片岡氏のサックスソロをフィーチャーして都会的ムードを湛えたスロウなフュージョン"City Dream"。目覚ましのアラーム音がフェードアウトし、現実世界へと徐々に引き戻されていくという締めの趣向も素晴らしいのです。
伊豆氏はこの後、片山愁『ブリザード★センセーション』のイメージ&ドラマアルバム(1987)や、山寺宏一氏のアルバム『SUPER GAP SYSTEM 快適な世紀末』(1994)のプロデュースや作編曲なども手がけられます。
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『闇夜の本 オリジナル・アルバム』
[K28G-7232(LP)/K28H-4252(CT)|1985.01.21|KING RECORDS]
【Side 1】
01. ダークナイト(雨~日没の風)
02. DNAとRNA
03. フライング・プレート
04. 夜の窓
05. Dance
【Side 2】
06. バンBUu(竹の音)
07. 砂漠の星
08. 両手をひろげて
09. City Dream
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原作・イラスト:坂田靖子
プロデューサー:高塚俊紀
サウンドプロデュース:伊豆一彦
ディレクター:川島章
演奏:伊豆一彦&パラレル・ワンダーズ
伊豆一彦(keyboard, programming)
宮路一昭(F & A guitar)
片岡郁雄(woodwind, lyryconIV, synthe sax)
小林まこと(E bass)
福田真司(lyryconIV program & product)
ペンギンドラム、モンキーシンバル(percussion)
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坂田 靖子
早川書房
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