Feedback (2014/07/29) Group 商品詳細を見る |
エンニオ・モリコーネといえば、『荒野の用心棒』などのマカロニ・ウエスタン作品でキャリアの一時代を築き、『遊星からの物体X』 『海の上のピアニスト』など数多くの映画音楽を手がけた言わずもがなの巨匠でありますが、映画音楽制作の一方で演奏家としても活動しておりました。それが今回ご紹介する、The Group。正式なグループ名はGruppo di Improvvisazione di Nuova Consonanza(直訳すれば即興新協和音集団というところでしょうか?)という長いものですが、海外リリースの際には省略されて前述のThe Groupや、Il Gruppoなどと表記されたりもします。現代音楽方面で活動したコンポーザーのフランコ・エヴァンジェリスティ(Franco Evangelisti/1926-1980)を中心として'64年に結成されたThe Groupは、'66年にアルバム『Nuova Consonanza』(北米盤では『The Private Sea Of Dreams』というタイトルでリリース/共に未CD化)でデビュー。主要メンバーはフランコと、トランペット/フルート担当のモリコーネ、パーカッション/チェレステ/ストリングス担当のエジスト・マッキ(Egisto Macchi/1928-1992)の三人であります。ちなみに、エジストもモリコーネと同様に映画音楽家であり、マカロニものの『バンディドス』(1966)や、アラン・ドロンが主演した『暗殺者のメロディ』(1972) 『パリの灯は遠く』(1976)などの劇伴や、いくつかのライブラリー音楽を残しております。また、グループにゲストとして参加した面々の中には、ポーランド系ピアニストのフレデリック・アンソニー・ジェフスキーや、現代音楽作曲家のマリオ・ベルトンチーニといった名前もあります。
'70年の10月に発表された本作『The-Feed Back』は、'68/'69年にドイツのグラモフォンよりリリースされた『Improvisationen』に続く三枚目のアルバム。時期的にはモリコーネが『シシリアン』や『狼の挽歌』 『真昼の死闘』などのスコア制作の合間を縫って録音されたものと言えましょうか。収録曲は7分、6分、15分の三曲からなり、いずれもサイケデリック・ロック、ファンク、フリージャズ、ノイズが渾然となった非常にフリーフォームな内容。左右にチャンネルを振りまくるファズギターやシタール、瀕死の象のように引きずるトランペット、タイトなビートをカクシャクと刻み続けるドラムが三者三様に展開され、そこに軋んだ旋律を奏でるヴァイオリンや、咳き込み、呻き、舌なめずりも挿入されるという、あまり体調のよろしくないときに聴くと、そのままダウナーな方向にズルズルと引っ張られかねないパワーもある(実際、聴いてて体調を崩しかけました)アヴァンギャルドな暴れっぷりを堪能できます。本作のゲストメンバーは五人ほどおりますが、ドラムスのヴィンチェンツォ・レストルシア(Vincenzo Restuccia)は、モリコーネの『続・夕陽のガンマン』のスコアや、ルシオ・バッティスティやファブリツィオ・デ・アンドレといったカンタトゥーレの諸作、コアなところではイタリアン・キーボード・プログレの隠れ名盤として名の挙がるサンジュリアーノのアルバムなどにも参加するヴェテランです。グループの前衛ジャズ/現代音楽的な作風は同時期にモリコーネが手がけたいくつかのスコアにも反映されていたようで、グループがスコアを演奏したサスペンス映画『冷酷なる瞳』(監督:エンツォ・G・カステラッリ/1970)や、『怪奇な恋の物語』(監督:エリオ・ペトリ/1969)で垣間見ることができます。
『冷酷なる瞳(Gli occhi freddi della paura)』のスコア
本作の後には『Nuova Consonanza』(1975) 『Musica su Schemi』(1976)の二枚のアルバムが出ており、後者はAREA/デメトリオ・ストラトスをはじめ、数々のイタリアン・ロック・アーティストや前衛音楽家のカタログを擁したことでも知られるCramps Recordsからのリリースでありました(後年、ストレンジデイズレーベルから国内盤も出ています)。このまま順調な活動が続いていくはずでありましたが、'80年にリーダーのフランコが逝去したことにより、グループは自然消滅の道を辿ることになります。解散から既に数十年以上経っておりますが、グループの名前は同名の現代音楽フェスティバルに引き継がれ、現在も定期的に開催されております。また、彼らのアルバムはサンプリングのネタやコレクターズアイテムとしても人気が高く、オリジナルLP盤は今なお高値で取引されているようです。そういう流れもあってか、リイシューや発掘の動きも近年とみに活発になってきており、2006年には未発表音源収録の二枚組CDとドキュメンタリーDVDをセットにしたBOX『Azioni』(ライナーノーツにはジョン・ゾーンも寄稿しています)が、2010年には『Niente』、2011年には『Eroina』という発掘音源集がそれぞれリリースされております。本作も、今年に入ってめでたくイタリアのSchemaレーベルより再発LPとCDがリリースされました。帯に書かれていたアルバムの説明は、音楽系ブログで書かれたレビューの引用というのも時代の流れを感じます。そこではCANやNEU!といったクラウト・ロック・バンドのも引き合いに出されていましたが、確かにユルユルのサイケデリック性という側面もあるので、それも頷けるものがありますね。
ドキュメンタリー映像の一部
●Gruppo di Improvvisazione di Nuova Consonanza - Discogs
●Gruppo di Improvvisazione di Nuova Consonanza - Wikipedia
●エンニオ・モリコーネ - Wikipedia
●Associazione Nuova Consonanza