The Tall Ships (2010/05/25) It Bites 商品詳細を見る |
イギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド、イット・バイツの約20年ぶりとなる新作。数年前にオリジナルメンバー全員での再結成の話もあったそうですが、フロントマンであるフランシス・ダナリーはバンド解散後、拠点をアメリカに移して現在まで活動しているため、イギリスに戻っての活動は様々な事情により困難ということでその話は実現することなくお流れに。このまま宙ぶらりんの状態かと思いきや、IT BITESの長年のファンであり、KINO、ARENAのメンバーであるジョン・ミッチェル(vo.g)を新たにフロントマンに迎えることで新生IT BITESとして復活。アルバムの制作中にオリジナルメンバーでベースのディック・ノーラン(b)が音楽性その他の相違により脱退(ディックは新作の制作に関与しておらず、ベースはミッチェルとジョン・ベック(kbd)の二人が弾いているとのこと)するというニュースもありましたが、リリースに至ったのは何にしてもめでたい。この復活を大いに喜びたいです。聴き手をしっかりと掴みにかかるメロディの心地良さ、身を任せられるハーモニーの安心感、わかりやすい楽曲構築など、ポップなプログレとしてはこれ以上ない要素がたっぷり詰まった往年のバンドの持ち味は全くブランクを感じさせることなく、伸びやかなメロディーが弾む冒頭の3曲を聴いただけでアルバムに引き込まれることは必至。一方でスリリングでソリッドな疾走感はいくぶんマイルドなものになっており、またバラードやミドルテンポのナンバーの多さも相まって、なだらかなポンプ・ロックの色合いが強まっているという印象も無きにしも非ず。バンドのサウンドの絶妙なバランス感を舵取っていたフランシスがいないというのはやはり大きいなとも改めて感じます。とはいえジョン・ミッチェルはヴォーカルにおいてもギタープレイにおいてもこれ以上ないほどバンドにハマっているし(ミドルテンポのバラードを歌わせたらこの人の右に出る人物なんてなかなかいないと思います)、甘美なメロディーに満ちた楽曲の充実度も嬉しい。往年のファンだけでなく新規ファンもすんなり入り込める、魅力的なアルバムなのは間違いありません。
◆IT BITES「Once Around The World」(1988)
●It Bites:公式