本作を彩るサウンドトラックは、公式でYouTubeに全曲アップロードされているほか、Amazon mp3やiTunes Storeでダウンロード販売(全7曲/600円~750円)もされています。コンポーザーはs3miotikとGudi Guruの二名。s3miotik氏の詳細なプロフィールは不明ですが、vimeoにアカウントを持っており、「Nandeyanen!?」を含めたいくつかの作品を聴くことができます。低音のエレクトロシーケンスと三味線の音色をフィーチャーした"Into the Wild"、ヘヴィなギターリフとホーミーめいたドローン音が中毒的なまでにハイにさせる"To Make the End of Bullets"(このタイトルはやはりファルコムのYsIIのOPテーマ"To Make the End of Battle"からでしょうか)は氏によるもの。もうひとりのGudi Guru氏はインド系のネーミングですが、国籍不明のサウンドデザイナー/ミキシングエンジニア。同じくTchagata Games作品である「めぞん歓楽」のサウンドトラックの制作にも関わっております。こちらはディープでアシッドなエレクトロ・チューンを得意としており、"Hannya"では無駄にテンションの高い日本語めいたシャウトもぶっこまれ、珍妙なワビサビの効いた(?)仕上がり。ほとんど環境音とシャウトで構成された"Main Menu"には思わず「ワオ......ゼン......」とこぼしたくなるかもしれません。
おなじく内藤氏原作である「トライガン」「ガングレイヴ」の今堀恒雄氏や、「カウボーイビバップ」などの菅野よう子さん、「バッカーノ!」の吉森信氏など、スタイリッシュなスコアのアニメ作品はパッと思いつくだけでもいくつもありますが、それらの先行作品に負けずとも劣らずな内容です。ホーンセクションをフィーチャーしたビッグバンドジャズによる“動”のスコア、ストリングスと打ち込みを組み合わせた“静”のトラックをメインに、AOR、R&B、ファンク、ヒップホップ、タンゴ、エレクトロニカ、オルタナティヴ・ロックなどの多彩な方向性の楽曲が脇を彩ります。サウンドトラックを漁っていると、ときたま埋め草のような無味無臭のスコアに出くわしたりしますが、本作にはそういった楽曲は一切ありません。ちなみに、岩崎氏は脚本家やジャズ・ギタリストを志していた時期もあったそうですが、紆余曲折あって劇伴コンポーザーの道に入ったという経歴の持ち主。作品のイメージのみならずシーンや演出にマッチしたスコアが多いのは、そういった氏のバックグラウンドも活きております。本編シーンに絶妙なタイミングで挿入されていたヴォーカル曲は英語詞中心ですが、"It's Magic"はヘブライ語詞、"Epi fèmen dife a"はアフリカ言語のスキャット/コーラスをフィーチャーしています。それぞれにクッキリとしたカラーを持ち合わせた抜群の内容ですが、個人的には、ヴォーカルもアンサンブルも軽やかで楽しげにスウィングする"Catch Me If You Can"と、第六話のエピソードと演出に相乗的なハマり具合をみせたウェットなバラード"On My Own"の二宮愛さんヴォーカルの二曲、Ben Lorentzenの滋味あふれるヴォーカルが染み渡るAOR"The Land Of Nod"(ちなみに、同曲の編曲者である辻理恵さんはビヨンセのツアーサポートメンバー&アレンジャーを務める方でもあります)をとくに推したいところです。また、コ・プロデュース/編曲で、ボストンを拠点としたジャズ&ヒップホッププロジェクト〈monolog〉のマルチ・インストゥルメンタリストであるYuki Kanesakaこと金坂征広氏が参加されているのもポイントでしょう。折り紙つきの仕上がり。〈ヘルサレムズ・ロット〉のイメージが、多種多彩多国籍なサウンドとして結実しております。
01. Theme of Blood Blockade Battlefront 02. Footloose/Run for Cover/Footloose 03. Sidewinder 04. Libra 05. Victim 06. Snap Out 07. Call You Later 08. Presage 09. Oblivion 10. Attack The System 11. Keep On The Sunny Side 12. Look Daggers 13. Toy Blues 14. The Urge 15. Hands On 16. Starbow 17. There Will Be A Day 18. United 19. Fate 20. Traffic Man 21. Under Pressure 22. A Funeral 23. Early Train 24. White Gloves (Reprise)
All Produced, Arranged And Composed:岩崎太整
【Disc 2】
01. Catch Me If You Can (作詞・ヴォーカル:二宮愛/作編曲:岩崎太整) 02. A Way Out (作詞・ヴォーカル:Shayne Holland/作曲:岩崎太整/編曲:Yuki Kanesaka〈monolog〉) 03. World Goes Round (ヴォーカル:Hannah Macklin aka MKO/作詞:二宮愛/作曲:岩崎太整/編曲:平野“Bigyuki”雅之) 04. On My Own (作詞・ヴォーカル:二宮愛/作編曲:岩崎太整) 05. In The City (作詞・ヴォーカル:Saucy Lady/作曲:岩崎太整/編曲:Yuki Kanesaka〈monolog〉) 06. The Land of Nod (ヴォーカル:Ben Lorentzen/作詞:二宮愛/作曲:岩崎太整/編曲:辻利恵) 07. Dust (作詞・ヴォーカル:Toft Whillingham/作曲:岩崎太整/編曲:Yuki Kanesaka〈monolog〉) 08. Just A Game (作詞:二宮愛/作編曲:岩崎太整/編曲:辻利恵) 09. BCCGS (プログラミング:岩崎太整) 10. It's Magic (作詞・ヴォーカル:Shira Z.Carmel/作編曲:岩崎太整/編曲:辻利恵) 11. At The Gates (プログラミング:岩崎太整) 12. Epi fèmen dife a (ヴォーカル:Deborah Pierre/編曲:Yuki Kanesaka〈monolog〉) 13. Epigraph (ヴォーカル:土屋絢子/プログラミング:岩崎太整) 14. World Goes Round (Reprise) (ヴォーカル:Hannah Macklin aka MKO/編曲:平野“Bigyuki”雅之) 15. White Gloves (作詞・ヴォーカル:二宮愛/作曲:岩崎太整) 16. Hello,world! 〔TV size version〕 (作詞・作曲:藤原基央/編曲:BUMP OF CHICKEN & MOR)
--------------------------------------- 『BLOOD BLOCKADE BATTLEFRONT Original Soundtrack』
●は日本盤サントラDISC 1収録曲
▼は日本盤サントラDISC 2収録曲
●01. Theme of Blood Blockade Battlefront ●02. Footloose / Run For Cover / Footloose ▼03. Catch Me If You Can ▼04. A Way Out ▼05. World Goes Round ▼06. On My Own ●07. Snap Out ●08. Sidewinder ●09. Toy Blues ▼10. BCCGS ●11. Keep On The Sunny Side ●12. White Gloves (Reprise) ●13. Call You Later ●14. Traffic Man ▼15. Epi fèmen dife a ▼16. It's Magic ▼17. In The City ●18. There Will Be A Day ●19. Presage ●20. Attack The System ▼21. Dust ●22. Oblivion ▼23. The Land Of Nod ▼24. World Goes Around (Reprise) ▼25. White Gloves
アメリカのchiptuner、ShnabubulaことSamuel Ascher-Weissの名作『SNESology』が、さる六月末にスペシャル・エディションと装いを新たにして氏のbandcampに再アップされました。同アルバムは、ゲーム音楽リミックス投稿サイト「OverClocked ReMix」界隈を中心とした不特定多数のコンポーザーが、スーパーファミコン音源を駆使してカヴァーやオリジナル曲を制作するプロジェクト「SNESology」の企画趣旨にのっとってShnabubula氏が制作した楽曲を収録したアルバムです。2012年に全10曲収録でリリースされ、その後、2013年にトータル20分以上の新規トラックを8曲追加収録して再リリースされました(現在は両ヴァージョンとも削除されています)。再々リリースとなる今回のスペシャル・エディションでは、新たに2014年制作の2曲"Fun Saber" "Grape Kid"に、2012年録音のピアノソロヴァージョン3曲を追加収録した全23曲。もちろん今回も name your price(投げ銭)でダウンロードが可能です。
『SNESology』は単なるカヴァーアルバムではなく、名作SFCソフトのサウンドフォントを駆使した、オマージュをたっぷりと込めたオリジナル曲集というのがミソ。元のゲームに紛れ込んでいても違和感のないつくりなのです。使用しているタイトルを挙げると、「スーパーマリオワールド」「悪魔城ドラキュラ」「ファイナルファンタジーVI」「スーパーマリオカート」「ガイア幻想紀」「魂斗羅スピリッツ」「天地創造」「ロックマンX」「Run Saber(日本未発売)」「聖剣伝説2」「Secret of Evermore(日本未発売)」「クロノトリガー」「ストリートファイター2」「MOTHER」といったところ。サウンドフォントの特性がよく出ているものとしては、「スーパーマリオカート」の音源を駆使した"At The Races" "Ready Set..." "Golden Corridor"でしょうか。スティールパンやホイッスルの響きを活かしたトロピカルなムードで仕上げられています。また、Shnabubula氏はかなりの凝り性で知られる人なので楽曲構成がかなり練られており、フュージョン/プログレッシヴな要素が強いのも特徴です。「悪魔城ドラキュラ」のサウンドフォントによる"Darling Escape"や、「魂斗羅スピリッツ」のサウンドフォントによる"Infiltration"、複数タイトルのサウンドフォントを惜しみなく投入した"SNESology"などは圧巻のプログレ・チューン。また、収録曲のなかで"I Dreamed a Dream"は「レ・ミゼラブル」の劇中曲のカヴァー。これをFFVIの「オペラ」のサウンドフォントでカヴァーするという趣向がなんともニクいです。聴き手がプレイしたゲームへのノスタルジーを喚起させつつ、オリジナル曲としてもバッチリとした聴き応えをもたらしてくれるという、なかなか味わえない感触があります。すでに知っている人も、そうでない人も、ぜひ聴いてみてはいかがでしょうか。
01. Adventures in Dinosaur Land (スーパーマリオワールド) 02. Daring Escape (☆悪魔城ドラキュラ) 03. Across The Plains (ファイナルファンタジーVI) 04. At The Races (☆スーパーマリオカート) 05. The Story Begins (ファイナルファンタジーVI) 06. Stonehenge (☆ガイア幻想紀) 07. Ready Set... (スーパーマリオカート) 08. Infiltration (魂斗羅スピリッツ) 09. A Solemn Decision (天地創造) 10. Static Lobster (☆ロックマンX) 11. Fun Saber (★Run Saber) 12. A Cry of Joy and Sadness (天地創造) 13. Evermore Densetsu (☆聖剣伝説2/Secret of Evermore) 14. Riverlands (天地創造) 15. Golden Corridor (スーパーマリオカート) 16. Hands of Fate (クロノトリガー/ファイナルファンタジーVI/天地創造) 17. Billy Mitchell's Stage (☆ストリートファイター2) 18. I Dreamed a Dream〔「レ・ミゼラブル」より〕 (☆ファイナルファンタジーVI) 19. Grape Kid (★MOTHER) 20. SNESology (☆複数タイトルのアラカルト) 21. Across The Plains〔★ピアノソロヴァージョン〕 22. A Solemn Decision〔★ピアノソロヴァージョン〕 23. Ready, Set...〔★ピアノソロヴァージョン〕
全18曲。収録内容は「ポケットモンスター 金・銀」「PLOK!」「HALO」「ロックマンゼロ4」「ブロックアウト」「大航海時代」「ワイルドアームズ4」「幻想水滸伝II」「スタークルーザー」「ペーパーマリオ」「ソニック・ザ・ヘッジホッグCD」「アウトラン2006」「スーパーメトロイド」「ドラゴンフォース」「Chrono Ark(「クロノトリガー」「クロノクロス」インスパイア非公式二次創作アルバム)」。ゲーム音楽以外ではKING CRIMSON"Frame by Frame"、マッツ/モルガン"Etage A-41"(!!)、イエロー・マジック・オーケストラ"Firecracker"(大元はマーティン・デニーですが)、Béla Fleck and the Flecktones"Scratch and Sniff"のカヴァーを収録。
■番外(2015.6.03)
短めのセット。全8曲。収録内容は「Starsky and Hutch」「ラグナロクオンライン」「クロノトリガー」「Secret of Evermore」「ポケットモンスターブラック2・ホワイト2」。オープニングとエンディングは即興。
■第三回(2015.6.08)
全12曲。収録内容は「ソニック3D ブラスト(ソニック3D フリッキーアイランド)」「AZEL -パンツァードラグーン RPG-」「東方星蓮船」「ドラゴンズドグマ」「ドラゴンクエストVII」「デュープリズム」。ゲーム音楽以外ではアニメ「鉄腕バーディー」劇伴、Igorrr"Infinite Loop"、ジェーン・チャイルド"Don't Wanna Fall in Love"、Disasterpeace"Three"、SubPixel"Outage with Candles"、ミルト・ジャクソン"Bluesology"のカヴァーを収録。
全13曲。収録内容は「スーパーマリオカート」「ドンキーコング64」「エスカ&ロジーのアトリエ」「トキメキファンタジー ラテール」「Treasure Master」「Borne in Blood(「ブラッドボーン」インスパイアアルバム)」「ライブ・ア・ライブ」「シャイニング・フォース外伝 ~ファイナル コンフリクト~」「シェンムー」。ゲーム音楽以外では、Carl Åborg"Dreamplay"、映画「秘密の花園」劇伴、Rustie"Hover Traps"、ティグラン・ハマシアン"Song for Melan and Rafik"をカヴァー。
先ごろ三度目の来日も果たしたイタリアン・プログレッシヴ・ロック・バンド アルティ・エ・メスティエリは、ギタリストのジジ・ヴェネゴーニ、キーボーディストのベッペ・クロヴェッラ、そしてプログレッシヴ・ロック界の無限動力炉ドラマーとして現在も名を馳せるフリオ・キリコを中心として1973年に結成、1985年の活動停止までに五枚のアルバムを発表。その後、1999年に再結成を果たし、現在もキリコを中心に活動を続けております。本作『Universi Paralleli』は、フルアルバムとしては『Estrazioni』(2005)以来、約十年ぶりとなる新作アルバム。ですが、『Estrazioni』は'70年代に制作されながらもお蔵入りとなってしまった楽曲のリメイクアルバムだったので、純粋な新作アルバムとしては復活作となった『Murales』(2000)以来、約十五年ぶりとなります。そう考えると長いものですが、そのあいだに二度の来日公演や、そこでのパフォーマンスを含む三枚のライヴアルバム、そして探検家ジョヴァンニ・バッティスタ・ベルツォーニをテーマとしたアルバム(しかし2015年現在も未リリース)からの先行曲を収めた四曲入りマキシシングル『Il Grande Belzoni』(2009)など、リリースには事欠かない状況ではあったので、待ったという感はさほどないのですよね。それでも、これが満を持してのリリースであることに違いはありません。
“平行宇宙”を意味するアルバムタイトル、そして象徴的なオブジェクトがあしらわれたアルバムジャケットから、本作は過去の実績を踏まえながらも、焼き直しやセルフオマージュに堕さないという決意のうかがえるものになっています。「芸術家と職人」という自らのバンド名を改めて体現するかのようです。前作『Il Grande Belzoni』は歌もののイタリアン・ロックといった印象に終始していましたが、今作は『Murales』からさらに焦点を絞った形で、地中海の薫りが爽やかにくすぐるプログレッシヴ・フュージョンを展開しています。メンバーは、キリコとヴェネゴーニを中心に、近年活動をともにしているヴォーカリスト、ベーシスト、ヴァイオリニスト、サイドギタリストの四人、そしてレーベルオーナーとして多忙のため不参加となったベッペ・クロヴェッラに代わり、VENEGONI & CO.のキーボーディスト/アレンジャーであるピエーロ・モルターラを迎えた計七名。そこにオリジナルメンバーのアルトゥーロ・ヴィターレと、KING CRIMSONのメル・コリンズ、ふたりのサックス奏者がフィーチャリング・ゲストとして参加しています。
アルバム冒頭を飾る"Alter Ego"は、ヴェネゴーニの紡ぐ哀愁のメロディラインの美しさが際立つ畢生の名曲。しなやかさと力強さを兼ね備えたクロスオーヴァー/プログレとしてすでに向かうところ敵なしといったところです。後ろでキリコがガスガスと手数を叩き込み、表ではメル・コリンズのサックスによる印象的なテーマをフィーチャーしたスピーディなジャズ・ロック"Dune"を経て、メルが今度はフルートで客演する"Pacha Mama"と、本作のテーマが色濃く反映された"L'ultimo Imperatore"という二曲の歌ものバラードへ。特に後者は本作随一のスルメ曲といっても過言ではなく、中盤からラストにかけて繰り広げられるキーボードとヴァイオリンのソロ回しもスリリングです。本作のヴォーカル曲はわずか四曲ですが、イアーノ・ニコロの声はきっちりと存在感を示しています。ヴェネゴーニのペンによる"Johann"、そしてヴェネゴーニ/モルターラのコンビによる"Finisterre" "Linea D'omebra"は、やはり哀愁のメロディが全面に出たインストゥルメンタル。ふくよかな響きに酔わされます。アルトゥーロ・ヴィターレをフィーチャーした明快なイタリアン・ロック・チューン"Restare Immobile"。"Borea" "Pandora"は、それぞれアコーディオンとヴァイオリン、ヴァイオリンとアコースティック・ギターの軽快な絡みが聴きもの。"Comunicazione Primordiale"は完全なるドラムソロで、筋肉モリモリマッチョマンの独壇場です。本編ラストの"La Luce In Fondo Al Tunnel"ではふたたび冒頭の路線に回帰し、吹き抜ける風のような印象でアルバムを締めくくります。日本盤ボーナストラックの"La Porta Del Cielo"はメロトロンの音色も滲み出たどっぷりと濃いプログレ曲。アルバムの他の曲と齟齬なく、カッチリとハマり込んでいます。
'67年にイタリア/西ドイツ/スペインで共同製作されたローダンの実写映画版「Perry Rhodan – SOS aus dem Weltall(独題)」のサウンドトラック。映画はシリーズ第一巻『スターダスト計画』が原作で、いちおう『...4...3...2...1... デス、ミッション・スターダスト』という題で日本でもかつてソフト化されていました・・・・・・本編の出来はお察しのようですが。ライブラリーミュージックやマカロニ映画のサウンドトラックを手がけたMarcello Giombini(マルチェロ・ジョンビーニ)がスコアを手がけているので、その筋の人にはたまらないのではないかと。いまではiTunesでサウンドトラックの全曲が買えます。
■SENSUS『Perry Rhodan ... More Than A Million Lightyears From Home ...』(1986)
アルゼンチン・ブエノスアイレスの作曲家/ピアニスト ワルド・デ・ロス・リオス(1934-1977)。音楽家の父と母のあいだに生まれ、幼少期より母のツアーに帯同する形でピアニストとして活動。国立音楽院では、テオドロ・フックスとアルベルト・ヒナステラから指導をうけております。バンド活動後、アメリカ、そしてスペインへと渡り、フリオ・イグレシアス、カリーナ、マリ・トリーニ、カミーロ・セストなど、数々の著名な歌手のアレンジャーを手がけ、一世を風靡します。スペインの国民的歌手であるミゲル・リオスが、ベートーベンの交響曲第九番「喜びの歌」を歌い上げ、各国でヒットを記録した'70年の"Song of Joy"でのオーケストラ・アレンジがよく知られています。彼はピストル自殺により四十三歳という若さで亡くなっておりますが、生前に制作した作品は膨大な数にのぼり、ポップス編曲のみならず、イージーリスニングやタンゴ、クラシック作品、「象牙色のアイドル」(1969)「荒野のライフル」(1971)、「ザ・チャイルド」(1976)など、TVや映画の劇伴音楽も数多く手がけております。
本アルバムは、彼の没後三十年目にリリースされたコンピレーション・アルバム。ピアノ/オルガン、ヴィブラフォンを擁したクインテットで60年代に録音した音源を十五曲収録しています。大半はオリジナルですが、"Metamorfosis Folklórica"はバッハの二声のインヴェンションのアレンジで、アルバムの最後の三曲はアレンジ。ザンバやチャカレーラといったフォルクローレや、クラシックの要素をポップス/ジャズになめらかに落とし込む非凡なセンスが発揮されており、師であるヒナステラからの影響もうかがわせる鮮やかなものです。華麗なピアノと小気味のよいパーカッションの絡みでグイグイと引っ張ってゆく"El Hacha Y El Quebracho"や、ヴィブラフォンとピアノの瀟洒な響きに酔わされるラウンジ・ジャズ"Zamba en Nueva York" "Sevillanas"。浮遊感に富んだ趣向が結果的にサイケデリックに感じさせる"El Algarrobo Que Hablaba Con los Pájaros" "De Donde Vienen las Guitarras"、絶妙に挿入されるストリングスでよりシネマティックな情景を喚起させる"El Último de los Matacos"など、いずれも柔らかで洗練されたアレンジの効いた珠玉の仕上がり。時を経ても古びない輝きが詰まっています。