2016年7月30日土曜日

侍、怪談、伝奇そして神話。北欧カブキメタル第三章 ― WHISPERED『Metsutan/滅譚 - Songs of the Void』(2016)



 ここ日本でも着々とファンを増やしているフィンランドのメロディック・デスメタル・バンド ウィスパード。幼少の頃より日本文化に慣れ親しんでいたというフロントマンのJouni Valjakkaが2001年に結成したメロデスバンド Zealotを母体とし、2004年にデモEP「Bloodthroned」をリリース後、WHISPEREDに改名。2006年から2009年にかけてデジタルリリースした二枚のデモEPと一枚のシングルの楽曲を再録/再収録し、武蔵坊弁慶と牛若丸の五条大橋の決闘をテーマにした"Thousand Swords"や、15分を越える大曲"Blade In The Snow"などを追加したフルアルバム『Thousand Swords』で2010年にデビューを飾ります。その間、ベーシストのKoponeとドラマーのAtte Pesonenが共に脱退し、後任としてValtteri ArvajaとToni Pöllänenが加入。そのToniも2010年に脱退し、アルバムではFORCE MAJEUREやFinntroll(ライヴサポート)のメンバーでもあるJaakko Nylundが叩いています。メンバーの変動はその後も続き、2011年にJussi Kallavaが四代目ドラマーとして加入、Valtteriが脱退し、後任ベーシストとしてDREAMTALEよりMikko Mattilaが加入。2012年にはキーボーディストのMika Karjalainenが脱退と、不安定な状態が続いていたのですが、2013年6月にようやく新曲"Jikininki"をリリース。日本語のモノローグ()で幕開けする同曲は食人鬼の絶望と慟哭をヴァイオレンスに描き出したもので、小泉八雲の怪談「食人鬼(じきにんき)」のストーリーを下敷きに……しているわけではなかったのですが、タイトルだけのいただきであってもハッタリは見事に効いていますし、カブきにカブきまくったバンドのヴィジュアルを体現した大仰なキラーチューンとして非常に秀逸です。同年11月には北欧メタルイベント「Loud & Metal Mania」でBATTLE BEASTと共に初来日も果たし、2014年2月には、"Jikininki"をオープニングチューンに配した2ndアルバム『Shogunate Macabre』をリリース。クワイアコーラスや和楽器の多用でドラマティックな山場も増えた楽曲もさることながら、名匠、フレドリック・ノルドストロームのエンジニアリングを得て全面的にグレードアップ。天照や河童などもテーマにしつつも、詞世界は一貫して亡魂が飛び交い、血生臭く殺伐としております。同作は日本コロムビアから国内盤でもリリースされ、名実ともに彼らの出世作となりました。

「夢を見た 枯れ野の夢 その枯れ野 行けども行けども 人ひとりおらぬ」
黒澤明の『乱』の一文字秀虎の台詞です。


Metsutan
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Whispered
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『Shogunate Macabre』リリース後、Zealot時代から十数年にわたり活動を共にしてきたギタリストのPyrypekka Ruponenが脱退し、ついにオリジナルメンバーはJouniひとりとなってしまいましたが、KRUSEYERやDRAWN AWAKEのベーシストであるKai Paloを加入させ、Mikkoをギター/三味線パートにコンバートさせることでラインナップを固め、約二年ぶりとなるアルバム『Metsutan/滅譚 - Songs of the Void』がここに完成。2015年6月、2016年4月にそれぞれデジタルリリースされた"Sakura Omen" "Strike!"を含む全10曲の本作は、過去二作にもアレンジや演奏で参加していたペルッツ・ヴァンスカ(TURISASのヴァイオリニスト オッリ・ヴァンスカの実弟)との共同プロデュース。より伝奇感が押し出されたアルバムジャケットアートもさることながら、楽曲的にもこれまで以上に「和」のイメージを追求しています。イントロダクション"血ノ舞 - Chi No Odori"からの"Strike!"は、刀による一閃をイメージしたというまさに必殺の一曲。"Exile Of The Floating World"は、数多くの妖怪絵・無残絵を描いた幕末の浮世絵師 月岡芳年の画風をフックてんこ盛りの楽曲で表現。"Sakura Omen"では濃厚な死のイメージとともに武士道を描き、"劍聖 - Kensei"では宮本武蔵の初の決闘をテーマとしています。また、ライナーノーツには「Mighty Final Melody in Kensei by 竹原裕子」として、「ロックマン6」「ロックマンX」「ブレスオブファイア2」などのコンポーザーである竹原さんの名前がクレジットされているのですが、彼女に対するバンドからのリスペクトがメロディラインに込められているようです。なるほど、ロックマンXっぽいかも。「クタバレ! キエロ!」「シニタマエ! キエロ」のバッキングシャウトや、入魂のギターソロも印象的な"Our Voice Shall Be Heard"では渾沌たる魂の慟哭を、"月明 – Tsukiakari"では非道の主君の行いに、陰腹を切って訴える忠臣の壮絶なる姿を描写。竹笛とオーケストレーションで壮麗なイメージを喚起させるインストゥルメンタル"Warriors of Yama"は、和風というよりはむしろアジアンな印象なのですが、このたまに妙にパチモン臭くなるところも彼らの一種の魅力かもしれません。怒涛のコーラスですべてを押し流すエピックでハイカロリーな疾走メロデスチューン "Victory Grounds Nothing"のやりすぎ感も微笑ましい。もはや恒例となったラストの10分越え大曲ですが、今回の"Bloodred Shores of Enoshima"は、鎌倉/江ノ島に伝わる『江島縁起』に記された、弁財天と五頭の龍の悲恋の物語「五頭龍伝説」をコンセプトにした“五部構成”の組曲。まずもってこの伝説を取り上げたバンドのセンスが素晴らしすぎるのですが、楽曲構成も微塵の緩みがない、全編が山場ともいえる圧巻の構成。高密度のドラマの果ての寂滅とした余韻にも心を打たれます。




http://www.whisperedband.com/
https://www.facebook.com/whisperedband
https://www.youtube.com/channel/UC7daCsikke2DDjSG27xcOWw


Whispered stream new album Metsutan - Songs Of The Void in full
(from Teamrock|2016.05.13)
アルバムの全曲のフル試聴も可能。

Interview With Whispered
(from SoundScapeMagazine|2015.10.28)




【余談】

■WHISPEREDの一連のアルバムアートワークを手がけられているTOK氏は神奈川在住のグラフィックデザイナー。TURISASのアルバムやTシャツなども氏のデザインであり、Behanceのアカウントではもろもろのラフ画を見ることができます。

https://www.behance.net/tokmr
http://tokmr.com/



『Shogunate Macabre』の国内盤にはボーナストラックとしてファイナルファンタジーVIIの"闘う者達"、「銀牙 -流れ星銀-」の主題歌"流れ星 銀"の秀逸なアレンジ・カヴァーがそれぞれ収録されたほか、2015年にリリースされたデジタルシングル「Sakura Omen」のB面にはロックマンXのブーメルクワンガーステージのテーマをカヴァーしていました。前述したアルバムのクレジットにおける竹原裕子さんへのラブコールといい、ロックマンXはJouni氏にとって特に思い入れのあるタイトルのようです。とあるインタビューでは「ゲームミュージックは長い間聴いてきたし、カヴァーするのは楽しいから将来的にもっとやっていきたい」「ファミコンやスーパーファミコンゲームのサウンドはとにかくすげえメタルだ」とも述べていました。


2016年7月27日水曜日

二年間でアルバム七枚。カナダのストレンジ・ポップ職人の快(怪)進撃は続く ― Terriblething『Chucharrón』(2016)

 昨年からミュージックインストラクションビデオなどをYouTubeにアップし始め、ピーター・ヘンリックという名前も判明。フランク・ザッパやBEATLES、QUEEN、TALKING HEADS、Mr.Bungle、PRIMUSなどからの音楽的影響も公言し、「謎のおじさん」から「愉快な面白おじさん」にイメージチェンジ。たゆまぬリリースでミクスチャーな音楽性にもますます磨きのかかるカナダの奇才ミュージシャン Terriblething。氏については以前も取り上げていますので、まずはこちらをご参照をば。「へえ、何から聴いたらいいの?」という人には、まず"Yuko San"をオススメいたします。




素性不明、方向性不明、中毒性高し。謎が謎と謎を呼ぶプログレ・アーティスト Terrible Thing

奇才カナダ人、バンクーバーで炸裂~二作目の奇作をリリース ― Terrible Thing『Journey to the Centre of Zorn』(2014)


『Journey to the Centre of Zorn』発表後、彼の活動はますます活発化しています。まず2014年12月19日に三作目『The Depths of Krang』をリリース。十人近いメンバーの名前がクレジットされており、バンド体制か!?……と思わせつつ、やっぱり一人でつくっています。それから四ヵ月後の2015年3月27日に四作目『Antighost』をリリース。一方で、この頃からYouTubeにも顔出しするようになりました。再び四ヵ月後の2015年7月30日に五作目『Loquarion Modesto』をリリース。まずはアルバム三曲目"Friendly Sushi"を聴いてスシと和解せよ。それからしばらく期間が空き、約十ヵ月後の2016年5月17日にリリースされた六作目『Suck It Reagan』では、突如としてパンク/ハードロック化。それでは聴いてくれ、「I'm Scared My Dick Will Fall Out of my Pants (パンツからちんこがこぼれるのが怖い)」。間髪を入れず、約一ヵ月半の2016年6月29日に七作目『Too Many Planets』をリリースし、自己最速記録を更新……と思いきや、それからわずか十八日後、7月16日に八作目『Chucharrón』をリリース。あっという間に記録を大幅に塗り替えました。アルバムとしてもこれまでの集大成のような仕上がりになっており、英米ロック/ポップスからの影響を独自のユーモア精神とともに昇華したストレンジポップスメイカーの矜持を感じさせてくれる快作だと断言したい。今回もダウンロードはname your price(投げ銭)。さっそくダウンロードしてお友達にも聴かせまくろう。




https://www.facebook.com/terriblethingmusic
https://www.youtube.com/channel/UCy0iZjfKDaoWfG-QmsU8uLQ

2016年7月25日月曜日

『ファイアーエムブレム G.S.M. NINTENDO 3』(1990)

「ファイアーエムブレム」‾G.S.M.NINTENDO 3
ゲーム・ミュージック
ポニーキャニオン (1990-05-21)
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 シミュレーションRPGの嚆矢となった〈ファイアーエムブレム〉シリーズ(FE)第一作目であり、1990年4月にファミコン用ソフトとしてリリースされた「ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣」は、昨年、発売から25周年を迎えました。1990年5月には『ファイアーエムブレム G.S.M. NINTENDO 3』(ポニーキャニオン/サイトロン)、6月にはアキハバラ・エレクトリック・サーカス(松武秀樹/入江純)の編曲・演奏による『Toy Music 2: Fire Emblem』(東芝EMI)、9月には林有三氏のアレンジによる『ファイアーエムブレム ~キャラクターテーマ集~』(日本コロムビア)と、同作の関連CDが三つのレーベルをまたいで立て続けにリリースされているのも興味深いところです。今回取り上げる『ファイアーエムブレム G.S.M. NINTENDO 3』は、馬場由佳(現 辻横由佳)さんのオリジナル曲を、マックス・アレックス氏と、『R-TYPE II G.S.M. IREM 2』『ゲームボーイミュージック G.S.M. NINTENDO 2』なども手がけられた高西圭氏のお二人がアレンジしたもの。最後に収録されている1トラックメドレー"エンディング・オムニバス編〈オリジナルバージョン〉"のみオリジナル音源です。四曲を手がける高西氏のアレンジはシンセサイザーによる打ち込みで、原曲のイメージをオーソドックスにグレードアップさせた仕上がり。マップBGM1と戦闘BGM2をビートが効いたアレンジでトリッキーにつなげた"反撃!!"が特に聴きものです。一方、七曲を手がけるマックス・アレックス氏のアレンジは、生演奏が主体。荘厳なチャーチオルガンアレンジで聴かせる"マルスの決意"や、アコースティック・ピアノソロによる"戦線布告!!"のほか、"決死の突撃" "選ばれし者たち"では思いっきりロック/フュージョンに振り切っています。80年代以降のKING CRIMSONやYESというか、エイドリアン・ブリューやトレヴァー・ラビンに感化されたような部分もあり、アレンジャーのプログレ趣味がどこか微笑ましい。当のマックス氏のプロフィールは全くわからないのですが、本作以外でマックス氏がクレジットされた作品も見当たらないため、誰かの変名である可能性が高そうです。




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『ファイアーエムブレム G.S.M. NINTENDO 3』
CT [PCTB-00007 |ポニーキャニオン|1990.05.21]
CD [PCCB-00029|ポニーキャニオン|1990.05.21]


01. 遙かなるアリティア (オープニング)
02. マルスの決意 (各マップの始まり)
03. 戦線布告!! (マップBGM2)
04. 反撃!! (マップBGM1~戦い2)
05. 決死の突撃 (マップBGM3~戦い3~戦い1)
06. 解放~ウイニング・マーチ〈歓喜〉 (勝利~勝利の歌)
07. 選ばれし者たち (最終マップBGM・プレイヤー側)
08. 恐怖のしもべたち (最終マップ・コンピュータ側)
09. メディウス〈猛り狂うドラゴン〉(戦い4)
10. 英雄ロードマルス (勝利の会話)
11. 人々の祈り (エンディング)
12. エンディング・オムニバス編〈オリジナルバージョン〉


COMPOSED by 馬場由佳

②③⑤⑥⑦⑨⑩
ARRANGED by MAX ALEX
RECORDED at KANNONZAKI MARINE STUDIO, Mar. 1990
ENGINEERED by 三上義英
ASSISTANT ENGINEERED by HIROKAZU FUNAHASHI

PLAYER:
MAX ALEX (Keyboards & Programming)
鶴来正基 (Acoustic Piano)
成田真也 (Guitars)
KENJI SHOW (Manipulator)


①④⑧⑪
ARRANGED by 高西圭
SOUND OPERATED by TATSUO YAMAGUCHI
RECORDED at LIGHT STUDIO, Mar. 1990
ENGINEERED by HIROKI MURAOKA
ASSISTANT ENGINEERED by KOH-ICHI HOMMA


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ファイアーエムブレム 新・暗黒竜と光の剣 オリジナル・サウンドトラック
ゲーム・ミュージック
Aniplex Inc.(SME)(M) (2008-12-03)
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 プログレといえば、『ファイアーエムブレム 新・暗黒竜と光の剣』のサントラのライナーノーツに掲載されている、成広通氏(FEシリーズプロデューサー)と辻横由佳さんの対談のなかで、興味深いくだりがあります。前々から感じていた辻横さんの楽曲から感じるプログレっぽさに合点がいった次第。以下、引用。


辻横: そうですね。『ファイアーエムブレム』のサウンドは、よく、オケものみたいって言われてるんですけど、実は『暗黒竜』のジャンルとしては、オーケストラでは決してなくて、基本的にはプログレッシブロックがルーツです。
成広: なかなかわからないよね。聞いた人は。
辻横: 学生のときにプログレが好きで、たくさん演奏していました。オーケストラぽく、というのは、当時のゲームが壮大なイメージの方向になっていった時代でもあるんですけど、同じく『ファイアーエムブレム』のプロデューサー、ゲームデザイナーの強い推しもあってオーケストラっぽいもの、壮大なものをという注文があったのでそういう方向を目指しました。キレイなもの=本当に美しく、お姫様=お城の上でか細く座っている、というような美しい世界観を、色でたとえるなら白や水色のイメージを求められていたんですが…それに対して私が書くものは、ジャズロックとか、ロック系で決して上品なお姫様ではなく、『暗黒竜』の色は、紫だ、と。色々な色が混ざっているというイメージで“紫”言われたのだと思います。何々風~とくくれない、ごちゃ混ぜな印象だったのかな。

――

辻横: …あの、プログレは、好きな音楽というわけではないんです。やってたというだけで…。
成広: え!? 好きでやってたんじゃないの?
辻横: 学生時代は軽音の人たちと、いかにカッコよく弾けるとか、早く演奏できるかとか、割とテクニックをみんなに披露しあうような演奏をやっていたんですよ。必然的にキーボードでもより複雑なものとか、電子楽器で新しい音を作るとかそういうところにいたのを活かしたので、まぁ好きなのは好きなんですけど。
成広: それは好きでしょ!
辻横: 今も好きと思われるとちょっと…。ここであんまりプログレって言うと、「辻横さんはプログレが好き」っていうのが定着しちゃうと思って。
成広: 新境地だ(笑)。


 「新・暗黒竜」でも"侵略の徒"(SFC版"危機"のリメイク)や、"奪還への戦い" "激突!二つの正義"(新規追加曲)あたりを聴いてみると、それっぽさは感じていただけるのではないかと。




辻横由佳『スペースバズーカ』『メタルコンバット』(SFC/1993)
インテリジェントシステムズ開発によるガンシューティング。こちらでの辻横さんの楽曲はFEシリーズとは一味違ったハードでトリッキーなものが多く、興味深いです。

2016年7月23日土曜日

「シンガーソングイラストレーター シマダソウジ」、唯一のソロアルバム ― シマダソウジ(島田荘司)『LONELY MEN』(1976)

「僕にしかできない仕事を、僕はやりたいんですよ。解るでしょう?」
「はあ……。レコードなんて、入れないんですか?」
「昔、作ったことありますよ」
「いつ頃です?」
「ずいぶん昔。もう忘れちゃったな。マクラフリンがまだジャック・ブルースとセッションやってたりしてた頃ですよ」

(島田荘司「疾走する死者」(『御手洗潔の挨拶』収録)より)




〈御手洗潔〉シリーズ、〈吉敷竹史〉シリーズの生みの親にして、日本の本格ミステリシーンの牽引者。現在も精力的に作品を発表し続けている作家、島田荘司氏。1981年に講談社から刊行された『占星術殺人事件』で本格的に作家デビューを果たす氏ですが、20代の頃は運転手、イラストレーター、ライター、ミュージシャンなど、さまざまな顔を持っていました。本作は1976年10月、島田氏が28歳を迎えたばかりの頃にポリドールからリリースされた、シンガーソングライター「シマダソウジ」としての唯一のソロアルバム。「SINGER SONG ILLUSTRATER SOUJI SHIMADA」の文字が目立つジャケットイラストも、島田氏の筆によるものです。さらに、作詞、作曲(半分は「サン」こと三谷光男氏と共作)、編曲(ストリングスアレンジふくむ)も手がけ、ヴォーカル/コーラス、ギター、そしてメロトロンの演奏も担当されています。ゲストミュージシャンでブレッド&バターや、同デュオのアルバムやライヴに参加されていた松島通昭氏や松永進氏、菅井義男氏の名前があるのもポイント。ブレッド&バターの二人は、メロウな風が吹き抜ける冒頭曲"LONELY MEN"のほか、ラグタイム風の演奏でノる"ラジオは唄う"、ビターなブリティッシュ・ポップ調の"一人で"の3曲で、あの美しいコーラスハーモニーを響かせています。また、タメの効いたヴォーカルで「根性、根性さ」とド直球なメッセージを歌い上げるファンキーなブラスロック"根性さ"や、スワンプ・ロックな"君は最高"、レゲエなムードの"もう君に夢中"はゴキゲンなナンバーですし、ストリングスアレンジをバックに歌い上げられる"熱い季節" "青春の頃"はさながらTHE MOODY BLUESみたいな趣。詞はラヴソングが多いのですが、"青春の頃" "地下鉄のカベに"からは、当時の島田氏のじりじりした感情の一端がうかがえるようにも感じます。




 オリジナルのレコードジャケットの裏では若かりし頃の島田氏の写真(ポーズをキメていたり、馬に乗っていたり)が載っていましたが、南雲堂から1995年にリリースされたCD再発盤ではかなり簡素なつくりになっており、歌詞カードとクレジットが記載された一枚紙が入っているのみです。せっかくの島田氏のジャケットイラストの上に南雲堂の住所と電話番号がクッキリと載っていたり、デザイン的にもちょっと残念なのですが、音楽関係の取り扱いのない出版社から自主制作盤のような形でリリースされたものである上、さすがに若い頃の写真まで改めて掲載するのは島田氏にとって気恥ずかしさがあったであろうことは想像がつくので、致し方ないでしょう。入手は大変ですが、レコードで探してみるのも一興だと思います。本作以外での、70年代の島田氏の音楽活動についてはあまり多くはわからないのですが、ヒカシューの前身バンド(プレ・ヒカシュー)のメンバーであり、民俗楽器奏者/民俗音楽研究者の若林忠宏氏が、高校時代に島田氏のロックバンドでシタールやタブラを弾いていたということが、若林氏本人の記述から判明しています。
http://www.musiqasangeet.com/gate.html


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SOJI SHIMADA『LONELY MEN』
LP [MP-3019|ポリドール|1976.10.21]
CD [DCI-26566|南雲堂|1995]

01. LONELY MEN
(作詞:ソウジ/作編曲:ソウジ&サン)

02. 根性さ
(作詞:ソウジ/作編曲:ソウジ&サン)

03. 熱い季節
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

04. ラジオは唄う
(作詞:ソウジ/作編曲:ソウジ&サン)

05. 街を呪うこともなく
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

06. 青春の頃
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

07. 君は最高
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

08. もう君に夢中
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

09. 一人で
(作詞:ソウジ/作曲:ソウジ/編曲:ソウジ&サン)

10. 地下鉄のカベに
(作詞:ソウジ/作曲:サン/編曲:ソウジ&サン)


All Songs Written by ソウジ
Composed by ソウジ(③⑤~⑨)、ソウジ&サン(①②)、サン(⑩)
Arranged by ソウジ&サン
Strings Arranged by エジソン&ソウジ

《Musicians》
ソウジ【島田荘司】(vocal, ovation guitar, mellotron, chorus)
サン【三谷光男】(gibson s.g. fender telecaster, mellotron, chorus)
松島通昭(drums, chorus)
松永進(fender precision bass, chorus)
菅井義男(percussions, chorus)
エジソン【渡辺孝好】(keyboards)

《Guest Players》
ブレッド&バター(chorus)①④⑨
篠原仁志(ヒトシ)(gibson les paul)
モグ(小倉秀一)(fender precision bass)

《Productive Staff》
ソウジ&サン(producer)
塚越一己(director)
伊藤昭男(engineer)
ソウジ(art direction & illustration)
腰山一生(recording manager)
寺本幸司(executive producer)













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“ずっと音楽が大好きで、20代はほぼ音楽中心の生活を送っていたんです。音楽活動ってお金がかかるし、人間関係も面倒くさいんですよ。レコードを出してもらえたこともあって、そろそろ一人で活動できることをやりたいなと思うようになったんです。”

《ダ・ヴィンチ》2016年6月号 島田荘司ロングインタビューより)


“一九七八年十月十二日の誕生日が来て、それまでやっていたイラストレーションや雑文の類の仕事を、すべて断った。しかしどうしても断わりきれないものがずるずると残ってしまい、ようやく小説を書きはじめられたのは、年が明けた一月二十六日深夜になった。”

(島田荘司「異邦の扉の前に立った頃」(『異邦の騎士』巻末)より)

2016年7月22日金曜日

HAKENのヴォーカリスト擁するプログレメタルバンド。30分一曲勝負のデビューEP ― NOVENA『Secondary Genesis』(2016)



 今やイギリスのみならず世界中から確固たる支持を得ているプログレッシヴ・メタル・バンド HAKEN。同バンドのヴォーカリストであるロス・ジェニングスを中心として2013年に結成されたノヴェナのデビューEPが、7月22日付けでリリース(自主制作)されました。ロス以外のメンバーは、2013年に解散したプログレ・メタル・バンド Bleeding Oathのハリソン・ホワイト(guitar, keyboard)、メタルコアバンド No Sin Evades His Gazeのダン・ソーントン(guitar)とマット・ロウ(bass)、同じく2013年に解散したメタルバンド A Deeper Dreedのキャメロン・スペンス(drums)の四人。また、ゲストでデスメタルバンド Slice the Cakeのギャレス・メイソンがグロウル吐き捨てヴォーカルで激情をガンガンにむき出しにしており、ロスのメロディアスなヴォーカルとのコントラストを成しています。本作『Secondary Genesis』は、約32分の1トラック一本勝負という豪胆な試みがなされ、"Lost Within a Memory"(0:00~7:50) "Breathe"(7:51~17:50) "Secondary Genesis"(17:51~31:59)の三パートで構成されたコンセプト仕立て。時にグルーヴ・メタル寄りのリフワークに可変するバンドサウンドは、アレンジに凝るというよりもストレートなインパクトを重視したもの。ストリングスアレンジを効果的に挿入してのドラマティックな場面もありますが、HAKENよりもBleeding OathやNo Sin Evades His Gazeのカラーが強く出ている印象。練りこまれているのですが、楽曲としては全体的に凡庸に感じますし、大作主義とゲストの好演に引っ張られ過ぎていて、各メンバーの在籍している(していた)バンドのファンに対してアピールするにしても弱いです。ロスにはノリにノっているHAKENでの活動がありますし、今後、バンドとしてどれだけ力を入れて活動できるのかというのもいくらか気がかりなところです。




https://www.facebook.com/NovenaBandUK
http://novena.bigcartel.com/

2016年7月20日水曜日

トレードマークはケツアゴ。マンチェスターの“ターボ・プログレ”デュオのラストアルバム ― Cleft『Wrong』(2016)




 THE MARS VOLTAやOCEANSIZE、Adebisi Shankなどから影響を受けたギタリストのダンとドラマーのジョンの二人による、イギリス・マンチェスターのプログレ/マスロック・インストゥルメンタル・デュオ クレフト。ユニット名は「割れ/裂け」を意味し、バンドのイメージキャラクターはケツアゴの青年ということで、アゴに妙なこだわりを持った人たちでもあります。2011年に結成され、2012年に4曲入りEP『Utter』でデビューした後、同年9月に5曲入りEP『Whale Bone』をリリース。その後、一年半ほど間が空くものの、2014年2月に1stフルアルバム『BOSH!』、同年7月と8月にライヴ音源6曲入りEP『Exit​…Stage Cleft』と2曲入りチャリティシングル「Onan's Boulder/Me, Sugar」を立て続けにリリース。カムバックを果たしたかに見えたのですが、残念なことに、今年の4月にデュオは解散を発表。フェアウェルツアーに先がけて5月にリリースされたこの2ndフルアルバム『Wrong』がラストアルバムとなりました。四つのスタジオを渡り歩いて録音された本作は、先行配信された"Onan's Boulder" "Me, Sugar"を含む全12曲。バウンシーなリフと歯切れのよいドラムを軸に、コンパクトに切って投げるマスロックチューンは、2ピースジャムバンドゆえの瞬発力や足回りの速さが最大限に発揮されたもの。へヴィなグルーヴとタメの効いた"Frankenstein" "D.O.N.G. 808"や、じわじわと追い込んでゆくかのような"Me, Sugar"、軽やかなシフトチェンジがキマる"Onan's Boulder"などは、「14分の楽曲を3分に凝縮する」という例えで表される彼らのスタイルが堪能できる楽曲です。



http://www.cleftband.co.uk/
https://www.facebook.com/cleftband/

2016年7月19日火曜日

ポーランド発「子ども向けのポスト・サイケデリック・ロック」― The Gentle Art Of Cooking People『O』(2016)



 ポーランド・クラクフの四人組サイケデリック・ヘヴィ・ロック・バンド ザ・ジェントル・アート・オブ・クッキング・ピープル。バンドについての情報があまりにも少なく、2006年結成の四人組のインストゥルメンタルバンド/フロントマンの名はペトロ(piotr)/もっさりとしたヒゲを装着してライヴパフォーマンスを行っている、ということはわかったものの、それ以外はいまだ謎のヴェールに包まれています。十年越しのデビューアルバムとなった本作は、いずれも7~10分レンジで収められた全四曲。デジタル版のほかにLPにCDの付属した仕様でもリリースされており、日本盤ふうのデザインにかなりこだわったつくりになっているのが面白い。ご丁寧に「定価¥2500」とまでついているものだから、日本でディストリビュートされているのかと勘違いしてしまった……(笑)。「子ども向けのポスト・サイケデリック・ロック」という文言が書かれているのだけど、これはべつに奇をてらっているわけでもなんでもなく、確固たるバンドのスタンスです。なるほどそう考えると、ポジティヴなメッセージのあるサウンドに思えてくる。"king tukan II"では、HAWKWINDからの影響もそこはかとなくうかがわせるヘヴィなスペース・ロック、"fly like a bird die like a fly"では10分半に渡り叙情性あふれるポストロックを、"dead horse"ではリフと轟音の怒涛の波が押し寄せ続けるポストメタルを、"flying sharks sleeping tardigrades"ではドゥーム/ストーナー・ロックをそれぞれ展開しており、微妙に位相を変えたサウンドが楽しめます。


https://www.facebook.com/tgaocp/

2016年7月18日月曜日

千変万化・豪華絢爛の粋を尽くした、やりたい放題な傑作 ― 小暮伝衛門『好色萬声男』(1990/2016 remaster)

 今年の二月に聖飢魔IIメンバーが90年代にリリースしたソロワークス五タイトルがBlu-spec CD2&リマスタリング再発されました。このうちルーク篁氏とRXはオリジナルアルバムとライヴアルバムをカップリングしての二枚組仕様でもあります。


■ 小暮伝衛門『好色萬声男』
■ ルーク篁『篁 & SOAKING WET LIVE -special edition-』
■ RX(ライデン湯沢・ゼノン石川・妖怪マツザキ様)『CHEMICAL REACTION -special edition-』
■ エース清水『TIME AXIS』
■ デーモン小暮『DEMON AS BADMAN』


好色萬声男
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『好色萬声男(こうしょくよろずこえおとこ)』は、デーモン小暮閣下が十万と二十ン歳の頃に小暮伝衛門名義で発表した実質的な1stソロアルバム。エース清水長官やライデン湯沢、妖怪松崎様といった聖飢魔IIメンバーをはじめ、爆風スランプの江川ほーじん&ファンキー末吉、C-C-Bの渡辺英樹、この少し後にJUDY AND MARYに加入する五十嵐公太、KILLING TIMEの藤井将登&帆足哲昭&斎藤ネコ、アースシェイカーの石原慎一郎、山弦の佐橋佳幸、仙波清彦、野村義男、神谷明、大川豊(大川興業総裁)など、ジャンルの枠を飛び越えて多数のゲストが結集。その他、琵琶、尺八、サックス、タブラ、コンガ、オーケストラなども含めるとゲストミュージシャンは数十名にも及び、帯の惹句にある「古典文学との大融合、千変万化の文化大革命的雅ワールド・ミュージック」を絢爛に体現しています。伊達に十万年以上生きておりません。

  ファンク、ヒップホップ、AOR、プログレ、ハード・ロック、オペラ、歌謡曲、コント……と、音楽的にも、ネタ的にも入り乱れており(なお、「Demon Kogure」のクレジットが"地球戦士フリルマン"のところでは「Komon Degure」になっていたりもします)、渾沌とした構成でひたすらバラエティに富んでおります。閣下がその昔在籍していたスーパースランプ(爆風スランプの前身バンドのひとつ)の楽曲のセルフカヴァーである"さわりたい"や、ニュース同時通訳コント"ワールド・ネットワーク・ニュース"には思いっきりツッコミを入れたくなることウケアイ。諷刺の効きまくった一曲である"文明退化の音がする"の終盤で挿入される中山千彰氏の「天誅下してやる!」「許してくださいと言え!」というボイスは、当時放送されていた「デーモン小暮のオールナイトニッポン」での氏の持ちネタです。一方で、薩摩琵琶の独奏からヘヴィな変拍子プログレッシヴ・ロック・チューンへと展開する"桜の森(SPACE TRIP MIX)"は斎藤ネコ氏のキレッキレのヴァイオリンプレイがリードしていく強靭なバンドアンサンブルでド肝を抜いてきますし、これまたスーパースランプのセルフカヴァーである"穴があったら出たひ"は、タイトルや詞の下世話っぷりとは裏腹に、凝ったアレンジと炸裂するシャウトがストレートにカッコイイ(ラストは神谷明氏の「俺は、出る!」の一声で〆)。ファンキーなバンドサウンドとドラマティックなサビ、環境問題をテーマに扱ったシリアスな一曲"地上絵"も非常に存在感のある一曲です。

  カヴァー曲も充実しており、WALKER BROTHERS"In My Room"、ジャニス・ジョプリン"Half Moon"、FIFTH DIMENSION"Aquarius / Let the Sunshine In"などを取り上げているのですが、平家物語や李白の「月下独酌」、坪内逍遥の「新曲浦島」を詞に載せて歌い上げるという離れわざ。アダルティーなムードのファンク・チューンを展開する"HALF MOON ~月下独酌~"(江川ほーじん氏のスラップベースソロもここぞというところで炸裂)、朗々と歌い上げ、原曲以上に壮大なナンバーと化した"IN MY ROOM~祇園精舎~"など、ただのカヴァーで終わらせない流石の仕上がり。アルバム全体を通してやりたい放題の限りを尽くした内容は、二十年以上経った今聴き返しても色褪せません。


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小暮伝衛門『好色萬声男』

プロデュース:小暮伝衛門
コ・プロデュース:松崎雄一


01. 桜の森
(作詞:小暮伝衛門/作曲:小暮伝衛門、松崎雄一/編曲:松崎雄一)


デーモン小暮(vocal, chorus)
堀尾哲二(drums) from Tops
江川ほーじん(bass) from 爆風スランプ
Sgt.ルーク篁III世(guitars)
友吉明弘(薩摩琵琶)
ゼノン石川(fretless bass)
斎藤ネコ(violins) from KILLING TIME
松崎雄一(keyboards)


02. 縁(えにし)
(作詞・作曲:小暮伝衛門、松崎雄一/編曲:松崎雄一)


デーモン小暮(vocal, chorus)
ライデン湯沢(drums)
ゼノン石川(bass)
佐橋佳幸(guitars) from 山弦
黒石正博(tenor saxophone)
M.SAWADA、K.FURUDATE(chorus)
松崎雄一(keyboards)


03. HALF MOON ~月下独酌~
(詩:李白/作詞・作曲:JOHN HALL、JOHANNA HALL/訳詩:小暮伝衛門/編曲:松崎雄一)


デーモン小暮(vocal, chorus)
堀尾哲二(drums)
ゼノン石川(bass)
葛城哲哉(guitars)
江川ほーじん(guest bass)
山際祥子(chorus) from Tops
館野江里子(chorus) from Tops
松崎雄一(keyboards)


04. THOSE WERE THE DAYS
(作詞・作曲:GENE RASKIN/編曲:松崎雄一/編詞:小暮伝衛門)


デーモン小暮(vocal, chorus)
堀尾哲二(drums)
江川ほーじん(bass)
エース清水(guitars)
須賀直美(chorus) from VELVET PΛW
桐生千弘(chorus) from VELVET PΛW
松崎雄一(keyboards)


05. さわりたひ
(作詞・作曲:豊岡正志 (スーパースランプ)/編曲:松崎雄一/脚本:小暮伝衛門)


デーモン小暮(vocal, chorus)
五十嵐公太(drums)
豊岡正志(bass, chorus)
佐橋佳幸(guitars)
野村義男(chorus)
神谷明(chorus)
丸山涼子(chorus)
大川豊(stranger voice) from 大川興業
ARM JOE MATSUMOTO(chikan voice) from MUSIC CHASE
KIKUO HIRANO(chikan laughter) from MUSIC CHASE
松崎雄一(keyboards, chorus)


06. ワールド・ネットワーク・ニュース
(作曲:小暮伝衛門、松崎雄一/編曲:松崎雄一/脚本:小暮伝衛門)


デーモン小暮(primate's noises, news caster)
BOB DYRE(news caster)
ARIMA-JIRO-YAMADA(primate's voice)
松崎雄一(keyboards)


07. 文明退化の音がする
(作詞・作曲:小暮伝衛門/編曲:松崎雄一)


デーモン小暮(vocal, chorus)
堀尾哲二(drums)
江川ほーじん(bass)
野村義男(guitars, chorus)
菊池雅志(尺八)
黒石正博(saxophone)
中山千彰(tenchu voice)
Sgt.ルーク篁III世、大川豊、寺田弘治、K.TAKAHASHI、M.IWAKI、K.OKAMOTO、Y.TOTTORI、M.SUGISAKI、I.MORIGUCHI、H.KATO、T.NISHIOKA(chorus)
松崎雄一(keyboards, chorus)


08. 穴があったら出たい
(作詞・作曲:豊岡正志/編曲:松崎雄一)


デーモン小暮(vocal, chorus)
五十嵐公太(drums)
豊岡正志(bass, chorus)
葛城哲哉(guitars, chorus)
望月左之助(鼓, 掛声)
福原徹(笛)
菊池雅志(尺八)
丸山涼子、渡辺英樹、野村義男、神谷明、須賀直美、桐生千弘、平野安芸子、増田友希江、高澤祥子、Sgt.ルーク篁III世、HOI HIGUCHI、ARM JOE MATSUMOTO、GERU MOTOYAMA、SEBASTIAN HASUMI、Mr.KOBAYASHI、大川豊、K.TAKAHASHI、M.IWAKI、Y.TOTTORI、M.SUGISAKI、I.MORIGUCHI、T.NISHIOKA、K.OKAMOTO(chorus)
松崎雄一(keyboards, chorus)


09. 地球戦士フリルマン
(作詞・作曲:小暮伝衛門/編曲:松崎雄一)


Komon Degure(vocals)
Mr.BAKADAIKAN(drums)
Mr.KIN-SAN(bass)
Mr.SUKEBEI、Mr.KAKU KAKU(guitars)
コナン・ザ・松崎・グレート(keyboards)


10. 地上絵(「野生の王国」のテーマ)
(作詞・作曲:小暮伝衛門/編曲:松崎雄一)


デーモン小暮(vocal, chorus)
堀尾哲二(drums)
江川ほーじん(bass)
石原慎一郎(guitars) from EARTHSHAKER
松崎雄一(piano, keyboards)


11. AQUARIUS ~LET THE SUNSHINE IN ~帰墟~
(詩:坪内逍遥作「新曲浦島」より/編詞:小暮伝衛門/編曲:松崎雄一/作詞・作曲:GALT MacDERMOT、JAMES RADO、GEROME RAGNI)


デーモン小暮(vocal, chorus)
堀尾哲二(drums)
江川ほーじん(bass)
野村義男(guitars)
エース清水(guitars)
工藤隆(trumbones)
川嵜淳一(trumpets)
寺内茂(trumpets)
福原徹(笛)
仙波清彦(conga, engelhart)
帆足哲昭 [Whacho](conga, talking drum)
藤井将登(conga, tabla)
YOSHIE HIRAKAKURA(conga, quica, picoboo)
山際祥子(chorus)
館野江里子(chorus)
松崎雄一(piano, keyboards)


12. IN MY ROOM ~祇園精舎~
(詩:「平家物語」より詠み人知らず/編詩:小暮伝衛門/作詞・作曲:JOAQUIN PRIETO、PAUL VANCE、LEE TOCKRISS/編曲:斎藤ネコ)


デーモン小暮(vocal, chorus)
Newファンキー末吉(drums) from 爆風スランプ
渡辺英樹(bass) from C-C-B
佐橋佳幸(guitars)

【グレート栄田ストリングス】
GREAT EIDA、MACHYA SAITOH、KOHJIRO TAKIZAWA、TAKAAKI FUKUDA、JUN TAKEUCHI、KAORI KOYAMATSU、KAORU HORIUCHI、HACHIRU OHMATSU、SHIGEO FUJIMAKI、NAGISA KIRIYAMA、TAKASHI FUKUMORI、TATUSO OGURA(violins)
YUJI YAMADA、TOSHIKI AKIYAMA、TATSUYA MURAYAMA、SHUNICHI HIRAYAMA(viola)
RYOICHI FUJIMORI、YUTAKA OZAWA、SHIGEO HORIUCHI、RITSUO SATO(cello)
JUN SAITO、KYO KONNO(c.bass)

高田みどり(timpanis)
ジェイク・コンセプション(alto saxophone)
金城寛文(tenor saxophone)
数原晋(trumpets)
荒木敏男(trumpets)
河東伸夫(trumpets)
清岡太郎(trumbones)
村田陽一(trumbones)
岡田澄雄(trumbones)
山川恵子(harp)
松崎雄一(piano)
斎藤毅(conductor) ※斎藤ネコ

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2016年7月17日日曜日

シオカラーズファンへの「スルメ盤」 ― 『SPLATOON LIVE IN MAKUHARI ―シオカライブ―』(2016)

SPLATOON LIVE IN MAKUHARI -シオカライブ-
シオカラーズ
SMD itaku (music) (2016-07-13)
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 ゲームのみならずサウンドトラックも記録的なヒットとなった、任天堂のWiiU用ソフト「スプラトゥーン」。同作で高い人気を誇るアイドルユニット“シオカラーズ”のライヴアルバム&追加トラック集。2016年1月30日の「闘会議2016」(1st LIVE)、新曲初披露の場にもなった2016年4月29日の「ニコニコ超会議2016」(2nd LIVE)でのライヴパフォーマンスをアオリ、ホタルのMCパート入りで完全収録。ライナーノーツにはMCのイカ語を翻訳したテキストも全文掲載。楽曲のライヴアレンジは大山徹也氏が手がけ、バックバンドは、沢頭たかし[DORA](guitar)、AYUMU(guitar)、棒手大輔[BOH](bass)、畠中文子[BUN](keyboard)、小島億洋(drums)といった面々。1st LIVEのギターはDORA氏が、2nd LIVEのギターはAYUMU氏が担当されています。BOH氏はDAITAが率いたBINECKSや、BABYMETAL“神バンド”のメンバーとしても知られる六弦ベーシストですね。





 ライヴアレンジにあたっては原曲のコンポーザーである峰岸透氏、藤井志帆さんの両氏と大山氏との間ですり合わせがされ、テクノポップ感の強いオリジナル曲の方向性を活かしつつ、生バンドのサウンドとライヴ感もある仕上がりに。とくに"キミ色に染めて" "シオカラ節"はたっぷりとギターソロ/キーボードソロも挿入され、グッとロック感が増しています。また、新曲である"トキメキ☆ボムラッシュ"(アオリソロ)、"スミソアエの夜"(ホタルソロ)は、ゲームへの追加トラックというわけではないので、ゲーム本編のテンポに合わせるよりもシオカラーズの二人のそれぞれの特色を押し出したつくりにされたとのこと。ところで、裏打ちリズムと民謡的節回しでゆったりとした曲調の"スミソアエの夜"は、「酢味噌和え」だけではなく、昭和歌謡の"イヨマンテの夜"にもひっかけたのではないかと(スプラトゥーンはあっちこっちでヒネったりひっかけたりしたネーミングが散見されるので、なおさらそう思います)。





 既発のシオカラーズ名義の五曲はすべて再収録されています。もちろん、"トキメキ☆ボムラッシュ" "スミソアエの夜"の二曲はオリジナルヴァージョンでも収録。そして今回、「Shy-Ho-Shy」がヴォーカルを吹き込んだ"ハイカラシンカ"のデモトラック(Shy-Ho-Shy Demo)が収録されているのですが、このShy-Ho-Shyというのはシオカラーズを見出したプロデューサーの名前で、昨年リリースされた二枚組サントラ『Splatune』のシオカラーズのライナーノーツでも少しだけ言及されています。さらに、アオリ・ホタルの各種ボイスSE、「ハイカラニュース」のタイトルコール、シークレット・トラックで「バックステージでのアオリ・ホタルのやりとり」を収録と、まさに《シオカラーズ ファンディスク》といった内容。2015年11月公開PV12月公開PVで流れたニューアレンジヴァージョンの"Splattack! ~ Friend List" "Splattack!"も併録されており、時期的なタイミングで『Splatune』に収録できなかった音源へのフォローもされています。

https://www.nintendo.co.jp/wiiu/agmj/

スプラトゥーン - 任天堂公式チャンネル(YouTube)

『Splatoon(スプラトゥーン)』シオカラーズのライブCDミキシング現場を直撃! サウンドスタッフ、アレンジ担当大山氏のインタビュー&トラックリスト公開!
(from ファミ通com|2016.07.02)

峰岸透、藤井志帆『Splatoon O.S.T -Splatune-』(2015)

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『SPLATOON LIVE IN MAKUHARI ―シオカライブ―』
[EBCD-10003|KADOKAWA|2016.07.13]

01. オープニング~MC1 (1st Live)
02. キミ色に染めて (1st Live)
03. イマ・ヌラネバー! (1st Live)
04. MC2 (1st Live)
05. ハイカラシンカ (1st Live)
06. MC3 (1st Live)
07. マリタイム・メモリー (1st Live)
08. MC4 (1st Live)
09. シオカラ節 (1st Live)
10. オープニング~MC1 (2nd Live)
11. キミ色に染めて (2nd Live)
12. イマ・ヌラネバー! (2nd Live)
13. MC2 (2nd Live)
14. トキメキ☆ボムラッシュ (2nd Live)
15. スミソアエの夜 (2nd Live)
16. MC3 (2nd Live)
17. ハイカラシンカ (2nd Live)
18. MC4 (2nd Live)
19. マリタイム・メモリー (2nd Live)
20. MC5 (2nd Live)
21. シオカラ節 (2nd Live)
22. キミ色に染めて
23. イマ・ヌラネバー!
24. トキメキ☆ボムラッシュ
25. スミソアエの夜
26. ハイカラシンカ
27. マリタイム・メモリー
28. シオカラ節
29. ハイカラニュース タイトルコール
30. SE:声(アオリ) 驚き
31. SE:声(アオリ) 締め台詞
32. SE:声(アオリ) 笑い
33. SE:声(アオリ) 昂り
34. SE:声(ホタル) 挨拶
35. SE:声(ホタル) 発表
36. SE:声(ホタル) 生返事
37. SE:声(ホタル) 昂り
38. ハイカラシンカ (Shy-Ho-Shy Demo)
39. Splattack! ~ Friend List (2015 秋PV)
40. Splattack! (新ステージでダンシング )

Composed by
藤井志帆(track 1 - 29, 38, 39)
峰岸透(track 3, 12, 23, 39, 40)

Sound Effect by
辻勇旗

Vocal & Voice by
アオリ:keity pop
ホタル:菊間まり

Live Arranged & Directed by
大山徹也

DORA(guitar, track 1 - 9)
AYUMU(guitar, track 10 - 21)
BOH(bass, track 1 - 21)
小島“じんぼちゃん”億洋(drums, track 1 - 21)
畠中文子[BUN](keyboard, track 1 - 21)

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 ところで、7月7日~10日にかけてフランスで開催された「JAPAN EXPO 2016」ではシオカラーズ(フランスでの通称は“calamazones”)の海外遠征ライヴも行われたのですが(8日のプログラムだったとのこと)、そちらでもバックバンドを従えてのパフォーマンスでした。メンバーはいずれも現地のスタジオミュージシャンで、アレンジも日本版とはまた微妙に変わっています。フランスのスプラトゥーン公式facebookにバックバンドのリハーサル映像があがっており、そこで各メンバーの名前が明らかにされています。
https://www.facebook.com/SplatoonFrance/videos/vb.375670119259870/594288454064701/


François “Shanka” Maigret (guitar)
François “Matu” Matuszenski (keyboards)
Bob “Snake ” Dumont (drums)
Ben “Chap” Weislo (bass)


“シャンカ”ことフランソワ・メグレはオルタナティヴ・ハード・ロック・バンド No One Is Innocentのギタリスト。フランソワ・マチューゼンスキは80年代初頭から活動を続けているニューウェイヴ・ロック・バンド Indochine(アンドシーヌ)のキーボーディスト。ボブ・デュモンは80年代に活動したヘヴィメタルバンド Sortilège(ソルティレージュ)の元ドラマーという経歴の持ち主です。


2016年7月15日金曜日

原作:森川久美/音楽:小林克己、越部信義『南京路に花吹雪 イメージアルバム』(1983)

南京路(ロード)に花吹雪 (第1巻) (白泉社文庫)
森川 久美
白泉社
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 1980年11月から1981年2月にかけて白泉社〈LaLa〉で連載された中編「蘇州夜曲」に続き、同誌で1981年8月から1983年5月にかけて連載され、森川久美さんの人気を決定付けた漫画作品「南京路(ロード)に花吹雪」。1930年代半ばの上海租界を舞台に、左遷された日本人新聞記者の本郷義明と、日中混血の少年 黄子満の二人がシンジケートや軍部の暗躍や陰謀に巻き込まれてゆくシリアスなアジアン・ハードボイルド/アクションの傑作。花とゆめコミックスから単行本第3巻が刊行されてしばらくした頃に、日本コロムビアより同作のイメージアルバムがリリースされています。三人のヴォーカリストを立てた歌もの中心のアルバムであり、コンポーザーは、「おもちゃのチャチャチャ」をはじめとする童謡、「パーマン」(1967~1969年)や「昆虫物語 みなしごハッチ」(1970~1971年)「ドラえもん」(1973年)の主題歌や劇伴などを作編曲を手がけた越部信義氏と、近田春夫&ハルヲフォン、四人囃子(1976~77年にかけてサポートで参加)のギタリストである小林克己氏のお二人。越部氏は日中戦争開戦前夜の人々のドラマを描いた舞台「上海バンスキング」(1979年~)の劇伴の作編曲を手がけられており、時代設定をほぼ同じくする「南京路に花吹雪」のイメージアルバムへの氏の起用はまさにドンピシャリだったのではないかと思います。


南京路に花吹雪
南京路に花吹雪
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イメージ・アルバム
日本コロムビア (1995-02-21)
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 上野千佳子さん(同年に、大和和紀原作「アラミス'78」のイメージアルバムで矢野顕子作曲提供のヴォーカル曲を担当)がヴォーカルをとる"たそがれて上海" "ミステリーはいかが?" "上海ベイブルース"の三曲はいずれも越部氏の作編曲によるもので、ゆったりとスウィートなスウィングジャズ歌謡です。一方、小林氏の作編曲によるホンキートンクな"なんて悲しいシークレット"でヴォーカルをとるのは、現在ボイストレーナーとして活動されているKiKiさん(ちなみに本作の三年後に、高橋幸宏氏とスティーヴ・ジャンセンの共作シングル「Stay Close」にバックコーラスで参加されています)。同じく小林氏の作編曲による"漂流する街" "彷徨人(さまよいびと)" "ミッドナイトホテル" "Last SongはLove Song" の四曲でヴォーカルをとるのはMoJo氏。ハードエッジな演奏にビターなヴォーカルがマッチした"漂流する街"、軽快なニューウェイヴ・ロック調の"ミッドナイトホテル"がとくに印象的です。また、小林氏は自身の名を冠したリーダーバンドで演奏面のディレクションも担当しております。バックに参加したメンバーは四人囃子の岡井大二(drums)、カシオペア(初期)の鈴木徹(drums)、PRISMの渡辺建(bass)、福田真己(guitar)、冨田素弘(keyboard)といった面々であることも付け加えておきます。本アルバムはその後、1995年2月に《イメージ・トリップ・シリーズ》としてCD化され、2005年9月には《ANIMEX 1200》で5000枚限定で廉価盤CDで再発されましたが、ともに廃盤。むしろ、こちらの方が現在ではレコード以上にプレミアアイテム化しています。




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『南京路に花吹雪 イメージアルバム』
LP[CX-7104|1983.6|日本コロムビア]
CD[COCC-12350|1995.02.21|日本コロムビア《イメージ・トリップ・シリーズ》]
CD[COCC-72219|2005.09.21|日本コロムビア《ANIMEX1200シリーズ》 [139]]


01. プロローグ
02. たそがれて上海(歌:上野千佳子)
03. 蘇州夜曲
04. 漂流する街(歌:MoJo)
05. ミステリーはいかが?(歌:上野千佳子)
06. 彷徨人(さまよいびと)(歌:MoJo)
07. なんて悲しいシークレット(歌:KiKi)
08. 南京路に花吹雪
09. ミッドナイトホテル(歌:MoJo)
10. 上海ベイブルース(歌:上野千佳子)
11. Last SongはLove Song(歌:MoJo)


構成・作詩: 吉田健美
作編曲: 小林克己(③④⑥⑦⑧⑨⑪)、越部信義(①②⑤⑩)
演奏: 小林克己バンド(③④⑦⑧⑨⑪)、コロムビア・オーケストラ

《小林克己バンド》
岡井大二(drums)
鈴木徹(drums)
渡辺建(electric bass)
福田真己(electric guitar)
冨田素弘(keyboard)

Recorded at Columbia Studio in April & May 1983


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2016年7月13日水曜日

楠桂&大橋薫/作編曲:瀬井広明・加藤道明『Little Shop of K & M』(1988)

Little Shop of K&M
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楠桂&大橋薫

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 漫画家姉妹である楠桂先生と大橋薫先生の二人を前面的に押し出して1988年11月にポリスターよりリリースされたヴォーカル&イメージアルバム。楠先生が自ら作詞とヴォーカルも担当された、五曲からなる《楠桂サイド》、大橋先生の書き下ろし台本をもとにした四つのドラマ&イメージ曲集の《大橋薫サイド》という変則的な構成の一枚。大橋先生にとっては本作が初のイメージアルバムとなりました。今にして思うとトンでもない企画盤という気がするのですが、同じ頃にラポートから『リトル・ショップ・オブ大橋姉妹(シスターズ)』という両先生の写真集も出ているので、いやあ、なんというかバブリーですね。ライナーノーツでは楠先生が「楠の場合、代表作が、すべてイメージアルバム化になったので、本人の作詞で本人が歌うことより残されていませんでした。と、いうわけで笑ってきいてね」とコメントされています。ちなみに、1988~89年にかけてキティレコードから「八神くんの家庭の事情」のイメージアルバムが三枚、1988年6月には東芝EMIから「楠劇場」のイメージアルバム(谷山浩子さん作詞・作曲を手がけられた名盤です)が出ており、まさにリリースラッシュといったところです。また、1992年3月にリリースされた「鬼切丸」のイメージアルバムに収録されている"Forever"は、楠先生が自らヴォーカルをとられた楽曲です。同年9月にはメルダックより楠桂&大橋薫名義のヴォーカルアルバム『プラチナ』も出ており、やはりバブリーな時代ですね。


PLATINA
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楠桂&大橋薫 大橋薫 楠桂
トライエム (1992-09-23)
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 楠先生のヴォーカルはヘタではないのですが、けっこう危なっかしくて強烈です。また、"東京クレオパトラ" "ピカレスク恋愛症候群"の二曲は矢尾一樹氏とのデュエットにもなっています。コンポーザー/アレンジャーは瀬井広明氏と加藤道明氏。瀬井氏は大ヒット曲となった国生さゆりwithおニャン子クラブの"バレンタイン・キッス"や、OVA「重戦機エルガイム フルメタル・ソルジャー」(1987)の主題歌"せいいっぱいの微笑みを"、OVA「宇宙家族カールビンソン」(1988)の主題歌"いちばんステキなラブ・ソング" "すぷりんぐ・そんぐ"、「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」(1991)の挿入歌"STOP OR GO" "都会の影" "かすれたメロディー"などの作曲者。加藤道明氏は「鎧伝サムライトルーパー」(1988)の"スターダストアイズ" "Far away"の編曲者であり、1989年にはおおたか静流さんと「dido」を結成されます。お二人とも非常にいい仕事をされており、絶妙なポイントに富んだ内容に仕上がっております。エレポップ/ニューウェイヴ・ロックな"東京クレオパトラ" "ピカレスク恋愛症候群"もさることながら、北欧ハードポップにも通じるキャッチーなメロディラインとエッジの効いたギターがキマった"愛してなんかいられない"は本作でもピカイチ。ハードロックな演奏をバックに矢尾一樹氏のモノローグが入る"あした悪魔になあれ"は、バックで流れているトラックがWHITESNAKEの"Still of The Night"にそっくりなのには思わず笑ってしまいましたが、ご愛嬌といったところでしょうか。続く、ロックオペラ調のインストゥルメンタル"降臨 (ADVENT)"も、加藤氏の趣味が出た一曲なのかなと。




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『Little Shop of K & M』
LP [R28X-1012|POLYSTAR (Picture Land)|1988.11.25]
CD [H32X-20013|POLYSTAR (Picture Land)|1988.11.25]


《楠桂サイド》
01. 愛してなんかいられない 【歌:楠桂】
(作詞:楠桂/作曲:瀬井広明/編曲:加藤道明)

02. 東京クレオパトラ 【歌:楠桂&矢尾一樹】
(作詞:楠桂/作曲:瀬井広明/編曲:加藤道明)

03. シンデレラ PartII 【歌:楠桂】
(作詞:楠桂/補作詞:鳶沢小百合/作曲:瀬井広明/編曲:加藤道明)

04. ピカレスク恋愛症候群 【歌:楠桂&矢尾一樹】
(作詞:三浦徳子/作曲:瀬井広明/編曲:加藤道明)

05. Dear Boy 【歌:楠桂】
(作詞:楠桂/作曲:瀬井広明/編曲:加藤道明)


《大橋薫サイド》
06. 真澄鏡
(作曲:加藤道明)

07. 人恋姫
(作曲:加藤道明)
08. あした悪魔になあれ!
(作曲:加藤道明)

09. 降臨 (ADVENT)
(作曲:加藤道明)

※06~08 大橋薫書下ろし台本によるイメージ曲







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2016年7月9日土曜日

実力派ヴォーカリストの新たなる門出 ― Fuki Commune 『Welcome!』(2016)

Welcome! 【通常盤】
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Fuki Commune
ビクターエンタテインメント (2016-06-22)
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 2014年末に活動を休止したプログレッシヴ・メタル・バンド LIGHT BRINGERの紅一点ヴォーカリストであり、ガールズバンド DOLL$BOXX、同人音楽サークル Unlucky Morpheusなどでも活動するFukiと、元LIGHT BRINGERのキーボーディスト MAOこと山本真央を中心としたプロジェクト「Fuki Commune」のデビューアルバム。LIGHT BRINGERの一員として2005年に音楽活動を始めてから十余年、ずっとアニソンを歌いたかったという彼女の念願が一つの形となったのが本作。「イケメン革命◆アリスと恋の魔法」「乱れ雪月華 ―儚く散る細雪―」「Liber_7」「新撰組暁風録 勿忘草」「怪盗ジョーカー」といったゲーム/ドラマCD/アニメに提供した主題歌五曲を収録しています(2016年6月時点での最新タイアップ曲「テラフォーマーズ リベンジ」第二期EDテーマ"Strength"は未収録)。





 本作の楽曲は"朝な朝な"(作編曲:onoken) "狂い咲け雪月華"(作編曲:MACARONI☆)の二曲をのぞいて、すべてMAO氏によるもの(一部編曲は若井望氏と共同)。90年代J-POPやアニソンからの影響も強くうかがわせていた LIGHT BRINGERのキャッチーでヒネりのあるメタルサウンドを継承しつつも、MAO氏は近年のアニソンを研究してそれらのエッセンスも取り込んだとのこと。一方のFuki嬢も、タイアップ元のイメージを尊重した作詞と歌唱にこだわりをみせており、作詞においては最初に曲の性別を決め、それから性格付けを考える、というスタンス。初のアニソンタイアップ曲となった「怪盗ジョーカー」第三シーズンのEDテーマ"輝く夜へようこそ!"は、自信に満ちた活劇感あふれる歌詞とボーイッシュな歌唱(松本梨香さんを意識したとのこと)がバッチリとマッチした会心の一曲になっています。




 ドラムに青山英樹氏(EVER+LAST、BABYMETAL)、ベースに長谷川敦氏(GERARD、Sound Horizon)、ギターに若井望氏(Nozomu Wakai's DESTINIA、浜田麻里、榊原ゆい)、ギターにISAO氏(BABYMETAL)といった演奏陣の顔ぶれも見逃せません。そしてこの超強力な布陣にまったく引けをとらないFuki嬢のパワフルに突き抜けるヴォーカルの存在感はやはり圧倒的です。トリッキーなスパイスもふんだんに効いた"月が満ちる前に"、ラフな歌い回しとハードエッジな演奏でバツグンの突進力を誇る"I'll never let you down!" や、和風メタルチューン "狂い咲け雪月華"。『火の鳥 未来編』をモチーフにしたドラマティックなパワーバラード"未来"。吹き抜けるように爽快なポップメタル"Sail on my love"など、国内のメタルシーンで鳴らした押しも押されぬ実力派シンガーの新たな門出を印象付けるアルバムとして申し分のない、カラフルなキャラクター性に富んだ内容です。また、彼女は今年からMAGES.のマネージメント事業部「amuleto」(いとうかなこ、鈴木このみ、Zwei、アフィリア・サーガらが在籍)に所属しており、活動のフィールドは今後もより広がっていくと思われます。


http://amuleto.jp/talents/fuki.html
http://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A025435.html


【インタビュー】Fuki Commune、メタリック&テクニカルな音楽性を核にアニソンを歌うFukiのソロ・プロジェクト
(from BARKS|2016.06.20)

1stアルバム『Welcome!』リリース記念 Fuki Commune始動インタビュー!実力派HR/HMシンガーがアニソンに“参入”した理由とは?
(from リスアニ! WEB|2016.06.25)


LIGHT BRINGER『Tales of Almanac』(2009)
LIGHT BRINGER『Midnight Circus』(2010)

2016年7月8日金曜日

佐橋俊彦『クリス・クロス オリジナル・サウンドトラック』(1994)

クリス・クロス
クリス・クロス
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ラジオ・サントラ MIO 乾和代
ビクターエンタテインメント (1994-12-16)
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 初期の電撃文庫作品のうちいくつかはドラマCDが制作されていて、1994~95年にかけてビクターエンタテインメントから『極道くん漫遊記(ゴクドーくん漫遊記)外伝』(中村うさぎ)で九枚、『クリス・クロス ―混沌の魔王』(高畑京一郎)で三枚、1996年に『ブラックロッド』(古橋秀之)で三枚、1996年にポリドールから『タイム・リープ―あしたはきのう』(高畑京一郎)で二枚、1997年にランティスから『コールド・ゲヘナ』(三雲岳斗)で一枚がそれぞれリリースされています。そのうち『極道くん漫遊記外伝』『クリス・クロス』『ブラックロッド』はドラマCDのサウンドトラックも出ており、今回ご紹介するのは1994年12月にリリースされた『クリス・クロス』のサントラ。作曲を手がけたのは佐橋俊彦氏で、何をかくそう、氏の初のドラマCD仕事が本作なのです(ちなみに、氏が劇伴を手がけたドラマCD作品は本作を含めて三つしかありません)。現在は各方面で引っ張りだこの超売れっ子コンポーザーですが、1993~94年は氏のアニメ・特撮関係の仕事がグンと増え始めた時期にあたり、「姫ちゃんのリボン」「GS美神」「ウルトラマンパワード」「赤ずきんチャチャ」「覇王体系リューナイト」などの劇伴をこの頃に手がけられています。主題歌はMIO(現. MIQ)さんがソウルフルなヴォーカルを聴かせる"Bad Dreamer"と、「レジェンド・オブ・クリスタニア」のラジオドラマ(1993年)のパーソナリティ/主題歌も担当されていた乾和代さんによる"True Dream"の二曲。前者は佐橋氏が作編曲を手がけています。




 ライナーノーツの佐橋氏のコメントには「仮想現実空間を特に表現する背景出現描写やモンスター達の出現場面などにはあえてシンセサイザーのみによる曲作りを試みた。その他はすべてリズム隊を含む大編成のオーケストラ及びコンボ編成のバンドによりサウンドインAスタジオにおいて同録されたものだ」とあり、制作にあたって潤沢に予算が下りていたことがわかります(氏のコメントは贅沢を叶えてくれたスタッフ、プロデューサーへの感謝で締めくくられています)。実際、シンセサイザー基調の打ち込み曲は"Punch The Noise" "Slime" "Grizzly" "Hellhound"の四曲のみ。オーケストラサウンドにブラスセクションやエレクトリックギターをバリバリに切り込ませた、現在の作風にも通じる「佐橋節」も存分に効いており、"Here Goes Nothing!" "Above The Real" "Behind The Computer"など、存在感たっぷりの勇壮なテーマメロディが満載。"BAD DREAMER"のロック・オーケストラ編曲ヴァージョンもヴォーカル版に負けず劣らずのダイナミックな仕上がりです。そのほか、スムースジャズ/フュージョンタッチの"Explorers" "Cool Shadow"や、イージーリスニングな"Precious Moment"。弦&ピアノの編成でウェットに聞かせる"Hopeless World" "Criss-Cross"、ピアノソロ"Fragrance"などの情感に富むナンバーも充実しています。





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『電撃大賞 クリス・クロス オリジナル・サウンドトラック』
[VICL-612|VICTOR ENTERTAINMENT|1994.12.16]


01. BAD DREAMER(歌:MIO)
作詞:安藤芳彦
作編曲:佐橋俊彦

02. Here Goes Nothing!
03. Above The Real
04. Groovy Peril
05. Dungeon Trial
06. Punch The Noise
07. Slime
08. Grizzly
09. Hellhound
10. Mysterious Smile
11. Explorers
12. Precious Moment
13. Cool Shadow
14. Hopeless World
15. Lower Voice
16. Behind The Computer
17. Ready Go!
18. Inferiority
19. BAD DREAMER (Instrumental Version)
20. CRISS-CROSS
21. Fragrance

22. True Dream(歌:乾和代)
作詞:佐藤ありす
作曲:久保田邦夫
編曲:森英治



作編曲:佐橋俊彦
演奏:CRISS-CROSS ORCHESTRA






【ドラマCD キャスト】

ゲイル……難波圭一
リリス……三石琴乃
シェイン……井上和彦
ユート……山口勝平
ケイン……関俊彦
ミナ……小林優子
ジャスティ……平井隆博
クラリス……柊美冬
モルツ……西村智博
ギガント、江崎新一……中田譲治


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佐橋俊彦 - 株式会社フェイス音楽出版

ラノベのドラマCD化(少年向け)- Matsuの日記


 そういえば、高畑氏の『Hyper Hybrid Organization 01』『タイム・リープ』は2013年に、『Hyper Hybrid Organization 00』『ダブル・キャスト』は今年に入ってそれぞれ電子化されたのですが、『クリス・クロス』だけはいまだに電子化されていません。なぜなのか……。あるいは今後、電子化されるのか。


クリス・クロス―混沌の魔王 (電撃文庫 (0152))
高畑 京一郎
メディアワークス
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クリス・クロス CDシネマ(1
ラジオ・サントラ MIO 山口勝平 乾和代 三石琴乃 井上和彦 難波圭一
ビクターエンタテインメント (1994-11-30)
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クリス・クロス CDシネマ2
ラジオ・サントラ MIO 山口勝平 乾和代 三石琴乃 井上和彦 難波圭一
ビクターエンタテインメント (1994-12-16)
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クリス・クロス CDシネマ(3
ラジオ・サントラ MIO 山口勝平 乾和代 小林優子 三石琴乃 難波圭一
ビクターエンタテインメント (1995-01-21)
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2016年7月7日木曜日

元MAHAVISHNU ORCHESTRAのヴァイオリニスト、約28年ぶりのソロ名義作品 ― Jerry Goodman『Violin Fantasy』(2016)



 60年代末にジャズロックバンド The Flockに在籍し、その後、ジョン・マクラフリンのソロアルバムへの参加を経てMAHAVISHNU ORCHESTRAへ加入。キレ味バツグンのエレクトリック・ヴァイオリンプレイで初期のバンドサウンドを支えたジェリー・グッドマン。1975年には、バンドメイトであったヤン・ハマーとの連名アルバム『Like Children』をリリースし、ソロキャリアを開始。80年代には元TANGERINE DREAMのペーター・バウマン主宰の環境音楽レーベル「Private Music」より、『On the Future of Aviation 』『Ariel』の二枚のアルバムと、ライヴアルバム『It's Alive』をリリース。その後はあちこちのバンドにゲスト参加し、引き締まったプレイで華を添えています。著名なところではDIXIE DREGSの『Full Circle』(1994)、 STYXの『Brave New World』(1999)、DREAM THEATERの『Black Clouds & Silver Linings』(2009)など。近年では、著名なミュージシャンを呼び込んで企画アルバムを数多く制作しているアメリカのレーベル「Cleopatra」のカタログへの参加が多く、ビリー・シャーウッドを中心としたジャズ・ロック/フュージョン コンピレーション『The Fusion Syndicate』(2012)などで名を連ねていました。




 そんな彼が1988年の『It's Alive』以来、約28年ぶりにリリースしたソロ名義でのアルバムが本作『Violin Fantasy』。仕掛け人となったのはやはりCleopatraで、収録曲は新録曲とカヴァー曲が半々という構成ゆえ企画盤の色合いが強いのですが、彼のプレイは依然として健在。また、ゲストでドイツを拠点とするプログレッシヴ・ロック・バンドのNEKTARや、トニー・レヴィン、ビリー・シャーウッド、リック・ウェイクマンが参加。ソロの応酬を繰り広げる"The Laws of Nature" "Random Acts of Science"はさすがに耳をひく仕上がりです。"Violin Fantasy" "Rock On"で聴かせる壮大なロック・シンフォニーも素晴らしい。カヴァー曲は、収録順に "Enter Sandman"(METALLICA)、"Dream Weaver"(ゲイリー・ライト)、"Baba O’Riley"(The Who)、"In the Air Tonight"(フィル・コリンズ)、"Don't Stop Believin'"(JOURNEY)、"Eye of the Tiger"(SURVIVOR)、"The Final Countdown"(EUROPE)となっています。


Interview: Jerry Goodman
(from Prog Sphere|2010.07.23)

https://cleorecs.com/store/shop/jerry-goodman-violin-fantasy-cd/
http://www.progarchives.com/artist.asp?id=2444

2016年7月6日水曜日

「プログレッシヴ・タンゴ」を標榜するアルゼンチンのミクスチャーバンド ― Pampa Trash『YA FUÈ』 (2014)




 パンパ・トラッシュは、アルゼンチン・ブエノスアイレスで結成されたエレクトリック・タンゴ バンド。フロントマンのバンドネオン兼シンセサイザー奏者 ニコラス・トグノラは作曲家のみならず俳優の顔も持つ人物で、日本でもソフト化されたルイス・プエンソ監督の『娼婦と鯨』(2004)にキャストとして出演。また、2012年にはファビオ・ハーゲルのタンゴ・セクステットとともに来日もしていた模様です。2013年に5曲入りフリーダウンロードEP『Pampa Trash EP』でデビュー。翌年にリリースされた本作『YA FUÈ』は前EPの5曲をリメイクし、さらに新曲5曲を追加した形のフルアルバム。ダウンロードは投げ銭。バンド自ら「Tango progresivo」を標榜しており、爽やかなようで暑苦しいミクスチャーサウンドはかなり面白いヒネくれぶり。ダンサブルなビートにバンドネオンの音色が乗っかる"Fat Slim" "Berizo"などからにじみ出る奇妙なニューウェイヴ感や、軽快なレゲエ・タンゴ(しかしバックでは中国語らしきモノローグがシレっと入る)な"Zorzal Am"、静と動のスイッチングが激しいロックなコンテンポラリータンゴ"Temperley"と、随所に仕込まれた遊び心はじつに不敵。また、アルバムの半分は外部からヴォーカリストを呼んだ歌もので、艶っぽくもフラフラとした歌いまわしでアンニュイに言葉を紡いでいます。





https://www.facebook.com/pampa.trash
https://www.youtube.com/channel/UCFwPjpovtlyFY-gY7XLg0Ng

2016年7月5日火曜日

嘘から出た真実、複数ジャンルぶっこみ闇鍋ゲームのキュートなサントラ ― Jake Kaufman『Cat Girl Without Salad OST』(2016)




 昨年、待望の日本語版がリリースされた「シャンティ」シリーズの開発元であるWayForward Technologiesが2013年4月1日に突如「パズル/シューティング/RPG/アクション/ストラテジー/格闘/リズム/ホラー/ヴィジュアルノベル」ゲームという常軌を逸したふれこみでアナウンスした「Cat Girl Without Salad」。実際はエイプリルフールのために用意されたフェイクゲームだったわけですが(※)、三年後の今年、まさかの実体化。「Humble Bundle」のマンスリー配信プラン「Humble Monthly Bundle」の5月分に同梱されました。賞金稼ぎのケバコちゃんと相棒のイカが銀河に跋扈するお尋ね者をしょっぴいていくというストーリー。さすがに三年前に公開された一枚絵のような視覚的暴力っぷりはナリをひそめ、まっとうな横シューティングゲームのフォーマットをとっています……が、やたらと出てくるキャラのかけあい。パ〇ディウスよろしく雑多なデザインの敵キャラ。パズルボ〇ルやツ〇ンビーやイン〇ーダーで見たことあるような何か。ダンスダンスレ〇リューションよろしく出てくる→↑←↓→。RPGのコマンド選択ウインドウとダメージ表記など、オマージュと悪ふざけのオンパレード。全3ステージというサクっとしたヴォリュームの楽しい仕上がりです。




 そんな本作のサウンドトラック(全8曲)が6月5日付けで投げ銭ダウンロード配信開始。BGMを手がけたのは「シャンティ」シリーズや「魂斗羅デュアルスピリッツ」「ショベルナイト」のコンポーザー ジェイク・カウフマン (virt)。往年のゲームサウンドをオマージュしつつ、超アッパーかつキュートな、いい意味で節操がなくて楽しいエレクトロ/チップチューンを満載しています。各ステージBGMはいずれも7分近くあり、さながらCAVEシューティングとファイナルファンタジーシリーズへのオマージュをダブステップとチップチューンとエピックミュージックで攪拌したような、アイデアと展開を詰め込みすぎなステージ2 BGM"RPG Galaxy"は聴いていて思わず笑みとともにドーパミンもこぼれ出ます。あげく、ステージ2ボスBGM"Chefinoff"ではクワイアコーラスまでブチこむというサービスぶり。ジェイク氏も相当に楽しんで作ったんじゃあないかと。"Credits - Kebako's Lullaby"は、ロサンゼルスのシンガーソングライター Cara Salimandoをフィーチャーしたまさかのヴォーカルトラック。


A classic WayForward Technologies April Fools'joke is becoming an actual game
(from Polygon|2016.05.27)

全ジャンル詰め込みネタゲー『Cat Girl Without Salad』ゲーム化 !
(from GameSpark|2016.05.29)




※2013年9月にMark "Blaz" Soto氏が非公式イメージサウンドトラックをリリースしています。こちらもバラエティに富んだ内容。
https://blaz1222.bandcamp.com/album/cat-girl-without-salad-ost

2016年7月4日月曜日

マイケル・ムアコックの音楽活動について ― Michael Moorcock & The Deep Fix『New Worlds Fair』(1975)

The New World's Fair
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Michael & Moorcock
Esote (2008-02-08)
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 エルリック、コルム、ホークムーンなどの永遠の戦士たちの活躍を描いた一大ヒロイック・ファンタジー〈エターナル・チャンピオン〉シリーズを創り上げた作家にして、1964年に創刊した雑誌《New Worlds》誌の編集長をつとめ、「ニューウェイヴSF」の興隆に貢献。ミュージシャンとして、またHAWKWINDのコンセプトにも携わる重要人物としても知られるマイケル・ムアコックが、自身のバンド「The Deep Fix」名義で1975年3月にリリースした唯一のアルバム。アルバムジャケットは、初期HAWKWINDのアートワークを手がけたバーニー・バブルズによるもの。また、ムアコックも参加したHAWKWINDの傑作『Warrior on the Edge of Time (絶体絶命)』が発表されたのもこの年(リリースは5月)です。バンド名のThe Deep Fixは、ムアコックがジェームズ・コルヴィン名義で1966年に刊行した同名の短編集が由来。スティーヴ・ギルモア(guitar. vocal)と、《New Worlds》誌の編集者だったグラハム・チャーノック(guitar. vocal)がメンバーで、ムアコックはヴォーカルのほか、ギター/バンジョー/マンドリンも弾いています。そのほか、HAWKWINDのデイヴ・ブロック、アラン・パウエル、サイモン・キング、HIGH TIDE~THIRD EAR BANDのピート・パヴリ(cello. bass)&サイモン・ハウス(violin)、PINK FLOYDのツアーやTHIN LIZZYのレコーディングなどに参加したスノーウィ・ホワイト(guitar)、GONZALEZのクマ原田(bass)といった面々がゲストで参加。気心の知れた仲間同士で繰り広げられるサイケデリック・ロック、カントリー、スワンプ・ロックをマイペースに繰り広げています。やはりポエトリーリーディングもあり。ユルさでいえば、HAWKWINDよりもユルいです。ヘタウマというのもちょっとはばかられるようなヨレ気味のムアコックのヴォーカルに弦の響きがたゆたう"Fair Dealer" "Dude's Dream (Rolling In The Ruins)"や、6分半という長めの尺をとった叙情プログレ調の"Ferris Wheel"の味がなかなか。ヴァイオリン、メロトロンのみならず編曲も担当しているサイモン・ハウスのよい仕事があちこちで光ります。





 『New Worlds Fair』は1995年にアメリカのGriffin MusicとイギリスのDojo Recordsよりボーナストラックを四曲追加し再発されます。追加されたのは、"Candy Floss Cowboy"のデモヴァージョン、1980年にシングルリリースされた"Dodgem Dude" "Starcruiser"、1982年にシングルリリースされた"The Brothel In Rosenstrasse"。また、アメリカ盤はムアコックへのインタビュー集『Death is No Obstacle』が付属したBOXセット仕様でした。2004年にはイギリスのVoiceprint Recordsより、本作のデモ音源や別ヴァージョン音源でまるまる構成された『Roller Coaster Holiday』がリリース。2008年にイギリスのESOTERIC Recordingsより、1995年版にさらにボーナストラックを三曲追加("You're A Hero" "Dodgem Dude" "Kings of Speed"の未発表デモ)のうえでリマスターした決定版が出ています。なかでも、『Warrior on the Edge of Time』に収録されたブロックとムアコックの共作曲"Kings of Speed"の未発表ヴァージョンは、HAWKWINDのシングル版より30秒程度短いというシロモノ。




 二作目のアルバムのリリースには至らなかったものの、70年代末に録音されたデモ音源がそれなりに残っており、2008年にNoh Poetry Records (スペース・ロック・バンド SPIRITS BURNINGのドン・ファルコンのレーベル)から一枚にまとめられてリリースされています。それがこの『The Entropy Tango & Gloriana Demo Sessions』。〈エターナル・チャンピオン〉シリーズにも連なる〈ジェリー・コーネリアス〉シリーズの第六作目『The Entropy Tango』(1981)と、世界幻想文学大賞を受賞した架空歴史ファンタジー『グローリアーナ』(1978)をテーマにした楽曲を収録しており、ピート・パヴリが再び参加しているほか、《New Worlds》周辺の作家・編集者であったラングドン・ジョーンズ(サンリオSF文庫から短編集『レンズの眼』、編纂アンソロジー『新しいSF』の邦訳あり)の名前もあります。ムアコックのこの頃の活動については、2012年に刊行された自伝本『London Peculiar and Other Nonfiction』に詳しいようなので、いずれ読んでみたいものです。


London Peculiar and Other Nonfiction
PM Press (2012-02-01)



Michael Moorcock - ISFDB
マイケル・ムアコック - 翻訳作品集成


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【マイケル・ムアコック関連楽曲】

HAWKWIND『Space Ritual』(1973)
"Black Corridor"
※ノンシリーズ長編『暗黒の廻廊』(1969)がモチーフ

HAWKWIND『Warrior on the Edge of Time』(1975)
"The Wizard Blew His Horn" "Standing At The Edge" "Warriors" "Kings of Speed"

HAWKWIND『Sonic Attack』(1981)
"Sonic Attack" "Psychosonia" "Coded Languages" "Lost Chances"

HAWKWIND『Choose Your Masques』(1982)
"Choose Your Masks" "Arrival in Utopa"(Linda Steele名義)
※リンダ・スティールはムアコックの三人目の妻の名前

HAWKWIND『Zones』(1983)
"Running Through The Back Brain" "Sonic Attack"
※デモ、ライヴ音源を含むアルバム。

HAWKWIND『The Chronicle of the Black Sword』(1985)
"Sleep of A Thousand Tears"

HAWKWIND
『The Chronicle Of The Black Sword』(1985 ライヴ盤)
『Live Chronicles』(1986 ライヴ盤)

Rovert Calvert『Lucky Leif and the Longships』(1975)
※バンジョーで参加

Rovert Calvert『Hype』(1981)
※12弦ギターで参加

Blue Öyster Cult『Mirrors』(1979)
"The Great Sun Jester"

Blue Öyster Cult『Cultosaurus Erectus』(1980)
"Black Blade"

Blue Öyster Cult『Fire of Unknown Origin』(1981)
"Veteran of the Psychic Wars"

Schatten Unter Eis『Twilight Of The City』(1983)
"Assault And Battery" "Burried Alive" ※作詞

Michael Moorcock『The Brothel In Rosenstrasse』(1992)
※通販限定5曲入りカセット

01. The Brothel In Rosenstrasse
02. Good Girl, Bad Girl
03. Another Quiet Day In Auschwitz
04. At The Time Centre
05. Turn The Tape Over Vol. 1

HAWKWIND『Undisclosed Files』(1993)
"Damned By The Curse Of Man"

Nik Turner『Past Or Future?』(1996)
"Warriors On The Edge Of Time"

SPIRITS BURNING『Alien Injection』(2008)
"Every Gun Plays Its Own Tune" "The Entropy Tango" "Ingleborough" "Upturned Dolphin" "Montfallcon" ヴォーカル、ギター、マンドリンで参加。
※"Upturned Dolphin"以外の四曲は『The Entropy Tango & Gloriana Demo Sessions』に収録されていた楽曲。


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メルニボネの皇子―永遠の戦士エルリック〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)
マイクル ムアコック
早川書房
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Entropy Tango
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Michael Moorcock
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グローリアーナ (創元推理文庫)
マイケル ムアコック
東京創元社
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