2010年11月26日金曜日

須藤賢一/菊谷知樹 他『宇宙をかける少女 オリジナルサウンドトラック』(2009)

TVアニメ「宇宙をかける少女」オリジナルサウンドトラック Vol.1TVアニメ「宇宙をかける少女」オリジナルサウンドトラック Vol.1
(2009/03/25)
TVサントラ、ALI PROJECT 他

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 サンライズによるSFアニメ「宇宙をかける少女」のサウンドトラック。楽曲にプログレネタを仕込むことに定評のある須藤賢一氏が劇伴を担当し、全編プログレッシヴな内容に仕上がっているというという前情報からもう非常に気になっていたんですが、実に期待を裏切らない、堂々たる「アニメサントラ兼プログレ(パロディ)アルバム」たる内容でした。ライナーノーツにおける井上俊次氏のコメントで、そらかけの劇伴をプログレにしようとしたキッカケに、キース・エマーソンが手がけた83年の劇場アニメーション「幻魔大戦」のサントラがあったというくだりも非常に興味深く、それを踏まえて須藤氏を起用したというのも実に納得がいく話でした。Vol.1「LEOPARD」では須藤賢一氏が19曲、菊谷知樹氏が5曲、七瀬光嬢が1曲をそれぞれ担当。JAM Projectによるクワイア・コーラスをフィーチュアして壮大さに拍車をかけた1曲目「MAJESTIC OVERTURE with JAM Project」から遺憾ないプログレぶりを披露してくれます。以降も、「NELVAL」「KIRKWOOD」ではキース・エマーソン/EL&Pの「Piano Concerto No.1:Third Movement」「Bitches Crystal」みたいなフレーズが出てくるわ、「DUEL IN MYTHOLOGY」ではホルスト「火星」のフレーズからEmerson,Lake&Powell 「The Score」のフレーズへと繋げるわ、「EX-QT」はイントロがモロにNIACINの「Barbarian@The Gate」だわ、「BROADWAY」は後期CAMELのようだわ、「SORAKAKE GIRL」はTOTO「Child's Anthem」みたいなイントロから、YES「Machine Messiah」のような曲調に繋がるわ、ハモンドオルガンは所狭しと大活躍しているわ、なんだかもう全曲に元ネタがあるんじゃないかと勘繰りたくなるほどに、プログレッシャーなら感涙モノというかニヤニヤできるネタのオンパレード。

 一方、「DIVISION FIVE」では謎の円盤 UFOのオープニング・テーマのパロディをやっていたりする(謎の円盤UFOのパロディと言えば佐橋俊彦氏もTHE ビッグオーの「Respect」でモロにやっていましたね)。須藤氏だけでなく菊谷氏の劇伴曲もかなり聴き所のあるものになっているのも見逃せません。須藤氏の楽曲がブリティッシュ・プログレ、プログレ・ハードのイディオムを感じさせるとすれば、菊谷氏の楽曲はシンフォニック・ロックのイディオムを感じさせるといったところ。特に軽快なストリングスにロックンロールなバッキングが絡む「CARNICAL CARNICAL!」「EXCITING LIONET」、ジャジーなリズムの上をフルートが駆ける「NOISY CHASE」ではNew Trollsを髣髴とさせるイタリアン・プログレ臭さを撒き散らしており、思わず吹き出しそうになってしまった。いやはや当初の予想以上に濃い内容で、ランティスの本気をしかと堪能しました。本当にプログレの教則本的な側面もあるサウンドに仕上がっている1枚。


「EX-QT」                        「SORAKAKE GIRL」



TVアニメ「宇宙をかける少女」オリジナルサウンドトラック Vol,2TVアニメ「宇宙をかける少女」オリジナルサウンドトラック Vol,2
(2009/06/24)
TVサントラ、栗林みな実 他

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 EL&Pを筆頭にYESやPFM、U.K、TOTOなどを下敷きにしたプログレ曲が目白押しだった Vol.1に続き、本作も非常に楽しみにしていた1枚。こちらのライナーノーツには須藤・菊谷両氏のコメントと、音響監督の鶴岡陽太氏とプロデューサーの古里尚丈氏の対談が掲載されており、プログレに至った経緯を知る上でこちらもなかなか興味深い内容です(「うろつき童子」の劇伴の話題も出てくるとは思わなかった)。その対談によると、劇伴は当初ジャズ路線で行こうと考えていたところ、さらにもう一つ耳に残るサウンドを何か入れたいということで相談した結果、それなら自分たちが好きなプログレを入れよう!という経緯で決まったとのこと。というわけで、このVol.2ではもう一方のメインであるジャズ&ジャズ・ロックな楽曲が多く収録されているのが特徴。一方で場面の雰囲気に合わせた劇伴曲も多いため、Vo.1と比べるとプログレ度が散漫になってるなあという印象もあるのですが、劇伴としては非常によくまとまってると思います。

 オープニングは前回同様JAM PROJECTによるクワイア・コーラスをフィーチャーした、「RISE OF THE CURTAIN」で荘厳に幕開け。「MAJESTIC Overture」では男性陣のクワイアがメインでしたが、こちらは対照的に女性陣のクワイアがメイン。そこからさらに混声クワイアへと続いていく展開は、キース・エマーソン的な威風堂々たるキーボードプログレな曲調と相まって非常にアツいものです。ジャズ系統の楽曲はおとなしめなのですが、ジャズロック系統の楽曲はそこはかとなくカンタベリー系の流れを感じさせ、「HIGH SPEED BATTLE!」「BLACK PRINCESS」「FACELESS」「GLORIOUS MAJESTIC」など、せわしないアンサンブルからじわりとした熱が伝わってくるかのよう。プログレ曲は少々少なくなったとは言え、要所でしっかりプログレ曲が配されており、プログレサントラとしての体裁は整っています。キレたヴァイオリン(デヴィッド・クロス的?)がうねる「MACHINGUN IMO」や、往年のMAGNA CARTAレーベルのEL&Pフォロワー系列バンドがやりそうなフレーズが仕込まれた「FACE TO FACE」、壮大なフィナーレを感じさせるシンフォニック曲「BEGINNING THE WORLD OF TOMORROW」など、やはり聴き所は多いです。


「HIGH SPEED BATTLE!」             「FACE TO FACE」



宇宙をかける少女 ベストアルバム宇宙をかける少女 ベストアルバム
(2009/12/23)
TVサントラ、栗林みな実 他

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 アニメ本編終了後から約半年後の2009年暮れにリリースされていた、主題歌、挿入歌、劇伴をベスト的に収録したアルバム。サントラVol.1/Vol.2に収録されなかった劇伴曲は、全てこちらに収録されています。内訳は須藤氏の楽曲が7曲、菊谷氏の楽曲が4曲、七瀬さんの楽曲が1曲。ある意味サントラVol.2.5。また、Vol.2に収録されていた「RISE OF THE CURTAIN with JAM PROJECT」は、「GREAT DETERMINATION with JAM PROJECT」とタイトルが変更されて再収録されております。残り物ということもあってか、先の2枚と比べるとそこまで印象の強い曲はないのですが、須藤氏の楽曲では、クラシカルなオルガン・プログレ・ハード・ロック「Existence」(ややキース・エマーソンが入った感も)、そしてモロにPFMの「The Mountain」をパロった楽曲として(ごくごく一部で)話題になった「Scramble!!」。後者はギターのフレーズといいクワイアといい、もはや短縮版「The Mountain」という趣の1曲です。菊谷氏の楽曲では、"らしい"雰囲気のフルートをフィーチャーなした小品「Mystic」、ヴァイオリンも切れ込む、ややデジタリーなチェンバー・ロックといった趣の「Stand Up!」あたりに注目。

「Scramble!!」


須藤賢一:Wikipedia
菊谷知樹:Wikipedia
宇宙をかける少女:Wikipedia

2010年11月25日木曜日

須藤賢一 WORKS プログレ・パロディ曲聴き比べ

 影山ヒロノブ作品や、JAM PROJECTのサポートバンド:TRY FORCE、茅原実里、野川さくらなどのツアーバンドのバンマス等を務めているキーボーディスト/アレンジャーの須藤賢一氏。この人の作る楽曲はあまりにモロ過ぎるプログレのパロディが大胆に突っ込まれていて、聴いてて非常にニヤニヤさせられることがしばしばあります。2009年の『宇宙をかける少女』でもやりたい放題のパロディっぷりを展開していてニヤリとさせられたのですが(サウンドトラックは必聴モノの内容です)、それ以前に氏が楽曲を提供した作品の楽曲もかなりのパロディぶりが伺えるものだったりします。というわけで、いくつかご紹介。ちなみに、超者ライディーンは96年から97年にTV放映されたアニメ作品。そしてメビウスクラインは麻宮騎亜「サイレントメビウス」シリーズの前史にあたる作品で、そのイメージサウンドトラックが93年と95年にリリース(後、98年に再リリース)されておりました。前者は現在ちょっと入手が困難ですが、後者は割と簡単に中古で手に入ります。さらにLAZYのメンバーが全面参加しているので、その点でも見逃せないのではないかと。

●超者ライディーン「Era」 / ■YES「Lift Me Up」


「Shoot High Aim Low」も若干入ってる気がする。

●超者ライディーン「Freefall」 / ■UK「Only Thing She Needs」


●メビウスクライン イメージアルバム「光への咆哮」 / ■Emerson,Lake & Palmer「Changing States」



●メビウスクライン イメージアルバム「The Ark」 / ■Emerson,Lake & Powell「The Score」



●リターン・オブ・サイレントメビウス イメージアルバム「Stranger from Paradise」 / ■Emerson,Lake & Palmer「Pirates」


※Emerson,Lake & Powellもカヴァーしたホルスト「火星(Mars, the Bringer of War)」のフレーズも入っている。

●宇宙をかける少女「EX-QT」/■NIACIN「Barbarian&The Gate」


●宇宙をかける少女「Scramble!!」/■PFM「The Mountain」


須藤賢一:Wikipedia
超者ライディーン:Wikipedia
サイレントメビウス:Wikipedia
宇宙をかける少女:Wikipedia

2010年11月21日日曜日

DISTRICT 97『Hybrid Child』(2010)

Hybrid ChildHybrid Child
(2010/09/14)
District 97

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 今年、アメリカのLASER'S EDGEレーベルからアルバムデビューを果たした、新鋭プログレッシヴ・メタル・バンド ディストリクト97の1stアルバム。バンドの母体は2006年から存在しており、元々はLiquid Tension Experimentなどから影響を受けたテクニカルなインストを演る4人組のバンドだったそうな。そこに、アメリカのオーディション番組「American Idol」の2007年上半期に行われたシーズン6に出場し、セミファイナルまで勝ち残ったという経歴をもつ女性ヴォーカリストのレスリー・ハントと、シカゴ交響楽団などのチェリストを務めているという女性奏者のカティンカ・クレイジンを迎えてほぼ現在のラインナップが完成。この経歴の異なる2人の女性メンバーを迎えたいきさつも気になるところですが、何にしても面白い組み合わせです。また、バンド名のDISTRICT 97は2009年に全米で(日本だと今年)公開された例の映画「DISTRICT 9(第9地区)」を意識したのでしょうかね。

 バンドのメインコンポーザーがドラムスのジョナサン・スキャングということもあって、クセのある変拍子を織り込んだ、引っかかりどころ多めのプログレ・メタル/プログレ・ハードといった趣。ソフトなタッチのMESHUGGAH、という印象を感じたりも。複雑でありながらキャッチーさもしっかりあり、「I Don't Want To Wait Another Day」「I Can't Take You With Me」の冒頭2曲は好例。フックのある展開の中、前者はギコギコしたチェロに併せて疾走するアンサンブルが痛快、後者は明快ながらも耳にこびりつきやすい歌メロが組み込まれております。続く「The Man Who Knows Your Name」「Termites」の2曲は共にヘヴィなギターリフと疾走感溢れるチェロ、そして絡みつく滑らかなシンセフレーズを主体として組み上げられた、ストイックな印象を感じさせる楽曲。そして本作のハイライトが、全27分半に及ぶ十部構成の組曲「Mindscan」。各2~3分の小曲/モチーフを寄せ集めただけのような気もしますが、シンフォニックなインストパートから、モダン・ヘヴィネスを感じさせるねじくれた変拍子パート、妙に実験的テイストを感じさせるパート、静謐なバラード・パート、と、静と動を交互に、そして起伏たっぷりに繰り返すミクスチャー・プログレ一大力作。なかなかの手堅さです。

 ちなみに本作にはオリヴィエ・メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」の一部をカヴァーとして収録する予定だったそうですが、権利関係の事情でアルバムに収録することがが出来なかったため、あえなく外されたとのこと、そのカヴァー/アレンジは現在バンドがフリーDL音源として配布中。また、レスリー嬢は09年には自身のレーベルからソロアルバムを発表しており、そこではヴィニー・カリウタ(dr)、ヴェイル・ジョンソン(b)という著名的なセッション・ミュージシャンを迎えて、ロック/ポップス路線の楽曲を展開しております。こちらもなかなか水準の高い内容。



DISTRICT 97:公式
DISTRICT 97:Myspace
アメリカン・アイドル(シーズン6):Wikipedia

2010年11月17日水曜日

DEC BURKE『Destroy All Monsters』(2010)

Destroy All Monsters

 DARWIN'S RADIO、FROST*といったUKモダン・プログレ・バンドでギタリスト/ヴォーカルを務めている、デック・バークの1stソロアルバム。ヴォーカル、ギター、キーボードは殆どがデック氏自らによるプレイで、ゲストでリズムセクション(IT BITESのネイザン・キング(Ba)や、DARWIN'S RADIOのティム・チャーチマン(dr)が参加)迎えてレコーディングされたというもので、いかにもソロアルバムらしい制作体制。音楽性はFROST*のモダンでシャープな側面を思わせる部分もあれば、DARWIN'S RADIOのハードでありながら軽やかな技巧性を思わせる部分もありということで、デック氏がそれぞれのバンドへもたらしているものが伺えるという意味でも興味深い内容と言えます。

 3~4分、長くても7分というコンパクトな楽曲は、いずれもキャッチーな落としどころもキチっと設けてあります。また、本職がギタリストということもあって、やはりギターをメインに押し出したつくり。オープニングの「The Last Time」や、「Signs Of Life」は、「もしFROST*がキーボードではなくギターを押し出したバンドだったらこうなるんじゃないか?」 という印象を抱かせますし、「Secret Lives」はギターワークが堪能できるプログレ・ハード・チューン。また、近年のIT BITESやKINOにも通じるキャッチーなUKロック然とした「Sometimes」など、UKプログレ/ポンプ・ロックに通底するメランコリック/ウェットな面もしっかり継承しております。アルバム後半はコーラスワークを生かしたポップス寄りの楽曲が続くのですが、ポジティヴなメロディと中盤からの盛り上がりが胸に迫る「Small Hours」や、哀愁たっぷりの展開と余韻を残すラストの7分のタイトル曲は秀逸な仕上がり。氏が在籍している2バンドと比べると楽曲の主張が弱いと感じる部分もありますが、総じてバランスの良い内容。何より持ち味をしっかり生かしたソロアルバムです。

DEC BURKE:myspace
Prog Archives:DEC BURKE

2010年11月10日水曜日

巨乳まんだら王国『王国民洗脳教育セット』(2004)

王国民洗脳教育セット


 イコマノリユキ教祖と愉快な仲間達による変態ロックバンド 巨乳まんだら王国の1stフルアルバム。変態は変態でもテクニックが変態という意味ではなく、スタイルと精神性がド変態という意味で。もはやコミックバンドというより下ネタバンドと言った方がいいほど歌詞は下ネタオンパレード。蟻の門渡りなんて単語も飛び出す「タマキン体操」はいろんな意味で衝撃だったというか、これには本気でホンマもんのアホ(誉め言葉)と言いたくなりました。伊達に教祖は嘉門達夫やおかげ様ブラザーズ、爆風スランプ、米米CLUBをフェイバリットに挙げてねーなというか、これらの方々の持っていたしょーもない(誉め言葉)部分をよくもまあここまで受け継いだもんだなーと思うことしきり。改めて聴き返してみると、マイク・パットンのMr.Bungleにも相通ずるところがあるなあ、とも。

 ワザとやってんだか天然なんだか曖昧なラインでぶっ放すしょーもなさとアホらしさの徹底ぶりが琴線にハードヒット。また、楽曲アレンジが多彩かつ秀逸なのもこのバンドのもうひとつの魅力、アルバムの殆どの楽曲の作曲を手がけるゴリ国王(現在は隠居中)の懐はメタルからパンク、ファンク、テクノまで広い。ややジェイムズ・ヘットフィールド似の教祖の声を生かしたMETALLICA節炸裂のメタルナンバー「ちん毛」を皮切りに、勢いに任せて己のチンコを嘆くヘヴィ・ロック・チューン「割礼カレー」、小粋かつ軽快なファンク・ナンバー「69」(ちなみに、この2曲にベースで参加しているのはマキシマムザホルモンの上ちゃん)、メンスの悩みをキャッチーなイントロやサビのメロディに載せてエモーショナルに歌い上げる「メンス24」、その他「彼女はCm」「恋列車2004」「ホルスタイン」など、イヤでも耳を引く聴き応えのあるナンバーがズラリ。一方で前述の「タマキン体操」のようなグダグダも辞さないネタ/コント曲も多数盛り込まれており(例:渋滞情報、コンドームの使用法読み上げ、四十八手連呼)、アルバムの楽曲配置は地雷源そのもの、その混沌ぶりがまたよろし。ラストは大合唱の「国歌斉唱」でキレイにシメられますが、ここにはマキシマムザホルモン、花団、セックスマシーン、サンボマスターなど、巨まんと交流の深いバンドの面々が参加しております。改めて聴いても喰えねえアルバム、迷盤であり珍盤。






「王国民洗脳教育セット」:試聴
巨乳まんだら王国:Wikipedia
巨乳まんだら王国:公式