TVアニメ「宇宙をかける少女」オリジナルサウンドトラック Vol.1 (2009/03/25) TVサントラ、ALI PROJECT 他 商品詳細を見る |
サンライズによるSFアニメ「宇宙をかける少女」のサウンドトラック。楽曲にプログレネタを仕込むことに定評のある須藤賢一氏が劇伴を担当し、全編プログレッシヴな内容に仕上がっているというという前情報からもう非常に気になっていたんですが、実に期待を裏切らない、堂々たる「アニメサントラ兼プログレ(パロディ)アルバム」たる内容でした。ライナーノーツにおける井上俊次氏のコメントで、そらかけの劇伴をプログレにしようとしたキッカケに、キース・エマーソンが手がけた83年の劇場アニメーション「幻魔大戦」のサントラがあったというくだりも非常に興味深く、それを踏まえて須藤氏を起用したというのも実に納得がいく話でした。Vol.1「LEOPARD」では須藤賢一氏が19曲、菊谷知樹氏が5曲、七瀬光嬢が1曲をそれぞれ担当。JAM Projectによるクワイア・コーラスをフィーチュアして壮大さに拍車をかけた1曲目「MAJESTIC OVERTURE with JAM Project」から遺憾ないプログレぶりを披露してくれます。以降も、「NELVAL」「KIRKWOOD」ではキース・エマーソン/EL&Pの「Piano Concerto No.1:Third Movement」や「Bitches Crystal」みたいなフレーズが出てくるわ、「DUEL IN MYTHOLOGY」ではホルスト「火星」のフレーズからEmerson,Lake&Powell 「The Score」のフレーズへと繋げるわ、「EX-QT」はイントロがモロにNIACINの「Barbarian@The Gate」だわ、「BROADWAY」は後期CAMELのようだわ、「SORAKAKE GIRL」はTOTO「Child's Anthem」みたいなイントロから、YES「Machine Messiah」のような曲調に繋がるわ、ハモンドオルガンは所狭しと大活躍しているわ、なんだかもう全曲に元ネタがあるんじゃないかと勘繰りたくなるほどに、プログレッシャーなら感涙モノというかニヤニヤできるネタのオンパレード。
一方、「DIVISION FIVE」では謎の円盤 UFOのオープニング・テーマのパロディをやっていたりする(謎の円盤UFOのパロディと言えば佐橋俊彦氏もTHE ビッグオーの「Respect」でモロにやっていましたね)。須藤氏だけでなく菊谷氏の劇伴曲もかなり聴き所のあるものになっているのも見逃せません。須藤氏の楽曲がブリティッシュ・プログレ、プログレ・ハードのイディオムを感じさせるとすれば、菊谷氏の楽曲はシンフォニック・ロックのイディオムを感じさせるといったところ。特に軽快なストリングスにロックンロールなバッキングが絡む「CARNICAL CARNICAL!」や「EXCITING LIONET」、ジャジーなリズムの上をフルートが駆ける「NOISY CHASE」ではNew Trollsを髣髴とさせるイタリアン・プログレ臭さを撒き散らしており、思わず吹き出しそうになってしまった。いやはや当初の予想以上に濃い内容で、ランティスの本気をしかと堪能しました。本当にプログレの教則本的な側面もあるサウンドに仕上がっている1枚。
「EX-QT」 「SORAKAKE GIRL」
TVアニメ「宇宙をかける少女」オリジナルサウンドトラック Vol,2 (2009/06/24) TVサントラ、栗林みな実 他 商品詳細を見る |
EL&Pを筆頭にYESやPFM、U.K、TOTOなどを下敷きにしたプログレ曲が目白押しだった Vol.1に続き、本作も非常に楽しみにしていた1枚。こちらのライナーノーツには須藤・菊谷両氏のコメントと、音響監督の鶴岡陽太氏とプロデューサーの古里尚丈氏の対談が掲載されており、プログレに至った経緯を知る上でこちらもなかなか興味深い内容です(「うろつき童子」の劇伴の話題も出てくるとは思わなかった)。その対談によると、劇伴は当初ジャズ路線で行こうと考えていたところ、さらにもう一つ耳に残るサウンドを何か入れたいということで相談した結果、それなら自分たちが好きなプログレを入れよう!という経緯で決まったとのこと。というわけで、このVol.2ではもう一方のメインであるジャズ&ジャズ・ロックな楽曲が多く収録されているのが特徴。一方で場面の雰囲気に合わせた劇伴曲も多いため、Vo.1と比べるとプログレ度が散漫になってるなあという印象もあるのですが、劇伴としては非常によくまとまってると思います。
オープニングは前回同様JAM PROJECTによるクワイア・コーラスをフィーチャーした、「RISE OF THE CURTAIN」で荘厳に幕開け。「MAJESTIC Overture」では男性陣のクワイアがメインでしたが、こちらは対照的に女性陣のクワイアがメイン。そこからさらに混声クワイアへと続いていく展開は、キース・エマーソン的な威風堂々たるキーボードプログレな曲調と相まって非常にアツいものです。ジャズ系統の楽曲はおとなしめなのですが、ジャズロック系統の楽曲はそこはかとなくカンタベリー系の流れを感じさせ、「HIGH SPEED BATTLE!」「BLACK PRINCESS」「FACELESS」「GLORIOUS MAJESTIC」など、せわしないアンサンブルからじわりとした熱が伝わってくるかのよう。プログレ曲は少々少なくなったとは言え、要所でしっかりプログレ曲が配されており、プログレサントラとしての体裁は整っています。キレたヴァイオリン(デヴィッド・クロス的?)がうねる「MACHINGUN IMO」や、往年のMAGNA CARTAレーベルのEL&Pフォロワー系列バンドがやりそうなフレーズが仕込まれた「FACE TO FACE」、壮大なフィナーレを感じさせるシンフォニック曲「BEGINNING THE WORLD OF TOMORROW」など、やはり聴き所は多いです。
「HIGH SPEED BATTLE!」 「FACE TO FACE」
宇宙をかける少女 ベストアルバム (2009/12/23) TVサントラ、栗林みな実 他 商品詳細を見る |
アニメ本編終了後から約半年後の2009年暮れにリリースされていた、主題歌、挿入歌、劇伴をベスト的に収録したアルバム。サントラVol.1/Vol.2に収録されなかった劇伴曲は、全てこちらに収録されています。内訳は須藤氏の楽曲が7曲、菊谷氏の楽曲が4曲、七瀬さんの楽曲が1曲。ある意味サントラVol.2.5。また、Vol.2に収録されていた「RISE OF THE CURTAIN with JAM PROJECT」は、「GREAT DETERMINATION with JAM PROJECT」とタイトルが変更されて再収録されております。残り物ということもあってか、先の2枚と比べるとそこまで印象の強い曲はないのですが、須藤氏の楽曲では、クラシカルなオルガン・プログレ・ハード・ロック「Existence」(ややキース・エマーソンが入った感も)、そしてモロにPFMの「The Mountain」をパロった楽曲として(ごくごく一部で)話題になった「Scramble!!」。後者はギターのフレーズといいクワイアといい、もはや短縮版「The Mountain」という趣の1曲です。菊谷氏の楽曲では、"らしい"雰囲気のフルートをフィーチャーなした小品「Mystic」、ヴァイオリンも切れ込む、ややデジタリーなチェンバー・ロックといった趣の「Stand Up!」あたりに注目。
「Scramble!!」
●須藤賢一:Wikipedia
●菊谷知樹:Wikipedia
●宇宙をかける少女:Wikipedia