2017年7月31日月曜日

80年代インドネシアの知られざるプログレッシヴ・ポップ・バンド ― WOW!『Produk Hijau』(1983)

 イタリアのプログレッシヴ・ロック・レーベルであるMELLOW RECORDSはbandcampアカウントで過去のカタログや発掘音源などを定期的にアップしています。インドネシアものではDISCUSの2003年発表の1stアルバム『Tot Licht!』や、異才シンガーソングライター ハリー・ルスリの1977年発表の二部構成のロックオペラアルバム『Ken Arok』があるのですが、ジャカルタで1983年に結成されたロックバンド ワオ!が同年に発表したデビューアルバムは、まさに掘り出しもの。90年代初頭に解散を迎えるまで四作のアルバムをカセットテープで発表しています。




 メンバーは、EL&PなどのフォロワーバンドだったABBHAMAの元メンバーであるイワン・マジド(ヴォーカル/キーボード)とダーウィン・B・ラックマン(ベース)の二人に、当時すでにいくつかのバンドを渡り歩き、ソロでも数枚のアルバムを発表するという多忙ぶりであったFariz RMことファリス・ロスタム・ムナフ(ドラムス)を加えた三人。一曲目の"Dibalik Kemerdekaan"は二部構成、14分近い大曲ですが、一貫してフレッシュなポップサウンドを聴かせており、やりたいことをやりつつ、ヒットチャートとも折り合いをつけようという欲張りなスタンスがみなぎっています。その後も、しっとりとしたピアノ・バラードを配しつつ、プログレッシヴ・ロック/AORな味付けもしっかりした明快な歌ものアルバムというカラーは崩しません。ブリティッシュ・ポップやプログレ、とくに中期のGENESISへの傾倒は如実にうかがえるのですが、イントロからモロに"Firth of Fifth"な4曲目の"Armagedon"はその最たる一曲。国は違えど、同時期にアルバムデビューを果たしたアルゼンチンの良バンド PABLO EL ENTERRADORと同じ根っことベクトルを持っているという印象もあります。


 このあと、ムシャ・ヨーノース(ギタリスト)、イカル・インドラ(ドラムス)という二人のメンバーを迎えながら、1985年に2ndアルバム『Produk Jingga』、1990年に3rdアルバム『Rasio & Misteri』、1991年にラストアルバム『Lupus IV』(1990年公開の映画「Anak Mami Sudah Besar」のサウンドトラックでもあります)をリリース。アルバムを重ねるごとにプログレッシヴ・ポップ色は減退し、よりストレートでコンパクトなAORにシフトしています。また、イワンは1986年、1988年に二枚のソロアルバムをリリースしたほか、ロックバンド Cynomadeusのメンバーとして90年代初頭ごろまで音楽活動を継続。その後は音楽活動にカムバックすることなく(どうやら長らく服役をしていたとのこと)、2014年に57歳でこの世を去っています。ファリスはFariz RMとしてポップミュージック界で大成し、現在も精力的に活動を続けています。


■WOW! — Rateyourmusic



「Yess Records:インドネシアのブートレグカセットレーベル」
(Red Bull Music Academy Japan)


70年代中盤から80年代後半にかけてのインドネシアは英米のバンドの海賊盤カセットテープがYess Recordsなどのショップを通じて数多く流通しており、少なからずシーン形成にも影響をもたらしていたとのこと。


「インドネシアのプログレ事情 改定ダイジェスト版」【前編】 【後編】
 (蝸牛の神託 蝸牛のゴタク)

ジェット尻氏による上記記事は、インドネシアン・プログレシーンを知るには欠かせない、必見の内容です。

2017年7月28日金曜日

その後の「待ってる者 (Homunculus Loxodontus)」について



「待ってる者」こと「Homunculus Loxodontus」の、ロシア語圏でのインターネットミーム化の流れについて

http://camelletgo.blogspot.jp/2017/03/homunculus-loxodontus.html


 今年はじめからロシア語圏で爆発的に流行っている「Zdhun(待ってる者)」こと《Homunculus Loxodontus》以前の記事では3月末までの流れを追いましたが、その後もいろいろとトピックがあったので、ご紹介いたします。


【5月】

《Homunculus Loxodontus》の制作者であるマルグリート・ヴァン・ブレーヴォートさんが、もう一体の新たな個体を制作。アムステルダムの地下鉄駅ギャラリー「Etalagegalerie Inkijk」に展示されるようになりました。1分半ほどのプロモーション映像もvimeoで公開されています。キリっとした表情、右手に添えられた左手、ヒレのような足(?)など、ライデン大学病院のベンチにいる個体と色々と違う特徴がみてとれます。



the waiting from polderlicht on Vimeo.


https://ja-jp.facebook.com/margrietvanbreevoort/posts/1913401422240630

http://www.polderlicht.com/
http://galerie-inkijk.blogspot.jp



【6月】

《Homunculus Loxodontus》がロシア語圏で爆発的ブームになった結果、無許可のグッズが現地でいくつも販売され、あげく第三者が勝手に商標登録しようとする動きまであり、懸案事項となっていました。そこでZhdunの権利管理団体として名乗りを挙げたのが、ロシアの著名なメディアグループ「CD Land」。ほどなくして、作品イメージを合法的に使用する際はCD Landを通してほしいというアナウンスもマルグリートさんから出され、ロシア圏での無認可での商品化問題がひとまず進展。また、同月中旬には広告・コミュニケーション関係の世界的なフェスティバル「カンヌ・ライオンズ」のロシア版イベントにマルグリートさんは招待され、現地のアーティストやファンと交流されたもよう。


https://ja-jp.facebook.com/margrietvanbreevoort/posts/1929717547275684



【7月】

 ロシアでアニメ化が決定。どういう内容で展開していくのかまったく予想がつかないのですが、ともあれ、前述のCD Landを通すようになったことで、マルグリートさんも利益を得ることができます。「芸術で食べていくことは難しいのですが、これで数年間はお金の心配をする必要がなくなり、作品制作に打ち込むことができます」という彼女のコメントがモスクワタイムスに載っていました。しかしながら、わずか半年でここまで進展するとは。





「Russian Company Buys Rights to Zhdun Viral Sensation」
(from The Moscow Times|2017.07.06)

「Aandoenlijk zeekoebeeld van LUMC in toekomst ook op televisie」
(from UNITY TV|2017.07.13)


http://margrietvanbreevoort.nl/index.html
https://nl-nl.facebook.com/margrietvanbreevoort/

2017年7月23日日曜日

極道野球からの伝奇ヴァイオレンス野球で人間が死ぬ 『硬派!埼玉レグルス』(1986-1989)

ふと思い立って『硬派!埼玉レグルス』(滝直毅[原作]/山本コーシロー[作画])を一気読みしました。月刊少年ジャンプの1986年9月号から、1989年8月号にかけて連載された全9巻の野球漫画。ヤクザの若頭である主人公 歯車獅子太郎が弱小球団である埼玉レグルスのオーナーに見染められ、新監督として超人的体力と気合(そして暴力)でチームを牽引していく、というのが本作のあらすじです。





 当時の月刊ジャンプは、なかいま強の『わたるがぴゅん!』が連載3年目にさしかかろうとしていたころで、野球漫画がダブるのではと思いきや……埼玉レグルスは第1話のしょっぱな4ページ目で(フェイクとはいえ)指をエンコしてドスでメッタ刺しにするシーンが出てくるので、ハナからマトモな野球漫画ではありませんでした。相手の剛速球やスライディングを顔面で受け、長ドス持ちの構えでバットを持ち、ボールをその先端にブチ当ててホームランをカマす獅子太郎のポテンシャルは以降インフレし続けます。その一方で、鶴之丞という「男の娘」(元リトルリーグのエースピッチャーだったものの、母を亡くし、腕を故障したため女形の道へ進んだという設定)もおり、かれは完全に本作のヒロイン枠です。






 そんなこんなで、3巻までは「極道野球漫画」なのですが、4巻にさしかかり、地下プロ野球リーグ「レッド・ドラゴン」と、それらを統べる「赤龍」の存在が明らかになるあたりで伝奇ヴァイオレンスアクション野球漫画へと舵をきりはじめ、沢村栄治の魂を受け継ぐ9人の「光の獅子」という設定がメインになってゆきます。同時期の週刊少年ジャンプは『北斗の拳』『魁!!男塾』『聖闘士星矢』『ドラゴンボール』と、バトル漫画大全盛であり(さらに1987年に入ると『ジョジョの奇妙な冒険(第一部)』や『ゴッドサイダー』の連載も加わってきます)、それらと同位相の波動がレグルスにもみなぎりはじめるのです。そして、人間がどんどん死にはじめる(ココ重要)。ジャンプ野球漫画の系譜でも、70年代の『アストロ球団』と90年代の『地獄甲子園』と同じラインにあり、その間をつなぐ作品といえなくもないんじゃないかと。もうムチャクチャなケレン味です。





 アラーの呪い、もといサソリの猛毒で瀕死の重傷を負わせるチーム「アラーズ」(ピッチャーとキャッチャー以外の全員が“地中”で守備についている)や、ヨーゼフ・メンゲレの血を引くエースピッチャー アルラウネ(筋肉を伸長限界点まで伸ばして繰り出す「ハイドロサイエニック打法」で殺しにかかる)を擁するナチスドイツチーム「パニッシュナーズ」、ウェンディゴのパワーを得るために魂を売り渡したカナダチーム「カナディアン・ブレード」といった狂った強豪チームが出てくる6巻から8巻にかけての傍若無人っぷりも相当なものですが、最終巻に至っては、味方に謎の新キャラが出てくるわ、主要キャラがどんどん死ぬわとツッコミが追いつかなくなり、もはや完全に破綻してしまっています。それでも、全てを巻き込んでラストまで突き抜けてしまった。いろんな意味で記憶に残る怪作だと思います。……求む、電子書籍化。






吼!サムライ 1 (少年チャンピオン・コミックス)
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 作画担当の山本コーシロー氏は1991年に週刊少年チャンピオンで異種格闘技漫画『吼!サムライ』を連載されましたが、その後の氏の消息は不明(ちなみに、『吼!サムライ』の連載終了から数週間後に同誌に登場した異種格闘技漫画が『グラップラー刃牙』です)。原作担当の滝直毅氏は埼玉レグルスと同時期にフレッシュジャンプで『ぶるどっぐ』(作画:双葉たかし)、モーニングで『凶獣よ荒野へ』(作画:湯浅ひとし)の原作を手掛けられていましたが、その後、『どっかん!』(作画:能田茂)、『ギラギラ 六本木不死鳥ホスト伝説』(作画:土田世紀)などの原作や、本宮ひろ志の『サラリーマン金太郎』『雲にのる』のノベライズなどを手掛けられています。

2017年7月21日金曜日

現実のインディーズシーンともクロスする、タワレコ×スプラトゥーンコラボ企画 ― Wet Floor『Inkoming!』(2017)



http://tower.jp/item/4534119


『スプラトゥーン2』の新しいバトルBGMを担当するイカ世界のロックバンド“Wet Floor”のCDがタワレコ限定で発売
(from タワーレコード|2017.06.09)


 任天堂から7月21日に発売されるNintendo Switchソフト「スプラトゥーン2」。ゲーム中で対戦BGMとして流れるイカ界のバンド「Wet Floor」の1st EP。6月23日から7月30日にかけて開催されているタワーレコードとスプラトゥーンのコラボキャンペーンの一環として、タワレコでの限定販売CDとしてリリースされた本EP。作曲は前作のメインコンポーザーであり、同じくゲーム中のバンド「Squid Squad」や「Hightide Era」の楽曲も手がけられている峰岸透氏。ネーミングセンスも、相変わらずヒネりが効いております。「インク(Ink)」と「入ってくる/次に来る(Incoming)」をひっかけたリードトラック"Inkoming!"、飛び込み競技における入水方法のネーミングを冠した"Rip Entry"、イルカ(Dolphin)とエンドルフィン(Endolphin)をひっかけた"Endolphin Surge"の三曲と、人間界のメンバーで編成された【Wet Floor Shibuya】のスタジオレコーディングによる"Inkoming!"を収録。歌詞はもちろん架空言語(イカ語)。「Squid Squad」はニューウェイヴロック、「Hightide Era」はピアノエモ、「ABXY」はチップチューンパンクという方向性でしたが、「Wet Floor」はバンドリーダーがシンセサイザー奏者であることと、ギター&ヴォーカルが二人いるという編成を特徴としており、「Squid Squad」よりもゴリっとしていてパンキッシュな感触のサウンドなのがミソです。「1st EP」ということは、反響次第で二枚目も出るのでしょうか。





 【Wet Floor Shibuya】の演奏陣もトピックです。「Squid Squad」の楽曲のレコーディングメンバーには、西川進氏、Hi-STANDARDやチャットモンチーなどで知られる恒岡章氏らが参加されておりましたが、【Wet Floor Shibuya】は気鋭のインディーズバンドから選抜したメンバーが集結しており、架空のバンドでありながら、現実のインディーズシーンにもコミットしているという面白さがあります。このあたりの人選は、やはりタワレコ側のディレクションなのでしょうね。鈴木望世さんは名古屋を拠点とするバンド ペンギンラッシュのヴォーカル&ギター。坂本遥氏は恋愛至上主義音楽集団ことTHEラブ人間や、トリオ・ユニット エドガー・サリヴァンのギタリスト。高木祥太氏は無礼メン、エドガー・サリヴァンなどのベーシスト。深澤希実さんはAUSTINESや、Pollyanna(タワレコ内のレーベルからアルバムをリリースしています)のキーボーディスト。MIZUKIさんは川田まみバンドやLovendoЯのサポートドラマーなどで活躍されております。アレンジャーは、前作楽曲のライヴアレンジでもおなじみの大山徹也氏です。


【Wet Floor Shibuya】

鈴木望世(vocal & guitar)
坂本遥(vocal & guitar)
高木祥太(bass)
MIZUKI(drum)
深澤希実(keyboard)
大山徹也(arrange)




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 なお"Inkoming!"は2017年1月14日・15日に開催されたNintendo Switch 体験会2017で【任天堂スペシャルロックバンド】によっても演奏されております。

【任天堂スペシャルロックバンド】

AYUMU(guitar)
高慶“CO-K”卓史(guitar)
TABOKUN(bass)
かどしゅんたろう(drum)
小田朋美(keyboard)
大山徹也(arrange)




 高慶“CO-K”卓史氏は「ABXY」「Hightide Era」、TABOKUNは「Squid Squad」、かどしゅんたろう氏は「ABXY」の楽曲のレコーディングメンバーでもあり、AYUMU氏は2016年4月29日に「ニコニコ超会議2016」で行われたシオカラーズのライヴのサポートギタリストでもありました。小田朋美さんは自身がフロントを務めるCRCK/LCKSのほか、dCprG、エビデュオなどでも活動されている鍵盤奏者/シンガーソングライターです。


噛むほどに味が出る、イカ世界のスルメ盤 ― 峰岸透、藤井志帆『Splatoon O.S.T -Splatune-』(2015)

シオカラーズファンへの「スルメ盤」 ― 『SPLATOON LIVE IN MAKUHARI ―シオカライブ―』(2016)

2017年7月17日月曜日

上山徹郎『LAMPO―THE HYPERSONIC BOY―』単行本第一巻 刊行20周年

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 2017年で20周年を迎える作品は数多くあり(たとえば『ファイナルファンタジーVII』『ONE PIECE』『少女革命ウテナ』『OK COMPUTER』(RADIOHEAD)などもそうです)、あちこちでアニバーサリー企画なども出ているわけですが、1996年から1999年にかけて《月刊コロコロコミック》《別冊コロコロコミックSpecial》で連載された、上山徹郎氏のバトルアクションコミック『LAMPO―THE HYPERSONIC BOY―』も、単行本第一巻が刊行(1997年5月25日奥付)されて今年で二十周年を迎えました(連載開始は1996年10月15日の月刊コロコロコミック11月号)。途中打ち切りとなった初連載作『電人ファウスト』(1994年~1995年)に次ぐ、氏の長編連載第二作。「未来少年コナン」へのオマージュもたっぷりと込められた入魂のSF群像バトルアクションの傑作です。リアルタイムで『LAMPO』連載第一回を目の当たりにしたときは、明らかにほかの掲載作品とは違う空気に子供ながらに戸惑いを感じた一方で、「なんかスゲーのがきた!」とワクワクさせられたのを未だに憶えています。





 第一巻のころはまだ主人公たちの等身は低めで、ロボットたちの造型もややデフォルメが効いていましたが、見開きでの見せ場があったりと、すでに規格外の印象があります。第二巻より、主人公であるランポのライバル的存在として〈風使い(セラフィック)〉の少年ローズが登場。そして第9話を境にして隔月刊の別冊へと連載が移行します。「人造人間」「ロボット」「巫女の神託により最新テクノロジーを有する国家」といった設定が一通り出揃い、太陽系十二惑星の重力波を用いた〈公転発電機(カレンダードライブ)〉や、神からの託宣を巫女の脳を通じてデジタル信号化し転送・記録する〈巫術〉システムなどの登場で、ストーリーや設定がさらにノリにのってきます。






 第三巻ではランポ、ヨシノ、マスラオを中心とした群像劇という面も見え始めてきます。ローズの存在がやや薄くなり始め、主人公のライバルキャラ的役割はマスラオにとって代わられた感もなきにしもあらずなのですが、面白さにもますます拍車が掛かってくる。フガクが示威行動として発射したミサイルの名称が〈佳句爆弾(トゥルーライズ)〉だったりするのだけども、元ネタがわかったちびっ子は当時どれだけいたのだろうか(映画は1994年公開)。核抑止論ネタといい、もはや完全に対象読者層をぶっちぎっております。





 作画修正のために刊行が半年以上延期した最終第四巻では、巻頭に設定資料「神国ロボットの基礎知識」が収録されており、これがまた非常に読み応えのあるものになっています。人型ロボットの戦闘力の裏づけたる設定〈力場体(イーサーボディ)〉〈蓮華盤(ロータス)〉〈掌裡効果(パームイフェクト)〉など、今読んでも否応なくワクワクさせられてしまう。機械のアイデンティティとサムライの気概の相克を描く、マスラオ対ウンリュウの闘いは本巻の白眉。終盤に登場する〈美少女形態フガク〉に至っては上山先生の趣味がヒートアップしており、氏が会心の出来とうたった「不快感を伴った美」のデザインはなるほどお見事な仕上がり。





 全24話。まだまだ描きたいことがあったのではないかという感もあるものの、小学生向けの漫画雑誌というフィールドで描ける以上のものを詰め込んで健闘しており、随所で見せる上山先生のこだわりと熱意にも頭が下がります。第四巻刊行の半年後、『電人ファウスト』の新装版(ワイド判)が刊行されましたが、『LAMPO』はその後 新装版は出ていません。復刊を心から望みます。



 【8月24日追記】
……と書いてから一ヵ月、なんと、『電人ファウスト』『LAMPO』の復刊計画がクラウドファンディングサイトのCAMPFIREで始動しました。目標金額は3,000,000円、ファンディング期限は2017年10月1日です。
https://camp-fire.jp/projects/view/38966



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 上山氏はその後、2002年から2005年にかけて《コミック電撃大王》で『隻眼獣ミツヨシ』を連載。三巻分の単行本が刊行されるも、未完・未収録分を残して終了(第三巻は現在もプレミア状態になっています)。数年後の2008年12月に集英社の隔月刊誌《JC.COM》に移籍し、『ミツヨシ 完結編』として同誌の第十号まで連載され、前作の未収録エピソードも収録した上下巻の単行本で(一応)完結。また、『ミツヨシ 完結編』に少し先駆ける形で、2008年4月から9月に放送されたアニメ「RD 潜脳調査室」のキャラクターデザインを担当され、2012年から2013年にかけて放送された「PSYCHO-PASS」第一期(第12話「Devil's Crossroad」)のキャラクターデザイン協力ののち、2013年から2014年にかけて《月刊ヤングキング》にて『テングガール』を連載。二巻の単行本が刊行され、「第一部完結」となりました。近年の活動については、「手前屋鬱郎」で検索しましょう。

2017年7月10日月曜日

2017年上半期フェイバリットアルバム10選

▼THE MANTLE『The Mantle』



スムースジャズ/フュージョンの第一人者ケニー・Gの息子 マックス・ゴアリック率いるプログレッシヴ・メタル・バンド。往年のシュラプネル系かよというくらいに、快楽指数の高いプレイで弾きに弾きまくる新たなシュレッドギタリストが颯爽とシーンに登場。
http://camelletgo.blogspot.jp/2017/02/the-mantle-max-gorelick.html



▼TO-MAS(伊藤真澄&ミト&松井洋平)『フリップフラッパーズ オリジナルサウンドトラック』

TVアニメ『フリップフラッパーズ』オリジナルサウンドトラック
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なんでもアリなアニメ本編の世界観に呼応するかのように、三人それぞれの音楽性がフル稼働した極彩色の傑作スコア。鮮やかなる音のピュアイリュージョン。伊藤真澄さん、良原リエさん、コトリンゴさん、Babiさんによるトイピアノカルテット「toi toy toi」や、倍音S、東京混声合唱団といった顔ぶれにも注目ですね。本作の次にTO-MASが劇伴を手掛け、toi toy toiがエンディングテーマを手がけた春アニメ「アリスと蔵六」のサントラもマストです。
http://camelletgo.blogspot.jp/2017/02/welcome-to-pure-illusion.html



▼みゆはん『自己スキーマ』

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「ぼくのフレンド」を無限リピートするために購入したところ、収録曲の全てがめっちゃよくて参った。アートワーク展開もふくめたマルチなセルフプロデュース能力の高さもブリリアントなものを感じました。全曲本人作詞作曲なのもさることながら、五人の編曲者がまたすごくいい仕事をされている。
http://camelletgo.blogspot.jp/2017/04/mewhan-jiko-schema.html



▼デーモン閣下『EXISTENCE』

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如何様なアレンジでも対応できるスタイルを確立してきた閣下が、北欧の仕事人アンダース・リドホルムとともにメロハー、ポップチューン、ロックオペラ、そしてメタルで魅せた、「スクランブルド・ロック」の魅力と真髄がたっぷりの快作。三人の「わかっている」ゲスト作詞陣のいい仕事も光る。
http://camelletgo.blogspot.jp/2017/05/demon-kakka-existence.html



▼Shobaleader One『Elektrac』

Elektrac
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スクエアプッシャーが宇宙人と組んだ「スクエアプッシャー曲の生演奏再現バンド」であるショバリーダー・ワン。スクエアプッシャーのバッツンバッツンなベースプレイと地球外生命体バックバンドのタイト&タイトなアンサンブルでとんでもなくエキサイティング。たっぷりイキのいい人力ブレイクビーツサウンドだし、プログレ/ジャズ・ロック好き好きマンがウキウキしそうなくすぐりもしこたまある。北欧のRune Grammofonあたりの急進的ジャズ・ロック勢の出す音ともめっちゃシンクロしてる感があるのも、とても面白い。ボイラールームでのライヴ映像は最高です。ショバ代を払って観たいパフォーマンス。



▼LINKED HORIZON『進撃の軌跡』

進撃の軌跡(CD Only)
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既発曲5曲と、書き下ろしの新曲6曲という構成で、一枚丸ごと「進撃の巨人」タイアップでアルバムを出してのけてしまった。新曲は「紅蓮の弓」「自由の翼」の変奏の趣があるのだけど、それが奏功してアルバムとしてもコンセプトとしても全力でガッチリ補強されていると思ったし、Revo氏の近年の仕事でもピカイチなくらいに焦点が定まっている。タイアッププロジェクトの真価を見事に発揮しつつ、「14文字の伝言」という、サンホラファンにもくすぐり(むしろ起爆装置かもしれないけど)を入れてるあたりはいつものRevoだなと。今から12年前に制作した『リヴァイアサン』『ガンスリンガーガール』の公式イメージアルバムで見せた強みが再度、遺憾なく発揮されましたね。



▼Isildurs Bane & Steve Hogarth『Colours not Found in Nature』

Colours Not Found In Nature
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Isildurs Bane & Steve Hogarth
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スウェーデンのチェンバー・ロック・バンド ISILDURS BANEの十数年ぶりの新作アルバムであり、MARILLIONのヴォーカリスト、スティーヴ・ホガースと共に制作された一枚。北欧と英国のまさかのコラボレーションといったところなのだけども、これが素晴らしいマッチング。よくよく考えてみればISILDURS BANEもMARILLIONもバンド名の由来はトールキンの中つ国の物語からなので、共演を果たすのも必然だったのではないかと言えなくもない。イシルドゥアの禍とシルマリルの物語。



▼Bubblemath『Edit Peptide』

Edit Peptide
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Bubblemath
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ミネソタのテクニカルプログレバンドのBubblemathの16年ぶりの新作。GENTLE GIANT影響下なのは明らかなのだが、オーバーフローしている。スキを与えてくれない狂った展開のオンパレードですさまじいことになっている。16年分の妄念。



▼J・A・シーザー『バルバラ矮星子黙示録─アルセノテリュス絶対復活光とオルフェウス絶対冥府闇─』

バルバラ矮星子黙示録 -アルセノテリュス絶対復活光とオルフェウス絶対冥府闇-
J・A・シーザー
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「少女革命ウテナ」の放送20周年の今年、じつに19年ぶりとなる【ウテナ音楽】の新作がJ・A・シーザーから届けられた。タイトルの時点でもう完全勝利感があるのだけれども、内容も素晴らしかった。『薔薇卵蘇生録ソフィア』の衝撃と感動を再び味わえるとは! 不滅不朽。「絶対運命黙示録・完全版」はライヴなどでも披露されていた“幻の2番”が入った文字通りの完全版であり、死して復活 プロメティウス星体。



▼MONACA『灼熱の卓球娘ミュージックコレクション「灼熱の音楽娘」』

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広川恵一、高橋邦幸、田中秀和、瀬尾祥太郎のMONACAチームによる劇伴はシューティングゲームみたいだとさる方が言われておりましたが、ほとばしるようなテンションの高さはホントそんな感じ。すごくアッパーなEDMの目白押し。しかし卓球もタマをシューティングするゲームと考えればシューティングゲーム。

2017年7月9日日曜日

2017年上半期フェイバリットトラック&MV 15選

▼Crystal Fairy - Crystal Fairy


MELVINSとTHE MARS VOLTAのギャンギャンやかましい悪どいヒトたちが、Le Butcherettesのキャーキャーやかましいヴォーカリストの悪どいオネエチャンとドルンドルン悪どい音をブリブリぶっぱなしている。めっちゃわかりやすい極悪ロックンロール。



▼BATTLE BEAST - Bringer Of Pain(MV)


ジャスト3分でHEAVY METALのおいしいところをキメこむマジ素晴らしい一曲。カップラーメンを待つ間にお前は一曲キラーチューンを聴く。北欧ハードポップマナー全開の「Familiar Hell」もよい。



▼Mitch Murder - Turning Point


スウェディッシュ・シンセウェイヴの旗手 Mitch Murderがバレンタインデイに突如ドロップしたデジタルシングルは9分近い大曲。ダウンロードは投げ銭。じっくりした展開をジワジワと連ねていくこの感じ、スナッチャーのエンディングのような趣。



▼the chef cooks me - 最新世界心心相印(MV)


楽曲自体は2016年にリリースされたスプリットシングルに収録。MVが上がったのは今年。曲ももちろんイイのだけど、AC部の職人的な手の込んだ手抜き感あふれまくりのローポリワイヤーフレーム極彩色乱舞MVがたまんなすぎてたまんないですね。1分40秒あたりでおっさんがにこやかに近寄ってくるところなど、随所に驚異的中毒性があり頭どうにかなりそう。複数の表情がスロットする演出はgroup_inouの「HEART」のMVでもやってたなと思うのだが、そんなことを思っている時点でAC部の術中にハマってしまっているワケ。



▼Satellite Young - Dividual Heart(MV)


世代も時空も越えるネオ・エレクトロ歌謡ユニット。楽曲自体は2015年10月にデジタルシングルで発表されているのですが、今年めでたくメジャーデビューし、4月に1stアルバムをリリース。それに際してMVがアップされました。ディープラーニングMV。



▼DEZOLVE - Distance to the Light


友田ジュン氏、小栢伸五氏、山本真央樹氏、北川翔也氏によるフュージョンバンド。ジャパフューの様式美を叩き込みつつ、フレッシュなイメージもたっぷり、今後もますます楽しみな新鋭。



▼OSAMU SATO - Wolfunkadelic


時代の先を行き過ぎたゲーム「東脳」「LSD」を生んだ奇才、オサム・サトウ(佐藤理)氏の19年ぶりの新作アルバム『ALL THINGS MUST BE EQUAL』(楽曲共作で坂本龍一、演奏で成田忍&ゴンドウトモヒコ、マスタリングで砂原良徳が参加)より、ハウリン・ウルフのボイスをサンプリングした一曲。



▼レキシ - KATOKU(MV)


JOURNEY"Separate Ways"のMVへの愛にあふれ過ぎており、あまりのシミュレートっぷりに全部もっていかれそうになるのだけど、曲調もしっかり80'sしててさすがやなと思った次第……。



▼劇団ひととせ - あ・え・い・う・え・お・あお!!


作詞・作曲:松浦勇気/編曲:睦月周平。2・3・4・5拍子が混ざる上に早口で、かつ何度聴いても「クライマ クラ クラ クラ くくら クラ クラ くくらら クライマックス」の部分で頭が壊れるので脳にいい。このショート版では聴けないが「ぱぱぱまんまみあ まんまみあ レッミゴー(×4)」パートはもちろんボヘミアンラプソディの「Oh mama mia mama mia mama mia let me go」のオマージュなのでフル版を聴こうな。



▼tricot - TOKYO VAMPIRE HOTEL(MV) 


アルバム『3』は2分30秒の冒頭のこの必殺曲「Tokyo Vampire Hotel」も最高なのだけど、中盤の「Pork Ginger」が聴きごたえたっぷりでうれしい。まだまだ現在進行形でめきめきビルドアップしていっててたまらないですね。



▼どうぶつビスケッツ+かばん×PPP ‐ けものパレード~ジャパリパークメモリアル~(MV)


「ずっとずっとついていくよ、かばんちゃん」
「ありがとう、サーバルちゃん」
俺は息をひきとった。



▼U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS - 七曜日(MV)





▼LONELY ROBOT - Sigma(MV)





▼Tigran Hamasyan - The Cave of Rebirth(MV)





▼Among The Sleep - Cloudbuilt(MV)


キーボードマガジン2017年夏号「ゲームミュージック特集」



https://www.rittor-music.co.jp/magazine/detail/3117122001/


 キーボードマガジンの2017年夏号のゲームミュージック特集、とても充実しています。著名コンポーザー各氏のインタビューはもちろん、杉山圭一氏とhally氏によるゲーム・ミュージック史の数十年を俯瞰した対談も濃ゆいものがあります。

 植松伸夫氏のインタビューはFFを中心にスクウェア入社前から現在までを語られていたのだけど「初めて書いたオーケストラのスコアはボロボロで~」のくだりは、やはりあのアレンジアルバムでしょうね。オーケストラ音楽を「あえてそれ以上やらなくなった」ということで、これもまた一つの大きな転機ともいえるのだけど。

 伊藤賢治氏のインタビューでは、フォークやポップス少年だった氏がハードロック要素を取り入れたきっかけに「メリーアン」以降のTHE ALFEEがあったというのはめちゃくちゃ腑に落ちるものがありましたね。フォークにもポップスにもハードロックもやれるバンドがアルフィーですから。「どちらかと言うと邦楽ロックのノリ」だとおっしゃられていたのもなるほどですし、"決戦!サルーイン"の制作時期はX JAPANが大ヒットしていた時期で、YOSHIKIがクラシック出身だったので、勝手にシンパシーを覚えて伊藤氏が独自に楽曲を研究していたという話も出てきます。

 そして一番の注目ではないかと思うのが、HAL研の石川淳氏と安藤浩和氏のインタビュー。お二人のインタビューが活字になった機会はこれ以前だと任天堂公式サイトの2010年の記事しかないのです。音楽歴から始まっていて、まさに永久保存版といえます。石川氏のHAL研入社直後(「宇宙警備隊」開発末期のころ)の話、なかなかすごかったのでぜひ読んでみてほしいですね。それと、「ジャンボ尾崎のホールインワン」の開発時期とHAL研の山梨開発センターの建設がほぼ同時期の進行だったのかということも知りました。星のカービィ周りの話では、スーパーデラックスの"VSマルク"は、「そもそも何拍子か分からない曲を作ろう」「16分音符を1つ減らして、4拍子を15/16にするというような実験をよくやっていた」と石川氏がコメントされていたりも。