2017年7月23日日曜日

極道野球からの伝奇ヴァイオレンス野球で人間が死ぬ 『硬派!埼玉レグルス』(1986-1989)

ふと思い立って『硬派!埼玉レグルス』(滝直毅[原作]/山本コーシロー[作画])を一気読みしました。月刊少年ジャンプの1986年9月号から、1989年8月号にかけて連載された全9巻の野球漫画。ヤクザの若頭である主人公 歯車獅子太郎が弱小球団である埼玉レグルスのオーナーに見染められ、新監督として超人的体力と気合(そして暴力)でチームを牽引していく、というのが本作のあらすじです。





 当時の月刊ジャンプは、なかいま強の『わたるがぴゅん!』が連載3年目にさしかかろうとしていたころで、野球漫画がダブるのではと思いきや……埼玉レグルスは第1話のしょっぱな4ページ目で(フェイクとはいえ)指をエンコしてドスでメッタ刺しにするシーンが出てくるので、ハナからマトモな野球漫画ではありませんでした。相手の剛速球やスライディングを顔面で受け、長ドス持ちの構えでバットを持ち、ボールをその先端にブチ当ててホームランをカマす獅子太郎のポテンシャルは以降インフレし続けます。その一方で、鶴之丞という「男の娘」(元リトルリーグのエースピッチャーだったものの、母を亡くし、腕を故障したため女形の道へ進んだという設定)もおり、かれは完全に本作のヒロイン枠です。






 そんなこんなで、3巻までは「極道野球漫画」なのですが、4巻にさしかかり、地下プロ野球リーグ「レッド・ドラゴン」と、それらを統べる「赤龍」の存在が明らかになるあたりで伝奇ヴァイオレンスアクション野球漫画へと舵をきりはじめ、沢村栄治の魂を受け継ぐ9人の「光の獅子」という設定がメインになってゆきます。同時期の週刊少年ジャンプは『北斗の拳』『魁!!男塾』『聖闘士星矢』『ドラゴンボール』と、バトル漫画大全盛であり(さらに1987年に入ると『ジョジョの奇妙な冒険(第一部)』や『ゴッドサイダー』の連載も加わってきます)、それらと同位相の波動がレグルスにもみなぎりはじめるのです。そして、人間がどんどん死にはじめる(ココ重要)。ジャンプ野球漫画の系譜でも、70年代の『アストロ球団』と90年代の『地獄甲子園』と同じラインにあり、その間をつなぐ作品といえなくもないんじゃないかと。もうムチャクチャなケレン味です。





 アラーの呪い、もといサソリの猛毒で瀕死の重傷を負わせるチーム「アラーズ」(ピッチャーとキャッチャー以外の全員が“地中”で守備についている)や、ヨーゼフ・メンゲレの血を引くエースピッチャー アルラウネ(筋肉を伸長限界点まで伸ばして繰り出す「ハイドロサイエニック打法」で殺しにかかる)を擁するナチスドイツチーム「パニッシュナーズ」、ウェンディゴのパワーを得るために魂を売り渡したカナダチーム「カナディアン・ブレード」といった狂った強豪チームが出てくる6巻から8巻にかけての傍若無人っぷりも相当なものですが、最終巻に至っては、味方に謎の新キャラが出てくるわ、主要キャラがどんどん死ぬわとツッコミが追いつかなくなり、もはや完全に破綻してしまっています。それでも、全てを巻き込んでラストまで突き抜けてしまった。いろんな意味で記憶に残る怪作だと思います。……求む、電子書籍化。






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 作画担当の山本コーシロー氏は1991年に週刊少年チャンピオンで異種格闘技漫画『吼!サムライ』を連載されましたが、その後の氏の消息は不明(ちなみに、『吼!サムライ』の連載終了から数週間後に同誌に登場した異種格闘技漫画が『グラップラー刃牙』です)。原作担当の滝直毅氏は埼玉レグルスと同時期にフレッシュジャンプで『ぶるどっぐ』(作画:双葉たかし)、モーニングで『凶獣よ荒野へ』(作画:湯浅ひとし)の原作を手掛けられていましたが、その後、『どっかん!』(作画:能田茂)、『ギラギラ 六本木不死鳥ホスト伝説』(作画:土田世紀)などの原作や、本宮ひろ志の『サラリーマン金太郎』『雲にのる』のノベライズなどを手掛けられています。