2013年5月29日水曜日
PEAK『Ebondàzzar』(1980/1983)
時代の流れの中に埋もれてしまった様々なバンドやアーティストの作品が近年数多く復刻されており、中には「ええっ、こんなのも!?」といったモノまで復刻しちゃう世の中ですが、それでもまだ世の中にはLPリリースのみでCD化すらしていない作品というのも沢山あるわけで、YouTubeを漁るとそういった掘り出し物的音源に辿り着くことが多々あります。物持ちのいい人は結構いるもんなんだなあと。
さて、今回ご紹介するPEAKも、未だにCD化がされていないシロモノの一つ。サンプラザ中野くんとタモリを足して二で割って外宇宙にアブダクションしたようなジャケットからして、既にカルト的な匂いがしますでしょう?PEAKはロバート・リークス・パーソンズとポール・フィッシャーという二人のマルチ・ミュージシャンを中心として、オーストラリアのアデレードで(恐らく70年代末期あたりに)結成されたプログレッシヴ・ロック・ユニットです。1980年にオーストラリアのCement Recordsからリリースされたアルバムが彼らの唯一の作品になるのですが、同作品はクラウス・シュルツェが70年代末から80年代初頭にかけて主宰していたレーベルInnovative Communicationから1983年に再発されております。TANGERINE DREAMやASH RA/マニュエル・ゲッチングあたりのエレクトロニックなジャーマン・ロック系バンドからの流れも汲んだ彼らのサウンドは、なるほどシュルツェのレーベルが目をつけるのも納得の内容であります。
冷ややかなシーケンスが連続する"Nightmist"や、シンセのメロディアスなフレーズと後ろの方で控えめに鳴っているマーチングドラムが対照的な"Ocean Of Dreams"、メルヘンチックでポジティヴなニュアンスをたっぷりと含みこんだ"Penguin"を聴いていると、いつの間にか音の波の中に心地良く浸れてしまいます。また、ささくれだったギターが所狭しと空間を暴れ回るヘヴィ・プログレ・チューン"Encounter"や、スペイシーなムードの中でエコーがかったギターがゆるゆると垂れ流される"Along For The Ride"などで聴ける、ロバート・フリップやマニュエル・ゲッチングからそれぞれ影響を受けたであろう音響的ギタープレイも非常に耳を惹くところであります。うめきに近いシャウト(ちょっと津久井教生 似)も飛び出すサイケデリック・ロック"The Hunt"、アコースティック・ギターとつつましやかなシンセの音色が牧歌的な趣を演出する"Snail's Pace"、疾走感にまかせてラフにドライヴするブルース・ロック"Agent's Lunch"と、アルバム終盤はロック/フォーク的アプローチが強まります。中盤までエレクトロ・ミュージック路線だっただけに方向性にブレを感じざるを得ないのですが、そんな詰めの甘いところもまた魅力というか、どこか嫌いになれないんですよねえ。
余談ですが、Innovative CommunicationにおけるPEAKのカタログナンバーはKS 80.044で、その一つ前のKS 80.043は、数日前のエントリでご紹介したMark Shreeveの1stソロアルバム『Assassin』であります。
●Progarchives - PEAK
●Progarchives -『Ebondàzzar』
●discogs - Innovative Communication
2013年5月28日火曜日
英国のコンポーザー/シンセサイザー奏者、マーク・シュリーヴ(Mark Shreeve)について
YouTubeを漁っていて偶然知ったアーティストなんですが、Mark Shreeve(マーク・シュリーヴ)という英国のシンセサイザー奏者/コンポーザーの楽曲がとてもツボをくすぐるのでいたく気に入ってしまいました。クラウス・シュルツェやTANGERINE DREAM、姫神あたりにも相通じる、リリカルなフレーズも盛り込まれたアトモスフェリックなシンセサイザー・ミュージックであります。色々と調べてみたところ、85年発表の2ndソロアルバム『Legion』には、当時TANGERINE DREAMのメンバーであったクリストファー・フランケが楽曲共作&ゲスト・キーボーディストとしてクレジットされており、なるほどと納得した次第であります。ちなみにこのアルバムのタイトルトラックは、同年に公開されたルイス・ティーグ監督による映画『ナイルの宝石』のサウンドトラックへも提供されております(ちなみに83年発表の1stソロアルバム『Assassin』は、ジョン・カーペンター監督の76年製作の映画『Assault on Precinct 13(ジョン・カーペンターの要塞警察)』へのリスペクトを込めた作品だとか)。
★『Legion』タイトルトラック兼『ナイルの宝石』サントラ提供曲
80年代初頭からカセットやLPで作品をリリースする一方で、映画のスコアやライブラリー・ミュージック(TV番組用のBGM)も多数手がけており、また、歌手としてデビューして間もない頃のサマンサ・フォックスへの楽曲提供者の一人として名を連ねてもいるというマーク氏ですが、ソロ・アーティストとしての活動は95年の『Nocturne』でひとまずの区切りとなったようです。心機一転を図るかのように翌96年にはREDSHIFTというシンセサイザー・ミュージック・グループを結成し、現在に至るまで活動を続けております。
94年3月にEMMA FESTIVALなるイベントで、兄弟のジュリアン・シュリーヴ、そしてジェイムズ・ゴダードとのトリプル・キーボードの編成で演奏した動画がYouTubeにいくつも上がっているのですが、こちらも観応え、聴き応えのあるなかなかの内容であります(ジュリアン、ジェイムズの両人は、前述のREDSHIFTにも参加)。ちなみに、この一連のライヴ動画のアップロード者は、レトロゲームハード/ミュージックの情報発信サイト兼音楽レーベルであるBinary Zone Interactive( http://www.binaryzone.org/ )の中の人であるKenz氏。こんなところでこの人の名前を見るとは思っておりませんでした。
★『Legion』収録曲の中でもピカ一のキラー・チューン
マーク氏の一連のソロアルバムは、(80年代の作品の再発盤も含めて)90年代に一度CD化したっきりだそうなので、Amazonではどれも結構お高めな中古価格となっております。…とはいえ、YouTubeで検索すると一連の音源に触れることができるので、興味のある方は一度チェックしてみてください。
●Redshift - Official Site
●Mark Shreeve - Progarchives
●Mark Shreeve - Wikipedia
●Mark Shreeve - discogs
2013年5月23日木曜日
JOLLY『The Audio Guide to Happiness Part.1&2』(2011/2013)
Audio Guide to Happiness (2011/03/08) Jolly 商品詳細を見る |
Audio Guide to Happiness (Part II) (2013/02/28) Jolly 商品詳細を見る |
2006年に結成され、2009年にアルバムデビューしたニューヨーク出身の4人組プログレッシヴ・メタル・バンド JOLLYが、パート1、パート2と銘打ってInsideOutレーベルよりリリースした2nd/3rdアルバム。個人的にここ数年の動向が気になっているバンドの一つがこのJOLLYであります。デビューしてからまだ数年という新鋭でありながら、そのサウンドはかなり新人バンド離れしており、凡百のプログレ・メタル・バンドや昨今流行りのDjent系バンドとは一線を画する才気と熱い勢いを持っています。音楽性としてはヘヴィ・プログレ/オルタナ・プログレの部類に入ると思われますが、ヘヴィなパートはとことんヘヴィに、メランコリックなパートはとことんまでメランコリックにという姿勢をキープしつつも、画一的なサウンドに陥らないアレンジ・センスの巧みさは一聴に値するもので、同国のTOOLや、イギリスのPORCUPINE TREE、OCEANSIZE(解散しちゃいましたが)、スウェーデンのOPETH、ポーランドのRIVERSIDEなど、ヘヴィ・プログレ/プログレ・メタル的音像を追求しつつ、メインストリームへも寄ったスタイルのバンド群と肩を並べる可能性を秘めているといっても過言ではないと思っています(ちなみにJOLLYは、過去にRIVERSIDEと共にツアーを行っており、また、今年のRIVERSIDEの新作『Shrine Of New Generations』のリリースに伴うツアーのオープニング・アクトに抜擢されてもおります)。
今回の作品は、アルバム2枚に渡って4つのガイダンス/4つのコンセプトを持ったフェイズで区切られており、各フェイズには4~5曲が収められているという構成。感覚的には前後編のアルバムを聴いているというよりは4枚のEPを聴いているといった方がしっくりきます『Part.1』では、ヘヴィな中にもテクニカルなミドルテンポチューン「Ends Where it Starts」でまずは小手調べといわんばかりにスタート。続く「Joy」は、イントロから号泣モノのドラマティックな旋律でアルバムでも一際度肝を抜くナンバー。ヴォーカルのアナデールの独特の浮遊感と艶のある声質と歌い回しが曲調の切なさを倍化させており、バンドの劇的な側面を象徴した1曲といえるキラーチューンといえます。ヴォーカルラインを立たせつつも、ヘヴィな押しとうねりも十分な「The Pattern」「Still a Dream」はストロングに練り込まれた高濃度の佳曲。トリッキーなパートも交え、ヴォーカルハーモニーとヘヴィネスが高次元で融合したオルタナティヴ・プログレ「Where Everything's Perfect」では、モダンな感性の漲りを感じさせてくれます。ゴリ押し一辺倒ではなく、引くところではキッチリと引くという駆け引きの巧みさも非常に心地良い。「Pretty Darlin'」「Storytime」など、ヘヴィなアンサンブルを後ろへ引かせて、甘さと湿り気を帯びたアレンジでヴォーカルを生かした歌もの曲も多く、適度にアルバム構成のガス抜きの役割を果たしているのも巧妙です。
『Part.2』では、バンドが一体となって生み出される圧倒的なヘヴィネスがうねりを伴って有無を言わさず圧し潰す「Firewell」で、のっけから強烈極まりない衝撃を与えてくれます。「Dust Nation Bleak」では再び硬質なアグレッションを全開に叩きつけ…たかと思いきや、アコースティック・ギターがシンセを伴って美しいハーモニーを紡ぎ出すという、動と静の表情際立つプログレッシヴ・メタルを聴かせ、絶妙な引きに思わず息を呑まされます。また、楽曲のアレンジのヴァリエーションも大幅に増えているのが顕著に伺えるのも見逃せません。途中でレゲエ調の裏打ちリズムも顔を出し、醒めたニュアンスをたっぷりと含みこんだアナデールのヴォーカルが軽いトリップ感すら促す「You Against the World」をはじめ、エレクトロ調のビートを交えた「Aqualand and the 7 Suns」、キャッチーな曲調にポップなシンセのフレーズを人懐っこく絡ませた「Lucky」、バグパイプの音色を織り込みアンニュイな曲調にひと匙の哀愁を添える「As Heard on Tape」と、『Part.1』以上に独特のムード作りに踏み込んでいます。スウィートなサウンドも依然健在で、完全にオルタナ/ポップ・ロック調な「While We Slept in Burning Shades」は耳に馴染む素晴らしい浮遊感に満ちた魅力的な1曲です。曲名が示すが如くユートピアをイメージした夢想を誘う煌びやかなアレンジとシアトリカルな趣向が、ヘヴィなリフと渾然一体となって大仰なる大団円へと終息していく「The Grand Utopia」まで、一切の妥協なく聴かせます。
細かなアレンジや構成にもしっかり気が配られた、重さと繊細さを併せ持った傑作アルバムです。是非とも二枚併せて聴いていただきたいと思います。ちなみに『The Audio Guide To Happiness Part.2』を購入すると、前作の『Part.1』を無料ダウンロードできる案内のペーパーが封入されているので、少しでもこのバンドが気になった方は迷わずパート2を購入しちゃいましょう。また、JOLLYは昨年アメリカを襲った"ハリケーン・サンディ"によりメンバーの家やレコーディングスタジオが大破、バンド活動にもかなりのダメージを負ったとのことで、ツアーに出るための資金的援助を公式サイトで現在呼びかけ中でもあります(現在は、当初の目標金額を達成した模様)。つい先日開催された、2013年度のRites Of Spring Festival(アメリカのプログレ・フェス)への出演も果たしたJOLLY。バンドの今後の活躍にますます期待がかかります。
まずはこの2曲から是非!
●JOLLY - Official Site
●JOLLY - Youtube Channel
2013年5月22日水曜日
FROST*、新曲デモ音源を2曲公開&今後の作品リリースの展望についてアナウンス
現在、3rdアルバムを制作中である、イギリスのモダン・メロディック・プログレッシヴ・ロック・バンド FROST*が、先ごろ2曲の新曲デモ音源を公開しました。また一段とエネルギッシュになっております。
【追記】現在は2曲とも削除されています。
「Heartstrings(Demo)」
http://www.planetfrost.com/post/50645781510
「Fathers(Demo)」
http://www.planetfrost.com/post/50864640324
また、バンドは3rdアルバムのリリースをもって、Inside Out Musicとの契約を(友好的に)解消するとのことで、それ以降にリリースされるアルバムについては、どこか別のレーベル(現在模索中)からのリリースとなるようです。さらに、2006年発表の1stアルバム『Milliontown』と、2008年発表の2ndアルバム『Experiments in Mass Appeal』を、新ヴァージョンでリリースする計画もあるそうです。具代的には、アルバム発表当時のリズム隊(ジョン・ジョーウィット[b]/アンディ・エドワーズ[dr])の演奏パートを、現在のリズム隊(ネイサン・キング[b]/クレイグ・ブランデル[dr])の演奏に差し替えるということで、完全再録ではなく"半分"再録といったところでしょうか。また、制作レポートを収録したDVDも付属する予定だとか。
公式サイトで5月14日付けで更新されたエントリでは、今後数年間のリリースの展望についてアナウンスされております。「DVDを今年中に1本リリースし、2014年、2015年、2016年に1枚ずつ新作アルバムをリリースし、その合間に過去作品の新録版もリリースする。」という計画だそうです。予定通りにコトが運んでくれるとファンとしてもとても嬉しいところでありますが、まあ過度な期待はせずに気長に待つのが吉でありましょう。
planetfrost.com - 「14th May 2013 - The Future」
http://www.planetfrost.com/post/50424590473/14th-may-2013-the-future
◆FROST* - Official Site
◆FROST* - Official Youtube Channel
【追記】現在は2曲とも削除されています。
http://www.planetfrost.com/post/50645781510
「Fathers(Demo)」
http://www.planetfrost.com/post/50864640324
また、バンドは3rdアルバムのリリースをもって、Inside Out Musicとの契約を(友好的に)解消するとのことで、それ以降にリリースされるアルバムについては、どこか別のレーベル(現在模索中)からのリリースとなるようです。さらに、2006年発表の1stアルバム『Milliontown』と、2008年発表の2ndアルバム『Experiments in Mass Appeal』を、新ヴァージョンでリリースする計画もあるそうです。具代的には、アルバム発表当時のリズム隊(ジョン・ジョーウィット[b]/アンディ・エドワーズ[dr])の演奏パートを、現在のリズム隊(ネイサン・キング[b]/クレイグ・ブランデル[dr])の演奏に差し替えるということで、完全再録ではなく"半分"再録といったところでしょうか。また、制作レポートを収録したDVDも付属する予定だとか。
公式サイトで5月14日付けで更新されたエントリでは、今後数年間のリリースの展望についてアナウンスされております。「DVDを今年中に1本リリースし、2014年、2015年、2016年に1枚ずつ新作アルバムをリリースし、その合間に過去作品の新録版もリリースする。」という計画だそうです。予定通りにコトが運んでくれるとファンとしてもとても嬉しいところでありますが、まあ過度な期待はせずに気長に待つのが吉でありましょう。
planetfrost.com - 「14th May 2013 - The Future」
http://www.planetfrost.com/post/50424590473/14th-may-2013-the-future
◆FROST* - Official Site
◆FROST* - Official Youtube Channel
2013年5月20日月曜日
NINJA MAGIC、本国スウェーデンのメタル・フェスにて久々のライヴ (しかもトリ)
ラインナップを大幅に一新し、昨年リリースした久々の新作『Lethal Ninjaction』が、ごくごく狭い界隈で驚きと賛否両論を巻き起こしたスウェーデンのニンジャメタルバンド、NINJA MAGIC。彼らが、さる5月18日に本国スウェーデンのウメオ(Umeå)で久々にライヴを行った。単独ライヴではなく、「Ume-Metal Open Air 2013」という、8バンドが参加した野外メタル・フェスへの出演である。NINJA MAGICは、なんとトリを務め、たっぷり1時間プレイ(ちなみに1バンド目は、NINJA MAGICメンバーのワサビ・サンダーボーンことリカード・オークヴィスト氏もメンバーとして名を連ねるメロディック・デスメタル・バンド Meadows End)。デスメタル系中心の出演バンドの中では、彼らのニンジャ・アトモスフィアをもってしても流石に浮くのではないかと不安に思ったものの、フタを開けてみればどうやら客入りも上々のようで、無事終了したようだ。ここ5~6年ほど演らなかった曲も演奏し、パフォーマンスにはニンジャウェポンのチェーンソーも持ち出したとか。後ほどライヴ動画をいくつかアップロードしていくとのことで、大いに期待したいところである(今のところ「Mega Power Overlord」をプレイした映像が上がっている。客席じゃなくてステージ上でビデオを回したのは今回が初めてではないだろうか)。今に限ったことではないが、ニンジャというよりはテロリスト集団にしか見えない彼らの出で立ちが何ともいえない。
◆NINJA MAGIC:facebook
◆NINJA MAGIC:YouTubeアカウント
◆ワサビ・サンダーボーン氏のYouTubeアカウント
◆NINJA MAGIC:facebook
◆NINJA MAGIC:YouTubeアカウント
◆ワサビ・サンダーボーン氏のYouTubeアカウント
2013年5月19日日曜日
ニューヨークの謎多きケッタイなプログレッシヴ・メタル・バンド Fright Pig
最近アルバムデビューしたニューヨークの謎のプログレ・メタル・バンドFright Pig。"醜い豚"っつうバンド名も大概だが、この生き急ぎ過ぎてデッドゾーン一直線な曲も大概だなあ。初聴のインパクト絶大。公式サイトのメニューに「For the Prog Haters」なんて項目があるあたりも実に豚野郎。
サイトでアルバムのティーザー音源が聴けるけど、おおむねせわしない曲だった。こいつらアホだ(褒め言葉)
http://www.frightpig.com/Fright_Pig/Music.html
サイトでアルバムのティーザー音源が聴けるけど、おおむねせわしない曲だった。こいつらアホだ(褒め言葉)
http://www.frightpig.com/Fright_Pig/Music.html
2013年5月18日土曜日
Melos Trio
DEVIL DOLLのアルバム(『宗教冒涜』『死せる少女に捧ぐ』『怒りの日』)にピアノ/オーケストラアレンジで参加したFrancesco Carta氏が在籍しているMelos Trioの演奏。凄く良い。静謐で美しい室内楽インスト。ちなみに昨年2ndソロアルバムを出したそうな。サイトで試聴可。 http://www.francescocarta.it/cms/kairos/
2013年5月16日木曜日
たまこまーけっとDVD第3巻初回特典CD - Hogweed『Excerpts from “The Return Of The Drowning Witch”』(1978)
たまこまーけっと (3) [DVD] (2013/05/15) 洲崎綾、金子有希 他 商品詳細を見る |
アニメ「たまこまーけっと」のDVD第3巻が先日届きました。以前から下記のインタビュー記事で、アニメ本編で流れる架空のレコード曲の非常に細かな設定とレコーディングの徹底的なこだわりぶりを知って大いに驚かされただけに、また、DVDの3巻には本編に登場する喫茶店兼レコード屋「星のピエロ」のシーンで流れる、架空のプログレッシヴ・ロック・バンド「Hogweed」が唯一残したアルバムの楽曲が収録されたCDが初回特典として付属すると聞いていただけに、ニッチ大好きプログレ好き人間としてはこれは見逃せぬと、以前より発売を心待ちにしておりました。そして届いたものを見て/聴いて、改めてそのこだわりように舌を巻かされてしまった次第なのです。
「ニュータイプ4月号連動企画!
「たまこまーけっと」に登場するレコード曲の秘密に迫る」
(アニメNewtypeチャンネル) - エンタメ - livedoor ニュース
http://news.livedoor.com/article/detail/7482381/
インタビューでの"「星のピエロ」のマスターがプログレ好きであり、お客さんがいないときにはいつもこの曲をかけている"という裏設定や、"山田尚子監督の中のプログレ感に合わせていって、作曲や演奏の複雑さを追究したものではなくて、初期KING CRIMSONやPINK FLOYDのような情念系な楽曲に仕上がった"というくだりにも実にニヤリとさせられますが、そもそも"The Return Of The Drowning Witch(溺れた魔女の復活)"という曲のタイトルを聞いた時点で、スキモノならピクリと反応するのではないかと。恐らくこのタイトルは、GENESISの「The Return Of The Giant Hogweed」、KING CRIMSONの「The Return Of The Fire Witch("The Court of the Crimson King"の一部)」、そしてFRANK ZAPPAの「Drowning Witch」の3つの曲から取られたものでしょう。ちなみに、第何話のどこで「溺れた魔女の復活」が流れたのかということについては、こちらのブログの記事でとても詳しく検証されております。
『たまこまーけっと』の劇中曲について(Hogweed) - la banane bruleeの日記
http://d.hatena.ne.jp/beaux25/20130314/1363268504
Hogweedのアルバムのパッケージはこんな感じです。紙ジャケットの仕様もさることながら、カヴァー・イラストが色合いといい構図といい、いかにも当時のプログレ・バンドらしいたたずまい。そしてライナーノーツがまた凄い。バンドの来歴や各メンバーの紹介に加えて、後身ユニットやメンバーのソロアルバムも含めたディスコグラフィーまで載っており、その凝りように脱帽です。以下、ライナーノーツの記述をいくつか要約して抜粋。
「Hogweedはミネアポリスの大学で知り合ったTon LundinとAlan Blancの二人が中心となって結成された。」
「1978年夏に唯一のアルバムがプレス数1000枚でリリースされたものの、流通が限られていたため業界では殆ど話題にならなかった。」
「アルバム発表直後にライヴを1度だけ行う(この時サポート・ギタリストが1名参加)が、直後にドラマーが脱退して活動を停止。」
「大学の先輩が所有するメロトロンをレコーディングに使用したが、誤って壊してしまったので修理して買い取った。」
「今回のCD収録を期にドラマー以外のオリジナル・メンバーが集まりバンドを再結成、アルバムの完全版と、新作を計画中。」
…などなど、架空のバンドとは思えぬほどに「それっぽい」「生々しい」記述が満載で、もしかしたら本当に実在したんじゃないのかしら、という気にさせられてしまいます。プログレッシヴ・ロック専門レーベルであるマーキー/ベル・アンティークが90年代に特に精力的に紹介していた世界各国の数多のマイナーなシンフォニック・ロック・バンドもかくや、といったところ。
また、「溺れた魔女の復活」のレコーディングに参加しているメンバーも見逃せません。EXPO、S.S.T.BANDの松前公高氏を筆頭に、トクマルシューゴバンドや栗コーダーポップスオーケストラ等のバンドをはじめ、CMや映像作品などで活動を行っているドラマーのイトケン氏。S.S.T.BANDや、畑亜貴さんが率いるプログレ・バンド月比古のギタリストである並木晃一氏。99.99(フォー・ナイン)、4-D、P-MODEL、After Dinner、メトロファルス等多くのバンドに参加し、フュージョン、テクノ、アヴァン・ポップ、ロックと多岐に渡るフィールドを渡り歩くヴァイオリニスト/ベーシストの横川理彦氏という顔ぶれは、その筋の音楽を好んで聴き漁っている人であれば、ピンとくるのではないかと思います(ちなみに松前さんと横川さんは、たまこまーけっとのアニメ本編の劇伴や主題歌を担当している音楽制作プロダクション"Manual of Errors"の所属アーティストでもあります)。
Hogweedのアルバム『Hogweed』は、A面に"The Swimming Witch" "The Drowing Witch"という、いくつかのパートを持つそれぞれ13分と12分の長尺曲を配し、B面には12のパートを持つトータル28分の大曲"The Return Of The Drowning Witch"(溺れた魔女の復活)を配した大作志向の1枚(という設定)。今回のCDには「溺れた魔女の復活」のパート1から9まで(トータル17分)が収録されています。断続的なベースの爪弾き、鳴り響くギターと覆いかぶさるメロトロンの音色が始まりを不穏に告げるパート1。一転して、ハードに弾きまくるギターと鋭く刺し込まれるヴァイオリンの絡みがエキサイティングな、9拍子のオルガン・ハード・ロックであるパート2。スペイシーなサウンドが場を支配する幕間的なパート3を挟み、気だるげなテンポの中でギターがむせび泣く、PINK FLOYD(またはそのフォロワー系バンド)を思わせる情念に満ちたパート4。短めの即興パートとメロトロンによるパート5から切れ目なく繋がる形で続くパート6は、初期のKING CRIMSONの叙情性を少なからず思わせる仕上がりで、「混沌こそ我が墓碑銘」とはいかないまでも、アコースティック・ギターとヴァイオリンが物悲しく響きます。パート7は、実験的趣向が強く現れたパート。冒頭からしばらく聴こえてくる鈍く不安定な音色は、ライナーでも書かれていた「回転数を下げたリコーダーの音」「逆回転のパーカッションの音」によるものなのでしょうか。パート8はKING CRIMSONの「RED」を髣髴とさせるヘヴィ・プログレ・チューン。攻撃性と叙情性を併せ持った、この大曲のハイライトと言えるパートです。そして、SEを交えた音響的なパート9で楽曲は(ひとまず)幕を閉じます。ちなみにパート10以降の展開ですが、ライナーの記述を読む限りではかなり即興的/実験的な内容が展開されているそうです(メンバー考案の"くすぐり奏法"で演奏されたというパート11が気になります…)。
いやあ、堪能させていただきました。重ねて言いますが、こだわりと気合の入り方が尋常じゃありません。気になった向きは(値は張りますが)是非とも特典付の初回版DVDを入手されてみてはいかがでしょうか。
●たまこまーけっと - 公式
●たまこまーけっと - Wikipedia
●Manual of Errors Artists
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【余談】
架空ライナーノーツに散りばめられた、好きモノプログレリスナー向けへの小ネタあれこれ。
Hogweedのキーボードを担当するTon Lundin(トン・リンデン)のネーミングは、オランダのバンドKAYAKのTon Scherpenzeel(トン・シャーペンジール)と、スウェーデンのバンドKAIPAのHans Lundin(ハンス・ルンディン)、この二人のキーボーディストが元でしょう。また、ドラムを担当するChris Chatran(クリス・チャトラン)のネーミングの元ネタは、HENRY COWやART BEARSなどのメンバーであり、アヴァンギャルド・ミュージック・シーンの重要人物であるChris Cutler(クリス・カトラー)ではないかと思われます。ヴァイオリン担当のJean-Luc Sideliver(ジャン・ルック・サイドリバー)は、MAHAVISHNU ORCHESTRAやReturn To Foreverでの活動でも知られるジャズ・ヴァイオリニストのJean-Luc Ponty(ジャン=リュック・ポンティ)と、楽曲の演奏に参加されている横川理彦氏の苗字「横川」を英語読みしたものの組み合わせとみました。また、Hogweedの中心メンバーがバンド解散後、80年代に結成したユニット名が"Nektar Nerve"と"Fathers Marmot"というのですが、このネーミングはアメリカのアヴァンギャルド系ロック・バンドDoctor Nerveと、ノルウェーのフォーク/ジャズ・ロック・バンドFarmers Marketのパロディだと思われます。
2013年5月1日水曜日
Die Anarchistische Abendunterhaltung
安値で買ったベルギーのDAAU(Die Anarchistische Abendunterhaltung)の2ndアルバムが大当たりだった。フォークもタンゴもエスニックもレゲエもテクノも取込む柔軟性の高いチェンバー・ロックでとてもユニーク。
ベルギーの音楽シーンとバンドを紹介するこのサイト、良いなあ。ブクマしておこう。
clear horizon :: a belgian music site in japanese
http://xxx.sub.jp/index.html
ベルギーの音楽シーンとバンドを紹介するこのサイト、良いなあ。ブクマしておこう。
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