http://www.finefilms.co.jp/mandy/
パノス・コスマトス監督、ニコラス・ケイジ主演による復讐ヴァイオレンスムービー「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」は、人間性を限界までブン投げながら、人間を辞めた輩を殺りにいくというストレートかつシンプルな筋立てに、全身トゲトゲ人間やCELTIC FROSTのバンドロゴみたいな大鎌、脳内が爆裂するヤバい特製LSD、チェーンソー・チャンバラなど視覚的にも訴えかける暴力とボンクラ感を満載した“真っ赤”なHEAVY METALムービーでありました(主人公の名前も「レッド」)。いやはや、ごおっつい素晴らしかった。レッドを演じるニコラス・ケイジのあまりにも生々しい怪演は中盤以降からブーストがかかりっぱなしで、一線を次々に越えてゆく。そしてラストシーンで見せる、あの笑顔……! 絶対に忘れられません。「狂った悪魔を狩る!」とはいえ、悪魔的だったり「神」を称するキャラクターは出てくるのだけれども、みな人間性を壊滅的に損壊した「人間」であるだけで、ストーリーラインは全くファンタジーではないというところも大きなポイントでしょう。人間性が損壊(または限界まで摩耗)してしまった人間が殺し、殺される。ずっと現実の延長線上にあります。奇跡も何もなく、己の力のみで無理やりすべてをねじ伏せる。そこも好きだなと。チーズのゲロを浴びせかけてくる作中のCMキャラクター「チェダー・ゴブリン」が本作の下世話なユーモアを一身に引き受けているところもツボでした。Twitterアカウントもあります。
音楽的な側面でみてみると、KING CRIMSON「Starless」のほぼフルコーラスで幕を開け、サイケデリック・フォークが耳をくすぐり、HEAVY METALが押し寄せ、ブラック・メタル的な終焉からの「静寂」で幕を閉じる。実にヘヴィで、エクストリームで、そしてビューティフルなんですよね。ヨハン・ヨハンソンによるエレクトロ・ドゥームな劇伴は全編に恐ろしいまでの緊張感をもたらし、シンセサイザーによるヘヴィネスを最奥から体現したような陰鬱さとヴァイオレンスをはらむ。本作がヨハンソンの遺作だということを抜きにしても、掛け値なしの傑作と断言したいです。さらに、追加劇伴はSUNN O)))やBorisなどとの仕事でも知られるランドール・ダン(本作の音楽プロデュースも兼任)や、ポスト・テクノの気鋭であるピピン・コードロン(KRENG)、ヤイール・エラザール・グロットマン(KETEV)。編曲・演奏はポスト・ロック・バンド For a Minor Reflectionのキャルタン・ホルムと、ヨハンソンがかつて在籍していたエレクトロニカ・バンド Apparat Organ Quartetのウルファ・エルジャン。そしてギター演奏は泣く子も黙るドゥーム/ドローン・メタル・バンド SUNN O)))のスティーヴン・オマリーが担当。界隈の錚々たる顔ぶれが集結しています。
ちなみに、本編でライナス・ローチ演じる教祖ジェレマイア・サンドがかけていた自作曲「Amulet of the Weeping Maze」は、今年の1月にデジタルシングルとして先行配信されていた楽曲でもあります。本編ではほんの少しだけの登場でしたが、全長版は7分あり、作曲は本職のサイケデリック・ロック・バンドであるMaster Musicians of Bukkakeのミルキー・バージェスが手がけ、ハンズ・トイバのフルートやMamifferのフェイス・コロッチアのコーラスをフィーチャーして相当に作りこまれたサイケデリック・フォークなのです。
JOHANN JOHANNSSON
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ブラックメタル風の陰毛タイトルロゴ全面押しという、禍々しいスリーブケース付きCDのパッケージングもまた、ニコラス・ケイジばりの邪悪な笑みをもたらしてくれることウケアイ。ケイジの顔面芸も拝めるブックレットには、パノス・コスマトス監督によるヨハン・ヨハンソン追悼文が収められており、すごくいいテキストでした。
「Gnarly Psychos And Crazy Evil: Mandy Is A Midnight Movie For True Believers」
(THE QUIETUS|2018.10.12)
「Nicolas Cage Channels Dave Mustaine and Axl Rose in New Horror Film ‘Mandy’」
(Loudwire|2018.10.12)
「『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』:パノス・コスマトス監督インタビュー」
(i-D|2018.11.07)
「創造性が爆発する『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』パノス・コスマトス監督インタビュー 「映画でやれることはまだまだあると思う」」
(ガジェット通信|2018.11.08)