2018年3月25日日曜日

メタル火砲、大爆発。ファイアーパワーで震え上がらせるジューダス・プリーストの新メタルモンスター「ティタニカス」の誕生




 JUDAS PRIESTの18thアルバム『Firepower』は率直に言って見事な快作であり、メタル火砲が大爆発した結果、完全勝利を収めてしまいました。かつての『Painkiller』が鎮痛剤ではなくPAINのKILLERであるように、『Firepower』も火力ではなく、FIREのPOWERであることを見事に知らしめています。ファイアーパワーが震え上がらせる。ファイアーパワーで。ファイアーパワーが生命を奪う。ファイアーパワーで無力化する。





 2011年に脱退したK・K・ダウニングの後任として若手のリッチー・フォークナーが加入。今年に入ってからはグレン・ティプトンがパーキンソン病の発症のためツアーから退くなど、近年のバンドは大きな転機を迎えながらの新作発表となっていますが、前作『Redeemer of Souls(贖罪の化身)』からの原点回帰志向は、トム・アロムとアンディ・スニープの共同プロデュースによってさらに焦点が絞られ、良好なエネルギーの発散が感じられます。「Firepower」「Lightning Strike」「Evil Never Dies」の冒頭3曲にブン殴られ、ネッックロンメンサァこと「Necromancer」のねちっこいシャウトとサビに中毒し、ミドルテンポやギターソロが染み入る「Rising from Ruins」「Sea of Red」に感じ入る次第。また、ストレートに視覚に訴えかけてくるインパクト抜群のアルバムジャケットもMVPといえるでしょう。バンドと長らくの付き合いであるマーク・ウィルキンソンに代わり、チリ出身のグラフィックデザイナー、クラウディオ・ベルガミン(Claudio Bergamin)が手がけています(なお、マークはアルバムデザインと追加イラストを担当)。クラウディオはRATA BLANCA、PARADOX、BATTLE BEAST、アルイエン・ルカッセン、NOCTURNAL RITESなど、世界各国のメタルバンドのアルバムジャケットを手がけている気鋭。ジューダス・プリーストのメンバーとは『Firepower』のジャケットを手がける以前から関わりがあり、HALFORDの『Live At Saitama Super Arena』(2011)のジャケットや、リッチー・フォークナーのギターデザインを手がけられています。

http://www.claudiobergamin.com/
https://claudiobergamin.deviantart.com/

「Metal Archives: Claudio Bergamin」



「Entrevista a Richie Faulkner y Claudio Bergamin. Efecto Metal, Argentina (Marzo 2018)」

 クラウディオのブログに、アルゼンチンのメタル雑誌《Efecto Metal》の2018年3月号に掲載されたインタビューの英訳テキスト(Google翻訳を通したもの)が公開されています。『Firepower』のジャケットアート制作時の話をはじめ、これまでの来歴や影響を受けたものなどについて詳しく語られた密度の濃い内容となっており、『Screaming for Vengeance(復讐の叫び)』の機械鳥「ヘリオン」や、『背信の掟(Defenders of the Faith)』の機械獣「メタリアン」、『Painkiller』の機械人間「ペインキラー」など、ダグ・ジョンソンやマーク・ウィルキンソンが描きあげてきたメタルモンスターの力強さと様式美を継いだ新たなアイコンを創り上げるべく描きだされたのが究極火神「ティタニカス」だったとのこと。まず、3つのスケッチをクラウディオが提示し、リッチーとのやりとりでさらに造形的なアイデアを固めていき(ちなみに二人ともスター・ウォーズの大ファン)、最終的にロブが「Titanicus」という叙事詩的ネーミングを授け、ここにメタル火砲が大爆発しました。着色は本当のところはキャンバスで行いたかったそうですが、時間的な事情もあってデジタルでの着色で進められたそうです。




 クラウディオは物心ついたころに建築家である父からエッシャーやマグリット、ダリの作品を教え込まれ、その後、ラルフ・マッカリー(スター・ウォーズのコンセプトデザイナー)や、フランク・フラゼッタやボリス・ヴァレホ(ファンタジーアートの巨匠)、そしてH・R・ギーガーやデレク・リッグス(アイアンメイデンの「エディ」の生みの親)など数々のアーティストの作品世界と出会い、吸収していったそうです。また、アートとポップカルチャーへの決定的な目覚めとなったのは、漫画ではフランスのアステリックスや、スーパーマン、スパイダーマン、バットマンなどのアメコミ、映像ではスター・ウォーズや、マジンガーZ、「Festival de Robots(=Force Five)」などの日本のロボットアニメだったとのこと(「Force Five」は、「大空魔竜ガイキング」「惑星ロボ ダンガードA」「ゲッターロボG」「UFOロボ グレンダイザー」「SF西遊記スタージンガー」の5タイトルを海外放送用に再編集したもの)。そのことを踏まえると、ティタニカスはリアルロボットと見せかけて実はスーパーロボットなのかもしれません。


ファイアーパワー(通常盤)
ジューダス・プリースト
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【おまけ:メタルモンスターの系譜】



▼Rocka Rolla (1974)
[Artwork by Melvyn Grant]
プリーストのデビューアルバムは、コカ・コーラのビンのフタのパロディ風ジャケットのほかにもう一種類存在します。それが80年代以降の欧米の一部再発盤でみられるこちらのモンスタージャケット。イラストを描いたメルヴィン・グラントはIRON MAIDENの『Fear of the Dark』や『The Final Frontier』、DIOの『Magica』のジャケットアートを描いた人でもある。ちなみにマイケル・ムアコック『The Steel Tsar』(1981)の初版や、PCエンジンのゲーム「バリスティックス」(1989)のカバーイラストにも同じアートワークが使用されており、音楽、小説、ゲームの三部門を制覇したともいえます。




▼Screaming for Vengeance (1982)
[Artwork by Doug Johnson]
機械鳥ヘリオン。




▼Defenders of the Faith (1984)
[Artwork by Doug Johnson]
機械獣メタリアン。ロック界のモンスター戦車といえば、エマーソン、レイク&パーマーの『タルカス』とこのメタリアンが二大巨頭でしょう。なお、ダグのアートワークは次作『Turbo』(1986)まで。『Ram it Down』(1988)よりマーク・ウィルキンソン時代が幕を開けます。



▼Painkiller (1990)
[Artwork by Mark Wilkinson]
奴はペインキラー
これぞペインキラー
鋼鉄の翼のペインキラー
無敵の車輪ペインキラー
説明不要のペインキラー




▼Jugulator (1997)
[Artwork by Mark Wilkinson]
ティム“リッパー”オーウェンズ加入後第一作。このアルバムも非常な傑作、この時期でしか得られない殺気と気合をビンビンに感じることができます。「ジャギュレイター」というネーミングは“jugular”(頚動脈)からの連想で「頚動脈カッ斬るマン」という認識でいたのだけど、“ejaculate”(射精)からの含みもあるのかもしれません。オリジナル盤はジャギュレイターをあまりにもドカンと拡大表示したために画質が最悪でしたが、2001年のビクターからの再発盤ではアートワークの全体を写したことで改善されました。しかしその後、国内盤では一切再発されていません(『Demolition』も同様)。



▼Angel of Retribution (2005)
[Artwork by Mark Wilkinson]
ロブ復帰作ということもあり、ペインキラーおじさんに似ている。



▼Firepower (2018)
[Artwork by Claudio Bergamin]
正義と救済の戦士である凶暴なメタリアンの溶融メタルのごとくドロドロとした怒りの炎上によって創造された究極の火力を持つ神――ティタニカス。