コルトM1851残月 (2013/11/21) 月村 了衛 商品詳細を見る |
至近未来警察小説『機龍警察』シリーズで日本SF大賞と吉川英治文学新人賞のダブル受賞に輝いたことも記憶に新しい、今まさに勢いに乗った作家の一人である月村了衛氏の時代小説作品。2012年に刊行された時代小説もののデビュー作『一刀流無想剣 斬』も、月村氏の手腕の確かさ、ストーリーの面白さの双方を味わえるものでしたが、本作はそれをさらに上回る面白さでありました。銃の名前 + 主人公の異名を冠した無骨極まるタイトル、そして二丁拳銃で見栄を切った表紙もたまらなくグッときます。本編のストーリーもそんな無骨で掘りの深いイメージをバッチリと描き出しています。舞台は江戸末期、裏稼業に生きる一人のアウトロー「残月の郎次」が、自らが属する組織の狡猾なる連中を相手に、手にしたコルトで一人、また一人と撃ち斃し、屍の山を築き上げる……というもの。時代小説の型に、西部劇的なウィットとガンアクションを流し込み、さらにはノワール、ピカレスクの硬質な苦味も走らせた贅沢な仕上がり。殺るか/殺られるかという因業と硝煙のプロットは実にベタながら、陳腐なもので終わらせていないのは、やはり月村氏の手腕のなせるわざでしょう。一家心中の生き残りという壮絶なる過去を背負う郎次。その郎次にコルトを託した張本人、阿片戦争から生き延びながら、今はその身を労咳に蝕まれた唐人〈灰〉。能面のような風貌に隠された感情が全く読めない、組織を束ねるドンにして郎次の育ての親である「儀平」。ほとんど偶然のような出会いでありながら、その縁がいつしか腐れ縁となり、郎次の孤独な戦いで擦り切れた心に寄り添う「お蓮」。といった、各キャラクターの語りどころも少なくありません。それぞれの思惑と背景が、江戸の闇をえぐり出すストイックな文体によって描き出され複雑に絡み合うのです。また、やりとりの中に、脳裏に刻印される一節がそこかしこにあるのも魅力であります。数を呟きながら装填し「どうしても二百と十よりは早くならねえ―」と独りごちながら撃つ冒頭を皮切りに、「―月の影は、過去に似ている。過去の幻に。だから、俺は月の影が嫌いだ……」「―憎しみを込めて撃て。憎しみのない弾など当たりはしない。当たらなければ己が殺られる。殺られたくなければ憎め。―」「残月ってのは、消えても消えても、次の夜になりゃあ、またちゃあんと出てくるものさ」……そりゃあシビれようってもんですよ。感激と共に堪能いたしました。