ラフカディオ・ハーン
CCCメディアハウス
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『ラフカディオ・ハーンのクレオール料理読本』復刻版を入手し、久々に読み返しました。早々に絶版になり、古書価万単位がザラだった1998年刊行の阪急コミュニケーションズ版からじつに19年目の復刻。感慨深いものがあります。また、今回のCCCメディアハウス版は、電子版も同時刊行されていて、これまたありがたい。本書は、ハーンがニューオーリンズで新聞記者をやっていたころに、現地の人たちから聞き書きしたものをまとめたレシピ集。抄訳なので全てのレシピが掲載されているわけではないのだけれども、スープ、魚、獣肉、鶏、野菜、卵、デザートから病人食に至るまでのレシピが豊富に網羅されており、これらを編纂したハーンの力の入りようもうかがえます。ザリガニや亀、蛙料理なんてのもあったり、冷蔵庫なんてものがなかった時代ゆえに作り方が大雑把で回りくどく、用意する材料の分量も相当(ザリガニ50匹とか)なので、レシピ本として実践するにはやや難度が高い(むしろその通りにつくるとエライことになる)。でも、各家庭ならではのレシピといったところで、味わい深いものがあるし、パラパラとめくって読むぶんには楽しい内容。多様なクレオール文化の一端をほんの少し垣間見れた気にもなる。ちなみにタルタルソースのレシピのくだりでは、まずタタール人を暗殺してその臓物を取り出すところから始まる……のだけれども、これはハーンが記者をつとめる新聞の受け持ちコラムで書いたジョークレシピ。流石の購読者もこれには苦笑い……したのかどうかはともかく、スパイシーな書き口だなあと。
こちらは原典の『Lafcadio Hearn's Creole Cook Book』
Lafcadio Hearn
Pelican Pub Co Inc
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以下は余談。
ラフカディオ ハーン
同時代社
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ハーンの新聞の記者時代の記録集。実際に起こった血なまぐさい事件(マーダーケース)のレポートが多く、なるほど現実的な怪談を語っている。若干誇張はあるようには思うものの、子細に描かれる屍体の描写(カリカリになった焼死体の黒焦げの頭蓋骨からのぞく煮え立った両眼の残骸など)の名状しがたさに、ハーンの観察眼の非凡さの一端が窺えるようで興味深い。「皮なめし場殺人事件」の記事は、本書のハイライト。
来日以前にハーンが書いた唯二の中篇小説「チータ」「ユーマ」を収録。エキゾチックな島国の風俗や自然描写の美しさ、そして激しさをふんだんに絡めつつ、文化同士の間にある隔たり、そして異文化ひいては他者への理解を見据えたテーマは、来日後の彼の再話作品へのつながりをうかがい知る上でも興味深い内容ではないかと。クライマックスのシーンの鮮烈さや、結末の余韻もきわだっている。
かのH・P・ラヴクラフトはハーンの著作を読んでおり、「数多くのロースト・ビーフ型の作家には不可能な幻想をつくりだす」と、かなり好意的な評を残しており、ハーンへの言及ふくむラヴクラフトの一連の怪奇・幻想文学評論は『文学における超自然の恐怖』に収録されております。もしハーンとラヴクラフトが邂逅したら、と考えたことはあるのだけれども、ハーン(1850―1904)、ラヴクラフト(1890―1937)なので、生きた時代には数十年ほどの隔たりがあり、現実には邂逅する余地はなかったというのが事実(ちなみに、ラヴクラフトがプロビデンスで生まれた1890年8月は、ハーンが松江に教師として着任した月)。しかしながら、両者のブードゥーへの興味やアウトサイダーとしての視点には共通点を見出せるのではないかなと。