Beyond the Red Mirror (2015/02/03) Blind Guardian 商品詳細を見る |
ジャーマン・メタルのみならずエピック・メタルの重鎮として確固たる地位を築いているブラインド・ガーディアンの約四年半ぶりとなる新作アルバム。個人的なことを言わせてもらうと、トーマス"トーメン"スタッシュ脱退後の2006年作『A Twist in the Myth』に失速を感じて以来、あまり熱を入れてバンドの動向を追うことはしていませんでした(次作『At the Edge of Time』も聴いてはいるのですが、さほどしっくりはこず)。本作はバンドの出世作となった『Imaginations from the Other Side』(1995)の、実に二十年ぶりとなる“続編”を描いたストーリー・コンセプトアルバムということで、「代表作の続編はコケる」という法則上、今回はますますダメなのでは…とリリース前からネガティヴに構えておりましたが、嬉しいことにそれはいくらか裏切られました。はっきり言って、久々に手応えを感じさせる内容になっています。ただ、サウンドの方向性は『Imaginations from the Other Side』でみせたスラッシュ・メタル系の超突貫タイプではなく、やはり大仰なエピック・メタル路線でガッツリと組まれており、サウンドだけ抜き出せばむしろ「ライヴ再現は不可能」とまで言わしめるほどに過剰な作り込みを施した『A Night at the Opera』(2002)の正統後継作なのではと感じます。メンバーも二十年ぶん歳をとったので、やはりあのころへの回帰を果たすということはありえないのだなと改めて痛感してしまいましたが、前作、前々作と比べれば本作の健闘ぶりは特筆に価するレベルです。相当な気合をもって臨んだのは充分に伝わりました。
プロデューサーのチャーリー・バウアファイントをはじめ、レコーディングメンバーはほとんど変更はないものの、唯一、これまでライヴサポートベーシストであった元VENGEANCEのBarend Courboisが本作をもって正式メンバーとして加入し、ごく初期のツイン・ヴォーカリスト時代(わずか数ヶ月で終わったそうですが)以来となる五人編成になりました。バンドのウリであるクワイアコーラスには何カ国ものコーラス隊を迎え、重厚極まるシンフォニック・サウンドには百名近いグランド・オーケストラを起用するという妥協のなさも相変わらずです。正直、『A Night at the Opera』以降、制作環境的にはカウンターストップしてしまった感があるので、もはやバンドのプラスアルファの部分は楽曲をどれだけ錬り込めるかというところでしか出せないんですよね(その境地に達してしまったというのがこのバンドのすごいところでもあるのですが)。ジョージ・R・R・マーティンやロバート・ジョーダンの大作ファンタジーや、マイクル・ムアコックやピーター・S・ビーグル、果てはジョン・ミルトンの『失楽園』まで題材にとった前作『At the Edge of Time』はそれらのイメージに引っ張られた印象を感じてしまいましたが、本作には特定の元ネタとなるものはなく、オリジナルのコンセプトで貫いているということもあってか、結果的にサウンドとの部分でうまくバランスがとれたとも感じます。構成が複雑重厚を極めているため、各曲のクライマックス感はハンパないのですが、逆に言ってしまえばこれといった決め手の一曲はないです。楽曲的にもアルバム的にも「クワイアコーラスに始まり、クワイアコーラスに終わる」という金太郎飴状態で、聴く叙事詩、浴びる叙事詩を体現しております。また、"The Ninth Wave"と"Grand Parade"という、ともに豪華絢爛たるつづれおりのイメージを幾度も喚起させる九分半の大曲をアルバムの始めと終わりに楔のように打ち込んであるのも、本作を一本筋が通ったものにする上で重要なポイントだと感じました。畢生の大傑作とまではいいませんが、ここ数年裏返していたてのひらを思わず返したくなるくらい、バンドに対してここ久しくなかった昂ぶりをおぼえました。よくよく考えれば、トーメンが脱退してから十年近く経とうとしているんですよね、次回作ではまたどうなるかはわかりませんが、全盛期に迫ろうとしたバンドの気合には賞賛を贈りたいですね。
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