2014年10月21日火曜日

パトリック・モディアノと音楽 ― シャンソン、ポップス、フォークとの関わり

先ごろ、2014年度のノーベル文学賞に輝いたパトリック・モディアノ。ゴンクール賞を受賞した1978年発表の『暗いブティック通り』や、後に映画化もされた1974年発表の『ルシアンの青春』、1975年発表の『イヴォンヌの香り』で知られるフランスの作家です。彼のデビュー作は1967年に執筆され、翌年四月にガリマール社より刊行された『La Place de l'etoile(エトワール通り)』ですが、実はそれに前後してシャンソンの作詞家としても活動しておりました。また、後述する「とある人物」と組んで音楽作品も発表していたのです。今回のテーマは「パトリック・モディアノと音楽」というテーマで、ひとつ探っていきたいと思います。



モディアノ氏はパリの名門として知られるアンリ四世高等学校(Lycee Henri-IV)時代に、後にエレクトリック・フォーク/サロン・チェンバー・グループ MALICORNEの中核メンバーとして参加し、バンド解散後にはコンポーザー/アレンジャーや、ワールド・ミュージック系のプロジェクト Songs of Innocenceのプロデュースでも活動を展開するユーグ・ド・クールソン(Hughes De Courson)とも出会っております。モディアノが作詞を、クールソンが作曲をそれぞれ担当して制作した楽曲を収録したアルバム『Fonds de tiroir 1967』は、1979年にBallon Noirレーベルよりリリースされました。2005年にはCD化もされ、現在はiTunes storeやAmazon mp3などでダウンロード販売されております。

https://itunes.apple.com/jp/album/fonds-de-tiroir-1967/id543168470

瀟洒なシャンソン/カリプソ・ナンバーと優雅なフォーク・インストゥルメンタルが交錯し、時に実験的な趣向も織り込んだバラエティも豊かな12の小曲から成る同アルバムは、一部の楽曲でイギリスのフォーク/プログレッシヴ・ロック・バンド GRYPHONのメンバーであるBrian Gullandがバスーンで参加しているのもポイントです(ちなみに、彼は後にMALICORNEのアルバム『Balançoire en feu』(1981)にも参加します)。また、アルバムの最初と最後に配された"La Valse Druse"は、2005年にリリースされた編集盤『Marie De Maricorne』で再録版を聴くことができます。リリース元のBallon Noirレーベルにも触れておくと、このレーベルは同国のフォークやプログレッシヴ・ロック系のカタログを抱えていたレーベルで、MALICORNEの諸作や、フレンチ・アシッド・フォークの名作として人気の高いエマニュエル・パルーナンの唯一作、ブノワ・ウィデマン、ローラン・チボーといった初期MAGMAのメンバーのソロ作も同レーベルから発表されておりました。

http://www.discogs.com/label/92732-Ballon-Noir



また、モディアノ氏はシャンソン歌手への作詞提供もいくつか行っておりました。そしてこちらでも、クールソン氏とのタッグを組んでいたわけです。



Françoise Hardy "Etonnez-Moi, Benoit...!"
Comment te dire adieuComment te dire adieu
(1997/01/27)
Francoise Hardy

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フランスの女性シンガーソングライター フランソワーズ・アルディの代表作のひとつ『Comment te dire adieu ? (さよならを教えて)』(1968)。同作は、アーノルド・ゴーランド作曲の"It Hurts To Say Goodbye"に、セルジュ・ゲンズブールが仏語歌詞をつけ、それをアルディがカヴァーした表題曲で知られるアルバムですが、その後半にこの楽曲が収録されています。邦題は「驚かせてよ、ブノワ」。作詞はモディアノ、作曲はクールソン。シングルのB面曲にもなっています。





Françoise Hardy "San Salvador"
SoleilSoleil
(1998/11/17)
Francoise Hardy

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『Soleil (アルディのおとぎ話)』(1970)に収録。映画『禁じられた遊び』のテーマ曲としてよく知られる"愛のロマンス"のシャンソン・カヴァー・アレンジ。邦題は"幻のサン・サルバドール"。作詞がモディアノ/クールソンの連名となっています(アレンジャーは大御所 Jean-Claude Vannier)。



Régine "L'Aspire-A-Coeurs"
レジーネ・ジルバーベルグ(Régine Zylberberg)はベルギー生まれのフランス人女性シンガー。ナイトクラブのマネージャーとしても知られ、パリのナイトクラブを現在のような形のスタイルに仕立て上げたゴッドマザー的存在でもあるようです。そんな彼女の五枚目(?)のアルバム『La Fille Que Je Suis』(1970)に、モディアノ/クールソンのタッグが提供した楽曲がこちら。なお、演奏はAlain Goraguer指揮の楽団によるもの。ゴラゲールはセルジュ・ゲンズブールやボリス・ヴィアンの楽曲のアレンジャーでも知られる人ですが、本作のほとんどの楽曲の演奏を手がけています。




Henri Seroka "Les Oiseaux Reviennent"
アンリ・セロカはベルギーのシンガーソングライター/コンポーザー。楽曲提供や映画音楽での仕事のほか、1984年のロサンゼルス・オリンピックのベルギーのテーマを作曲し、ゴールドディスクを獲得しています。彼のデビュー作である『Les Oiseaux Reviennent』(1971)には、モディアノ/クールソンのタッグによる提供曲が1曲収められております。華やかなアレンジのポップスナンバーです。

http://www.amazon.co.jp/Les-oiseaux-reviennent/dp/B003VJ55PW




Bal Perdu "Melecass"
先に紹介した楽曲とは違い、こちらはさらに時代を経て1987年にリリースされた7インチシングルのA面曲。モディアノ/クールソンのタッグが曲を書いているのですが、このユニットの作品はこのシングルだけだった模様。 クレジットに記載されている情報から推測するに、Jean-Philippe Brochardという鍵盤奏者と、以前はLa Mirlitantouilleというフォーク系バンドに在籍していたLouis-Pierre Guinardというヴォーカリストの二人が中心のユニットのようですが、詳しい情報はほとんどわかりませんでした。


 


I'm Not a RoseI'm Not a Rose
(2006/04/25)
Marie Modiano

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ところで、モディアノ氏の娘であるマリー・モディアノはシンガーソングライターとして活動しており、2006年に『I'm Not a Rose』でデビュー。現在までに四枚のアルバムを発表しています。ヴァイオリンやキーボードを擁した編成のバックバンドを従えて、ロック、フォーク、ジャズからの影響も感じさせるフレンチ・ポップスを聴かせてくれます。ライヴパフォーマンスもなかなかエネルギッシュ。




La chanson, première expérience de Patrick Modiano - La Croix
「もしも「ノーベル映画賞」があったら
ノーベル文学賞受賞者パトリック・モディアノの時と記憶と映画」 ‐ JPRESS
Patrick Modiano - Wikipedia
MALICORNE - Progarchives
フランソワーズ・アルディ - Wikipedia
Marie Modiano - discogs