2010年8月25日水曜日
VERMILLION SANDS『Water Blue』(1989)
80年代に活動していた、故.蝋山陽子さん率いるフォーク・プログレ・バンド ヴァーミリオン・サンズが89年に発表した作品。RENAISSANCEやSANDROSEといった欧州のフォーク・プログレ系バンドのコピーバンドが母体であり、特にRENAISSANCEからの音楽的な影響は大きく、紅一点である蝋山さんによる母性溢れる包み込むような歌い回しはアニー・ハズラムを彷彿とさせられます。バンドアンサンブルはとりたててテクニカルというわけでもなく、シンフォニックなムードの演出でヴォーカルのサポートに回る場面が多いのですが、アコースティックの優しい響き、CAMELやGENESISを思わせる暖かみのあるキーボードサウンドが絡んで、どこまでも幻想的なトラッド・サウンドを形成していく様はしみじみとしたノスタルジーを感じさせてくれます。
木漏れ日の散歩道を踏みしめていくかのような展開が味わい深い大曲「時の灰」、日本的情緒を含みこんだアコースティックな小曲「北本」、伸びやかなヴォーカルが夢心地へと誘う「THE POET」等、スロウテンポのバラードの魅力がたっぷりと味わえる曲が多いです。一方で、吹き込む風のSEに導かれ、ヴォーカルとバンドアンサンブルが軽やかに駆け抜ける「CORAL D -THE CLOUD SCULPTORS-」、中期 (特に『Breathless』期の) CAMELへの愛も感じさせる牧歌的な雰囲気を持った「LIVING IN THE SHINY DAYS」は、このバンドの"動"の魅力を感じさせる仕上がりで思わず笑みもこぼれてしまいます。素朴ながら、じわりと琴線に触れる魅力の詰まったアルバムではないでしょうか。バンドは90年に活動を休止するものの、自主制作のソロアルバムやカヴァーバンドでの活動を経て、96年に元Deja-Vuの工藤源太氏(dr)やKBBの壺井彰久氏(vln)をサポートに加えて一時的に活動を再開(この時のメンバー編成でのライヴテイクが99年のリイシュー盤に2曲ボーナス・トラックとして収録されております)。その後、蝋山さんの出産・育児のため再びバンドは活動休止、99年にθ(theta)のメンバーとして迎えられ、00年にアルバムを1枚発表するものの、04年の8月23日に若くしてこの世を去られてしまいます。今年で蝋山さんの6周忌、数少ない国内フォーク・プログレの優れた歌い手であった彼女の早すぎる死は、改めて惜しまれます。
90年の吉祥寺シルバーエレファントでのライヴ映像。YouTubeでは他にもルネッサンスの「Prologue」やトラディショナルのカヴァー、アルバム未収録曲「Rosemary」の演奏映像も見ることができます。
●VERMILLION SANDS:試聴
●VERMILLION SANDS:公式