2010年3月10日水曜日
月読レコード『しろのはらり~はぴどりサウンドトラックスアレンジアルバム~』(2007)
「月読レコード」は、コンポーザー/アレンジャーとしても活動されている翡翠氏が設立した音楽レーベル兼サークル。つい最近になってこのサークルを知り、作品に触れたのですが、本作の非常に素晴らしい内容には思わず唸らされてしまいました。本作『しろのはらり』は、翡翠氏が以前手掛けたアフレコサークルのドラマCDの楽曲を、新たにセルフカヴァー/アレンジで収録し直したもの。キーボード/シンセ、プログラミング、竜笛、篳篥、そしてヴォーカルまでもを全て翡翠氏一人で担当し作り上げたというまさに完全ソロ体制で制作された本作ですが、全編に渡ってシンフォニックなプログレッシヴ・ロック・サウンドで貫かれております(翡翠氏自身、プログレからの影響を受けているそうで)。某プログレ専門店による紹介文には、新●月や初期のASTURIAS、そして川井憲次氏の名前が引き合いに出されておりましたが、なるほど形は違えど、この和の情緒と清涼感に溢れたサウンドはこれらバンドやアーティストからの影響を感じさせます。それだけに留まらず、独自色も多分に加えて聴き応えのある仕上がりにしているところもまた大きな魅力的ポイント。年々クオリティが上昇の一途を見せている近年の同人界隈でもプログレ・メタル系の方向性の作品は多いですが、ここまでたおやかで情緒的色合いの強いシンフォニックな方向性のプログレ系作品はなかなかお目にかかれないのではないでしょうか。
柔和な雰囲気で優しく包み込んでいく大作タイトルトラック「しろのはらり」。7拍子のリズムを伴ってブレイクビーツ的なバッキングとストリングスサウンドが絡み、シリアスかつ荘厳な感触の「鈍色の塔 第四層」。一転して、桜庭統氏を思わせる軽快な変拍子展開で軽やかに疾走する「永遠の烙印」。竜笛、篳篥をふんだんにフィーチャーした和楽インスト「夢之原」。ハープシコードの音色による煌びやかなアレンジに翡翠氏による一人混声多重コーラスを盛り込み、本作でも随一の盛り上がりを見せる「天鏡の終わりへ」。モーグシンセサウンドを中心に、起承転結のハッキリした展開で多彩な表情を生み出していく終盤の堂々たる大曲「聖」など、聴き所は実に盛り沢山。また、翡翠氏がカウンターテナーということもあり、随所でファルセットヴォイスによるコーラスを披露、バラードナンバー「ユメミ」では1曲丸々ファルセットで歌われております。また、男声ハイトーンヴォーカルで歌い上げられる「時限式」は古きよきジャパニーズ・プログレ的イディオムをそこはかとなく感じさせられます。アレンジアルバムでありながら、トータル・コンセプト作品のような趣向を感じる濃密な作品。凄いの一言でありますし、同人音楽の懐の広さを改めて実感させられた次第であります。現在、在庫完売により『しろのはらり』の販売は終了してしまっているのが残念ですが、2008年、2009年にはまた別のアプローチでプログレを感じさせる作品を発表しており(特に、二人の女性ヴォーカルを迎えて08年に制作された『白姫と黒姫』は、『しろのはらり』の和情緒溢れる方向性をさらに拡大したような内容でありました)、また、今年の5月に開催される同人音楽即売会:M3で新作をリリースするとのことなので、今後の活動にもますます目が離せない、個人的に期待のサークルがまたひとつ増えました。
●『しろのはらり』試聴ページ
●月読レコード:MP3配信ページ(「天鏡の終わりへ」をフル試聴可能)
●月読レコード:公式