2014年12月2日火曜日

金属、血肉そして荒涼たる大地。スチームパンク・ナイトメア『モンド9』イメージアルバム ― The Wimshurst's Machine『Mondo9』 (2014)

モンド9 (モンドノーヴェ)モンド9 (モンドノーヴェ)
(2014/02/22)
ダリオ・トナーニ

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『Mondo9 (モンド・ノーヴェ)』は、イタリアの作家ダリオ・トナーニが2012年に発表したSF小説。荒廃した世界の果てしのない毒の砂地を駆ける謎の巨大駆動船“ロブレド”と、それに関わった人々を描いた連作短篇シリーズです。本国イタリアではSF賞を受賞しており、今年の二月にシーライトパブリッシングより邦訳版も出ました。この『モンド9』、自分は非常に愉しく読みました。「スチームパンク・ナイトメア」という惹句が表すように、血生臭さと土臭さが全編にわたって横溢しており、そのエグ味のある世界観にたちまちやられてしまったという次第。後書きで『デューン 砂の惑星』や『キルドーザー』が引き合いに出されていてなるほどと思ったのですが、個人的には巨大船ロブレドのアンタッチャブルで謎めいた姿に、神林長平氏の名作『今宵、銀河を杯にして』に登場する戦車「マヘル・シャラル・ハシ・バズ」のイメージをふとダブらせたりしたものです。



そんな『モンド9』へトリビュートを捧げたイメージサウンドトラックを制作したバンドが、このThe Wimshurst's Machine。2000年代初頭に結成されたイタリア・トリノの大編成バンドであります。バンド名の由来は、十九世紀に開発された「ウィムズハースト式誘導起電機」(イギリスの大御所バンド Van Der Graaf Generator〔ヴァンデグラフ起電機〕を意識したフシも少なからずあるのかもしれません)。メンバーのスチームパンクな扮装もさることながら、音楽的コンセプトもスチームパンクとプログレッシヴ・エレクトロニカの融合を標榜したもの。彼らの音楽的影響には、マイク・オールドフィールドやロリーナ・マッケニット、アラン・パーソンズ・プロジェクト、MARILLION、Depeche Mode、Tower of Powerの名前が挙がっています。2004年に1stアルバム『A traveller who didn't ask for glory』をリリースして以降、非常にコンスタントなペースでアルバムをリリースしており、今年はオリジナルアルバム『The Experiment』のほか、同じくイタリアの作家 Alain Voudiのスチームパンク小説『Trainville』のイメージサウンドトラックも発表しており、都合三作品という多作ぶり。

ニューエイジ・ミュージック調のメインタイトルや、"Ghost in the Machine"のような不穏なムードを孕んだいかにもなスコアから、ヴァイオリンとホイッスルの旋律が哀愁を際立たせる"Mountains of Mourn"あり、"Escape from the Robredo" "Dance of the Afritania"のようなコンパクトなエレクトロ・チューンあり、アダルティーなジャズ/アンビエント"Return to Freedom"ありの全九曲。いずれにしても「暗中模索」「荒涼」「寂寞」といったイメージが強く滲み出ています。聴いてから読むか、読んでから聴くか。どちらを選ぶかはアナタ次第であります。

“ダリオ・トナーニ『モンド9』 ― シーライトパブリッシング”
訳者の久保耕司氏による作品解説

Dario Tonani
The Wimshurst Machine - Official
The Wimshurst Machine - facebook