さる9月10日の六本木での記念ライヴでは山下達郎氏やスターレス高嶋氏もゲスト参加し、四時間以上にわたる充実のパフォーマンスをみせてくれたキーボーディスト 難波弘之氏の「鍵盤生活40周年記念作品」となるアルバム。2010年にはデビュー作『Sense Of Wonder』(1979)とイメージアルバム『グリーン・レクイエム』(1984)の再発、SENSE OF WONDERの初ライヴDVDのリリース、2013年には27年ぶりとなるソロ名義アルバム『Childhood's End ~幼年期の終わり~』の発表と、近年も印象的なリリースが続いていますが、本作は主に2000年以降のバンドやプロジェクトでの楽曲(新録)を中心に、コンピレーションやサントラへの提供曲、そしてリーダーバンドであるSENSE OF WONDERや、自身のソロでの完全新曲を収録したベスト&レアトラックス。
冒頭を飾る"浮遊"は、織田哲郎作曲、SENSE OF WONDER名義の新曲。じっくりとしたパワーバラードです。織田氏との久々のコラボレーションともなった楽曲であり、氏はギター&コーラスでも参加されております。二曲目の"Hokey Pokey Baroquey"、そして六曲目の"Orb"はExhiVisionの楽曲。同バンドは和田アキラ(g/PRISM)、永井敏巳氏(b/TOSHIMI SESSION、ex.VIENNA)、長谷川浩二(ds/THUNDER YOU POISON VIPER)といった歴戦の手練たちと2003年に結成したテクニカル・ジャズ・ロック・バンドであり、これまでに二枚のアルバムと一枚のライヴアルバムが出ています。 この二曲はともにライヴでは披露されていますが、バンドのアルバムには未収録です。
"256001(2016 Mix)"は、東海道新幹線開業50周年記念アルバム『走れ!夢の超特急楽団』(2014)への提供曲。スギテツの岡田鉄平氏とのデュオによる、ピアノ&ヴァイオリンのアコースティック・インストです。曲名は難波氏が小学生時代に乗車した思い出深い車両の番号。難波氏も相当な鉄道マニアでありながら、ソッチ系の依頼はなかなか来なかったとのこと。また、十曲目の"ODEN~往時電車~"も、鉄道コンピアルバム『恋する鉄道』(2015)への提供曲。こちらは難波氏自らヴォーカルもとった、素朴な歌もの曲に仕上がっています。"The DOOR INTO SUMMER(2016 Mix)"は、演劇集団キャラメルボックスによって2011年に上演された、ロバート・A・ハインラインの名作『夏への扉』の舞台版への提供曲の新ミックス。シンガーソングライターの玲里さんと、今年の夏にこの世を去られたZABADAKの吉良知彦氏と、SENSE OF WONDERの爽やかなコラボレーションによるヴォーカル曲。
野獣王国は是方博邦(g/KORE CHANz)、鳴瀬喜博(b/カシオペア)、東原力哉(ds/ナニワエキスプレス)と90年代半ばに結成されたスーパー・フュージョン・ロック・バンド(現在のドラムスは小森啓資)。"Floating Island"は、アルバム『Candy』(2007)以来 約十年ぶりとなる新曲。ゆったりと滋味あふれるテイストで、リゾート感もある一曲に仕上がっています。2014年に放送されたアニメ「スペース☆ダンディ」に提供した二曲のうちの一曲"SPACE CHANTEY (宇宙舟歌~ただし、船酔い気味の) "は、キース・エマーソンが手がけた「幻魔大戦」や、難波氏がかつて制作された「真・幻魔大戦」のイメージアルバムの路線を踏襲した壮大なプログレインスト(制作側からそのものズバリなオーダーがきたとのこと)。「幻魔大戦」サントラのレコーディングにも参加されていたSHOGUNの芳野藤丸氏がフィーチャリング参加されているのもミソです。曲名の「スペース・シャンティ」はもちろんスペース・ダンディと引っ掛けていますが、R.A.ラファティの1968年の奇天烈スペースオペラ『Space Chantey(宇宙舟歌)』にも引っ掛けています。さらに難波さんのことなので、かつてデイヴ・スチュワートとスティーヴ・ヒレッジが在籍したプログレッシヴ・ロック・バンド KHANの1972年のアルバム『Space Shanty(宇宙の船乗り歌)』とも引っ掛けている可能性があります。
THE HITS!?は、池田憲一(b/ROOT SOUL)、森信行(ds/ex.くるり)らと2011年に結成されたRED HOT CHILI PEPPERSトリビュート・トリオ。"Doggie Bag (2016 Mix)"は、同年のアルバムに収録された難波氏のオリジナル曲の新ミックス。グリグリと攻め立てるオルガン・ロック・チューンです。A.P.Jは、水野正敏(b)、山木秀夫(ds)らと2000年に結成された「Acoustic Progressive Jazz」トリオ(現在のドラムスは池長一美)。"Happiness"は、フクシマレコーズの企画コンピ『OTO-LOVE』(2013)へ提供した一曲。EDENは難波氏が2008年に立ち上げたソロ打ち込みユニット。同年のアルバム『Eden』はアンビエント路線の楽曲が収められており、上野洋子さんが数曲にゲスト参加されてもいました。8年ぶりの新曲となる"Proto - Consciousness"は神秘的なムードを湛えたピアノ&シンセ小品です。
ラストに収録されたSENSE OF WONDER名義の新曲"ココロと心臓"は、作詞家活動で同じく40周年を迎えられた森雪之丞氏との久しぶりの再タッグを組んだ感慨深い新曲。海野十三のディストピアSF「十八時の音楽浴」の世界観に通じるエッセンスも織り込まれたストーリーにもグッとくる、八分半の大曲。もっとシンプルにする予定だったとのことですが、たっぷりと盛り込まれたそうる氏のドラムといい、玲里さんの暖かなコーラスワークといい、トリッキーでドラマティックな構成になっています。それでいて一抹の切なさを湛えたロックバラードとしても非常に素晴らしく、個人的には本作のハイライトだと思います。近年の活動を俯瞰できる充実の一枚ですが、もちろん、現在も難波氏はさまざまなバンドやプロジェクトで活動を展開されております。本作を足がかりに、これからの活動も追いかけてみてはいかがでしょうか。
ところで、本作は各店舗(タワーレコード、ディスクユニオン、ワールドディスク)によって異なる購入特典CD/DVD-Rがあり、自分はタワーレコードで買ったので特典は"薔薇と科学"でした。もともとは『N氏の天球儀』(1986)の収録曲ですが、こちらは小森啓資氏(ds)とフュージョン・バンド パラダイムシフトの富倉安生氏(b)とのトリオによる1991年のテイク。 ジャズ・フュージョンギタリストのフランク・ギャンバレとの共演の話が上がった際、小森氏のプレイを聴いてみたいというギャンバレ氏の意向を汲んで録音されたものだそうで、演奏者以外ではギャンバレ氏しか耳にしたことがなかったという発掘音源です。
http://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t8567
http://nambahiroyuki.com/
https://www.facebook.com/senseofwonder.nambahiroyuki
▽難波弘之、うさぎ組『デジタルデビル物語 女神転生 オリジナル・サウンドトラック』(1987)
▽難波弘之 他『バオー来訪者 オリジナル・サウンドトラック』(1989)
▽難波弘之、兼崎順一、三田超人 他『桃太郎伝説「夢・しゃりばり」』(1990)
▽「浦沢直樹×難波弘之トーク&ライヴ 2014年9月7日(日)世田谷文学館」