2010年5月29日土曜日

Lino Cannavacciuolo『Pausilypon』(2010)

Pausilypon
Pausilypon
posted with amazlet at 15.12.20
Lucky Planets (2012-04-27)


 イタリアはナポリ出身のヴァイオリニスト、リノ・カンナバッチュオロの2010年作品。この人のアルバムを聴くのは今回が初めてですが、本国で活躍するカンタトゥーレであるペッペ・バーラのバックバンドのいちメンバーとして活動しつつ、これまでに何枚か自身のソロ作品を発表している御仁。いわずもがなのヴェテラン・ミュージシャン/コンポーザーの一人です。本アルバムはサルデーニャの女性歌手エレーナ・レッダや、ジャズ・ピアニストのリタ・マルコトゥッリ、KING CRIMSONなどで知られるベーシストのトニー・レヴィン、GOBLINのドラマーであるアゴスティーノ・マランゴーロら、20名以上のゲストミュージシャンを交えて制作しています。バッキングトラックは基本的に打ち込みで軽めなのですが、そこに載る上モノが非常に豪華絢爛。オーケストラやコーラス/ヴォーカルを交えつつ、喜怒哀楽の表情を孕んで躍るリノ氏のヴァイオリン・プレイがたまりません。



 

 オリエンタルなムードと躍動的なアイリッシュ・トラッドのエッセンスを併せ持った「Pieta Di Me」、広大な大地の広がりを想起させる、さながら大河的一大作品のテーマ曲のような「Rachel」など、楽曲の趣向も多様な要素を孕んでおり、フォーク/トラッド、ヒーリング/ニューエイジ、サウンドトラック的な趣を消化しつつ、大河的な壮大さと泣きでドラマティックに纏め上げられた楽曲はどれも素晴らしい魅力を持っております。ハイライトには鬼気迫るヴァイオリンプレイを存分にフィーチャーした7分の大曲「Cry」、そしてラストは「Rachel」のリプライズ的楽曲「I'Te Sento」で歓喜のムードの中アルバムの幕を閉じます。作風的に同傾向にあるということで、マルクス・ヴィアナ(ブラジル最高峰のシンフォニック・バンド SAGRADO CORACAO DA TERRAのヴァイオリニスト)が引き合いに出されるのも納得の、スケールの大きなヴァイオリニスト。素晴らしい才能の持ち主です。日本で言えば葉加瀬太郎氏や久石譲氏の作風が好きなら確実にハマるのではないでしょうか。

 ちなみに、近年イタリアで制作されたHONDAの企業ストーリー・アニメーション・ムービー「The Power of Dreams」のテーマ音楽を担当したのがリノ氏。粛々とした雰囲気を持った、映像との相乗効果たっぷりの見事な劇伴楽曲を提供しております。YouTubeに映像が上がっているので、こちらも是非観て聴いて欲しい作品(その舞台裏の映像も上がっております)。


Lino Cannavacciuolo:myspace
Lino Cannavacciuolo:Official

whitescreen.jp:「続々登場する創業史アニメ、ニューフェイスはホンダ!イタリア製の「The Power of Dreams」」

2010年5月18日火曜日

elephant9『Walk The Nile』(2010)

Walk the Nile
Walk the Nile
posted with amazlet at 15.12.20
Elephant9
Rune Grammofon (2010-03-30)
売り上げランキング: 314,949


 ノルウェーのエクスペリメンタル・エレクトロニック・ジャズ・バンド Supersilentのキーボーディストであるステイル・ストロッケン(Stale Strlokken)率いるオルガン/キーボード・トリオ:エレファント・ナインの2ndアルバム。アルバムデビューは08年、前述のSupersilentや、Motorpsycho、SHININGも所属するRune Grammofonレーベルに在籍しているこのトリオには、SHININGのオリジナル・メンバー/ドラマーであるトルステン・ロフタス(Torstein Lofthus)がドラムスとして参加しております。Supersilentでは実験的で悪意すら感じさせるアヴァンギャルドなサウンドを展開していますが、こちらは演奏こそ即興性重視ながら、ベース、ドラムス、キーボードの編成にて、非常にストレートなサウンドを聴かせてくれます。録音こそ現代的ですが、60~70年代に隆盛したオルガン・アート・ロックやカンタベリー・ジャズ・ロックを現代的に味付けしたようなたたずまいで、キース・エマーソンがEL&P結成前に在籍していたThe Niceや、中期(特に『Third』の頃)のSOFT MACHINEを強く彷彿とさせられます。

 反復性・即興性が強い楽曲の数々を、時に軽やかに、時に重々しくハモンド・オルガン弾き倒しを展開するステイルのプレイを軸に、リズム隊が反復の土台を築きつつも手数で埋めていくというスタイルはスタイリッシュでありながらパワフル。タイトル曲の「Walk The Nile」や、「Habanera Rocket」といった10分を越える長尺曲では若干バンドの演奏が垂れ流し気味に感じる部分がありますが、反面、3~4分のコンパクトな楽曲においてのアンサンブルの突進力は抜群。ハモンドがヘヴィに転がり縦横無尽に唸りを上げる、ちょっと御大エマーソンの姿もダブる冒頭曲「Fugl Fonix」、焦燥感を煽る展開がいつの間にかスペイシーな域に突入し収束していく様がまさにハードコアな「Hardcore Orientale」、そして三位一体の疾走感で全部持って行くラストナンバー「John Tinnick」は、トルステンのサクサク突き刺さるドラミングも心地良い、非常にカタルシス溢れる楽曲。トリオ編成の利点を活かしまくった小回りの良さと魅力がギュギュッと濃縮されております。現在進行形バンドながら、オールド・ジャズ・ロック好きにも十分アピールしうる新鋭。現代北欧バンド勢の懐の広さを感じさせられるとともに、今後の活動が楽しみなバンドであります。ハモンドオルガン最高!


elephant9:myspace
Rune Grammofon

2010年5月11日火曜日

高梨康治『FAIRY TAIL オリジナルサウンドトラック Vol.1』(2010)

「FAIRY TAIL」ORIGINAL SOUNDTRACK VOL.1
高梨康治 TVサントラ
ポニーキャニオン (2010-01-06)
売り上げランキング: 20,153


 アニメ「フェアリーテイル」のサウンドトラック。劇伴担当は80~90年代にHELLEN~ファルコムJ.D.K.バンドといったジャパメタ系バンドを渡り歩いた経歴を持ち、現在は和風ハード・ロック・バンド:六三四のキーボーディストも務めている高梨康治氏。多彩な引き出しを感じさせ、また、ストリングアレンジの壮大な演出、絡め方にも定評がある(「PRIDE」のテーマ曲はその好例であります)高梨氏ですが、フェアリーテイルの劇伴では、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルに傾注した内容になっております。過去にも特撮劇伴(「幻星神ジャスティライザー」など)でアツいハード・ロックを展開していたり、地獄少女シリーズの劇伴では一部でRHAPSODYも真っ青な壮大なシンフォニック・メタルを、そして瀬戸の花嫁のキャラクターソングにおいては六三四ばりの和風メタル曲を、さらにOVA版ではまんまDRAGONFORCEなメロスピ曲を提供していたりで部分的にはっちゃけていたケースもありましたが、これほどハードな色合いを強く押し出したのは今までの氏の作品でもそうそうなかったのではないかと。

 持ち前の見事なストリングス・アレンジを発揮した楽曲はもちろん、フルート、フィドル、ホイッスル、アコーディオン、そして女性コーラスを交えたトラッド/フォーク、壮大かつ力強さを感じさせるハード・ロック、そしてインパクト十分のフォーク・メタルまで、ファンタジー系サウンドトラックとして体裁を保ちつつも、粒とキャラが立った楽曲がズラリ。また、六三四の盟友であり、近年はGRANRODEOのライヴサポートメンバーを務めるARK STORMの瀧田イサム氏がベースで全面的に参加しております。STARTOVARIUSの「Black Diamond」を彷彿させるメロディック・スピードメタル系インスト「エルザのテーマ」や、颯爽・堂々たるフォーク・メタル・チューン「ドラゴンスレイヤー」「サラマンダー」、六三四譲りのドラマティックな盛り上がりを見せる「最後の魔法」「ルーシィがんばる」「グレイのテーマ」「氷刃舞う」のような爽やかなハード・ロック・チューン、高らかにギターが唸りを上げるアレンジの「威風堂々(Rock Version)」など、楽曲を挙げると枚挙に暇がないですが、劇伴としても音楽作品としても楽しめる会心のサウンドトラック作品であり、メタル系リスナーにも十分にオススメできる1枚。高梨氏の本領はハード・ロック/ヘヴィ・メタルにありと、改めて感じた次第です。


高梨康治:Wikipedia
FAIRY TAIL:Wikipedia