When Gravity Fails (2005/11) George Alec Effinger 商品詳細を見る |
アメリカのSF作家 ジョージ・アレック・エフィンジャー(1947-2002)が1987年に発表した小説『重力が衰えるとき(When Gravity Fails)』。タイトルはボブ・ディランの"親指トムのブルースのように(Just Like Tom Thumb's Blues)"のなかの一節「When your gravity fails and negativity don't pull you through」に由来。中東の一都市ブーダイーンを舞台に、主人公の私立探偵マリード・オードランが奔走するサイバーパンク・ハードボイルド小説シリーズであります。犯罪と麻薬がはびこり、性転換した娼婦がうろつく猥雑な街、人格モジュール「モディー」/知識・精神アドオン「ダディー」といった電脳ガジェット、イスラム世界のしきたりを反映(アレンジ?)した一風変わったやりとりなど、魅力的な要素が多く、たちまちイスラム・サイバーパンクの嚆矢となりました(…とはいえ、エフィンジャー以外でそういった作品を著した人がいるのかどうかは知りませんが)。シリーズは'89年発表の第二作『太陽の炎(A Fire in the Sun)』、'91年発表の第三作『電脳砂漠(The Exile Kiss)』とで三部作として括られています(第四作目は存在するものの、冒頭のみの執筆で途絶)。ちなみに、『重力が衰えるとき』は先ごろ十数年ぶりに復刊したところなので、この機会にぜひともオススメいたします。
重力が衰えるとき (ハヤカワ文庫SF) (1989/09/15) ジョージ・アレック・エフィンジャー 商品詳細を見る |
そんな〈ブーダイーン〉シリーズですが、'90年にゲーム化されています。開発はWestwood Studios、販売はInfocom。Westwood Studiosはストラテジーゲーム「コマンド&コンカー」、RPG「アイ・オブ・ザ・ビホルダー」などのタイトルも手がけたソフトウェアカンパニー。また、Infocomはテキストアドベンチャーゲーム「ゾーク」の開発元です(ちなみにエフィンジャーは'90年に同作を題材にとったノベライズ『The Zork Chronicles』を上梓しています)。やはりコマンド式の探偵ものアドベンチャーゲームといった趣で、モディーなども駆使しつつ、手がかりを求めてブーダイーンの街を巡っていきます。ストーリーは実は書き下ろし。『電脳砂漠』の訳者あとがきには「エフィンジャーが新たに書き下ろした八千語のストーリー」ともあります。というわけで、第一・五作目といったところでしょうか。
↑これがデモ画面。ちなみに、本作のミュージック・コンポーザーはPaul Mudra。「アイ・オブ・ザ・ビホルダー(DOS版/SFC版)」などの楽曲も手がけた人で、本作は彼の初期の仕事でもあります。また、YouTubeには酔狂な海外プレイヤーによる一通りのプレイ動画が揃っています。
「Circuit's Edge Walkthrough」 - The Computer Show
1990年に刊行された「Computer Gaming World」誌の第73号(7月・8月合併号)に掲載された「Circuit's Edge」の紹介記事と、エフィンジャーへのインタビュー(画像クリックで拡大)。
●Circuit's Edge for DOS(1990) -MobyGames
●George Alec Effinger - Wikipedia
●Westwood Studios - Wikipedia
【追記】
インターネット・アーカイヴにはMS-DOSゲームが数多くアーカイヴされており、ブラウザでプレイできるのですが、そのなかに「Circuit's Edge」もあります。
〈関連〉
◆アドベンチャー・ゲーム版"ニューロマンサー"の世界 ― 『Neuromancer』(Interplay Productions/1988)