Celestial Fire (2014/11/25) Dave Bainbridge 商品詳細を見る |
20年以上に渡って活動を続けるイギリスのプログレッシヴ/トラッド・ロック・バンド IONAのフロントマンにしてマルチ・ミュージシャンであるデイヴ・ベインブリッジ。彼が、2004年の『Veil of Gossamer』から実に10年ぶりに発表した2ndソロアルバム。前作は本隊であるIONAのケルティック・ロックの流れを汲みつつも、アンビエント/ニューエイジ・ミュージック的趣向や、デイヴの伸びやかで空間的なギターワークをフィーチャーした雄大なインストゥルメンタル・アルバムに仕上がっておりましたが、今回はズバリ、往年のプログレッシヴ・ロックのスタイルを非常に意識したものになっており、とても驚かされました。ロック的な素養ももちろんあるとは思っていましたが(前作でも"Homeward Race"というロック/フュージョン・タッチの曲がありましたし)、長きに渡るIONAの活動はもちろん、メンバーのDave FitzgeraldやTroy Donockleyとのアコースティックなサイドプロジェクトでの音楽性から、むしろフォーク/トラッド的な素養の強い人だという印象がずっとあったのです。それだけに、彼がここまでコッテリとしたテイストのプログレッシヴ・ロックをやるというのはまさに「瓢箪から駒」でした。リリース・インフォメーションでのデイヴのコメントによると、本作ではデイヴが若かりし頃に触れ、インスピレーションを与えてもらったプログレッシヴ・ロック作品からの興奮と爽快感をふんだんに描写したのだそうで、YESやGENTLE GIANT、MAHAVISHNU ORCHESTRA、CURVED AIR、HARFIELD AND THE NORTH、THE ENID、CLANNAD、Mike Oldfield、Keith Emerson、Allan Holdsworth、Alan Stivell、Ralph Vaughan-Williamsといった、彼の初期の音楽的ヒーローだったバンドやアーティストの名前が多数挙げられております。
デイヴは今回もアコースティック/エレクトリック・ギターや各種鍵盤楽器のみならず、マンドリン、ブズーキ、タンバリン、ダルブッカ、ビール・シェイカーなどの多彩な楽器を駆使。また、前作以上に多数のミュージシャンが名を連ねており、Joanne HoggやDave FitzgeraldなどのIONAメンバーは前作に引き続き参加しているほか、TRANSATLANTICのNeal MorseのバンドのベーシストであるRandy Georgeや、ツアーサポートドラマーの Collin Leijenaar、プログレッシヴ・メタル・バンド THRESHOLDのDamian Wilsonがヴォーカルでそれぞれ参加もしております。トラッド/フォーク方面のみならずロック方面から人脈を呼び寄せたのも、本作の方向性を表していると言えます。
元IONA(現NIGHTWISH)のTroy Donockleyによるイーリアン・パイプをフィーチャーした短めのインストゥルメンタル"Heavenfield"を経て、15分を越えるタイトル大曲"Celestial Fire"へ。デイヴの伸びやかなフュージョン・タッチのギターワークもさることながら、ニール・モーズ・バンドのリズム隊のタイトなプレイがやはりロック的なフィーリングをたっぷりと演出しており、ダミアン・ウィルソンの熱の入ったヴォーカルやストリングスとのダイナミックな相乗も聴かせてくれます。引き続きダミアンが歌い上げる"See What I See"は、バンドサウンドといいコーラスワークといい、天に昇るような心地の1曲。あっ、この感覚はどこかで…と思ったら、『こわれもの』のころのYESの、または『Fish out of Water』のころのクリス・スクワイアのテイストなんですね。エッセンスが滲み出ています。続く"The First Autumn"は、ヴァイオリンやチェロ、ピアノが興趣を添えるアコースティック曲。この曲を含めて五曲でメイン・ヴォーカルを務め、たおやかな声を聴かせるSally Minnearは、かのGENTLE GIANTのKelly Minnearの娘です。"For Such A Time As This"はキース・エマーソンかというようなキーボード・プログレ調の序盤から、マイク・オールドフィールドもかくやといった具合にシンフォニック・ロック/アコースティックのパートが巧みに入れ替わり展開される10分半の大曲。本作は10分越えの大曲が都合四曲も収められており、デイヴの並々ならぬ才気が若かりし頃の興奮と共に伝わってくるかのようです。再びIONAからの流れを汲む壮大なトラッド・ロック"Innocence Found"を挟み、三曲目となる大曲"Love Remains"へ。華麗なピアノ/キーボード・プレイが前面に押し出されているということで、まず想起させられるのは、Emerson,Lake&Palmerの"悪の教典"(の第二印象)です。YESにEL&Pと、かつての影響元とはいえ、彼がここまで元ネタを提示するというのはこれまでになかったので、まったく驚かされます。しかしここで素晴らしいと思うのは、往年のプログレ・フォロワーとしてのお遊び的な趣向ではなく、オマージュは捧げつつも完全に昇華して楽曲の一部として組み込んでいるということですね。むしろ、デイヴのがっちりとした音楽的な根幹すら垣間見せるほどに、純粋に曲として素晴らしいという。これはなかなか出来ないことですよ。続く大曲"In The Moment"でもそれが強く実感されます。雄大なイメージを喚起させ、また時に郷愁を誘いつつも、ハモンド・オルガン弾き倒しのソロパートも含め、タイトな演奏で突き進むダイナミックなスケールへと収束していくシンフォニック・ロック。"Heavenfield"のリプライズを経て、最後は再びイーリアン・パイプの旋律を響かせる"On The Edge Of Glory"で幕を閉じます。濃密な満足感もさることながら、「帰ってきた」という感慨をしみじみと湧き起こさせてくれる、素晴らしい終わり方です。
Dave Bainbridge - Celestial Fire
数曲試聴可能
http://www.iona.uk.com/