2013年6月2日日曜日

五十嵐洋『顔のない月 音楽集~月下楽人~』(2002)

顔のない月 音楽集~月下楽人~顔のない月 音楽集~月下楽人~
(2002/08/09)
ビデオ・サントラ、arca 他

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 2001年から2004年にかけてピンクパイナップルより全5巻(+α)でリリースされた『顔のない月』のOVA版のサウンドトラック。原作は2000年にオービットのROOTブランドより発表されたアダルトゲーム。アダルトゲーム原作の18禁OVA作品のサントラということで、作品のファン以外でこのサントラを耳にしたという人は多くないと思うのですが、実は本作、上質なコンテンポラリー・トラッド/フォークを聴かせる隠れた逸品なのです。まず、作編曲者はプロデューサー/スタジオ・ミュージシャン/コンポーザーの五十嵐洋氏。さねよしいさ子さんや国本武春氏の作品プロデュースでも知られる人ですね。そして、演奏者の殆どアイルランド出身のミュージシャンで固められているというところも大きなポイントであります。

 参加ミュージシャンの中には、ミュージカル"Lord of the Dance"の演奏隊やCeltic Womanのメンバーとして知られるMairead Nesbitt(fiddle)や、60年代から70年代末までCHIEFTAINSに在籍していたSean Potts(Uilleann Pipes/Low Whistle)。後にCLANNADのモイア・ブレナン・バンドに参加するCormac DeBarra(Irish Harp)。CLANNADやLUNASA、 Sharon ShannonやEimer Quinnなど、数多くのフォーク系バンド/アーティストの作品やツアーに参加しているGavin Ralston(g/b)といった名前も見られます。本場のミュージシャンの演奏と、五十嵐氏によるアイリッシュの流れを汲んだ楽曲は言わずもがなの素晴らしい仕上がりで、さらに女性ヴォーカリスト Brid Ni Churainの澄んだ歌声が神秘的なトーンを与えています。フィドルとロー・ホイッスルの切なげな響きが絡む"巫-kannagi-"、CHIEFTAINSやALTANを思わせる軽やかで躍動的な展開も聴ける"蓬莱-hourai-"、童謡「かごめかごめ」をアイリッシュ・テイストも交えてフォーキーにアレンジした"童歌-warabeuta-"、そしてメインフレーズが他曲でも度々登場する主題歌"Cruel Moon(歌 - arca)"など、望郷の念と寂寥の感を喚起させる風情のある佳曲ばかり。こう言ってしまってはなんですが、エロシーンそっちのけで聴き入ってしまうのではないかと正直思います。

VGMdb - 顔のない月 音楽集~月下楽人~
 ●顔のない月 - Wikipedia

【余談】
2002年にROOTブランドより発表された「ヤミと帽子と本の旅人」のイメージアルバム(特典CD)も素晴らしい内容です。造語によるコーラスも交えたドラマティックなトラッド/フォーク路線で、かなり聴き応えがあります。作曲は、Elements Gardenの母体となった音楽制作集団feelの上松範康氏らが担当されているとのこと。