「日出処の天子(ひいづるところのてんし)」 (1991/03/21) 不明 商品詳細を見る |
80年代に、漫画/アニメ/特撮作品の音楽をシンセサイザーでアレンジした企画アルバムが、日本コロムビアの「DIGITAL TRIP」と銘打たれたシリーズから多数リリースされていました。深町純、東海林修、小久保隆、淡海悟郎など、国内の著名なシンセサイザー奏者が、「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」「超時空要塞マクロス」「機動戦士ガンダム」「うる星やつら」「ダーティペア」「風の谷のナウシカ」などの楽曲をアレンジしていたのです。今回ご紹介する、山岸凉子の漫画作品『日出処の天子(ひいづるところのてんし)』のイメージ・アルバムも、そのシリーズに連なる作品であります。リリースは1982年。
作曲を担当されているのは、日本のシンセサイザー・ミュージック/プログレッシヴ・ロックの先駆け的存在といえるグループ「ファー・イースト・ファミリー・バンド」の元メンバーである伊藤 詳(あきら)氏。シンセサイザーを中心とした、瞑想的で幻想的な路線のインストゥルメンタルが繰り広げられております。伊藤氏にとっては音楽的な師でもあるジャーマン・エレクトロ・ミュージックの重鎮クラウス・シュルツェや、初期メンバーとしてシュルツェも在籍していたTANGERINE DREAMの作風にも通じるところもあります。中でも、「鎮花祭(はなしずめのまつり)」と「超能力者 [厩戸王子・毛人]」は、日本的な情緒もふんだんに織り込まれたメディテーショナル・ミュージックで、郷愁を誘う秀逸な仕上がりです。 また、要所でゲスト・ミュージシャンが迎えられています。その顔ぶれを見てみると、ファーラウト(ファー・イースト・ファミリー・バンドの前身)やTALIZMANの石川恵樹氏(b.g)、クリエイションの"チェピート竹内"こと竹内正彦氏(b)、ミッキー・カーチス&サムライやPYGなどを渡り歩いた原田裕臣氏(dr.per.wind-chime)、ザ・ハプニングス・フォーやフラワー・トラベリン・バンドの篠原信彦氏(p)、TALIZMANの木村昇氏(sax.flute)、スペース・サーカスの豊田貴志氏(vln)と、いずれもグループ・サウンズやニュー・ロック界隈で鳴らした面々。
歯切れの良いスラップ・ベースがアクセントを効かせている「未戸郎(みしらん)伝説」、サックスが大胆にフィーチャーされ、メロディアスなフレーズで引っ張る「弥勒仙花(みろくせんか)」、小鳥のさえずりの中でヴァイオリンやフルートが情感たっぷりなフレーズを奏でる「刀自古(とじこ)」、バンドサウンドで仕上げられた「無明と画龍点睛」「四天王」で、彼らのプレイを聴くことが出来ます。「四天王」は70年代初期のPINK FLOYDを多分に意識したと思われるのが少し微笑ましいです。例えるなら「One Of These Days(吹けよ風、呼べよ嵐)」をもっとソフトでムーディーにしたような印象というか。 本作は1991年に日本コロムビアの「イメージ・トリップ・シリーズ」からCDでリイシューされているのですが、それ以降は再発されておりません。そういうこともあって現在、市場では少々プレミアがついています。原作漫画のファンはもちろん、シンセサイザー・ミュージックやニュー・ロックを好むリスナーも押さえておきたい、静かなイメージを湛えた良作ゆえに、少々残念に思います。
●日出処の天子 - Wikipedia
●ファー・イースト・ファミリー・バンド - Wikipedia
【余談】 歴史漫画、少女漫画の金字塔的作品として色褪せない名作である『日出処の天子』。様々な陰謀も交えて繰り広げられるドロドロの愛憎劇は全巻一気読み不可避の面白さでありますが、同じく聖徳太子テーマの漫画作品では、『女犯坊』で知られる滝沢解/ふくしま政美のコンビが70年代後半に「週刊漫画サンデー」で連載していた『超劇画 聖徳太子』も超面白いのでオススメしておきます。無念の死を迎えた後に一族郎党を皆殺しにされ、恨み骨髄の聖徳太子(筋肉モリモリマッチョマンで性欲絶倫の巨漢)が怨霊として現世に黄泉返り、地獄の宦官どもや変態的クリーチャーを相手に大暴れ、果ては閻魔と釈迦の全面戦争における中心的存在となってゆく…という超破天荒肉弾系作品にして未完の怪作です。紙媒体では既に絶版となって久しいですが、今は電子書籍で読めます。読もう!超劇画 聖徳太子!(コミックビームの宣伝風トーンで) http://www.ebookjapan.jp/ebj/title/4719.html
聖徳太子―超劇画 (QJマンガ選書 (16)) (1999/01) 滝沢 解、ふくしま 政美 他 商品詳細を見る |