オーストラリアのパフォーマー/ミュージシャン iOTAことショーン・ヘイプ。マオリ族の父とイギリス人の母の血を引く彼は、17歳のころに結成したハード・ロック・バンド LOOSE GOOSEの一員としてライヴ活動に明け暮れ、26歳のころにiOTAに改名。新たなアイデンティティを確立するための活動を開始しました。大きな転機となったのは2005年。ミュージカル版「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のオーストラリア興行にヘドウィグ役で抜擢され、舞台デビューを飾ります。同作でヘルプマン・アワード(オーストラリアの演劇賞)のミュージカル部門主演男優賞を受賞。その後、2008年に「ロッキー・ホラー・ショー」のオーストラリア興行でフランクン・フルター博士役を演じ、2010年には、デヴィッド・ボウイ トリビュートコンサート「Ziggy - The Songs of David Bowie」や、ヘルプマン・アワード三部門受賞作の「Smoke and Mirrors」の制作/キャストに参加。2012年には自作のロック・ミュージカル「Young, Hard and Solo」をシドニーのオペラハウスで上演しています。
ソロミュージシャンとしての活動は1998年ごろにまでさかのぼり、1999年に1stアルバム『The Hip Bone Connection』でデビュー後、2006年までの数年間で10枚以上のシングル/EPと、四枚のアルバム(うち、一枚はライヴ盤)をリリースしています。さらにその合間には、オーストラリアの大編成ジャズ/ソウル・バンド Junglehammerとのコラボレーションも行っていました。パフォーマーや舞台俳優としての活動が忙しくなってきたこともあり、2007年以降はアルバムのリリースがなかったのですが、マッドマックスFRへの出演の反響はかなり大きかったようで、2015年には8曲入りのEPを、翌年3月には新作ソロアルバムを立て続けにリリースし、バックバンド「Poo Poo Da Blue」とともにレコ発ツアーも行いました。約10年ぶり、通算五作目となるアルバムが本作『Wolf Number 9』。デビュー時から一貫して展開している、醒めた空気をまとったオルタナティヴ・ロック/ポップスサウンドは、ブランクがあってもやはりブレておりません。Junglehammerのギタリスト/コンポーザーであるマーティン・ヘイリーとの共同プロデュースのもと、執拗なリフレインを伴ったダンサブルな表題曲を皮切りに、ストレンジなサウンドを展開しています。日本のiTunes storeからもダウンロード購入できます。 https://itunes.apple.com/jp/album/wolf-number-9/id1082271509
ジャンルを三つ四つ軽々と飛び越えてしまうアーティストやバンドは昨今珍しくないですが、鍵盤奏者/コンポーザーのデイヴ・モアクロフトを中心とし、テナーサックス、トロンボーン奏者を擁するイギリスの五人組ジャズ・ロック・バンド ワールドサービス・プロジェクト (WSP)もそのなかの一つといえます。00年代末期に結成され、2010年に4曲入りEPと、フルアルバム『Relentless』でデビュー。コンテンポラリー・ジャズにとどまらず、へヴィネスとグルーヴも存分に追求した作風は、2013年にリリースされた2ndアルバム『Fire In A Pet Shop』からさらに顕著になり、その攻めのミクスチャーサウンドは、ストラヴィンスキー、チャールズ・ミンガス、フランク・ザッパ、ハリソン・バートウィッスル、WEATHER REPORT、LOOSE TUBES(ジャンゴ・ベイツ)、MESHUGGAHなどが引き合いに出され、「Punk Jazz」「Post-Prog Funk」と評されることが多くなりました。また、世界各国で武者修行のごとく精力的なライヴを行うことでメキメキと実力を蓄えた彼らは、今年9月に初来日も果たし、東京JAZZ 2016やJAZZ ARTせんがわへ参加したほか、単独来日公演も行っています。
今年、イギリスのRare Noise Recordsからリリースされたアルバムが本作『For King and Country』。同レーベルは辣腕プレイヤーのボビー・プレヴァイトやデヴィッド・フュージンスキー、メルツバウ/灰野敬二/バラズ・パンディのセッショントリオや、イタリアのアヴァン・ドゥーム・メタル・バンド OBAKE、プログレッシヴ・ジャズ・バンド MUMPBEAKなどのカタログも抱えるユニークなカラーのレーベルであり、ここにWSPが名を連ねるのもさもありなんといったところ。威勢のいいヴォーカル/コーラスで大胆に乗り込んでくる"Flick The Beanstalk"、ヘヴィなグルーヴの一体感、叙情的なブラスセクション、軽やかなリズム隊が巧みにスイッチングされる"Fuming Dusk"を筆頭に、ホーンがたゆたい、徐々にダイナミックな表情をみせていく人力ドラムンベース・ジャズ"Murano Faro"、バルカン・トラッド+メシュガーといった感のある"Son Of Haugesund"、激しいストップ&ゴーを伴いながら疾駆する"Go Down Ho'Ses"など、度重なるライヴで鍛え上げてきたものがそのまま濃厚に反映されたような楽曲づくし。狂気と歓喜が一体になった「どうかしている」サウンドがまことに楽しいです。こりゃライヴでより一層ブチ上がることは必定でしょう。フィンランドのALAMAAILMAN VASARATやアルメニアのティグラン・ハマシアンと共鳴する部分も多く、それらを好む向きにはなおオススメです。
現代ポーランドを代表するプログレッシヴ・メタル・バンド リヴァーサイド。今年二月にギタリストのピオトル・グルジンスキが急逝し、大きなターニングポイントに立たされましたが、バンドはその歩みを止めることなく、アルバムのリリースを表明。そして九月には、後任ギタリストを立てず、残る三人でRIVERSIDEの活動を継続していくことを表明しました。新曲"Where the River Flows" " Shine" "Sleepwalkers" "Eye Of The Soundscape"と、過去作のボーナスディスクの楽曲をCD二枚組にコンパイルした通算七作目となる本作『Eye Of The Soundscape』は、亡きグルジンスキへの鎮魂の意を込めたアルバムであり、過去作を補完するアルバムであり、新たな旅路を歩むバンドの決意表明であるという、多くの意味合いをふくんだ一枚です。10分を越える"Where the River Flows"は、まさに本作を象徴する力強いシンセサイザー&ギター・インストゥルメンタル。翳りと憂いを帯びたエレクトロ/アンビエントサウンドは、ヴォーカルのマリウス・デューダの別働ソロプロジェクトであるLUNATIC SOULでも内包していますが、それをRIVERSIDEとしてさらにもう一歩推し進めています。このバンド感を伴ったメディテーショナルなサウンドは、近年のTANGERINE DREAMにも通じるものがあります(タンジェリンドリームも中心人物のエドガー・フローゼを亡くしていますが、バンドの継続を表明しています)。ギター、シンセが徐々にアンサンブルから退いていき、マリウスのハミングが響き渡る終盤の美しさは筆舌に尽くしがたい。また、グルジンスキの滋味の滲み出るかのようなギターワークは、ウィスパーボイスと無機質な反復が特徴の"Sleepwalkers"、透き通った情景を喚起させる"Eye of the Soundscape"にも含まれています。マリウスとミハウのデュオでレコーディングされた"Shine"は、スペイシーなシンセと肉感のあるバンドサウンドの対比が静かなドラマを生む秀逸な一曲です。
ニューヨークのプログレチップチューンピアニスト Shnabubulaことサミュエル・アッシャー・ヴァイスの新作EP。2012年にリリースされたインストEP『Cybersoccer 2099』の続編にして音源グレードアップ版。舞台はついに遠未来へ。前作のオープニングのリメイク"Let Us Yeah to the Moment of Exact Goal !!"を皮切りに、全5曲26分収録。ダウンロードは投げ銭。また、同作の前日には『2099』の全曲+αをピアノ演奏した「VGMCAST」(氏が定期的に行っているゲーム音楽カヴァー ライヴストリーミング企画)の特別版もリリースされています。名作SFCソフトのサウンドフォントとオマージュをたっぷりと込めたオリジナル曲集『SNESology』などで見せてきた、往年のゲームサウンドの「クセ」とプログレ/フュージョンの興趣を巧みに融合させてスリルとカタルシスを連続させていく氏の類まれなる手腕が炸裂しています。
古くは「超獣機神ダンクーガ」の藤原忍や、「機動戦士ガンダムZZ」のジュドー・アーシタ、近年では「ワンピース」のフランキー役、そして「やってやるぜ!」のフレーズで知られる声優、矢尾一樹。氏は1986年にアルバム『YAO』でソロデビューし、90年代後半にかけて数枚のソロアルバムを発表されていましたが、今回ご紹介する『Destiny28』は1988年に発表された2ndアルバム。前作『YAO』は小路隆、都志見隆、小柴大造、中村裕介、西木栄二氏ら作曲陣の提供による歌謡曲/AOR路線でしたが、そのイメージをさらにハードに寄せてきたのが本作。B面では小路氏、中村氏が引き続きクレバーでウェットなニュアンスに富んだ楽曲を提供(編曲:岩本正樹)する一方、A面では難波弘之氏が全面的に編曲を手がけ、氏が率いるSENCE OF WONDERの面々と周辺人脈が参加しています。A面冒頭の"夜明けのバッドガイ" "BE WITH YOU ―僕はここにいるよ―"はダンクーガの劇伴を手がけた池毅氏の提供曲であり、前者はボニー・タイラー"Holding Out for a Hero"風ロックチューン、後者は中西俊博氏によるストリングスアレンジも効いた、珠玉のスローバラードです。"孤独を武器に ―ロックハート―"はヘヴィ・メタル・バンド MARINOの大谷レイブン氏が作曲を手がけたジャパメタ歌謡。タメの効いた曲調に、大谷氏の泣きのギターも冴えわたります。難波氏と小室和之氏の共作曲であり、SENSE OF WONDER名義で編曲された"唇からナイフ"(作詞:森雪之丞)、難波氏作編曲による"眠り姫へのキッス"はともにタイトなハードポップチューン。
A面曲のほとんどの作詞を手がけられた園田英樹氏といえば、劇場版ポケットモンスターに長きにわたって携わられている脚本・演出家(元.天井桟敷の森忠明氏の弟子であり、寺山修司の孫弟子にもあたります)。当時は「マシンロボ クロノスの大逆襲」のシリーズ構成や、OVA「超獣機神ダンクーガ GOD BLESS DANCOUGA」「魔境外伝レディウス」(主演キャストに矢尾氏/劇伴に難波弘之氏が参加)の脚本を担当されていました。また、園田氏が『Destiny28』の作詞提供がキッカケとなった浮かんだストーリーは小説化され、同年12月に『眠り姫からの手紙(ラブレター) 夢探偵・矢尾一気』のタイトルで富士見ファンタジア文庫より刊行されるという、ちょっとしたメディアミックスもありました。同作は矢尾氏をモデルにしたキャラクターの活躍を描いた「ポエティカル・ハードボイルド・ファンタジック・アクション・ラブコメディ・芸能界物」(あとがきコメントより)であり、作中にはアルバム曲の詞が引用されてもいます。