2014年12月30日火曜日

80年代ポップカルチャーにまみれた、容量過多のエンタメオタク小説。 ― アーネスト・クライン『ゲームウォーズ』(SB文庫 ‐ 2014)

ゲームウォーズ(上) (SB文庫)ゲームウォーズ(上) (SB文庫)
(2014/05/19)
アーネスト・クライン

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ソフトバンク文庫は個人的にあまり手に取ることがない上に、この邦題で半ばスルーしかけていたのですが(原題は“Ready Player One”)、いざ読んでみたらこれがめっぽう面白かった。世界がエネルギー危機に瀕しているために、人々はこぞって〈OASIS〉というコンピュータ・ネットワークに現実逃避するようになった西暦2041年の近未来社会を舞台にした小説です。その〈OASIS〉の開発・運営者であるたいへんな才人にして奇人であるジェームズ・ハリデーなる御仁が、ある日亡くなってしまうわけだけれども、遺言がわりに〈OASIS〉の空間にイースターエッグ(いわゆるジョーク的な“隠し要素”にあたるものです)を隠したので、それを真っ先に見つけたら億万長者にしちゃうよ~、なんてビデオメッセージを残したもんだから、あまねく〈OASIS〉利用者がこの一攫千金のチャンスにこぞって参入していくというお話。いわゆる軽いSFなエンターテインメント小説で、ストーリーは本当に単純明快な主人公の成長物語というか、ボーイ・ミーツ・ガールといったオーソドックスなシロモノです。プロットだけならサクっと読めちゃう。この作品のなにがすごいのかというと、ストーリーの全編に渡って埋め尽くしている80年代のポップカルチャーネタ、そしてそれらについてのギークな語り口なのであります。あまりにも凄まじ過ぎてえらいことになってるので、この作者はアホかと思いました(いい意味で)。

“ビデオメッセージは、一分の隙もなく構成された短編映画といった趣だった。タイトルは『アノラックの招待状』。変人で有名だったハリデーは、生涯を通じて、自分が青春を過ごした一九八〇年代に強いこだわりを持っていた。『アノラックの招待状』には八〇年代ポップカルチャーの遠回しな引用がぎっしり詰めこまれているが、初めて見たときはほとんど意味不明だった。”(『ゲームウォーズ(上)』P7)


作中で言及されている80年代のポップカルチャーは映画、小説、アニメ、TRPG、音楽…と多岐にわたっており、ジェームズ・ハリデーがポップカルチャーの精通者だったという設定のもと、上記の引用さながらに読者の理解なんて知ったことかと次から次へと繰り出されてくるのです。そしてそれがハリデーが〈OASIS〉内部に設定した関門を突破するキーにもなっており、読み手はハリデーをリスペクトしていた主人公ウェイドのようにネタのことごとくが理解できればよりいっそうエキサイトできるというつくりになっております。とはいえ、わからなくてもエンターテインメント小説の体裁は崩れていないので、楽しめます(すべてのネタを拾いきれるのはそれこそ「ハリデーそのものである」作者だけではないかと)。日本版スパイダーマンの巨大ロボであるレオパルドンがミネルバXだの機龍だのライディーンだのとドンパチを繰り広げたりなんかもするわけで、己の願望をここまでモロに出しちゃうその姿勢には天晴れとしか言いようがありません。ロック・ミュージック系ネタもかなりあり、

“大音量で鳴っている音楽がトンネルの奥から漏れ聞こえてきた。デフ・レパード、『シュガー・オン・ミー』。収録アルバムは『ヒステリア』(エピック・レコード、一九八七年)―”(『ゲームウォーズ(下)』P37)


というふうに出てくるわけですが、ストーリーを読む上では「(エピック・レコード、一九八七年)」なんて情報は別にいらないわけです。でも入れちゃうという。豆知識的に入れたくてしょうがないんだという。その主人公(ひいては作者)の語りたがりな感じが実にイイんですよね。個人的にはカナダのプログレッシヴ・ハード・ロック・バンド RUSHの代表作として知られるアルバム『2112』が作中でそこそこ大ネタで出てきたときは思わず笑ってしまいました。主人公がこのアルバムのコンセプトストーリー(創作行為や自己表現が法律で禁じられた西暦二一一二年に生きる、名もない反逆者が主人公の話)を丁寧に解説してるんですよ。『ゲームウォーズ』の源流的な含みというのも作者が暗に示したかったのかもしれませんが、それ以上に読み手に対しての「俺これ好きなんだよ。これイイよね!」的な姿勢が浮かぶようで何だか微笑ましくなってしまいましたよ。




ラッキー・ワンダー・ボーイ (ハヤカワ文庫 NV)ラッキー・ワンダー・ボーイ (ハヤカワ文庫 NV)
(2005/09/09)
D・B・ワイス

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『ゲームウォーズ』を読んでいて、このテイストは個人的に偏愛してやまないD.B.ワイスのバカゲー幻想小説『ラッキー・ワンダー・ボーイ』に似ているなと感じるところがありました。こちらもギークっぷりが甚だしい小説なのです。凌遅刑を描写した残酷小説にインスパイアされた伝説のゲームの幻のステージを求める主人公、各所で幅を利かせるレトロゲーの薀蓄じみた解説&考察の数々、現実と虚構の境が溶け合いグジャグジャになる展開、著者のゲームに対する情熱と狂気が主人公を通してオーバーフロー気味にドライヴする、最高にB級な味わいの奇作ゲームオタク小説で、このイビツな感じがすごくイイんですよ(レトロゲームを愛する人にはぜひとも本書はオススメです)。『ゲームウォーズ』にはそこまでのヤバさはないですが、「俺ァ好きで好きでたまらんのじゃ!」というアツいパトスは双方に痛いほどに共通しています。ちなみにワイスは『ラッキー・ワンダー・ボーイ』を上梓してしばらく後に、かの「ゲーム・オブ・スローンズ」のプロデューサーにまで出世するのですが、『ゲームウォーズ』の著者であるアーネスト・クラインもそういうタイプの人物になのかなあと。おりしも、『ゲームウォーズ』は映画化の話が挙がっているそうなので、今後の展開に期待したいところがあるわけです。クリストファー・ノーランが監督やるかもというウワサもありますが、誰が監督になったとしても。原作通りレオパルドンを出して「マーベラー!チェンジ・レオパルドン!」できるかどうかに映画化の成否がかかっているんじゃないでしょうか。どれだけ許可を取れるのかが見ものです。

ゲームウォーズ(下) (SB文庫)ゲームウォーズ(下) (SB文庫)
(2014/05/19)
アーネスト・クライン

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