2014年12月31日水曜日

2014年を振り返る~印象に残った二十冊

新刊本は買ってすぐに読まないと数ヶ月先まで積本になってしまうということを改めて実感した一年でした。来年度は読み漏らしをもう少し減らせればよいなと思います。まる。


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音楽への憎しみ音楽への憎しみ
(1997/08)
パスカル キニャール

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“「音楽への憎しみ」という表現は、誰よりも音楽を愛した者にさえ、それがどれだけ憎むべき対象になりうるかということを言わんとしている。”刺激的な示唆と、呪いのような余韻を残す一冊。音楽の根源にある服従と蹂躙、暴力と殺戮の記法を全十章の断章形式で暴き出してゆく。特に「第二考」「第七考」「第九考」には瞠目させられた次第。音楽に対して悪しきイメージは抱きにくい。しかし「音楽は素晴らしいものだ」という共通認識に立ち、他者にも無意識的にそれを強いているからこそ生まれる軋轢や悲しみ、絶望もあるのではないかと思うのです。改めて言います、これは呪いの書です。



コルトM1851残月コルトM1851残月
(2013/11/21)
月村 了衛

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『機龍警察 未亡旅団』や『土漠の花も』もよかったですが、それでも今年の初めに手に取った本作の余韻が自分のなかではめっぽう強かったです。「―憎しみを込めて撃て。憎しみのない弾など当たりはしない。」 幕末を舞台に、裏稼業に生きるアウトロー〈残月の郎次〉が、組織の狡猾な連中を相手に、手にしたコルトで一人また一人と撃ち斃し、屍の山を築き上げる因業と硝煙の物語。時代小説の型に、西部劇的なウィットとガンアクションを流し込み、さらにはノワールの暗く硬質な苦味も走らせた贅沢なエンターテインメント。江戸の闇をえぐり出すストイックな文体、タイトルと表紙の無骨さもたまらない傑作。脳裏に刻み付けられる場面や一節も多く、郎次と〈灰〉とのやりとりが素晴らしかった。大藪春彦賞の候補にも挙がったそうなので、ぜひとも獲っていただきたいですね。



ゲームウォーズ(上) (SB文庫)ゲームウォーズ(上) (SB文庫)
(2014/05/19)
アーネスト・クライン

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この作品のギークな情熱にはすっかりアテられてしまった。ストーリーは本当に単純明快でオーソドックスなのだけど、その周辺を埋め尽くしている70~80年代のポップカルチャーネタ、それらについてのギークな語り口があまりにも凄まじ過ぎてえらいことになってるので、ネタのことごとくが理解できてエキサイトできればなおしめたもの。映画化の話が挙がっているそうだし。クリストファー・ノーランが監督やるかもというウワサもありますが、誰が監督になったとしても。原作通りレオパルドンを出して「マーベラー!チェンジ・レオパルドン!」できるかどうかに映画化の成否がかかっていると言っても過言ではないなと。




エンニオ・モリコーネ、自身を語るエンニオ・モリコーネ、自身を語る
(2013/08/27)
エンニオ・モリコーネ、アントニオ・モンダ 他

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編者のアントニオ・モンダ氏が2009年から2010年の間に断続的に行ったエンニオ・モリコーネへのインタビューをまとめた一冊。若かりし頃の思い出や監督との交友などの裏話、自身の音楽的な試みや、趣味・思想などが語られており、彼のバックグラウンドを知る格好の内容。「特に気に入った演奏はありますか?」とインタビュアーが質問した際、モリコーネがジョン・ゾーンを賞賛するくだりがあるのですが、驚くと同時になるほどなという納得がありました。



SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
(2014/06/06)
チャールズ・ユウ

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なんて円城塔的な作品なんだと思いましたが、逆に円城塔が本作からいくらかのインスピレーションを受けていたという。そして円城塔が翻訳を手がけた邦訳版が出ているという。なんでしょうねえ、このドンピシャリ感は。ふたりの性向があまりにも相似しているので、もしかしてふたりはパラレルワールドの住人か何かなんでしょうか。そんなことをマジで考えてしまうほどにハマっておりました。本編のストーリー自体はタイムマシンをストーリーの核にした時間SFモノと言ってしまえばそれまでなんですが、本作の魅力はガジェットではなくて主人公のどこか醒めているというかふわっとした語り口。そしてSFであり家族小説であるというところなんですね。



ボラード病ボラード病
(2014/06/11)
吉村 萬壱

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これまでの吉村作品で多々見受けられたグシャドロなトーンは今回ずいぶんと抑制されていて、淡々としたディストピアものなのかと思いきやそうではなかった。人間の厭な面も浮かび上がらせる随所の描写は生理的にもツーンとくるし、最後のあの騙りの部分まで読むとズンとした感覚に否応なく包まれてしまうので、やはりまごうことなき吉村作品だった。読んでいて「あの日」の情景が何度も脳裏によぎってくるのでどうしても切り離せないのだけど、この空気感の曖昧さというか澱みをうまく言語化しているのは凄味ではないかと思うのです。



フィルスフィルス
(2013/11/02)
アーヴィン・ウェルシュ

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クソッタレお下劣罵詈雑言インキンサナダムシ警察小説。かのドーヴァー警部やフロスト警部より極悪なドグサレ警官ブルース・ロバートソンの傍若無人な言動の数々ときたら、もうたまらんもんがあります。匂いたつほどにクソッタレぶりを濃厚に伝えてくれる、渡辺佐智江さんの翻訳も素晴らしい。とにかく破天荒極まりなくお下劣ユーモアまみれなのだけれども、サナダムシのモノローグがどんどん侵食しはじめ、ブルースの知られざる000000私は生きている0000000000私は弱い0000000食べなくては00000000過去を語り始める0000000私は食べる000000食べて食べて0000食べて食べて000終盤の一抹の000食べて食べて00000000大きくたくましく000000000寂しさに000000000000ウワッと意表を突かれる0000食べて食べて000000



モンド9 (モンドノーヴェ)モンド9 (モンドノーヴェ)
(2014/02/22)
ダリオ・トナーニ

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イタリア産スチームパンク。土砂と毒素と金属と錆臭さにまみれた荒廃した世界で血生臭い超巨大駆動ストラクチャーが人々を無慈悲に巻き込みながらひたすら蠢動するステキ連作短篇集であり、個人的には海外SFで今年一番の当たりでした。エグ味のある面白さ。ぐいぐい読んだ。後書きで「デューン 砂の惑星」や「キルドーザー」が引き合いに出されていてなるほどと思うのだけど、個人的には巨大船ロブレドに「今宵、銀河を杯にして」のマヘル・シャラル・ハシ・バズのイメージがダブった。有志のスチームパンク楽団の手によってイメージサウンドトラックも出ており、そちらもオススメです。




月の部屋で会いましょう (創元海外SF叢書)月の部屋で会いましょう (創元海外SF叢書)
(2014/07/14)
レイ・ヴクサヴィッチ

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奇想小説オムニバス「変愛小説集」で目にしたときから一目ぼれしてしまった作家の、とびっきりの奇想短篇集。とびっきり過ぎて理解の埒外に及ぶことも多々あるわけだけれども、それもまた醍醐味なわけです。



演奏しない軽音部と4枚のCD (ハヤカワ文庫 JA タ 13-1)演奏しない軽音部と4枚のCD (ハヤカワ文庫 JA タ 13-1)
(2014/03/20)
高木 敦史

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音楽アルバムを絡めた学園ミステリ連作短篇集。ライトなミステリとして読めるのはもちろん、FLAMING LIPS、MAGMA、LOU REED、DOORSのディスクガイドといった趣にもなっているのがまた心ニクい。KING CRIMSONやPINK FLOYD、EL&Pは前例(法月倫太郎、有栖川有栖、貴志祐介)がありますが、MAGMAをネタにしたミステリ作品は初ではないかしらんと。時にミステリパート以上に音楽ネタの方に力が入っているように思えるところもチラホラあり、楽器は演奏しないがディープな「聴き専」部員であるメインキャラクターの塔山くんの音楽趣味が相当にディープなこじらせ方をしているのも相まって、度々ニヤリとさせられるものがありました。音楽好きに一読を薦めたくなる一冊。



狂人白書 ザ・クレイジーSKB&殺害塩化ビニール伝説 (Loft BOOKS)狂人白書 ザ・クレイジーSKB&殺害塩化ビニール伝説 (Loft BOOKS)
(2014/10/27)
ザ・クレイジーSKB

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殺害塩化ビニールのこれまでの狂った歩みと膨大なるディスコグラフィ、そして“社長”ことクレイジーSKB氏のクレイジーな悪業偉業の数々がページの隅々まで(ノドの部分にまで)濃厚にギッチリと収録された決定的にして致命的一冊。面白エピソードも満載。マキマキマキマキマキマキ。下記インタビュー記事も面白かったDEATH。

「異端のレーベル主宰者 ザ・クレイジーSKBが明かす悪行伝説「ブッ壊すだけだと面白くないんで…」」 - Real Sound
http://realsound.jp/2014/10/post-1508_2.html

“「毒殺テロリスト」というバンドがデモテープを送ってきたんですよ。住所を書かずに後ろに「毒殺テロリスト」って書いてて、表に「殺害塩化ビニール様へ」。それが郵政省で引っかかって。で、「爆発物処理班立会いのもと開封させていただいてもよろしいでしょうか」という連絡がきて…”“―でっかいプラスチックボールの中にカメムシを大量に詰め込んでそれ爆破するっていう。そしてセコムが頼んでもないのに駆けつけるという。―カメムシを爆破する上で大っ量の火薬を使ったんですよ。”



ヴァリス〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)ヴァリス〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)
(2014/05/09)
フィリップ・K・ディック

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『ヴァリス』はこれまでいったい何度挑戦し続けてきたのかおぼえていないのだけど、毎回どこかで歯が立たなります。でも、不思議とまた読み返したくなってしまうんだよなあ。神学的側面にフォーカスして物々しいオーラを放っていた大瀧啓裕氏の旧訳にはずいぶんと読み親しんできましたが、今回の山形浩生氏のポップな訳では人物同士のやりとりがずいぶんとわかりやすくなりました。わかりやすくなったのはどうなのかという声もありそうですが、わかりやすくなったからといって作品自体のムチャクチャさは一切減じておりません。むしろ新しい発見があり、思わずちょっと嬉しくなりました。ピンク色の光線はアナタにも変わらずまばゆく降り注ぎます。そして今日もワタシはピンク色の光線を浴びに赴くのです。




オーブランの少女 (ミステリ・フロンティア)オーブランの少女 (ミステリ・フロンティア)
(2013/10/22)
深緑 野分

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これは凄いなあと、凝らされた趣向に思わず唸ってしまいました。いずれも少女を軸にした短編ミステリなのですが、各エピソードのバラエティの豊かさもさることながら、プロットも素晴らしい。知られざる過去がだんだんと明らかになっていき、少女たちの運命が急転していく表題作ももちろん好きなのですが、とびきり好きなのが書き下ろしの「氷の皇国」。冷徹で残忍な皇帝が治める、決して安泰とはいえない酷寒の異国を舞台にしたファンタジー・ミステリ。交錯する各人の思惑と陰謀劇の行く末に、とてもとても惹きこまれてしまった。




奇譚を売る店奇譚を売る店
(2013/07/18)
芦辺 拓

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毎回「―また買ってしまった。」という主人公のつぶやきで始まる連作短編集。「本に憑かれた人」の姿を悲喜こもごもを絡めてリアリスティックに書いたのは梶山季之氏の名作『せどり男爵数奇譚』ですが、本書はその業の深いテーマを怪奇と幻想を巧みに絡めて料理した作品と言えます。全六編からなり、最後の表題作では先の五編の出来事の恐るべき真実とともに総括する一方で、読み手にまでおぞましい怪奇をブン投げてくるという趣向。オレンジ色の装丁に惹かれて手にとった瞬間から、自分も本という魔物に魅入られていたのかもしれません。




厚岸のおかず厚岸のおかず
(2010/11/11)
向井 秀徳

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やつはShutoku Mukai、これぞShutoku Mukaiって感じの掌編集。というか、向井おじさんのエッセンス、もとい煮汁。とってもよい塩梅。どこまでもストレンジでしかないのだけれども、その一方でしごく晴れやかな気持ちになりました。TOSATSUマンが情交を晒すカップルをTOSATSUする話や、スーパーで延々流れるBGMの作曲者はシド・バレットであり、そのことを知るのはただひとり、俺だけなのだ― って話がとってもよいです。クレイジー・ダイアモンドの魂はスーパーマーケットで生き続けるのです。



オール・アバウト・チェンバー・ロック&アヴァンギャルド・ミュ―ジック Rock In Oppositionとその周辺オール・アバウト・チェンバー・ロック
&アヴァンギャルド・ミュ―ジック
Rock In Oppositionとその周辺

(2014/11)
マーキー・インコーポレイティド編集部

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今年、“Rock in Opposition”フェスティバルが日本でも開催されたのはとてもめでたい出来事でした。アヴァンギャルド/チェンバー・ロック・バンドのインタビューとディスクガイドを集成したこの一冊はまさに会心の一撃。永久保存版の一級資料であります。



びっくりモンスター大図鑑―知識の泉へようこそ!ライアーランド王国公認びっくりモンスター大図鑑―知識の泉へようこそ!ライアーランド王国公認
(2010/10)
久 正人

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ライアーランド王国に存在する動物園には、世界各国から集められた驚きの動物たちが数多くひしめいていて……。本書は園内のモンスターの生態やうんちくをまとめたガイドブック。児童書とあなどるなかれ。そこにはグレイトな妄想の数々が詰まっております。ホルヘ・ルイス・ボルヘス&マルガリータ・ゲレロの「幻獣辞典」も真っ青の内容で抜群に面白い。随所に効いたハッタリも楽しいので、子供の時分に読みたかったと、心の底から思った次第であります。



解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)
(2013/08/06)
ウェンディ・ムーア

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文庫化されたのは昨年なのだけど、文庫版を読んだのは今年。皆川博子先生の『開かせていただき光栄です』の元ネタのひとつ。めっぽう面白い。近代の外科の発展に多大なる寄与したジョン・ハンター氏の功績だけでなく、ストレンジな面や各方面との確執にもスポットを当てて語られていて、やはり評伝というのはこうでなくっちゃ面白くないよなあ! と思いました。



ファースト・サークル (ハヤカワ文庫JA)ファースト・サークル (ハヤカワ文庫JA)
(2013/12/19)
坂本 壱平

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パット・メセニー・グループの"First Circle"を聴きながら一読。ある日突然「頭」と「胴体」に分かれてしまった“私”。少年の手のひらに空いた謎の穴を通して不思議な風景を垣間見る精神科医の満ちる。八分の十一拍子で打ち鳴らされる謎の手拍子に導かれて、二つの世界の物語とシュールな光景が奇数章と偶数章で交互に展開されてゆく幻想小説。往年のニューウェイヴSFのテイストを今風にアレンジした印象で、ストーリー自体が曖昧で起伏が少なく、また淡々と展開されることもあって入り込むのにかなり苦労しますが、夢とも現実ともつかないこの不思議に乾いた味は個人的に惹かれるものがありました。




ヴードゥー大全―アフロ民俗の世界ヴードゥー大全―アフロ民俗の世界
(2006/04)
檀原 照和

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過度に血生臭いという先入観を持たれがちなヴードゥーのアレコレが丁寧に解説されていて、厚さに見合う刺激的な内容だった。「アナタと同じ名前の神様がヴードゥーにいる」という一言で本一冊書き上げた著者の壇原氏には頭が下がります。