2018/01/23
トータルでアーティスティックな台湾のエレクトロ・ポップ/トリップホップ バンド 林瑪黛(Ma-te Lin)
ひょんなことから林瑪黛(Ma-te Lin)という台湾のエレクトロ・ポップ/トリップホップバンドをつい最近知ったのだけども、その甘く儚いたたずまいにたちまち魅了されてしまった。黃少雍/Shao Yong Huang(synthesizer, bass, produce)と林意倩/Asha a.k.a. Yi Chian Lin(vocal)の2人を中心として2012年に結成。メンバーにはほかにVJ担当の施昭羽/Mina Shihがおり、2013年に林易祺/Yi-Chi Lin(guitar)が加入して4人組となり、同年6月に3曲入りEP「古老的記號」でデビューを果たします。いずれのメンバーも元々はロック、ポップ、フォーク系バンドで活動しており、本格的にエレクトロ・ポップ路線のサウンドを手がけるようになったのは林瑪黛を結成してからとのこと。暖かに包み込むようなヴォーカル/コーラスワークで魅せる林意倩による楽曲のテーマは、たとえば象の虐待事件や、原発事故後の野生動物たちへの影響、犬や猫の殺処分など、人間と動物をめぐる多くのストーリーに基づいており、人間と動物、自然との関係をつねに見つめています。また、ミキシングはDepeche ModeやGoldfrapp、ニック・ケイヴやモービーなどのアルバムを手がけてきたケヴィン・ポールが担当しており、氏との関係は以降の作品でも続きます。
2015年6月には1stフルアルバム『房間裡的動物』、2016年6月には2ndEP「魔鞋女孩」をそれぞれリリース。現行最新作は、2017年12月に同時リリースされた2ndフルアルバム『嗨!又相遇了』と、カフェスペースをテーマにした企画ミニアルバム『Her café』。後作はゆったりとしたサウンドスケープ路線で、都市の片隅にひそむ動物たちに思いを馳せています。サウンドもさることながらMVも軒並みクオリティが高く、トータルでアーティスティックに魅せるバンドの強いこだわりを感じさせます。「馬戲團」(『房間裡的動物』収録曲)や、「又相遇了」(『嗨!又相遇了』収録曲)ではアニメーターチームとのコラボレーションを行っているほか、2017年8月にシングルリリースされた「Please Come Home」では短編映像作品とのコラボレーションを行っていることも特筆すべきでしょう。また、淡い色合いで幻想的な鮮やかさに富んだアルバムジャケットやMVアートを手がけているデザイナー/イラストレーターの小油画(Little Oil)とはバンド結成以前からの知り合いとのこと。彼女の作品も実に素晴らしい。
http://littleoil.tumblr.com/
■Interview de Ma-te-Lin 林瑪黛
(from JOURNEY TO TAIWAN|2014.09.21)
http://matelin.com/
https://www.facebook.com/MateLinmusic/
https://ma-te-lin.bandcamp.com/
2017/11/21
Simon Stålenhag『The Electric State』(2017)
http://www.simonstalenhag.se/
巨大構造物や機械、クリーチャーのたたずむ情景を描き、日常をSF的に侵食する作風で、近年とみに注目を浴びている、1984年生まれのスウェーデン・ストックホルム出身のデジタルアーティスト、Simon Stålenhag(シモン・ストーレンハーグ)氏。幼少のころから風景や動物の絵を描き、バードウォッチングやSF映画に親しみ、80年代~90年代のスウェーデン郊外の風景や十数年以上にわたって撮りため続けている4万枚以上の写真からインスピレーションを育んできたという氏がインターネット上で作品を発表し始めたのは2013年のこと。ほどなくしてVergeやWIRED、The Guardianなどのメディアからの注目と絶賛を続々と受け、2014年9月にスウェーデンのブックフェアにおいて初の画集『Ur Varselklotet』を販売します。そして翌2015年4月にkickstarterで同書と二冊目の画集の英語版(『Tales from The Loop』『Swedish Machines, Lonely Places』)のハードカバー刊行のキャンペーンを立ち上げるやいなや さらなる注目を集め、最終的に目標金額である10000ドルを30倍以上も上回る金額を3800人以上から集めました(『Swedish Machines, Lonely Places』はその後『Things from the Flood』と改題され、2016年6月に刊行されています)。
https://www.kickstarter.com/projects/cabinetentertainment/simon-stalenhags-tales-from-the-loop
Design Studio Pr (2015-11-01)
売り上げランキング: 17,048
Design Studio Pr (2016-11-01)
売り上げランキング: 12,266
そして今年7月には三冊目となる画集『The Electric State』の刊行キャンペーンを立ち上げます。画の舞台はスウェーデンからアメリカへと移り、十代の少女と黄色いおもちゃのロボットが架空の1990年代アメリカを西へと旅していくというコンセプト。約三週間という短期間で5000人以上から3000000スウェーデンクローナ=約5300万円以上を集め、7つの特典が用意されたストレッチゴールを全て達成してもいます。デジタル版は11月、ハードカバー版は12月のリリースを予定しているとのこと。
https://www.kickstarter.com/projects/1192053011/the-electric-state-simon-stalenhags-new-narrative
また、『The Electric State』の6つ目のストレッチゴール(2000000スウェーデンクローナ)のbacker特典として設定されていた「サウンドトラック」は、10月下旬にbandcampで単体リリース(6クローネ=約80円)されています。全9曲のアンビエント/サウンドスケープを収録しており、すべてがシモン氏本人のプロデュースと作曲によるものであることも大きなポイントでしょう。じつはシモン氏はイラストレーターである一方で、コンポーザー/チップチューン アーティストの顔も持っております。コンポーザーとしての作品には、2013年6月にPixeltrussからリリースされた「Ripple Dot Extra」があります。同作はシモン氏と旧知の間柄であるトミー・サロモンソンが制作したオンラインの2Dアクションゲーム。シモン氏は90年代の香りただよう軽快なFMポップ/フュージョンな楽曲を38曲制作しており、サントラが配信リリースされています。
http://www.rippledotzero.com/
売り上げランキング: 215,665
また、ロシアのチップチューンレーベル「Ubiktune」からこれまで3枚リリースされている、世界各国のアーティストがオリジナル曲を提供したFMサウンドコンピレーションシリーズ「FM FUNK」には、氏の提供曲が1曲ずつ収録されています。これがまた実にブリリアントな仕上がりであり、メロディメイカーとしても一級のセンスの持ち主であるということがわかります。
"Ripple Boogie"
from『SOUNDSHOCK: FM FUNK MADDNESS!!』(2011)
"Fluvial Beat Deposits"
from『SOUNDSHOCK 2: FM FUNK TERRROR!!』(2012)
"The Lacustrine Beat Machine"
from『SOUNDSHOCK 3: FM FUNK NIRVANA!!』(2017)
▼Interview / Simon Stålenhag
(from Werth com|2014.01.27)
▼SIMON STÅLENHAG the future’s so yesterday
(from LodownMagazine)
2016/06/04
ごんぶとでシリアスなサウンドが冴えわたる、新鋭ダークウェイヴユニット ― VOLKOR X『This Means War』(2016)
「I am Volkor X. I do not come in peace.」
シンセウェイヴユニット Volkor Xのデビューフルアルバム『This Means War』が6月3日にリリースされました。おそらくワンマンユニットなのでしょうが、素性は一切不明。2015年6月に2曲入りデビューEP『Badass Inc. EP』をリリース。同年のハロウィンに、アルバムからの先行トラックと、ジョン・カーペンターの「ザ・フォッグ」のテーマのカヴァーを収録した2曲入り2ndEP『Masked Death』をリリースしています。太めのシンセサウンドとギターソロをふんだんにフィーチャーしたシリアス路線のサウンドを得意とし、本作の"Beacon"ではドイツのシンセウェイヴアーティスト Dimi Kayeが、"This Means War"ではSOILWORKのシルヴァン・コードレーがそれぞれギターソロで客演しています。後者は13分を越える大曲でもあり、ドラマティックな展開力も聴きもの。"Beacon"で挿入されているスポークンワードは、ジョージ・R・スチュワートのポストアポカリプス小説『大地は永遠に』のラジオドラマ(1950年/CBS)の、ジョン・デナーによるナレーションの抜粋。また、"The Bomb"に挿入されているスポークンワードは、特撮映画「スーパージャイアンツ」からとられています。
http://volkorx.com/
https://www.facebook.com/volkorx
https://soundcloud.com/volkor-x
2016/05/08
2010年代のロシアン・コズミック・ディスコ・ファンクでアガる ― AG&NI『Confluence』(2016)
ロシア・エカテリンブルクのシンセポップグループ AG&NIは、マルチ奏者のKidAと、ドラムとミキシング担当のGrillMkzのデュオとして2015年4月に結成(同時にKidAは、Mob Rulesというワンマンヘヴィメタルユニットでも活動している模様)されたばかりで、できたてホヤホヤ。同年11月にデビューアルバム『New Age』を、その後、DJ&ミキシング担当のBoneMCを迎え、2016年2月に2ndアルバム『Ultimate』と、ヴァレンタインシングル「Valentine's Day」をリリース。全体的にコンパクトなエレクトロハウスでまとめあげています。それから再び三ヶ月、新たにキーボード&ベース担当のDKR、ギター&ウインドシンセ担当のBad2Batを迎え、四人組バンドとして3rdアルバム『Confluence』をリリース。わずか半年で三枚もアルバムをリリースしている勘定になりますが、ここにきて一気にコズミック・シンセ/ディスコ・ファンクに振り切り、楽曲的にもサウンド的にも格段にグレードアップ。グループとしてはまだまだ試行錯誤の段階にあるようですが、有無を言わさず超アガる、攻めのファンクスタイルで昨今のシンセウェイヴ/レトロウェイヴシーンに殴りこみをかけた形にもなっており、まことに痛快なものを感じました。
https://vk.com/agandni
https://soundcloud.com/agandni
2016/05/07
メロディアスなギターが冴える、眩惑のジャーマン・シンセウェイヴ ― Zombie Hyperdrive『Hyperion』(2016)
2000年以降に興ったシンセサイザー・ミュージックのリバイバルであり一ジャンルである「Synthwave/Retrowave」。登場からすでに10年以上が経過していますが、その活況はいまなお続いております。ゾンビー・ハイパードライヴは、ドイツのエレクトロ・ユニット。2009年より活動を開始したそうですが、プロフィールは依然として謎に包まれたままです。2013年にアルバム『The Cobalt Ship』をリリース。この時はまだ多分にアンビエント、ハウス寄りの作風で、楽曲的にも習作という印象がありました。その後、Arc NeonやAerocrushの楽曲のリミックスや、習作でdjentのリミックスなども手がけつつ、2015年にはニューヨークのシンセウェイヴレーベル「NewRetroWave Records」のコンピレーションアルバム『Magnatron』に"Gigawatt"を提供し、同レーベルに参画します。今年リリースされた『Hyperon』は、約3年ぶりとなる新作アルバムにして、シンセウェイヴアーティストとしての実質的なデビューアルバム。FMシンセと哀愁を孕んだ煌びやかなメロディという要素でガツンと押し切ってしまえるので、ことシンセウェイヴにおいては「差異化」というのはほとんどあってないようなものですが、ゾンビー・ハイパードライヴは"Red Eyes"や"Citadel"のような、メロディアスなギターソロが多分にフィーチャーされたロック寄りな楽曲がチラホラとあるところがポイント。さじ加減次第でさらに化けそうです。
『レッドライン』の映像を使用したホットなPV。ナイスなマッチング。
https://www.facebook.com/ZombieHyperdrive/
https://zombiehyperdrive.bandcamp.com/
https://soundcloud.com/zombie-hyperdrive
2016/03/03
DIY精神とポップセンスの胸躍る融合。スウェーデンのフォークトロニカ集団 ― WINTERGATAN『Wintergatan』(2013)
スウェーデンのインストゥルメンタル・バンド ウィンターガタンのデビューアルバム。このバンドを紹介する前に、まず前身的バンドのDetektivbyrån(ディテクティヴビロン)について触れたいと思います。2005年から2010年にかけて活動を展開したDetektivbyrånは、グロッケンシュピールやアコーディオン、オルゴール、ドラムを主体としたトイポップ・トリオ。2006年~2007年にいくつかのシングル/EPと、2008年にアルバム『E18 Album』(シングル/EP収録曲の再録+α)、『Wermland』を発表(二枚とも、日本国内盤がP-VINEからリリースされております)。精力的なライヴ活動を展開し、スウェーデン本国の音楽賞へのノミネートもされるなど、これからの活動に期待がもたれていましたが、2009年2月にドラムスのヨン・ニルス・エマニュエル・エクストロームメンバーが脱退。残るマーティン・モリンとアンデルス・フランデルスでユニットとしての活動を続けるものの、翌年8月に活動停止がマーティンよりアナウンスされます。しかしマーティンは立ち止まることなく次なる作品の制作に取り組みはじめ、数年の雌伏を経て、2013年にWINTERGATANとして再出発を果たします。
エレクトロ・ポップのシャープさやポストロックのダイナミズムも消化したことでさらにスケールアップしたサウンドは、まさにDetektivbyrånの正統進化ともいえるもの。バンド名よろしく、冬の時期に聴くとさらに真価を発揮する、澄んだ空気感とふんわりとした夢心地を兼ね備えた仕上がりです。琴線をつつくノスタルジックなサウンドの源泉にある煌びやかなポップセンスもさることながら、生活雑貨やタイプライターのタイプ音、映写機のシャッター音などを大々的にフィーチャーする姿勢からは、身近なものでも音楽は奏でられるという意気込みも伝わり、欲しい音がないなら自ら作ってしまうことも辞さないという旺盛なクリエイティヴィティもじつにまぶしいのであります。同年10月にはマカロニウエスタン meets サーフ・ロックなミクスチャーチューン"Tornado"をシングルリリース。また、12月にはテイチク/スマイルカンパニーより『Wintergatan』の日本国内盤がリリースされております。DVDが付属しているほか、前述の"Tornado"をボーナス収録したお得な内容。
Smile Company (2013-12-11)
売り上げランキング: 2,326
バンドは2014年の後半よりライヴ活動が途絶えるのですが、その理由は、マーティンがオリジナル楽器の開発に着手し始めたため。制作の進捗状況はバンドのfacebookやYouTubeアカウントでこまめに報告されておりました。そして2015年12月、ついに完成。2016年3月1日付けでアップロードされた久しぶりの新曲で、その驚くべき全貌が明らかになりました。リールを回転させることで2000個のビー玉を次々に移動させ、ビブラフォンへ落下させることで音を奏で、同時にドラムのキックやベースのスラップの出音も可能というもの。日本では「ピタゴラ装置」でなじみの深い“ルーブ・ゴールドバーグ・マシン”のスタイルでつくりあげられたのが、このマルチ楽器「マーブル・マシン」なのです。
http://www.wintergatan.net
https://www.facebook.com/wintergatan
https://www.youtube.com/channel/UCcXhhVwCT6_WqjkEniejRJQ
2016/02/08
誕生、生命、死そして復活 ―「ホドロフスキーのDUNE」サントラ ― Kurt Stenzel『“Jodorowsky's Dune”OST』(2015)
売り上げランキング: 45,207
アレハンドロ・ホドロフスキーが、フランク・ハーバートのSF叙事詩『デューン/砂の惑星』を壮大な構想と破格のスタッフ/キャストのもと映像化するべく70年代に制作に取り組むものの、ついに幻に終わってしまった経緯を追ったドキュメンタリー「ホドロフスキーのDUNE」(監督:フランク・パヴィッチ)。クルト・シュテンツェルの作曲による、同作の劇伴を収録したサウンドトラックが、昨年11月13日にLight in the Attic RecordsのCINEWAXレーベルよりリリースされました。クルト氏の来歴、そしてパヴィッチ監督とクルト氏の出会いについては、当ブログの昔のエントリもご覧いただければ幸い。映画公開(2014年3月)からサントラのリリースまでに一年半ちょっともの間が空いたのは、制作途中でクルト氏が脳梗塞で倒れ、リハビリに取り組んでいたこともあってのこと。氏の回復と、晴れてサントラがリリースされたことをまずは喜びたいです。LP(二枚組/ダウンロードコード付き)、CD、MP3の各種形式でそれぞれ販売されており、Amazonでも購入可能です。
『ホドロフスキーのDUNE』のスコアには、クルト氏が若い頃から聴き親しんでいた冨田勲の影響が出たのだそうです。一方で彼はクラウト・ロックもいたく愛好しており、CLUSTERやハンス・ヨアヒム・ローデリウスをフェイバリットに挙げております。また、パヴィッチ監督はドキュメンタリーの制作にあたって、当初はTANGERINE DREAMタイプのサントラを構想していたとのこと。最終的に、心地よくたゆたうかのようなシンセサイザー主体のメディテーショナルなスコアに仕上がっております。レコーディングには、Casio CZ-101やCasiotone MT-60、YAMAHA TG-33、Roland JUNO-6などのヴィンテージシンセサイザーのほか、カシオトーンなども使用。サントラは全33曲、短いもので約20秒、長いもので約6分と長短様々なスコアを、「BIRTH」「LIFE」「DEATH」「RESURRECTION」の四部の章に配して構成されています。
《LP》
Cinewax (2015-11-13)
売り上げランキング: 728,281
《CD》
Cinewax (2015-11-13)
売り上げランキング: 497,055
《MP3》
「Kurt Stenzel & The Score To Jodorowsky’s Dune」
(from Synthtopia|2014.04.30)
「Meet Kurt Stenzel, Soundtrack Composer to ‘Jodorowsky’s Dune」
(from City Sound Inertia|2014.05.14)
「Kurt Stenzel shares three songs from his Jodorowsky’s Dune score ? listen」
(from Consequence of Sound|2015.11)
http://kurtstenzel.com/
▼「ドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』のサントラを手がけた男、クルト・シュテンツェル (Kurt Stenzel) 」
早川書房
売り上げランキング: 3,519
早川書房
売り上げランキング: 6,717
早川書房
売り上げランキング: 6,795
2016/01/13
終末と青春と流血と自転車を煌びやかに彩る、映画「ターボキッド」サントラ ― Le Matos『Turbo Kid O.S.T』(2015)
売り上げランキング: 1,976
昨年、日本でも公開され、「チャリンコ版マッドマックス」などといった形容で局地的に話題になった、カナダ/ニュージーランド共同制作、ROADKILL SUPERSTARS監督による80年代リスペクテッドなアポカリプティック/ヴァイオレンシャル/チャリンコ/ジュヴナイル/ゴアアクション/ムービー 「ターボキッド」。そのDVD/Blu-ray国内盤が先日1月13日にリリースされました。文明が荒廃し、移動手段はチャリンコのみという“1997年”の未来を舞台にしたボーイミーツガールの良作、未見の向きはこの機会にぜひともどうぞ。そして、昨年12月には同作のサウンドトラックもリリースされております。本編スコアの制作過程で産み出されたイメージトラック10曲を収録した『Chronicles of The Wasteland』をDISC 1に、映画本編のスコア40曲を収録したオリジナルサウンドトラックをDISC 2にしたヴォリューミーなダブルアルバムとしてのリリース。
スコアを手がけたのは、カナダ・モントリオールの Le Matos。Jean-Philippe Bernier、Jean-Nicolas Leupiの二人を中心としたエレクトロ/シンセウェイヴ・ユニットであり、「ターボキッド」のプロトタイプとなった2011年発表のショートムービー「T Is for Turbo」のBGMも彼らが手がけております。ちなみにJean-Philippe Bernierは同作の撮影スタッフも兼任しており、IMDbによると、「300」「デス・レース」「X-MEN:フューチャー&パスト」などのタイトルにも撮影スタッフとして関わっていたとのこと。2013年には1stアルバム『Join Us』をリリース。また、海外ファン有志による「AKIRA」の実写化企画への楽曲提供、「ハロウィンII」テーマのカヴァーの公開など、近年はとみにトピカルな活動を展開している彼らの主な音楽的影響は、やはり80年代の映画サウンドトラック。コンポーザーではヴァンゲリス、ジョン・カーペンター、シュキ・レヴィ。バンドではTANGERINE DREAM、GOBLINの名前が挙げられているところからも明白であります。太めのシンセトラックとダンサブルなリズムを軸に、哀愁のメロディをまぶしこんだ煌びやかなインストゥルメンタル群のほか、先行シングルリリースもされた主題歌“No Tomorrow”は、「ターボキッド」のメインテーマのヴォーカルヴァージョン。作詞とヴォーカルを手がけたのは、ロンドンを拠点に活動するシンセポップユニット PAWWSのルーシー・テイラーです。
トレイラーといえどもゴア描写ありだから注意して観てくれよな!
売り上げランキング: 13,131
●Le Matos - Official Site
●Le Matos - facebook
●Le Matos - soundcloud
●Turbo Kid - IMDb
▼青春チャリンコゴアアクション映画「ターボキッド」のサウンドトラックを手がけたカナダのシンセウェイヴユニット「Le Matos」
2015/12/21
「minecraft」のコンポーザーの4年半ぶりとなるオリジナルエレクトロアルバム ― C418『148』(2015)
ドイツのゲームミュージック・コンポーザー/サウンドデザイナー ダニエル・ローゼンフェルトことC418は、Mojang AB開発の大ヒットサンドボックスゲーム「minecraft」のアンビエントな楽曲群を手がけたことでつとに知られる人物。2011年と2013年に公式サウンドトラック第一弾『Minecraft - Volume Alpha』、第二弾『Minecraft - Volume Beta』がそれぞれリリース。今年8月にはアメリカのエレクトロミュージック系レーベルGhostly InternationalからサントラがLPでリイシューされるなど、今なお衰えぬ人気を誇っています。また、2014年9月にはC418のbandcampアカウントに「0x10c」なるタイトルの二曲のピアノトロニカ小曲があがったのですが、これは「Minecraft」の開発者マルクス・ペルソンによって企画されたものの、開発中止になった同名ゲームのサントラに使用されるはずだった楽曲でありました。
貧弱なサウンドエンジンと四苦八苦しながら制作された「minecraft」の楽曲ではブライアン・イーノやスティーヴ・ライヒ、エリック・サティ、坂本龍一などからの影響を感じさせるものがありますが、C418の音楽的原体験や強い薫陶を受けたのはAphex TwinやClarkといったエレクトロ・ミュージシャンたちのようです。サーバのフォルダに埋もれていた七年分のトラックからのセレクションアルバム『Seven Years Of Server Data』以降、ゲームサントラ以外でのリリースがなかったのですが、さる12月18日付で突如としてアルバムがリリースされました。それが本作『148』です。2011年から2015年にかけて制作されたエレクトロニカ/ミニマル楽曲を一挙収録しており、総収録時間100分を越えるかなりのヴォリュームになっています。「minecraft」で得た成功の反面、オリジナル曲の制作においてはいくらかの葛藤もあり、また数年もの時間を経てアルバムに対する情熱が減じ、当人にとってさして重要なものではなくなってしまったようなのですが、区切りをつけるという意味合いでリリースに踏み切ったのでしょう。また、本作には4人のアーティストとのコラボレーション曲も併録されています。カリフォルニアのチップチューン コンポーザー Disasterpeaceとのシューゲイザー・インスト"Kompass"は。京都のコンポーザー/デザイナー Baiyonとの10分に及ぶトラック"185"。「Borderlands 2」「There Came an Echo」などのコンポーザーであるBig Giant Circlesとの"Jimtension"。また、「Plants vs. Zombies」のコンポーザーであり、先ごろ光田康典氏の「クロノトリガー」「クロノクロス」アレンジアルバム『ハルカナルトキノカナタヘ』にも参加したLaura Shigiharaとの"Tsuki no Koibumi 2"は、「minecraft」の開発を追ったドキュメンタリー「Minecraft: The Story of Mojang」(2012)に使用された日本語ヴォーカル曲"Tukino no Koibumi"のリメイクです。
○Minecraft's Composer Explains Why the Music Is 'So Weird'
(from MOTHERBOARD | 2015.06.29)
○インタビュー:『Minecraft』コンポーザーC418 ~大ヒットゲーム『Minecraft』のサウンドトラックを制作したドイツ人アーティストを紹介
(from Red Bull Music Academy)
○How Daniel Rosenfeld wrote Minecraft's music
(from The Guardian | 2014.11.07)
http://c418.org/
https://www.facebook.com/CFour18
http://vgmdb.net/artist/10292
2015/12/15
ピッツバーグのメロディアスなシンセウェイヴ天狗をキミは知っているか?― Mr.Tengu『Compendium』(2015)
soundcloudのランダム再生でたまたま耳にしたMr.Tenguなるアーティストの曲が、あまりにどストライクで参りました。Mr.Tenguは、アメリカのシンセウェイヴ専門レーベル「Future City Records」に所属しているピッツバーグのコンポーザー。同レーベルのコンピレーションアルバムに参加しながら、今年4月にEP『Amethyst Ep』を、今年9月にデビューフルアルバム『Compendium』をそれぞれリリースしています。ダウンロードはいずれも投げ銭。本格的に活動を展開し始めたのはどうやら今年からのようで、シンセウェイヴシーン期待のニューカマーなのです。
彼のプロフィールで挙げられている音楽的影響は、ジョン・カーペンター、TANGERINE DREAM、T.M.REVOLUTION、TEARS FOR FEARS、MEN AT WORK、平沢進、近藤浩治、田中宏和、永田権太、米光亮、マーク・マザーズボウ(DEVO)。そのほか、アーケード格闘ゲームとクラフトビールから多大なインスピレーションを受けているとのこと。soundcloudの彼のアカウントではオリジナル曲のほか、「メトロイド」「MOTHER」「マリオカート7」「イースV」「がんばれゴエモン」などゲームミュージックのカヴァートラックもアップロードしており、ルーツの一端を知ることができます。ノスタルジックで耳なじみのよいメロディセンスはゲームミュージック譲りなのでしょう。
彼はまた、「Future City Records」のレーベルメイトであり、80's風エレクトロ・アイドル・ポップ・サウンドを展開する日本のユニット サテライトヤングの楽曲のリミックスを提供してもいます。煌びやかなムードに太めのシンセサウンドが効いたナイスな仕上がり。
https://www.facebook.com/mrtenguofficial
https://soundcloud.com/mrtengu
https://www.youtube.com/c/MrTengu
2015/10/21
ロメロ、フリードキン、マン、カーペンター影響下のダークなニューロマサウンド ― CONFRONTATIONAL『A Dance of Shadows』(2015)
イタリアのインダストリアル/ノイズ・バンド Recs of the fleshのマッシモ・ウザイ率いるエレクトロ・ユニット CONFRONTATIONAL。今年2月にリリースされた4曲入りデビューEP『Done with You』に続くフルアルバムが10月1日にリリースされました。70~80年代シンセサイザー・ミュージックやサウンドトラック、ジョージ・A・ロメロ、ウィリアム・フリードキン、マイケル・マン、ジョン・カーペンターらの作品の影響下にある、鈍い輝きのあるサウンド。"Flat / Line" "One Last Kiss" "You'll Be Mine"といった甘口のメロディーとミステリアスなムードが支配する初期MINISTRYばりのニューロマンティックチューンを中心に、クラウディオ・シモネッティやジョン・カーペンターへのリスペクトが垣間見える"Shadowdancing" "Forsaken"や、元PRONGのメンバーで、現在はマドンナのツアーギタリストであるモンテ・ピットマンの流麗なギターソロをフィーチャーした"Like A Curse"。スラッシュ・メタル・バンド SADUSのダレン・トラヴィスによるシリアスなモノローグをしたためた"Script"。ジョン・カーペンターの息子であり、近年のジョンのサウンドにおける右腕的存在でもあり、自らもプログレッシヴ・ユニット Ludriumで活動するコディ・カーペンターのメロディアスなセンスが終盤で光る"To Live And Die On The Air"といった、ゲストのカラーも織り込みながらの全8曲を収録しています。
http://www.confrontational.net/
https://www.facebook.com/2confrontational
https://soundcloud.com/2confrontational
2015/10/09
青春チャリンコゴアアクション映画「ターボキッド」のサウンドトラックを手がけたカナダのシンセウェイヴユニット「Le Matos」
流血シーンありゆえ、視聴注意
カナダ/ニュージーランド共同制作による80年代リスペクテッドなボンクラ青春チャリンコゴアアクションムービー「ターボキッド」(監督:ROADKILL SUPERSTARS)を先日観てきました。いやー面白かった。文明が荒廃し、移動手段はチャリンコのみという“1997年”の未来を舞台に、ドバドバ飛び散る血しぶき! 吹き飛ぶ手足(あと首)! 人間ミンチ! 笑撃のゴアシーン満載の青春ボーイミーツガールビルドゥングスロマンがこの作品です。貴重な水を×××から精製するくだりとか、内臓と自転車を繋いでガーッてやるシーンとか、とにかく死にまくりであり、死ぬほど笑わせてもらいました。頭のネジが飛んでてかわいいヒロイン、やはり万能性を発揮するダクトテープ、ほぼ全編80年代テイストなシンセサイザー・ミュージック(シンセウェイヴ)な劇伴なのも高ポイント。「ターボキッド」のDVD/Blu-rayは2016年1月13日リリースだそうなので、要チェックやで。
そんな「ターボキッド」のスコアを手がけたのは、Jean-Philippe Bernier、Jean-Nicolas Leupiの二人を中心とするカナダ・モントリオールのエレクトロ・ユニット Le Matos。「ターボキッド」のプロトタイプとなった、同じくROADKILL SUPERSTARS制作による2011年発表のショートムービー「T Is for Turbo」のBGMも彼らであります。ちなみにJean-Philippe Bernierは同作の撮影スタッフも兼任しており、IMDbによると、「300」「デス・レース」「X-MEN:フューチャー&パスト」などのタイトルにも撮影で関わっていたようです。Le Matosの音楽的影響はやはり80年代サウンドトラックにあり、コンポーザーではヴァンゲリス、ジョン・カーペンター、シュキ・レヴィ、TANGERINE DREAM、GOBLINの名前が挙げられています。太めのシンセトラックとダンサブルなリズム、そして哀愁のメロディによる煌びやかなインストゥルメンタルが魅力です。
2011年に、ブレードランナーのエンドタイトルのカヴァーや、リミックスを含む楽曲集『Coming Soon』や、三曲入りEP『58 minutes pour vivre』(タイトルは「ダイ・ハード2」のフランス語版と同名)をリリース。ちなみにこのEPに収録されている、タイトル曲のアレンジ版である"Rise of Turbo Kid"は、「ターボキッド」のサントラに使用されます。
2013年には待望の1stアルバム『Join Us』をリリース。ほかには、大友克洋「AKIRA」の、海外ファン有志による実写化企画「The Akira Project」に、エンディングテーマ"Kiyoko"を提供しています。いずれも、ユニットの公式bandcampアカウントで聴くことができます。そして先ごろ、「ターボキッド」のメインテーマにヴォーカルをのせた“No Tomorrow”がサウンドトラックからの先行シングルとして$2より配信リリースされています。作詞とヴォーカルは、ロンドンを拠点に活動するシンセポップユニット PAWWSのルーシー・テイラーによるもの。
○『ターボキッド』公開&発売決定!! - KING MOVIES
○青春ディストピア映画『ターボキッド』の監督にインタビュー&特別映像 | コタク・ジャパン
RSS(※ROADKILL SUPERSTARS)「――シンセサイザーがメインとなる音楽を使うのは『ターボキッド』の世界観からして、自然な流れでした。Le Matosは最高の仕事をしてくれましたし、我々は彼らを心底信頼しているので、すべて任せて、ほとんど何も注文は出していません。それでも完璧でした。「彼らも私たちと同じ80年代キッズで、同じものから影響を受けて育ってきています。もちろん、私たちもジョルジオ・モロダーやジョン・カーペンター、タンジェリン・ドリームの大ファンです。そして、彼らの音楽も『ターボキッド』に影響を与えています。」
●Le Matos - Official Site
●Le Matos - facebook
●Le Matos - soundcloud
●Turbo Kid - IMDb
2015/04/28
「身体はプログレ。鼓動はミニマル。心はZeuhl。そしてゲーム音楽の愉楽」目の醒める大作エレクトロ・プログレ ― Stig『Velocity』(2015)
ロシアのチップチューン・レーベルUbiktuneより先ごろリリースされた81番目のカタログである、Stigの『Velocity』がとてもよいです。StigことStephen Patterson氏は2000年代初頭より活動を行っている、イングランドはニューカッスル出身のコンポーザー。bandcampではこれまでに十数枚の作品をリリースされております。facebookでのプロフィールに、「Zeuhl(※)の心臓とプログレッシヴ・ロックの身体、ミニマリストの鼓動とビデオゲームミュージックの愉楽」という一文が添えられているのがまたなんともユニークでありますが、そもそも活動初期の2004年にリリースしたアルバム『Trapezoid』からして、各種楽器を駆使してマルチ録音でつくりあげた四部構成のフォーキーなインストゥルメンタル作品であったというツワモノ。初期のマイク・オールドフィールドからの強い影響下にあるというのが如実にうかがえる良作です(name your price=投げ銭でダウンロードできます)。
初期はピアノ・インストゥルメンタルのアレンジを得意としており、『In Indigo Lost』(2007)や『Biodiversity』(2008)などで、ゲーム音楽からの流れも汲んだ静謐な情緒のある楽曲をたっぷりと聴くことができます。一方でゲームのサウンドトラックや、イベント用の音楽も手がけており、2009年にUbisoftより発表されたレーシングゲーム「Monster 4x4 Stunt Racer」のBGMは彼の作曲によるもの。ここでは一転してハードなロック調のノリのよいインストが中心となっております。
『arc of eleven』(2011)からは、作風に変化とさらなる主張が見えはじめ、ヴォーカルも入ってくるだけでなく、北欧バンドにも通じるドリーミーなムードを湛えたチップチューン/エレクトロニカが基調になってゆきます。あいだに9分の楽曲を挟んで17分のニューエイジな大曲2曲を擁した『Hydrocycle』(2013)、CDであれば二枚組のヴォリュームで10分越えの楽曲をいくつも収録した『Vital』(2014)と、楽曲の長尺化も目立ってきました。
※クリスチャン・ヴァンデ率いるフランスのバンド MAGMAを祖とする、プログレッシヴ・ロックの一ジャンル。世界各国に存在するMAGMAのフォロワーはいわゆる「Zeuhl系」と呼ばれ、本家よろしく執拗な展開と神秘・呪術的ムードをもったバンドが多い。
以上、これまでのStig氏のバイオグラフィをざっと追ってみました、そこにきての本作『Velocity』です。やはり大作路線を踏襲しており、ヴィンテージ・チップサウンド(SID、YM2612)とエレクトリック・ドラムのコンポジションによる、それぞれ22分半と27分というのふたつのパートの表題曲からなる作品となっております。エレクトロ/アンビエント、ミニマル・ミュージック、プログレッシヴ・ロック、ゲーム・ミュージック、フュージョンがバランスよく溶け込み、入れかわり立ちかわりで高揚感をもたらしてゆく様は、まさにこれまでの活動の集大成といったところです。過去作ではあまりみられなかったメリハリも感じられるのが、本作を目の醒めるような印象にしているとも感じます。"Velocity, part one"の終盤では、MAGMAを思わせるウネウネとしたバッキングパターンも顔をのぞかせ、まさに「心はZeuhl」を体現してもいます。抜けのよさと求心力もたっぷりの意欲的な大作であり、お見事というほかありません。
Ubiktune: [UBI081] Stig - Velocity
http://www.stigmusic.com/
https://stigmusic.bandcamp.com/
https://www.facebook.com/stigmusicproject
2015/04/12
BIGLIETTO PER L'INFERNOのキーボーディスト、三十数年ぶりの新作 ― Baffo Banfi & Matteo Cantaluppi 『FrontEra』(2015)
| Frontera (2015/03/17) Baffo Banfi 商品詳細を見る |
かつて70年代にイタリアで活動したヘヴィ・プログレッシヴ・ロック・バンド BIGLIETTO PER L'INFERNO。同バンドでキーボーディストだったジュゼッペ・バンフィ(Giuseppe Banfi)が、同国でプロデューサー/サウンド・エンジニアとして活動しているマッテオ・カンタルッピ(Matteo Cantaluppi)と組んで新たに結成したユニットが、先ごろデビューアルバムをリリースいたしました。それが今回ご紹介する『FrontEra』です。バンフィはBIGLIETTO PER L'INFERNO解散後、'78年から'81年にかけて三枚のシンセサイザー・ソロアルバムをリリースしているのですが、そのうち二作目、三作目のアルバムは、かのクラウス・シュルツェ主宰のレーベル「Innovative Communication」からのリリースであり、プロデュースもシュルツェ本人が手がけておりました。その後はアルバムのリリースが途絶え('88年に前述の三作からの楽曲をセレクトしたコンピレーションアルバムはリリースされています)ていただけに、今回の新作は実に三十数年ぶりとなるわけです。
アルバムは全6曲。バンフィによるエレクトロニクスと、カンタルッピによる管弦アレンジを基調とした楽曲は、最長で9分、最短で5分というコンパクトなつくりで、ニューエイジ/ジャーマン・エレクトロの流れを汲んだ、伸び伸びと壮大な仕上がり。スペイシーではありますが、サイケデリックではなく、醒めた高揚感があるというのがミソでしょうか。往年のニューエイジ・サウンドといった懐かしさすら感じさせる"Kalu Pia"や、ストリングスアレンジも効いた"Front Era Valley"、太いシーケンスと堂々たるムードで貫かれた"Nuova Era"など、クラウス・シュルツェの諸作に通じるアンビエントな空気感はもちろん、TANGERINE DREAMのロマン性、そしてヴァンゲリス・パパサナシュー(「炎のランナー」「ブレードランナー」あたりの)やジョルジオ・モロダー、ジョン・カーペンターあたりにも通じるエッセンスを持っております。80年代のエレクトロ・ミュージック好きなら多分に琴線に触れるポイントの多い作品です。
なお、バンフィのsoundcloudアカウントでは、前述のソロ時代の楽曲もいくつかあがっております。こちらは'79年リリースの『Ma, Dolce Vita』より、アンビエントな長尺トラックです。
○ Baffo Banfi & Matteo Cantaluppi 『FrontEra』 - progstreaming
全曲ストリーミングで視聴可能(※期間限定)
○Baffo Banfi - italianprog
○Baffo Banfi - discogs
〈関連〉
▽PEAK『Ebondàzzar』(1980/1983)
同じく、Innovative Communicationからリリースされていたオーストラリアのユニットの電子プログレ作品。
2014/12/29
豊饒なる大地のイメージを喚起させる、民謡とエレクトロ・ミュージックの幸福な融合 ― 茜 -AKANE-『茜道中譚 / Journey』(2014)
コンポーザーの小林早織さんとヴォーカリストの高橋由美子さんのふたりの女性を中心として2003年に結成された、民謡/エレクトロ・ミュージック/ワールド・ミュージックを縦断した“エストロニック・ミュージック”を展開する音楽ユニット〈茜-AKANE-〉の2ndアルバム。テクノ・ポップ/ニューウェイヴのフィールドでは、元パラペッツの山田カズミ氏が率いるメテオールや、元GRASS VALLEY~P-MODEL~〈鴉〉の上領亘氏がプロデュースするNeoBalladなどが、民謡とニューウェイヴを独自のセンスで融合させたユニークな音楽性を展開しておりますが、この〈茜 -AKANE-〉はゲーム・ミュージックのフィールドから登場したユニットです。小林さんは「AZEL -パンツァードラグーンRPG-」「パンツァードラグーンオルタ」や、パンツァードラグーンシリーズの制作スタッフが手がけ、今年9月に配信されたXbox One用ソフト「Crimson Dragon」のコンポーザーであり、十代のころから民謡の素養を育んできたという高橋さんはゲームソフトの企画やデザインを手がけてきた一方で、植松伸夫氏の企画によるオムニバスアルバム『TEN PLANTS』(1998)や、コナミの「幻想水滸伝II」(1998)などの楽曲でヴォーカル/コーラスでの参加歴もあるというマルチクリエイター。また、同ユニットは各国のクリエイターが集い、楽曲のワールドワイドな発信に力を入れているゲーム・ミュージック制作プロダクション「Brave Wave」に所属しております。なお、小林早織さんはソロアルバムの発表を2015年に予定しており、そちらも見逃せないところです。今年5月にリリースされたコンピレーションアルバム『In Flux』に、小林さんの楽曲"Shattered Moon"が収録されております。
「パンツァードラグーン」シリーズでは無国籍なシンフォニック・サウンドを展開していた小林さんですが、〈茜-AKANE-〉ではサウンドの核にある力強さはそのままに、日本民謡をベースに多彩なエッセンスを散りばめたものになっております。朗々と響く高橋さんのヴォーカルと重厚なコーラスに彩られた楽曲は四季の風情すら感じさせる仕上がり。2007年に自主リリースされた1stアルバム『こちゃへ』(2010年にdogearrecordsより配信リリース)は、電子打楽器奏者であるMASAKingこと鈴木正樹氏とのトリオ編成で、オリジナル曲のほか、"秋田長持唄" "秋田大黒舞" "ソーラン節"といった民謡のアレンジも含むものでした。本作『茜道中譚 / Journey』はアルバムのためのオリジナル曲はもちろんのこと、民謡"本荘追分" "南部牛追歌" "八木節"のアレンジに加え、「Crimson Dragon」のメインテーマである"Dragon's Journey"、Windows Phone用アプリ「Crimson Dragon: Side Story」のテーマ"遥かなる翼"、そして「サクラノート ~いまにつながるみらい~」(2009)のエンディングテーマ"きみと走るとぼくは泣く / Machi"(作詞:野島一成/作曲:植松伸夫)も収録し、ここ七年間の活動を総括する内容にもなっています。また、"怪談「七草坊主と七尾の狐」 / Kaidan" "ピリカ / Pirika"の二曲は、2008年ヴァージョンからリメイクが施されております。美しきリンゴが実ったと伝えられるアヴァロン島と、豊饒なる津軽の大地が二重写しになるかのような、ジャパネスクとケルティックな風情が入り混じる"りんごの島 / Avalon"、8分に及ぶストーリー仕立ての大曲"怪談「七草坊主と七尾の狐」 / Kaidan"は、本作の白眉といえる楽曲でしょう。ボーナス・トラックではユニット自身による"Dragon's Journey"のピアノ・ミックスのほか、「Nuclear Throne」「Luftrausers」などのサウンドに参加したフィンランドのゲーム・ミュージック・コンポーザー KozilekことJukio Kallioによる"りんごの島 / Avalon"のリミックス、「メタルギアソリッド4」「ベヨネッタ」などのコンポーザーのひとりであり、ヘヴィ・チェンバー・ロック・バンド Happy Familyのギタリストでもあるイズタニタカヒロ氏による"ピリカ / Pirika"のリミックスをそれぞれ収録(また、イズタニ氏は自身のユニットであるDUGOのデビューアルバムを、Brave Waveよりリリースすることがアナウンスされています)。一枚のアルバムに実り豊かな大地のはるかなるイメージが表現されており、「旅を続ける音楽ユニット」として、さらなる実りをもたらしてほしいと願ってやみません。
●Brave Wave Production
■「小林早織さんとの会話」 - Brave Wave Production
2007/09/09
今井寿&藤井麻輝、異端者二人のインダストリアル・ユニット ― SCHAFT『SWITCHBLADE』(1994)
| SWITCHBLADE (1994/09/21) SCHAFT 商品詳細を見る |
BUCK-TICKの今井寿、SOFT BALLETの藤井麻輝、一筋縄ではいかない異端者二人がタッグを組んだインダストリアル・ユニット、シャフトが'94年に発表した、現時点での唯一のオリジナルアルバム。PIGのレイモンド・ワッツがヴォーカル/プログラミング/ノイズで、MAD CAPSULE MARKETSのCRA¥(UEDA TAKESHI)とMOTOKATSUが一部リズム隊で参加しております。レイモンドはアルバム制作にも関わっており、実質3人目のメンバーのような存在だった模様。その他、Meat Beat Manifestoをはじめとしたインダストリアル界隈の人脈が多数名を連ねています。澱んだアンビエントから強烈に叩きつけるインダストリアル、捻くれたボディビート、異空間的ノイズ、無機的なヒップホップまで楽曲は多種多様に及んだ全13曲78分。非常にクセがあるアルバム構成なので何度聴いても把握に困るシロモノですが、「異端者同士が悪巧みすると輪をかけて一筋縄ではいかないものが出来上がる」ということの好例(?)でありましょう。
藤井氏作曲によるアンビエントナンバー「Olive」は奥方である濱田マリ嬢に捧げられた曲だそうですが、美しい情景が目に浮かぶと言うよりは得体の知れない波の中をたゆたっているというような印象で、この人にとって美という観念はどう映っているのだろうかと、何だかとても氏の脳内ヴィジョンが気になってきます。「The Hero Inside」 「Arbor Vitate」 「Cold Light」といった咆哮するインダストリアル系ナンバーも十分カッコ良いですが、それ以上に衝撃的だったのはAll About Eveのジュリアンヌ・リーガンをゲスト・ヴォーカルに迎えての、マリアンヌ・フェイスフル「Broken English」のカヴァー。演説のサンプリング、高揚を煽るバッキングのストリングスや妖しく淡々とうねるマシン・ビートの効いたメタリックなアレンジが極右的なカッコ良さを持つ孤高のナンバーで、とにかく痺れました。この曲が聴けただけでも手を出した甲斐はあったというもの。異物感と攻撃性と悪意の混濁で聴き手を翻弄してくるので万人に薦められるモノとは言えませんが、御両人の強烈な個性を垣間見たい人は是非一聴をば。ちなみに、このユニットが契機となって今井氏とレイモンドとの関係はこの後も続くこととなり、'01年にSCHWEINの結成に至ることとなります(藤井氏はこのプロジェクトには参加していませんが、櫻井敦司氏やKMFDMのサシャ・コニエツコが参加しております)。
「Broken English」は、OVA版HELLSINGの海外用トレーラー映像に使用(後にOVA第五巻の挿入歌にも)されました。これ以上ない見事な選曲、そして見事なハマりっぷりです。
●SCHAFT:Wikipedia
●藤井麻輝:Wikipedia
●今井寿:Wikipedia




