イタリアのプログレッシヴ・パワーメタル・バンド エルドリッチ。前身バンド ZEUSから引き継ぐ形で1991年に結成され、1995年にInside Outよりアルバム『Seeds of Rage』でデビューした彼らは、ここ日本でも国内盤がマーキー/ベル・アンティークや徳間ジャパンからのディストリビュートで紹介されてもいました。初期のサウンドは、DREAM THEATERやFATES WARNING、SIEGES EVENなどからの影響を感じさせつつも、よりキーボードを強めにフィーチャーしたもの。その方向性は『El Niño』(1998)からよりヘヴィな色を強め、一皮剥けた彼らはTHRESHOLDやPain of Salvationとツアーも行いさらなる成功をおさめることになります。その後、『Reverse』(2001)ではモダン・ヘヴィネス寄りに、『Portrait of the Abyss Within』(2004)からはスラッシュ・メタル寄りのサウンドになり、同作と『Neighbourhell』(2006)では「WAR PIG」(モーターヘッドのシンボル)のようなキャラクターをジャケットに押し出したりもしていました。所属レーベルも、バンドメンバーも、方向性も幾度となく変えながら、コンスタントなリリースペースは維持し続け、結成25周年を迎えようとしている彼らですが、近年はDGMやSADISTも所属するレーベル Scarlet Recordsのもと、再び正統派プログレッシヴ・パワーメタルに回帰しています。
本作『Underlying Issues』は、前作『Tasting the Tears』からわずか一年半のインターバルでリリースされた通産十枚目のオリジナルアルバム。現編成は、テレンス・ホラー(vo)、ユージーン・シモーネ(g)のオリジナルメンバー二人を中心に、今年アルバムデビューしたプログレッシヴ・メタル・バンド ENSIGHTのリズム隊でもあるアレッシオ・コンサーニ(b)、ラファーエル・ドリッジ(ds)、IN MEMORYのルッジ・ジャンネッシ(g)の五人。『Neighbourhell』より参加していたジョン・クリスタル(b)は、本作のレコーディングをもってバンドを脱退したようです。マスタリング/ミキシングは、EMPYRIOSや近年のDGMのギタリストとして要となっている シモーネ・ムラローニ。ヘヴィなリフを中心として組み立てられたバンドのストロングなサウンドにおいて、彼はまさに頼もしい味方であります。ミドルテンポの"The Face I Wear" "Bringers Of Hate"や、パワーバラード"To The Moon And Back"でもしっかりと魅せてくれるのも強みです。本作の二曲目"Danger Zone"はたいへんな白眉で、ギッシリと詰まった音のなかでキャッチー極まるサビが光るシブいキラーチューン。まさに「Prog Power」の理想を体現したような一曲、オススメです。また、ラストはエッジをたっぷり効かせたスラッシュチューン"Slowmotion K Us"で強烈に締めくくります。これまで辿ってきた音楽性の変遷を血肉として鍛え上げてきた素晴らしきProg Powerの精髄が味わえる一枚。これを向かうところ敵なしといわずしてなんといいましょう。
本書では各章の頭にアリストテレスや、アインシュタイン、ヘミングウェイ、オルダス・ハクスリー、テッド・バンディ、ジョージ・ゴードン・ロード・バイロンなど数多くの人物のコメントや、聖書、古い箴言、著作などからの引用が付されているのですが、その中にはJETHRO TULLの"Occasional Demons" "Reasons For Waiting"の詞の一部も含まれており、前者は上巻のP63、後者は下巻のP129でそれぞれ引用されています。ほかにスザンヌ・ヴェガの"Blood Makes Noise"(アルバム『99.9F°』(1992)収録)からの引用もありますが、同じバンドで二度にわたって取り上げているあたり、ワッツ氏は相当にタルが好きなんだなというのがよくわかります。
“All kinds of animals living here. Occasional demons too.”
― Ian Anderson, Catfish Rising
アルバム『Catfish Rising』(1991)収録
“If I can but make the words awake the feeling”
― Ian Anderson, Stand Up
海外SFウェブジン「IRoSF」が2008年2月に行ったワッツ氏へのインタビュー記事。ここで氏はお気に入りのバンド/アーティストを挙げています。JETHRO TULL、トーリ・エイモス、RUSH、LED ZEPPELIN、初期YES、R.E.M.、RADIOHEAD。やはりタルの名前を真っ先に挙げております。そして「最近のお気に入りはPORCUPINE TREE」とのこと。確かにスティーヴン・ウィルソンのサウンドは氏の気に入りそうだなという、妙な納得をおぼえました(ちなみに、ウィルソンは2011年から現在もJETHRO TULLのアルバムのリミックスを継続的に手がけております。おそらくワッツ氏にとってもこれは嬉しいサプライズだったのではないかと)。質問者がピーター・ワッツに対して「あなたはMOTT THE HOOPLEのベーシストと同名なんですけど、音楽的背景について教えてくれませんか?」などという切り出し方をしてるのがちょっと面白い。そうそう、確かにモットの創設メンバーでありベーシストのピーター“Overend”ワッツと同名なんですよね。そしてその質問に対してワッツ氏が「モット・ザ・フープルの方のピーター・ワッツは知らなかったけど、自分が知ってるのはPINK FLOYD『狂気』の頃のサウンドエンジニアのピーター・ワッツだね」と返しているのがまた。典型的な音楽マニア同士の会話じゃないですかもう。ちなみに、PINK FLOYDのサウンドエンジニア兼ローディーであったピーター・ワッツは30歳の若さで亡くなっております。
JGS: To continue the riff on your name, it's also the same as one of the bass players for the British glam-rock band Mott the Hoople, most popular during the 1970s (he was known as "Overend" Watts for a tumble he took over some band equipment). Do you have music playing in the background (besides Jethro Tull) when you write?
PW: I did not know that about Mott the Hoople. The only Peter Watts I know from that era is Pink Floyd's sound engineer, the guy who giggled maniacally on Dark Side of the Moon. In terms of background music, I used to listen constantly—Tull, Tory Amos, Rush, Zeppelin, Pre-Cheese-era Yes, REM, Radiohead—but not so much any more. I tend to like tunes that draw you in both lyrically and musically—but by definition, such tunes draw your attention away from the writing. Maybe I was better at dual-core processing in my younger days. More likely I just finally realized that I was tuning the music out of my conscious awareness anyway while writing, so what was the point? I still listen to music for inspiration (Porcupine Tree is a recent favorite), but that's an eyes-closed-get-lost kinda process without keyboard involvement. The only time music actively inspired my writing while I was writing, without intruding, would be Dead Can Dance's "Spleen and Ideal," which set the mood for my short story Nimbus.
また、ワッツ氏が音楽に触発されて書いたという唯一の作品が、初期の短編「Nimbus」(1993)で、これはDEAD CAN DANCEのアルバム『Spleen and Ideal』(1985)の雰囲気に寄せているのだそうな。同様の言及はフランスのSF&ファンタジーウェブジン「actuSF」が2012年に行ったワッツ氏へのインタビュー記事にもありました。
ちなみに〈Rifters〉シリーズ第二作『MAELSTROM』の第二章のタイトルは、R.E.M.のアルバム『Fables of the Reconstruction』(1985)からの拝借である旨が著者あとがきで述べられています。ワッツ氏のサイトでは各著作がクリエイティヴ・コモンズのもと公開されており、PDFやテキストファイルで読むことができます。 http://www.rifters.com/real/shorts.htm
そのあんまりなバンド名と強烈な内容のPVから以前より局部、もとい局地的に話題となっていた、チェコ・プラハのアヴァンギャルド・ポップ・バンド Hentai Corporation。2005年に結成され、2006年と2008年にデモ音源「Mufta Demo」「Fuck You Like a Chameleon」を、2011年に4曲入りEP『Dokktor.Zaius』、2012年にシングル「Neurol Machine」をリリース。そして2013年に『The Spectre Of Corporatism』で待望のアルバムデビューを果たした彼らは、本国でのライヴ活動や同郷のアーティストとのコラボレーションを活発に行いながら、現在も精力絶倫な活動を繰り広げています。
ヘンタイの伝道師である彼らはYouTubeアカウントのみならずbandcampアカウントでも自らの音源を啓蒙しております。以前は『Dokktor Zaius EP』しか置いてありませんでしたが、さる9月に『The Spectre Of Corporatism』の音源もあがりました。$10よりダウンロード購入も可能。まことに嬉しいことです。まさに変態的朗報。正式なアルバムタイトルは『The Spectre Of Corporatism: Starship Shaped Schnitzels From Planet Breadcrumbs Are Attacking A Giant Tree Monster Who Has A Vagina And Holds Hitler Hostage』(コーポラティズムの幽霊:パン粉惑星からの宇宙船型シュニッツェルはヒトラーを人質にしたヴァギナつき巨木モンスターを攻撃中)。つまりジャケットの通りです。あんまりにもタイトルが長いので、iTunesではガッツリ省略されて『Tsocsssaaagtmwhvahhh』になってます。字面だけだとVOIVODの『Rrröööaaarrr』みたいですね、なんて。なお、こちらでは1200円で購入可能です。 https://itunes.apple.com/jp/album/tsocsssaaagtmwhvahhh/id821937939
スラッシーでトリッキーなリフに、ポップでキャッチーなシンセの味付けを施したケッタイであり痛快なサウンド。バンドのヴォーカリスト Radek Škarohlídの歌い回しも実に怪人といった印象で、シャウトの合間にニタニタ笑いを浮かべているかのようなパフォーマンスは、正しくへんたいのおじさんです。しかし、ねじ伏せるヘヴィネスとキッチュなセンスの融合を見事に果たしており、ただただキワモノを演じているわけではないというのはサウンドを聴けばおわかりでしょう。こういうバンドは生半可な実力ではやれないと、太古の昔より言い伝えられており、彼らのライヴパフォーマンスも実に堂に入ったものです。サウンドの性交、もとい性向から、マイク・パットンのMr.BungleやFaith No More、北欧のジャンル越境異能集団 Waltariなどのバンドと比較したくなるのも包皮が痛いほどよくわかります。フルチン! ビーバー! 大虐殺!な"Equilibristic Brides"のPVはYouTubeにはちんこ修正版であがっていますが、vimeoにはちんこ無修正版であがっているというユーザーフレンドリーさにも亀頭が下がります。しかし無修正版、容赦なくプラプラするちんこにいくらモザイクをかけたところで余計卑猥にしかならないというコペニスルク的転回を皮肉にも(?)果たしておりますね。下は、同じくチェコのクロスオーヴァーメタルバンドであるAtari Terrorとコラボした"No More Love"のPV。EP『Dokktor.Zaius』のオープニングトラックです。ツインヴォーカルでの掛け合いといい、フックのある展開といい、めちゃカッコイイです。
かつてアレハンドロ・ホドロフスキーが、フランク・ハーバートの『デューン/砂の惑星』を壮大な構想と豪華スタッフ陣のもと映像化するべく制作に取り組むものの、資金的な問題などで幻に終わった作品の経緯を追った、フランク・パヴィッチ監督によるドキュメンタリー「ホドロフスキーのDUNE」。ここ日本でも2014年に公開され、大きな反響を呼びました。そして、クルト・シュテンツェルによる劇伴を収録した同作のサウンドトラックが、さる11月13日にLight in the Attic Recordsよりリリースされました。昨年、クルト氏が昨年に脳梗塞で倒れ、リハビリに取り組んでいたこともあり長らく制作が遅れていたのですが、いろいろとひと区切りがついたのでしょう。氏の回復、そしてサントラのリリースを心より喜びたいです。サントラはLP(二枚組/ダウンロードコード付き)、CD、MP3の各種形式でそれぞれ販売されています。Amazonでも購入可能です。
2010年以降に結成され、2014年にデビューアルバムをリリースしたサンクトペテルブルグのプログレッシヴ・メタル・バンド Письмо от Зодиака(Letter From Zodiac)。バンド名は、アメリカでかつて起こった連続殺人「ゾディアック事件」に由来したものでしょう。ネッチリとヒリついた妖艶さを醸しながらもドスの利いた姐さんタイプの女性ヴォーカルがフロントのバンドで、邪悪に鬱屈したアレンジが盛られたヘヴィ・サウンドのマッチングがすごくイイ。これがさらにタガが外れるとカナダのUnExpectやノルウェーのRam-Zetのようなアヴァンギャルド・キャバレー・メタルみたいになるのだけれど、そこまで過剰ではなく、いくらか地に足の着いた印象があります。とはいえ今後ブチ切れて化ける可能性もなきにしもあらず。一連の作品は彼らのbandcampでname your price(投げ銭)でダウンロードできます。以下はこれまでにリリースした楽曲。
二人の女性の共依存的な関係をミステリアスでサスペンスフルなタッチで描いた、新井素子さんの'84年発表の小説『あなたにここにいて欲しい』。本アルバムは翌年にリリースされたイメージアルバムで、テクノ・ポップ・バンド プラスチックスやプログレッシヴ・ロック・バンド 四人囃子の佐久間正英氏が全曲の作編曲を手がけられております。時期的には、初のソロアルバム『Lisa(果樹園のリサ)』をリリースして間もない頃であり、BOOWY、THE STREET SLIDERSなど、プロデュース仕事が増え始めた頃でもあります。
小説のタイトルの元ネタはPINK FLOYDのアルバム『Wish You Were Here(あなたがここにいて欲しい)』からですが、小説は『あなた“に”ここにいて欲しい』で、一文字違います。これは意図的なものであるということが、'84年の文化出版局単行本版の新井さんのあとがきで述べられております。本作の執筆のキッカケについてPINK FLOYDへの言及もされているのですが、'87年の講談社文庫版、2012年のハルキ文庫版で書き下ろされたあとがきではそのあたりには触れられてはいませんので、参照の際はお気をつけを。レコードのインナーには新井さんと佐久間氏のそれぞれのコメントが掲載されており、新井さんは「横着なあたしは、このお話を書きえるまで、レコード聴き返しもしなかったんです。だから、このお話、正直言って、ピンク・フロイドの曲とは何のかかわりもないんですよね」と、かなりぶっちゃけたことを書かれています。とはいえ、ふと頭によぎった"Wish You Were Here"のメロディーと、タイトルからの連想で浮かんだいくつかの言葉が執筆のキッカケだったそうですから、まったくの無関係と言えない気もします。佐久間氏は制作にあたり、「ESP」ではなく「PSYCO」でイメージをつくりあげていったとのこと。「実写でない音楽を試みてみました」「多少の無理はしましたが、自動筆記の様に演奏し、アレンジしました」とも述べられています。
佐久間氏のコメントからだいたいの方向性はつかめますが、アルバムの楽曲は全体的に無機質なイメージのインストゥルメンタルが中心となっており、反復される展開に物憂げな旋律が静かに湛えられ、常に低いところを漂うかのような感触が続いていきます。"解放"ではバックでうっすらと「あなたに ここに いてほしい」のモノローグも挿入されており、ゾクリとさせられます。演奏では佐久間氏のほか、パーカッションでそうる透氏、ヴァイオリンで中西俊博氏が参加されており、広瀬翔子さんが歌う表題曲の作詞を山崎ハコさんが書き下ろされております。そしてラストは、日本語詞と女性ヴォーカル(Crickets)による、PINK FLOYD"Wish You Were Here"のカヴァー。パーカッシヴなバッキングと明るめのシンセサイザーを中心とした、寂しさというよりもどこか解放的なイメージを感じさせるアレンジ。本編の展開にも寄り添った名カヴァーではないかと自分は思うのです。
ここ数年、「Pikes」と銘打ったインストゥルメンタル・アルバムを常軌を逸したペースでリリースし続けるアメリカの異才ギタリスト バケットヘッド。10月1日から10月31日にかけて「○○ Days Til Halloween」と題したハロウィンカウントダウン企画アルバムを一日一枚のペースで発表し続け、計31枚の連続リリースをみごと達成したと先日お伝えしましたが、月が替わって11月1日、早くも通産237枚目となる新作がリリースされました。30分のインストゥルメンタル一曲のみ収録の同アルバムのタイトルは『365 Days Til Halloween: Smash』。……ひと月に飽きたらず、来年のハロウィンまで一日一枚のペースでリリースを続ける気なのでしょうか。どこまでイってしまうのか、今後のバケットヘッド先生のよりいっそうのエクストリームな挑戦にご期待ください。
なお、公式サイトでは11月2日(米国時間)まで、「Pikes」シリーズの第1番タイトル『It's Alive』から、第199番タイトル『8 Days Til Halloween: Flare Up』までをダウンロードストアで各$2でセール中です。コンプリートを目指そうとお考えの方は、この機を逃さずまとめ買いいたしましょう。193番タイトルから207番タイトルは、ダウンロード販売のほかに手焼きCD-R(サイン入り)のオーダーも受け付けております。詳細は彼の公式ウェブサイトをご覧ください。
バケットヘッドといえば、元GUNS'N'ROSES、元Buckethead&Friends、そのほか数々のバンドへの参加歴のある、ケンタッキーのバケツをかぶったアメリカの謎のギタリスト。近年はソロで活動しており、公式サイトやbandcampなどで、「Pikes」と銘打たれたギター中心のインストゥルメンタルアルバムのリリースを行っているのですが、そのペースは1日~6日に一枚という尋常ならざるもので、2013年には約30枚、2014年には約60枚という、もはや「マジキチ」としかいいようのない生産量。そんな彼はさる10月1日から10月31日にかけて「○○ Days Til Halloween」と題した、ハロウィンにちなんだカウントダウン企画アルバムのリリースを一日一枚のペースで行い、10月31日付でリリースされた通産236枚目のアルバム『Happy Halloween: Silver Shamrock』をもって連続31枚リリースを見事に達成。この異形、もとい偉業により、彼の今年のリリース枚数は既に100枚を越えてしまいました。幾何級数的に増えるバケットヘッド先生の今後のリリースにもご期待ください。