2014年9月14日日曜日

ドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』のサントラを手がけた男、クルト・シュテンツェル (Kurt Stenzel)

数週間ほど前になりますが、『ホドロフスキーのDUNE』(監督:フランク・パヴィッチ)を観ました。いやあ、面白かった。フランク・ハーバートの『デューン/砂の惑星』を壮大な構想と豪華スタッフ陣のもと映像化するべくホドロフスキーが制作に取り組んだものの、資金的な問題で結局完成をみなかった幻の作品の経緯を追ったドキュメンタリー。ホドロフスキーがぶちかました大いなるハッタリであり、失敗であり、財産であり、後の数々の作品の礎となったという内容はグッとくる面白さ。思わずパンフレットも買ってしまいました。もうエピソードに事欠かないのなんの。特に、映画出演を巡るホドロフスキーとサルバトール・ダリとの駆け引きのくだりがムチャクチャな理不尽ゲームでニヤニヤものでした。当人としてはヒヤヒヤものだったろうなと思いますが(笑)…とはいえ、人脈が人脈を呼び、徐々に体制が整っていくというくだりには非常にワクワクさせられました。ダリからH.R.ギーガーを紹介されてホドロフスキーはパリに向かい、MAGMAのライヴでギーガーと初対面するという話もあるのですが、よくよく考えるとこの連鎖がなければ、ギーガーがジャケットを手がけたMAGMAの名盤『Attahk』も生まれなかったかもしれないわけで…そういうところにも思いを馳せたり。ちなみにホドロフスキー版DUNEのラストは、主人公のポール・アトレイデが首を掻っ切られて殺されてしまうわけですが、彼の魂は死なず概念となってデューンを一面の緑の惑星に変え、デューンは他の惑星を導くために銀河の果てに消える…みたいなプロット。もちろん原作ではそんな展開はありませんが、映像として見るとすればこれは結構アリだなと思いました。「自由なものを作るには原作から解き放たれねばならない」「だから私は愛をもって原作を犯した」とホドロフスキーは言っていますが、もし叶うならば、彼の愛ある原作レイプを見たかったなという思いも少々。


『ホドロフスキーのDUNE』の劇伴は、全編に渡ってジャーマン・ロック風のシンセサイザー・ミュージックに仕上がっており、宇宙的なイメージを喚起させる雰囲気は非常に耳を惹くものがありました。作曲者の名前はクルト・シュテンツェル(Kurt Stenzel)。彼は、'84年に結成され、ニューヨークを拠点として'05年代まで活動していたハードコア・パンク・バンド Six and Violenceの元ヴォーカリストという異色の経歴の持ち主で、現在はSpacEKrafTというクラウト・ロック系ユニットでも活動しているコンポーザー。そのSpacEKrafTのsoundcloudで、『ホドロフスキーのDUNE』のサウンドトラックが聴けます。全五曲ですが、トータルで約二時間というヴォリューム。まずはどっぷりと濃密なシンセサイザー・ミュージックの海へどうぞ。



 こちらはSix and Violenceの楽曲。どことなくDEVOからの影響もうかがわせる作風です。JETHRO TULLのイアン・アンダーソンを思わせるツバ吐きフルートも聴こえますが、なんとイアン氏本人が実際に彼らのアルバムに何度かゲスト参加していたようです。ところで、フランク・パヴィッチ監督は『ホドロフスキーのDUNE』よりさかのぼること十数年前の1999年に、ニューヨークのハードコア・パンク・シーンを追ったドキュメンタリー映画『N.Y.H.C』を撮っており、その頃に取材の過程でクルト氏と直接出会ったのだそうです。ちなみにパヴィッチ監督は子供の頃にSix And Violenceのテープを聴いており、間接的な出会いはずいぶん前に果たしていたとのこと。海外の電子音楽系情報サイト Synthtopiaがクルト氏へ行ったインタビューでは、パヴィッチ監督との出会いなどについて語られています。


Kurt Stenzel & The Score To Jodorowsky’s Dune ‐ Synthtopia http://www.synthtopia.com/content/2014/04/30/kurt-stenzel-the-score-to-jodorowskys-dune/

Meet Kurt Stenzel, Soundtrack Composer to ‘Jodorowsky’s Dune’ - City Sound Inertia http://citysound.bohemian.com/2014/05/14/meet-kurt-stenzel-soundtrack-composer-to-jodorowskys-dune/

『ホドロフスキーのDUNE』の劇伴は、クルト氏が若い頃から聴き親しんでいた冨田勲の影響が出たのだそうです。一方で彼はクラウト・ロックもいたく愛好しており、CLUSTERやハンス・ヨアヒム・ローデリウスがフェイバリットなんだとか。なるほどといったところです。また、パヴィッチ監督はドキュメンタリーの制作にあたって、当初はTANGERINE DREAMタイプのサントラを考えていたのだとか。最終的にクルト氏が仕上げてきたのは、シンセサイザー主体のメディテーショナルなスコアだったわけですから、結果的に近いところに合致したことになりますね。『ホドロフスキーのDUNE』のサウンドトラックは、LP2枚組でリリースされる予定とのことです。


 最近のクルト氏の動向ですが、彼は数ヶ月ほど前に脳梗塞で倒れ、現在も入院生活を送っています。ニュースを聞いたときはびっくりしてしまいましたが、幸い意識は回復し、最近は少しずつリハビリを受けているとのことで、ひとまず安心しました。リハビリ・プログラムは長期間に渡るということもあり、彼の支援者が現在クラウドファウンディングで寄付を募っています。自分もささやかながら寄付いたしました。クルト氏の一刻も早い回復、そして活動の再開を願っています。

Kurt's Coming Home! - gofundme
  http://www.gofundme.com/kurtscominghome

http://kurtstenzel.com/