2016年9月14日水曜日

もう誰にも止められない、怒涛のエピックアドベンチャーメタル ― TWILIGHT FORCE『Heroes of Mighty Magic』(2016)

HEROES OF MIGHTY MAGIC
HEROES OF MIGHTY MAGIC
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TWILIGHT FORCE
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「アドベンチャー・メタル」を標榜するスウェーデンのエピック/シンフォニック・メタル・バンド トワイライト・フォース。2011年に結成され、2014年4月にBlack Lodge Recordsよりデジタルシングル"The Power of the Ancient Force"をリリースし、同年7月にアルバム『Tales of Ancient Prophecies』でデビュー。エピック……というにはあまりにも妖しさとB級感にあふれすぎたヴィジュアルと、1990年代後期~2000年代前期ごろのRHAPSODY OF FIREを筆頭にDARK MOOR、NOCTURNAL RITES、DRAGONLANDなどを思わせるカタルシスあふれるサウンドに琴線をブチ抜かれるリスナーが続出。日本でもスピリチュアル・ビーストから同年9月に国内盤がリリースされ、またたく間に日本でも熱狂的ファンが生まれました。クライレオンを名乗るヴォーカルのクリスチャン・ヘデグレン(エリクソン)は、ほぼ同時期にデビューしたメロディック・ハード・ロック・バンド SUNSTRIKEのメンバーでもあり、そのほか、同郷のSABATONなど数々のバンドでその歌声を聴かせてきた折り紙つきの実力派。ドラムスのロベルト(ロッバン・バック)も、ASTRAL DOORS、ECLIPSE、SABATONなどでもプレイしてきた歴戦の手練です。ヴィジュアルとサウンドの双方にインパクトのあるバンド繋がりで、ALESTORMのクリストファー・ボウズにより2010年に結成されたスコットランド/スイス混成バンド GLORYHAMMERと比較されることも少なくないですが、あちらはゴッタ煮な世界観のスペース・ファンタジーを展開しはじめているのに対し、こちらはあくまでオーソドックスなヒロイック・ファンタジーを頑として踏襲しているのがミソです。




 それから約二年、待望の2ndアルバム『Heroes of Mighty Magic』が届けられました。ラインナップには変動があり、ロベルトの後任としてミステリアスな出で立ちのデ・アズシュが加入。また、もう一人のエルフ系ギタリスト エーレンディルが加入したことでツインギター編成になりました。ドイツの大手メタルレーベルNUCLEAR BLASTと契約したことも大きなポイントです。アーティスト写真は洗練され、さながら次なる町でグレードの高い装備を整えた勇者一行のごとき変貌を遂げました(弓を引いて飛んでるアーレンディルの躍動感たるや)。そして何より特筆すべきは、サウンドプロダクションの格段の向上でしょう。これでもかとシンフォニックなアレンジとクワイアコーラスで攻め立てるアレンジはより過剰さを増し、映画音楽的なゴージャスな表現にも富み、いい意味で垢抜けました。




 その訴求力とカタルシスたるや尋常のものではなく、かつてエピック/シンフォニック・メタルのリスナーだった手合いすらをも冒険のフィールドへと引き戻してしまうような、圧倒的なヴィジョンとパワーであふれかえっております。終盤の"Epilogue"こそ6分半に渡る長ーいモノローグを配していますが、それ以外はほとんど疾走チューンであり、ほとんどが山場というあまりにも潔すぎる構成。先行シングルであり、アルバム冒頭を飾る"Battle of Arcane Might"でいきなりクライマックス級のバトルを展開しており、もう笑うしかありません。曲の長短やペース配分という概念すらも彼方に消し飛んでおります。"There and Back Again"ではRHAPSODY OF FIRE、ANGRAのファビオ・リオーネ、"Heroes of Mighty Magic"では、前作に引き続きのゲスト参加となるSABATONのヨアキム・ブローデンをフィーチャーし、ともに10分近い大曲にさらなるドラマを与えています。"Powerwind" "Riders of the Dawn"のサビは大合唱必至でしょうし、"To the Star"「Call Your Name! Call Your Name!」のくだりは、超ライヴ映えしそうです。ラストの"Knights of Twilight's Might"はいわゆるトワイライトキングダム国歌斉唱であり、皆さんご起立のうえ、ご唱和ください。





 アルバムブックレットにはバンドメンバー六人の(ファンタジー世界の住人としての)生い立ちと、各種ステータス、そして“トワイライトキングダム”の全図を収録。ギタリストのリンドとキーボーディストのブラックウォルドはバンドサウンドの中核を担う存在なだけあって、生い立ちの記述も長めにとってあるのが面白い。ステータスに関してはもはや完全にTRPGにおける「キャラクターシート」であり、レベル、種族、クラス、各種パラメータ、装備、特殊スキルまで細かく記載。こだわり、ここに極まれりといったところです……曲並みに時間をかけているのではなかろうか。メンバーの中で一番謎めいているデ・アズシュ氏(種族:ソウルシーカー/クラス:エーテル体)がパーティー内で一番の高レベル(レベル10)で、エーテル体なのでバイタリティの値が「∞」というところもツボでした。







 つまるところ本作は「超つよいアルバム」なのです。「速い!」「クサい!」「派手!」をギッシリ詰め込んだアドベンチャーサウンドの前には、もはや語彙力がファービヨンドザスカイズしてしまわざるをえません。そもそも、あの新アーティスト写真でバッチリとキメこんだ時点で、TWILIGHT FORCEの勝利は絶対的に約束されたも同然だったのです……。バンドはこの後、10月にSONATA ARCTICAのサポートアクト(一年ぶり二度目)としてヨーロッパをツアーし、来年2017年には盟友SABATONとのツアーを予定しています。彼らの快進撃は、まだまだ止まりません。


http://www.officialknights.com/
https://www.facebook.com/twilightforce/

TWILIGHT FORCE - Spiritual Beast





 せっかくなので、アートワークについても言及しておきたいです。デビューアルバム『Tales of Ancient Prophecies』のジャケットイラストは、ジャック・ヨーヴィル(キム・ニューマン)の『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』『Beast in Velvet』(ともにウォーハンマーノベル)などのブックカバーイラストや、BAL-SAGOTH、ORANGE GOBLIN、TWISTED TOWER DIREなど数々のメタルバンドのジャケットアートも手がけるマーティン・ハンフォードによるもの(『ウォーリーをさがせ!』のイラストレーターであるマーティン・ハンドフォードと混同されますが、もちろん別人)。

http://martinhanford1974.deviantart.com/




 2ndアルバム『Heroes of Mighty Magic』のジャケットとメンバーイラストを手がけたのは、トルコ在住のカレム・ベイト(Karem Beyit)。ブリザード・エンターテイメント開発の戦略カードゲーム「ハースストーンHearthstone: Heroes of Warcraft」のイラストレーターでもあり、タッド・ウィリアムズ『テイルチェイサーの歌』『A Witch at Ordinary Farm』などのファンタジー小説のカバーイラストも手がける御仁。VAN CANTOのリーダーとヨルグ・マイケルが組んだジャーマン・パワーメタル・バンド HEAVATARのアルバムジャケットも氏による仕事です。

http://kerembeyit.daportfolio.com/
http://kerembeyit.deviantart.com