2016年7月30日土曜日

侍、怪談、伝奇そして神話。北欧カブキメタル第三章 ― WHISPERED『Metsutan/滅譚 - Songs of the Void』(2016)



 ここ日本でも着々とファンを増やしているフィンランドのメロディック・デスメタル・バンド ウィスパード。幼少の頃より日本文化に慣れ親しんでいたというフロントマンのJouni Valjakkaが2001年に結成したメロデスバンド Zealotを母体とし、2004年にデモEP「Bloodthroned」をリリース後、WHISPEREDに改名。2006年から2009年にかけてデジタルリリースした二枚のデモEPと一枚のシングルの楽曲を再録/再収録し、武蔵坊弁慶と牛若丸の五条大橋の決闘をテーマにした"Thousand Swords"や、15分を越える大曲"Blade In The Snow"などを追加したフルアルバム『Thousand Swords』で2010年にデビューを飾ります。その間、ベーシストのKoponeとドラマーのAtte Pesonenが共に脱退し、後任としてValtteri ArvajaとToni Pöllänenが加入。そのToniも2010年に脱退し、アルバムではFORCE MAJEUREやFinntroll(ライヴサポート)のメンバーでもあるJaakko Nylundが叩いています。メンバーの変動はその後も続き、2011年にJussi Kallavaが四代目ドラマーとして加入、Valtteriが脱退し、後任ベーシストとしてDREAMTALEよりMikko Mattilaが加入。2012年にはキーボーディストのMika Karjalainenが脱退と、不安定な状態が続いていたのですが、2013年6月にようやく新曲"Jikininki"をリリース。日本語のモノローグ()で幕開けする同曲は食人鬼の絶望と慟哭をヴァイオレンスに描き出したもので、小泉八雲の怪談「食人鬼(じきにんき)」のストーリーを下敷きに……しているわけではなかったのですが、タイトルだけのいただきであってもハッタリは見事に効いていますし、カブきにカブきまくったバンドのヴィジュアルを体現した大仰なキラーチューンとして非常に秀逸です。同年11月には北欧メタルイベント「Loud & Metal Mania」でBATTLE BEASTと共に初来日も果たし、2014年2月には、"Jikininki"をオープニングチューンに配した2ndアルバム『Shogunate Macabre』をリリース。クワイアコーラスや和楽器の多用でドラマティックな山場も増えた楽曲もさることながら、名匠、フレドリック・ノルドストロームのエンジニアリングを得て全面的にグレードアップ。天照や河童などもテーマにしつつも、詞世界は一貫して亡魂が飛び交い、血生臭く殺伐としております。同作は日本コロムビアから国内盤でもリリースされ、名実ともに彼らの出世作となりました。

「夢を見た 枯れ野の夢 その枯れ野 行けども行けども 人ひとりおらぬ」
黒澤明の『乱』の一文字秀虎の台詞です。


Metsutan
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Whispered
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『Shogunate Macabre』リリース後、Zealot時代から十数年にわたり活動を共にしてきたギタリストのPyrypekka Ruponenが脱退し、ついにオリジナルメンバーはJouniひとりとなってしまいましたが、KRUSEYERやDRAWN AWAKEのベーシストであるKai Paloを加入させ、Mikkoをギター/三味線パートにコンバートさせることでラインナップを固め、約二年ぶりとなるアルバム『Metsutan/滅譚 - Songs of the Void』がここに完成。2015年6月、2016年4月にそれぞれデジタルリリースされた"Sakura Omen" "Strike!"を含む全10曲の本作は、過去二作にもアレンジや演奏で参加していたペルッツ・ヴァンスカ(TURISASのヴァイオリニスト オッリ・ヴァンスカの実弟)との共同プロデュース。より伝奇感が押し出されたアルバムジャケットアートもさることながら、楽曲的にもこれまで以上に「和」のイメージを追求しています。イントロダクション"血ノ舞 - Chi No Odori"からの"Strike!"は、刀による一閃をイメージしたというまさに必殺の一曲。"Exile Of The Floating World"は、数多くの妖怪絵・無残絵を描いた幕末の浮世絵師 月岡芳年の画風をフックてんこ盛りの楽曲で表現。"Sakura Omen"では濃厚な死のイメージとともに武士道を描き、"劍聖 - Kensei"では宮本武蔵の初の決闘をテーマとしています。また、ライナーノーツには「Mighty Final Melody in Kensei by 竹原裕子」として、「ロックマン6」「ロックマンX」「ブレスオブファイア2」などのコンポーザーである竹原さんの名前がクレジットされているのですが、彼女に対するバンドからのリスペクトがメロディラインに込められているようです。なるほど、ロックマンXっぽいかも。「クタバレ! キエロ!」「シニタマエ! キエロ」のバッキングシャウトや、入魂のギターソロも印象的な"Our Voice Shall Be Heard"では渾沌たる魂の慟哭を、"月明 – Tsukiakari"では非道の主君の行いに、陰腹を切って訴える忠臣の壮絶なる姿を描写。竹笛とオーケストレーションで壮麗なイメージを喚起させるインストゥルメンタル"Warriors of Yama"は、和風というよりはむしろアジアンな印象なのですが、このたまに妙にパチモン臭くなるところも彼らの一種の魅力かもしれません。怒涛のコーラスですべてを押し流すエピックでハイカロリーな疾走メロデスチューン "Victory Grounds Nothing"のやりすぎ感も微笑ましい。もはや恒例となったラストの10分越え大曲ですが、今回の"Bloodred Shores of Enoshima"は、鎌倉/江ノ島に伝わる『江島縁起』に記された、弁財天と五頭の龍の悲恋の物語「五頭龍伝説」をコンセプトにした“五部構成”の組曲。まずもってこの伝説を取り上げたバンドのセンスが素晴らしすぎるのですが、楽曲構成も微塵の緩みがない、全編が山場ともいえる圧巻の構成。高密度のドラマの果ての寂滅とした余韻にも心を打たれます。




http://www.whisperedband.com/
https://www.facebook.com/whisperedband
https://www.youtube.com/channel/UC7daCsikke2DDjSG27xcOWw


Whispered stream new album Metsutan - Songs Of The Void in full
(from Teamrock|2016.05.13)
アルバムの全曲のフル試聴も可能。

Interview With Whispered
(from SoundScapeMagazine|2015.10.28)




【余談】

■WHISPEREDの一連のアルバムアートワークを手がけられているTOK氏は神奈川在住のグラフィックデザイナー。TURISASのアルバムやTシャツなども氏のデザインであり、Behanceのアカウントではもろもろのラフ画を見ることができます。

https://www.behance.net/tokmr
http://tokmr.com/



『Shogunate Macabre』の国内盤にはボーナストラックとしてファイナルファンタジーVIIの"闘う者達"、「銀牙 -流れ星銀-」の主題歌"流れ星 銀"の秀逸なアレンジ・カヴァーがそれぞれ収録されたほか、2015年にリリースされたデジタルシングル「Sakura Omen」のB面にはロックマンXのブーメルクワンガーステージのテーマをカヴァーしていました。前述したアルバムのクレジットにおける竹原裕子さんへのラブコールといい、ロックマンXはJouni氏にとって特に思い入れのあるタイトルのようです。とあるインタビューでは「ゲームミュージックは長い間聴いてきたし、カヴァーするのは楽しいから将来的にもっとやっていきたい」「ファミコンやスーパーファミコンゲームのサウンドはとにかくすげえメタルだ」とも述べていました。