2016年6月11日土曜日

八年の歳月を吹き飛ばす、エレクトロ・プログレッシヴ・ロックの金字塔 ― FROST*『Falling Satellites』(2016)

Falling Satellites
Falling Satellites
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Frost
Inside Out U.S. (2016-05-27)
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 ジェム・ゴドフリー率いるイギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド フロスト*の、『Experiments in Mass Appeal』以来、実に八年ぶりとなるオリジナルフルアルバム。この間にジェムは結婚して四人の子のパパになり、本業もふくめて多忙を極めていたとのこと。まずは粘り強くレコーディングを続けたジェムへの感謝、そしてアルバムの完成を寿ぎたいです。ラインナップはジェム(keyboard, vocal, etc)、ジョン・ミッチェル(vocal, guitar)、ネイザン・キング(bass)、クレイグ・ブランデル(drums)。八年ぶりのスタジオアルバムとはいうものの、その間にはアメリカのプログレフェス「RoSfest」出演時の音源にスタジオ録音の新曲"The Dividing Line"をプラスした二枚組アルバム『The Philadelphia Experiment』(2010)、ウェールズのスタジオで行われたセッションに、ジェム氏の自宅スタジオでのアコースティック・セッションの映像と音源を収録したDVD&CD『The Rockfield Files』(2014)のリリースがあり、キレとダイナミズムの増したパフォーマンスで彼らの良好な「途中経過」をみせてくれましたし、バンド周辺ではジョン・ミッチェルが新たなソロプロジェクト LONELY ROBOTを立ち上げるなど、嬉しいニュースもありました。




 イントロダクション"First Day"からの"Numbers"は、待ちに待ったアルバムへの期待感に見事に報いてなお余りある、ダイナミックなキラーチューン。畳み掛けるコーラスのハーモニー、込み入っているようで、おそろしく抜けのよいアレンジ。この曲だけでも、本作が過去二作の延長線上ではないということを知らしめてくれます。続く"Towerblock"は、ジェム・ゴドフリーの音楽的嗜好とプロデューサー業のフィードバックを強く感じさせる一曲。ダブステップ/EDMをガッツリと組み込み、持ち前の太いサウンドがよりいっそう弾ける仕上がりです。ちなみに氏はTom Bellamy(ex. The Cooper Temple Clause)、Eddy Temple Morris、Paul Mullenによるエレクトロ・ロック・バンド LOSERSの2ndアルバム『...And So We Shall Never Part』(2014)のミックスとプロデュースに携わっており、そのことを思い出しました。ジェムとジョンの共作による"Signs"は、めくるめくバンドサウンドはそのままに、ジョン・ミッチェルのヴォーカルを存分にフィーチャーしたメロディック・ロック。"Lights Out"は2014年の夏ごろにジェムのsoundcloudアカウント(現在は消滅)で短期間こっそり公開されていた曲。トーリ・ビューモント(過去には小室哲哉『Digitalian Is Remixing』にバッキングヴォーカルとして参加しています)のコーラスを得た、しっとりとしたバラードです。




 そして、本作のハイライトとなる"Sunlight"へ。一曲二十五分の大曲だったデビューアルバムの"Milliontown"を意識しつつも、それとは別の方法論でつくりあげられた、六部構成/総尺三十二分にわたる大作組曲です。第一パートの"Heartstrings"は前述の『The Rockfield Files』にも収録されていた楽曲ですが、アレンジ/ミックスは別物。楽曲展開も一分半ほど長くなり、シンフォニックなブリッジで第二パート"Closer to the Sun"へ。そしてここではジョー・サトリアーニがギターソロで客演しています。2012年のG3ツアーのサポートキーボーディストをジェムが務めたことが縁となっての参加で、やはりというか、バンドのシャープなサウンドとサトリアーニの流麗なプレイは相性がバツグンです。第三パート"The Raging Against the Dying of the Light Blues in 7/8"、は、そのタイトル通り七拍子を基調としたプログレッシヴ・メタルチューン。ヴァイオリンで客演しているのは、ゲームミュージックコンポーザーでありヴァイオリニストのマーク・ナイト。ハイテンションで惜しげもなくアイデアを吐き出しつながら、シームレスに第四パート"Nice Day fot It"へ。"Heartstrings"のメロディラインもリプライズしながら高密度のソロパートで加速度的にグイグイと突き進み、カタルシスをもたらしてくれます。そして、丸ごとアンビエントな第五パート"Hypoventilate"と、ピアノとヴォーカルによるシンプルなバラード仕立ての第六パート"Last Day"で、たっぷりの情緒とともに締めくくります。圧巻の構成、圧巻の余韻。"Lantern" "British Wintertime"の二曲はボーナストラック。前者は『The Rockfield Files』のアコースティック・セッションに収録されていた楽曲のスタジオ版。後者はポストロック調のドリーミーな一曲。美しいオーケストレーションとコーラスがしみじみと味わい深いです。


フォーリング・サテライツ
フロスト*
マーキー・インコーポレイティド (2016-06-22)
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 6月22日にはマーキー・インコーポレイティド/AVALONからSHM-CD仕様の国内盤でのリリースもひかえています。これまでは同社のベル・アンティーク レーベルからの輸入盤帯・解説付き仕様でのリリースでしたが、国内プレスでの流通は今回が初。また、以前よりアナウンスされていましたが、バンドは三作目となる本作をもってInside Outレーベルとの契約を終えます。次作のリリースがどこからになるのかは未定ですが、現ラインナップによる過去作の再録の構想もあり、今後もまだまだお楽しみは尽きません。そうそう、今年の7月24日は、『Milliontown』のリリース10周年を迎えるのですよ。


http://www.frost.life/
http://www.facebook.com/Official-Frost-154098904622178
https://frost.bandcamp.com/


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JEM GODFREY OF FROST*!!
(from Marunouchi Musik Magazine|2016.05.12)
インタビュー記事(日本語)

FROST*『The Rockfield Files』(2013)
FROST*『The Philadelphia Experiment』(2010)
FROST*『Experiments in Mass Appeal』(2008)
FROST*『Milliontown』(2006)
Lonely Robot『Please Come Home』(2015)
FROST*の前身バンド「FREEFALL」の楽曲が、元メンバーのsoundcloudにて多数公開中
FROST*のジェム・ゴドフリーも関与のLOSERSのアルバム『...And So We Shall Never Part』が4月4日にリリース