2016年6月23日木曜日

Hans Zimmer Early Works ― スタジオミュージシャン時代のハンス・ジマーの足跡をたどる



 ハンス・ジマーが初期のモーグの巨大なモジュラー・シンセサイザー(通称 タンス)と一緒に写っている1970年の写真が、tumblrやTwitterで以前より出回っております(バズったキッカケはATP Festivalのtumblrアカウントの模様)。1970年というとジマーが13歳のころであり、どういう経緯で撮られた写真なんだろうかと、気になって調べてみたのですが、そのあたりの詳しいことは何もわからずじまい。とはいえ、この写真はかつて存在したファンサイト「Hans Zimmer Worship Page」に2000年初頭から載っていたものだということはわかりました(Internet Archiveのログ

 今でこそ映画音楽の大家として知られるジマーですが、そんな彼にも下積み時代があります。1970年代半ばごろに、ジマーは渡英してスタジオミュージシャンとして活動しはじめるのですが、そのころに関わったアルバムにはどんなものがあるのか、1985年ごろまでのものを調べてみました。

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 Rusty Butlerというプログレッシヴ・ロック・バンドが1970年初頭に活動していました。後にニューウェイヴ・パンク・バンド The Stranglersに加入するデイヴ・グリーンフィールドが在籍していたバンドなのですが、同バンドのベーシストだったデイヴ・ポクソンは解散後にKRAKATOA (1975~1979)というハード・ロック・バンドの結成に関わります。このKRAKATOAこそが、スタジオミュージシャンとして活動間もないころのハンス・ジマーが途中加入したバンドであり、ここにはTOYAHやSAXONに加入する前のナイジェル・グロックラーも在籍していました。KRAKATOAの残したデモ音源は、バンドのmyspaceでいくつか聴くことができます。ファンク要素も強いプログレッシヴ・ハード・ロックといった印象です。

https://myspace.com/krakatoa1975/music/songs


「Spaceward Studios 1972 - 1988」
http://www.spaceward.co.uk/spaceward-studios/krakatoa.htm

 在りし日のKRAKATOAの面々。左から一番目がナイジェル・グロックラー、二番目がハンス・ジマー、四番目がデイヴ・ポクソン、ちなみにデイヴはこの後、SAXONのマネージャーを務めることになります。ナイジェルの後のSAXONへの加入は、このときの繋がりもあってのことだったのでしょうね。


■Chromium『Star to Star』(1979)


ジマーはBUGGLESの面々とともに仕事をしていたことで知られていますが、本作はBUGGLESを結成する前のトレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズの両人がプロデュースしたディスコ・ファンク・プロジェクトの唯一作。サウンド的にもバグルスのカラーが濃く、非常に興味深いです。ジマーはエレクトロニクスでクレジットされています。ちなみに、若きハンス・ジマーの姿はバグルスの"ラジオスターの悲劇"のPVでも確認できます。(2:50あたりから注目)




■Sally Oldfield『Easy』(1979)
EASY / CELEBRATION
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SALLY OLDFIELD
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マイク・オールドフィールドの実姉であるサリーの2作目のソロアルバム。ジマーはアルバムB面の4曲("Sons OfThe Free" "Hide And Seek" "Firstborn Of The Earth" "Man Of Storm")にシンセサイザーでクレジットされています。


■Krisma『Cathode Mamma』(1980)
Cathode Mamma
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Krisma
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マウリツィオ・アルシエリ、クリスティーナ・モーザーの夫婦によるエレクトロユニット Crismaが名義をKrismaに変えてリリースした、3作目のアルバム。ジマーはシンセサイザー/プログラミングでクレジット。


■The Damned『The Black Album』(1980)
The Black Album
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セックス・ピストルズやザ・クラッシュと並ぶ三大パンクバンドのひとつ ザ・ダムドの4作目のアルバム。ジマーは"History Of The World Part 1"の一曲のみ、共同プロデュース/シンセサイザーで参加。アルバムに「Overproduced」と記載されてしまうほど、ダムドらしからぬ強度のあるサウンドプロダクションが施されております。




■Kevin Ayers『That's What You Get Babe』(1980)
That's What You Get Babe
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Kevin Ayers
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SOFT MACHINEのオリジネイターであり、ブリティッシュ・サイケ/カンタベリー・シーンの「自由人」ケヴィン・エアーズの9作目であり、Harvestレーベルでの最後のアルバム。ジマーはシンセサイザー/プログラミングでクレジット。


■Zaine Griff『Ashes and Diamonds』(1980)
Ashes And Diamonds
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ニュージーランド出身のデンマーク人シンガーソングライターにして、80年代のニュー・ロマンティック・ブームを彩ったザイン・グリフのデビューアルバム(邦題『灰とダイヤモンド』)。デヴィッド・ボウイなどを手がけたトニー・ヴィスコンティのプロデュース。ジマーはシンセサイザー/プログラミングでクレジットされています。


■Michel Polnareff『Bulles』(1981)
Bulles
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Michel Polnareff
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「シェリーに口づけ」で知られるフレンチ・ポップスの大家 ミッシェル・ポルナレフの81年作。邦題『シャボンの中の青い恋』。ジマーはキーボードでクレジット。


■Miguel Bosé『Más Allá』(1981)
Mas Aila
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Miguel Bose ミゲルボゼ


スペインの俳優でありシンガーのミゲル・ボセのソロ5作目。ジマーはシンセサイザーでクレジット。


■Mocedades『Desde que tú te has ido』(1981)
スペイン・ビルバオのフォークポップスグループの12作目のアルバム。ジマーはシンセサイザーでクレジット。


■Video Kids『Never Too Young To Dance!』(1981)
ディスコポップユニットのおそらく唯一作。ジマーはシンセサイザーでクレジット。


■Zaine Griff『Figvres (Figures)』(1982)
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YMOの高橋幸宏、ケイト・ブッシュ、ULTRAVOXのウォーレン・カンらを迎えて制作されたザイン・グリフの1982年のアルバム。ジマーは共同プロデュース/アレンジで参加。ちなみに、同作にはフォーク・ロック・バンドGRYPHONのリチャード・ハーヴェイ(現在は脱退)とグラハム・プレスケット(2009年に加入)も参加しているのですが、この二人とジマーは関係が深く、リチャードは近年では「インターステラー」(2014)のスコアでオーケストラ・コンダクターを担当しているほか、「リトルプリンス 星の王子さまと私」(2015)ではジマーとスコアを共作しています。グラハムは前述のケヴィン・エアーズやミゲル・ボセ、Mocedadesのアルバムに参加しているほか、映画「愛に迷った時」(1995)のスコアをジマーと共作し、「ダ・ヴィンチ・コード」(2006)のサントラにもアレンジャーとしてクレジットされています。




■Stanley Myers、Hans Zimmer『Moonlighting』(1982 ※Bootleg)
映画「ムーンライティング」(イエジー・スコリモフスキ監督)のサントラ。「ディア・ハンター」(マイケル・チミノ監督)のスコアで知られるスタンリー・マイヤーズがメインコンポーザーで、ジマーは追加スコアで関与していたのですが、サントラはブートレッグでのリリースだった模様(全8曲、10分にも満たない収録内容)。以降、「マリリンとアインシュタイン」「マイ・ビューティフル・ランドレット」(1985)、「悪魔のサバイバル」(1986)、「ペーパーハウス/霊少女」(1988)など、ジマーとマイヤーズのタッグは80年代末にかけて数々のスコアを手がけております。ところで、「マイ・ビューティフル・ランドレット」における、ジマー作編曲の挿入歌"My Beautiful Laundrette"(ヴォーカル:リタ・ウルフ)は「オペラ座の怪人」のフレーズを援用した秀逸なエレポップチューンでオススメです。





■Sally Oldfield『Strange Day In Berlin』(1983)
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サリー・オールドフィールド
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ソロ5作目。ジマーは共同プロデュース/シンセサイザーでクレジット。


■HELDEN『Holding On』(1983 ※Single)
http://www.hans-zimmer.com/index.php?rub=disco&id=305
ULTRAVOXのドラマー ウォーレン・カンとのシンセ・ポップ・デュオ「ヘルデン」は、ジマーのミュージシャンとしてのキャリアでも非常に興味深いものです。ヴォーカルにザイン・グリフ、BUGGLESのアルバムにバッキングヴォーカルで参加したリンダ・ジャーディムを迎え。『Spies』という12曲入りアルバムをリリースする予定だったもののそれは叶わず、後年になってブートレッグでリリースされています。なお、ジマーとカンは84年から85年にかけて、スペインのニューウェイヴ・ロック・バンド MECANOのツアーに帯同しており、ライヴアルバム『Mecano: En Concierto』でそのパフォーマンスを聴くことができます。そしてなんと、映像も残っています。




■Zdravko Čolić『Šta Mi Radiš (What Are You Doing To Me?)』(1983)
1973年にユーロビジョンへの出場歴もある、ユーゴスラヴィアのシンガーソングライター ズドラヴコ・チョリッチの5作目。レコーディングはロンドンのスタジオで行われており、ジマーはシンセサイザー/プログラミングで参加。


■Evelyn Thomas『High Energy』(1984)
High Energy
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Evelyn Thomas
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80年代に隆盛したディスコ/シンセミュージック Hi-NRG(ハイエナジー)の代表的アーティスト イヴリン・トーマスのディスコヒットアルバム。ジマーはプログラミングで参加。後述のバーバラ・ペニントン(本作ではバッキング・ヴォーカルで参加もしています)や、リンダ・テイラー、MIDNIGHT SUNRISEなど、ジマーは80年代末期にかけて、Hi-NRG系アーティストの楽曲のアレンジ/プログラミングを多数手がけています。





■Barbara Pennington『Out of The Darkest Night』(1985)
Out of the Darkest Night
Out of the Darkest Night
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Barbara Pennington
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シカゴ出身、イギリスをメインに活動したHi-NRG系シンガー バーバラ・ペニントン。ジマーは一部の楽曲のシンセサイザー/プログラミングでクレジット。


■Who Cares『Doctor In Distress』(1985 ※Single)
ポップストリオ Tight Fitのメンバー デニーズ・ジンゲルとジュリー・ハリスのふたりによるHi-NRG系ユニットの唯一のシングル。ジマーは演奏で参加。


■Claudio Baglioni『La Vita È Adesso』(1985)
La Vita E' Adesso
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カンタトゥーレの大御所 クラウディオ・バリオーニのソロ10作目。ジマーはシンセサイザーでクレジット。


■Shriekback『Oil And Gold』(1985)
Oil And Gold
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元 League of Gentlemen、XTCのバリー・アンドリューズや、元GANG OF FOURのデイヴ・アレンらが組んだポストパンクバンド シュリーバックの3作目。ジマーはプログラミング/エンジニアのほか、一部の演奏にも参加しています。
http://shriekbackmusic.tumblr.com/post/102631586862/shriekback-go-to-the-movies




■Duffo『Gonna Send The Boys Around』(1985 ※Single)
オーストラリア生まれのシンガーソングライター Duffoことジェフ・ダフのシングル。プロデュース/ドラムスはウォーレン・カン。同じくULTRAVOXのビリー・カーリーも参加。ジマーはシンセサイザーでクレジット。実質、HELDENのサポートを受けた作品といえます。

 
■V.A『Shape Of The Universe: A Souvenir Of Insignificance』(1985)
ZTTレーベルよりリリースされた、コメディ映画「マリリンとアインシュタイン」のサウンドトラック。ロイ・オービソン、テレサ・ラッセルのヴォーカル曲に、スタンリー・マイヤーズのスコア、ジマーのスコア"Remember Remember" "B-29 (Shape Of The Universe)" "World Of Theory (Explode)"を収録。

■Evelyn Thomas『Standing At The Crossroads』(1986)
Programmed By Hans Zimmer (tracks: B1 to B4)

■Linda Taylor『Every Waking Hour』(1986 ※Single)
Written-By, Arranged By Hans Zimmer

■Earlene Bentley『Don't Delay』(1986 ※Single)
Written-By, Arranged By Hans Zimmer

■Midnight Sunrise With Nellie 'Mixmaster' Rush Featuring Jackie Rawe『On The House』(1986)
Arranged By Hans Zimmer

■Midnight Sunrise Featuring Jackie Rawe『In At The Deep End』(1986)
Arranged By Hans Zimmer

■Darryl Pandy『Animal Magnetism (The Chicago House Remix)』(1986)
Arranged By Hans Zimmer

■Croisette『Nothing But Blackmail』(1986 ※Single)
Arranged By Hans Zimmer

■Richard Myhill『Don't Talk - Dance』(1986)
Programmed By Hans Zimmer

■Paloma San Basilio『Grande』(1987)
Arranged By Carlos Gomez, Graham Preskett, Hans Zimmer

■Carol Jiani『Such A Joy Honey』(1987 ※Single)
Arranged By Hans Zimmer, Ian Levine

■Midnight Sunrise With Nellie 'Mixmaster' Rush『This Is A Haunted House』(1987 ※Single)
Arranged By, Written-By Hans Zimmer