2016年6月26日日曜日

「J・G・バラード短編全集」を待ちながら

ハイ・ライズ (創元SF文庫)
J・G・バラード
東京創元社
売り上げランキング: 7,704


 今なお読み手を惹きつけてやまない、J・G・バラード。彼が70年代に立て続けに発表した〈テクノロジー三部作〉のひとつ『ハイ・ライズ』が、ベン・ウィートリー監督、トム・ヒドルストン主演で今年映画化。1980年に早川書房より『ハイ―ライズ』として刊行されて以後、長らく復刊が望まれていた原作小説も、8月の日本公開にあわせて7月に東京創元社から復刊を果たすわけですが、さらに同社からは全五巻の「J・G・バラード短編全集」の刊行予定もアナウンスされました。ということは、長らく絶版状態にある〈ヴァーミリオン・サンズ〉の一連の作品や、1976年にNW-SF社から刊行され、現在はかなりのプレミアアイテムとなっている『死亡した宇宙飛行士』の収録作も読めるというわけです。


“〈破滅三部作〉、『ハイ・ライズ』などの黙示録的長編で、1960年代後半より世界的な広がりを見せたニュー・ウェーブ運動を牽引し、20世紀SFに独自の境地を拓いた英国きっての鬼才作家バラード。その生涯に残した97の短編を執筆順に収録する、決定版全集。全五巻。 ”
http://e6.wingmailer.com/wingmailer/backnumber.cgi?id=E434


 ここでふと、英米では全集がいつごろ刊行されたのか、気になったので調べてみました。まず、イギリスのハーパー・コリンズのインプリントであるFlamingoから2001年に『The Complete Short Stories』が出ています。ハードカバー1189ページで、96編を収録。その後、2006年と2014年にはハーパー・コリンズの別のインプリントであるHarper Perennial4th Estateから二分冊版がそれぞれ出ています(後者はebook版もあり)。そしてアメリカでは、2009年にW. W. Norton & Companyからハードカバー一冊版が刊行。マーティン・エイミスによる序文がつき、1199ページ、98編を収録。新たに追加された二編は、「J・G・バ***の秘められた自叙伝 (The Secret Autobiography of J.G.B.)」(1981)、「死の墜落 (The Dying Fall)」(1996)でした。翌2010年にはペイパーバック一冊版が刊行されています。収録作の98編のタイトルは以下のとおり。せっかくなので、日本でこれまで刊行された選集にどの短編が収録されているのかも調べてみました。


『時の声』(吉田誠一訳/東京創元社)
『時間都市』(宇野利泰訳/東京創元社)
『永遠へのパスポート』(永井淳訳/東京創元社)
『時間の墓標』『終着の浜辺』(伊藤哲訳/東京創元社)
『溺れた巨人』(浅倉久志訳/東京創元社)
『ヴァーミリオン・サンズ』(浅倉久志・村上博基・永井淳訳/早川書房)
『死亡した宇宙飛行士』(野口幸夫訳/NW-SF社)
『ザ・ベスト・オブ・J・G・バラード』(星新蔵訳/サンリオ→筑摩書房)
『残虐行為展覧会』(法水金太郎訳/工作舎)
『ウォー・フィーバー』『第三次世界大戦秘史(飯田隆昭訳/福武書店)
その他(雑誌掲載、アンソロジー収録など)


【参考】
翻訳作品集成 - J・G・バラード
ISFDB - Summary Bibliography: J. G. Ballard


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The Complete Stories of J. G. Ballard
J. G. Ballard
W W Norton & Co Inc
売り上げランキング: 107,356

『The Complete Short Stories』
(2009/W. W. Norton & Company)
http://books.wwnorton.com/books/detail.aspx?ID=12255

《収録作》

“Prima Belladonna”
○■「プリマ・ベラドンナ」

“Escapement”
◎「逃がしどめ」☆「タイム・チャンネル」

“The Concentration City (Build-Up)”
○「大建設」☆「無限都市」*「強制収容都市」

“Venus Smiles (Mobile)”
○「モビル」■「ヴィーナスはほほえむ」

“Manhole 69”
●☆「マンホール69」*「六九型マンホール」

“Track 12”
◎「十二インチLP」☆「トラック12」

“The Waiting Grounds”
●「待ち受ける場所」*「待つための根拠」

“Now: Zero”
○「最後の秒読み」

“The Sound-Sweep”
●「音響清掃」*「音を取りのける男」

“Zone of Terror”
●「恐怖地帯」

“Chronopolis”
○「時間都市」*「クロノポリス(時間都市)」

“The Voices of Time”
●☆「時の声」*「時間が語りかけてくる」

“The Last World of Mr. Goddard”
▲「ゴダード氏最後の世界」

“Studio 5, The Stars”
○「アトリエ五号、星地区」■「スターズのスタジオ5号」

“Deep End”
●「深淵」

“The Overloaded Man”
●「重荷を負いすぎる男」*「負担がかかり過ぎた男」

“Mr. F is Mr. F”
(『The Disaster Area』[1967]収録)

“Billenium (Billennium)”
○「至福一兆」

“The Gentle Assassin”
○「静かな暗殺者」

“The Insane Ones”
○☆「狂気の人たち」

“The Garden of Time”
○「時間の庭」

“The Thousand Dreams of Stellavista”
◎■「ステラヴィスタの千の夢」

“Thirteen to Centaurus”
◎「アルファ・ケンタウリへの十三人」

“Passport to Eternity”
◎「永遠へのパスポート」

“The Cage of Sand”
◎☆「砂の檻」

“The Watch-Towers”
◎「監視塔」

“The Singing Statues”
■「歌う彫刻」☆「歌う彫像」

“The Man on the 99th Floor”
◎「九十九階の男」

“The Subliminal Man”
▲「識閾下の人間像」☆「無意識の人間」

“The Reptile Enclosure (The Sherrington Theory)”
△「爬虫類園」

“A Question of Re-Entry”
◎「地球帰還の問題」

“The Time-Tombs”
▲「時間の墓標」

“Now Wakes the Sea”
▲「甦る海」

“The Venus Hunters (The Encounter)”
▲「ヴィーナスの狩人」

“End-Game”
▲「ゲームの終わり」

“Minus One”
▲☆「マイナス1」

“The Sudden Afternoon”
▲「ある日の午後、突然に」

“The Screen Game”
△■「スクリーン・ゲーム」

“Time of Passage”
△「うつろいの時」

“Prisoner of the Coral Deep”
☆「深層珊瑚の囚人」

“The Lost Leonardo”
☆「消えたダ・ヴィンチ」

“The Terminal Beach”
▲☆「終着の浜辺」

“The Illuminated Man”
(『The Terminal Beach』[1964]収録)

“The Delta at Sunset”
△「たそがれのデルタ」

“The Drowned Giant (Souvenir)”
△☆「溺れた巨人」

“The Gioconda of the Twilight Noon”
△「薄明の真昼のジョコンダ」

“The Volcano Dances”
☆「火山の舞踏」

“The Beach Murders (Confetti Royale)”
「浜辺の惨劇」

“The Day of Forever”
△「永遠の一日」

“The Impossible Man”
△「ありえない人間」

“Storm-Bird, Storm-Dreamer”
△「あらしの鳥、あらしの夢」

“Tomorrow is a Million Years”
☆「夢の海、時の風」

“The Assassination of John Fitzgerald Kennedy Considered as a Downhill Motor Race”
※「下り坂自動車レースとみなしたジョン・F・ケネディの暗殺」
☆「下り坂カーレースにみたてたジョン・フィッツジェラルド・ケネディ暗殺事件」

“Cry Hope, Cry Fury!”
■「希望の海、復讐の帆」

“The Recognition”
☆「認識」

“The Cloud-Sculptors of Coral D”
■☆「コーラルDの雲の彫刻師」

“Why I Want to Fuck Ronald Reagan”
※「どうしてわたしはロナルド・リーガンをファックしたいのか」

“The Dead Astronaut”
☆「死亡した宇宙飛行士」

“The Comsat Angels”
「通信衛星の天使たち」

“The Killing Ground”
☆「殺人競技場」

“A Place and a Time to Die”
「死ぬべき時と場所」

“Say Goodbye to the Wind”
■「風にさよならをいおう」☆「風にさらばを告げよ」

“The Greatest Television Show on Earth”
「地上最大のTVショー」

“My Dream of Flying to Wake Island”
「ウェーク島へ飛ぶわが夢」☆「ウェーク島へ飛ぶ夢」

“The Air Disaster”
★「航空機事故」

“Low-Flying Aircraft”
「低空飛行機」

“The Life and Death of God”
「神の生と死」

“Notes Towards a Mental Breakdown (The Death Module)”
★「精神錯乱にいたるまでのノート」

“The 60 Minute Zoom”
(『The Venus Hunters』[1980]収録)

“The Smile”
(『Myths of the Near Future』[1982]収録)

“The Ultimate City”
「最終都市」

“The Dead Time”
(『Myths of the Near Future』[1982]収録)

“The Index”
(『Re/Search: J. G. Ballard』[1984 ※インタビュー・評論集]収録)
(『War Fever』[1990]収録)

“The Intensive Care Unit”
(『Myths of the Near Future』[1982]収録)

“Theatre of War”
(『Myths of the Near Future』[1982]収録)

“Having a Wonderful Time”
(『Myths of the Near Future』[1982]収録)

“One Afternoon at Utah Beach”
☆「ユタ・ビーチの午後」

“Zodiac 2000”
☆「ZODIAC2000」

“Motel Architecture”
(『Myths of the Near Future』[1982]収録)

“A Host of Furious Fancies”
☆「妄想のとりこ」

“News From the Sun”
☆「太陽からの知らせ」

“Memories of the Space Age”
★「宇宙時代の記憶」

“Myths of the Near Future”
☆「近未来の神話」

“Report on an Unidentified Space Station”
★「未確認宇宙ステーションに関する報告」
☆「未確認宇宙ステーションに関する報告書」

“The Object of the Attack”
★「攻撃目標」

“Answers to a Quesionnaire”
★「尋問事項に答える」

“The Man Who Walked on the Moon”
★「月の上を歩いた男」

“The Secret History of World War 3”
★「第三次世界大戦秘史」

“Love in a Colder Climate”
★「エイズ時代の愛」☆「愛は慄えて」

“The Enormous Space”
★「巨大な空間」

“The Largest Theme Park in the World”
★「世界最大のテーマ・パーク」

“War Fever”
★「ウォー・フィーバー」

“Dream Cargoes”
★☆「夢の積荷」

“A Guide to Virtual Death”
☆「ヴァーチャルな死へのガイド」

“The Message from Mars”
☆「火星からのメッセージ」

“Report from an Obscure Planet”
(「Leonardo」issue 1992 April ※雑誌)

“The Secret Autobiography of J.G.B.”
☆「J・G・バ***の秘められた自叙伝」>

“The Dying Fall”
☆「死の墜落」

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 ほとんどが翻訳されて日本に紹介されていますが、それでも未訳のものが11編ほどあるみたいです(“Mr. F is Mr. F” “The Illuminated Man” “The 60 Minute Zoom” “The Smile” “The Dead Time” “The Index” “The Intensive Care Unit” “Theatre of War” “Having a Wonderful Time” “Motel Architecture” “Report from an Obscure Planet”)。そしてそのほとんどは1982年に刊行された短編集『Myths of The Near Future』に収録されていたものであるようです。

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