2016年3月15日火曜日
実力派チップチューン・プログレッシヴ・メタラーの面目躍如たるソロ二作目 ― Danimal Cannon『Lunaria』(2016)
アメリカ出身のギタリストにしてChiptunerである「Danimal Cannon」ことダニエル・ベーレンス。彼は数多くのゲームミュージックのアレンジ企画アルバムに積極的に参加し、ArmcannonやMetroid Metalといったゲームミュージックのヘヴィメタルカヴァーバンドや、プログレッシヴ・メタル・トリオ Weaponexのメンバーとしても活躍。2011年にはロシアのチップチューンレーベル「ubiktune」より初のオリジナルソロアルバム『Roots』でデビュー。2013年にはカナダのChiptuner「ZEF」ことクリス・ぺナーとのコラボレーションによる、 Little Sound Dj(ゲームボーイ用ミュージックエディタ)を駆使したチップチューンアルバム『Parallel Processing』をリリース。コンポーザーとしての才覚も広く知らしめました。その後もubiktuneの総帥であるC-jeffのアルバムにプレイヤーとしてゲスト参加しているほか、近年はアプリゲームの楽曲の制作/アレンジなども手がけ、ますますアクティヴな活動を続けています。virt (Jake Kaufman)、norg (George Nowik)、Norin Radd、Cheap Dinosaursなど、プログレッシヴ・メタルとチップチューンの融合をスタイルとするミュージシャンやバンドは枚挙にいとまがないですが、ダニエル氏は先の面々と並ぶ第一線アーティストのひとりなのです。
そんな彼が約5年ぶりに放つ完全新作ソロアルバムが本作『Lunaria』。アルバムの大まかなコンセプトは、彼が以前より関心を抱いていたという「ジャイアント・インパクト説」(地球に別の天体が衝突したことで月が生まれたという説)をベースにして、「Luna」と「Aria」を複合させた造語であり、月の擬人化の意味合いもふくめた「Lunaria」を掲げることで形成されています。チップチューンのスキマを密にフォローするハードエッジなギターリフや、ここぞというところでのメロディアスなソロにも注目です。その見事な証左ともいえるのが、チョップ&スパークする音の渦でアルバムのオープニングを飾る"Axis"。チップチューン黎明期において恐るべき技術とセンスを発揮した早熟の天才にして伝説のコンポーザー/アレンジャー ティム・フォリンへのラブレターでもある、というあたりも感慨深い。もう一通のラブレターは、「サイバーパンク・フィクションとハッカー文化」に対して捧げられた、ストイックな展開が極まるプログレッシヴ・チップチューン"Red Planet"。また、ハード・エレクトロ調の"Lunaria"、ラウンジ調の"Postlude"の二曲で女性ヴォーカリストのエミリー・ヤンシーをフィーチャーしているほか、"Surveillance"では(おそらく)ダニエル氏自身がヴォーカルをとっており、歌ものへの興味・関心がうかがえるところもポイントでしょう。ラストに収められた"Axis"のピアノソロヴァージョンは、『Roots』にもゲスト参加していたチップチューンピアニスト Shnabubulaことサミュエル・アッシャー・ヴァイスによる演奏。彼もまた、技巧とセンスを兼ねそなえた素晴らしき才人であることを付しておきます。
▽「Behind Lunaria」
(from ubiktune.com|2016.02.09)
▽Armcannon : Interview
(from chronicles of chaos|2008.10.05)
https://www.facebook.com/danimalcannonmusic
http://vgmdb.net/artist/3845