フランスのシンセサイザー奏者/コンポーザーであり、「レーザーハープ(Laser Harp)」の開発者、そしてメディア・アーティストでもあるベルナール・シャイネール(ベルナルド・ソジャーン)。ライティング・デザイナーとして、THE WHOやMAGMA、GONG、ツトム・ヤマシタなどの数々のコンサートの演出に関わっていた氏は70年代後半より音楽活動にも目覚め、「ZED」名義で1979年にアルバム『Visions of Dune』を発表します。フランク・ハーバートの大河SF小説『デューン/砂の惑星』に触発されて作り上げられた本作のレコーディングには、フランスを拠点に活動していたイギリス出身のサイケデリック・ロック・バンド BACHDENKELのギタリスト コリン・スウィンバーンや、プログレッシヴ・ロック・バンド MAGMAやNEMOなどに在籍していたドラマー クレメント・ベイリーの名前もあります。そのほか、MAGMAのクラウス・ブラスキとFONDATIONのアナンカ・ラゲルがヴォイスで、Pierre Moerlen's GongやGONGZILLAのハンスフォード・ロウがベースでそれぞれ一曲ずつゲスト参加もしており、彼がライヴ演出家時代に培ったアンダーグラウンドシーンとの繋がりも明らかな、興味深いラインナップとなっています。
アルバムは“First Vision”と題されたA面、“Second Vision”と題されたB面ともに各6曲で構成されており、オーバーハイムとアープ・オデッセイを駆使し、プログレッシヴ・ロックやミニマル・ミュージックの流れも汲んだエレクトロ/ドローン・ミュージックを全編にわたり展開。冷ややかに潜航していくかのように、イマジネーションをゆっくりと喚起させてくれます。本作は1999年にフランスのSpalax MusicよりCD化されて以来、長らく廃盤でしたが、2014年にInFiné Musicより新装ジャケット&ボーナストラック追加でリマスター再発されました。
フランク ハーバート
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余談になりますが、1979年のシンセサイザー・ミュージック シーンでは、ドイツのシンセサイザー奏者 クラウス・シュルツェも、デューンに触発されたアルバム『Dune』を発表しておりました。TANGERINE DREAMの『Force Majeure』や、HELDON(リシャール・ピナス)の『Stand By』もこの年です。また、近年公開されたドキュメンタリー映画「ホドロフスキーのDUNE」のスコアが、『Visions of Dune』と同様にシンセサイザーによる長尺のエレクトロ/ドローン路線だったことも、実に興味深いなと思いました。スコアを手がけたクルト・ステンツェルのイメージには、シャイネールやシュルツェのアルバムの存在もあったのかもしれませんね。
『Visions of Dune』リリース後、シャイネールは実験的エレクトロニクス・アルバムを立て続けに制作。アムネスティ・インターナショナルの死刑廃止キャンペーンに共鳴し、1980年に制作された『SomeDeaths Take Forever』ではMAGMAのベルナール・パガノッティとクラウス・ブラスキが参加。後年、デトロイトテクノの重鎮 カール・クレイグがフェイバリットとして本作を挙げたことで、再評価のきっかけの一つにもなりました。1981年には、『Visions of Dune』制作時のマテリアルをベースにした『Superfical Music』を発表。1982年には、BACHDENKELなどのプロデューサーであったカレル・ビアーとのデュオ The (Hypothetical) Prophetsを結成し、数枚のシングルと、アルバム『AroundThe World With The (Hypothetical) Prophets』を残してもいます。1983年には、BUZZCOCKSやMAGAZINEのハワード・ディヴォートをヴォーカルに迎えた『Brute Reason』を発表。アルバムジャケットにはシャイネールとレーザーハープが写っております。1984年と1986年にはダークなエレポップを収録した12インチEP『The Big Scare』『Indécent Délit』(セルジュ・ゲンズブール"Flash Forward"のカヴァーも収録)をリリースするものの、これ以降、シャイネールは音楽活動から離れ、視覚芸術やロボット工学(!)の道に進みます。断片的な情報ですが、アインシュタインのオートマトンや、多関節ロボットなどの製作、「Zoo des Robots(ロボット動物園)」(1986~1991)なるインスタレーションに携わっていたようです。
シャイネール氏はレーザーハープ開発後、80年代前半まで音楽活動を続け、その後はなんとロボット工学とヴィジュアルアートの道に進んでいます。左はアインシュタインのオートマトンの一部との写真。右は氏が手がけた多関節ロボット「Robby」。 pic.twitter.com/h47ZAzLhiu— さすらい (@camelletgo) 2016年3月26日
近年、カタログの再発が続々と進み、シャイネールの音楽的功績に改めてスポットが当てられているほか、2013年には、かつてルイス・キャロルの「スナーク狩り」に題をとって制作した楽曲をまとめた『The Lost Tracks - Snark Music』が、2015年にはScanner、Ghosting Season、Clara Moto & TylerPope、Irene Dresel、Siavash Aminiら新世代ミュージシャンとのコラボレーション・リミックスアルバム『Rethinking Z』がリリースされました。また、シャイネール自身も音楽活動を再開。2012年11月にはパリで開催された「Festival VISIONSONIC」に出演、映像と音楽のコラボレーションによるライヴを行いました。
SZAJNER / YRO from Yro on Vimeo.
「レーザーハープ」について
レーザー光線(弦)に触れる(遮断する)ことでしかるべき機器に信号が送られ、音を出すレーザーハープは、シャイネールの手により1981年4月に開発され、「シリンジ(Syringe)」と名づけられた第一号機は、まもなくして「6th Festival of Science Fiction and Imagination」なるイベントでお披露目されました。着想のヒントであり、ネーミングの元となったものは、アメリカのSF作家サミュエル・R・ディレイニーの長編スペースオペラ『ノヴァ』に登場する、聴覚だけでなく視覚や嗅覚にも訴える楽器「感覚シリンクス」。シャイネールが抱いていた視覚芸術や電子音楽への興味が、SF的イマジネーションと見事に融合を果たしたというわけです。
サミュエル・R. ディレイニー
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その後、ジャン・ミッシェル・ジャールがレーザーハープに目をつけ、シャイネールへコンタクトをとります。別のエンジニアによってデザインされたモデルがジャールの1981年の中国ツアーで初めて使用されて以降、その存在が広く知られたのはもちろんのこと、彼のコンサートの代名詞にもなり、複数のエンジニアによって改良が重ねられています。また、現在ではコントローラ/キットの販売や個人制作などの動きもあり、この画期的な楽器に興味を抱いた人々がそれぞれのレーザーハープを手にしています。そうそう、日本では平沢進氏が近年のライヴにおいてレーザーハープを使用していますね。
▽平沢進 INTERACTIVE LIVE SHOW 2013「ノモノスとイミューム」超接近! ライブ&機材レポート - イケベ楽器
【その他 参考】
▽SZAJNER mutant harmonies
▽Bernard Szajner/Biography
▽Bernard Szajner/[SYRINGE]
▽laserharp.org/[SYRINGE]
▽〔History of the Laser Harp〕
イギリスのレーザーハープ研究家であるスティーヴン・ホブリー氏のサイト。レーザーハープの開発の歴史がまとめられています。
▽BERNARD SZAJNER INTERVIEW by Andy Garibaldi
(from simplesoul.co.uk|2006.02 ※ Internet Archive)
照明家としての活動から音楽活動へ至るまでの話が中心。GONG、HAWKWINDのティム・ブレイクの名前がよく出てくるほか、音楽的に信頼のおける存在としてHELDONのリシャール・ピナスの名前も少し登場。
▽「On Second Thought Bernard Szajner」
(from Stylus Magazine|2007.07.24)
▽Interview Bernard Szajner
(from Stephen Hobley)
一般的質問、技術的質問、個人的質問の三つを行っており、氏のデザインしたレーザーハープの技術的な詳細、ジャン・ミッシェル・ジャール側とのコンタクトの話などが語られています。
▽Sound & Visions: Rockfort Interviews Bernard Szajner
(from The QUIETUS|2014.08.15)
『Visions Of Dune』リイシュー直後のインタビュー。カール・クレイグとの交流や、今後のヴィジョンなどを語っています。
▽Interview with Bernard Szajner
(from The Stranger|2015.06.03)
音楽的影響として、GONG、MAGMA、フランク・ザッパ、テリー・ライリー、KING CRIMSON、TANGERINE DREAM、KRAFTWERKなどを挙げています。
▽An Interview with Laser Harp Inventor/Dark Synth Prophet Bernard Szajner
(from The Stranger|2016.03.15)
現時点(2016年3月)の最新インタビュー。
▽MAKE:PROJECTS Laser Harp
スティーヴン・ホブリー氏のディレクションによるレーザーハープ制作プロジェクト
▽Stephen Hobley - YouTube
ホブリー氏のYouTubeチャンネル。レーザーハープの概要やレクチャー動画などがアップされています。