2016年2月17日水曜日
復活を遂げた新世代ロシアン・プログレの雄。10年の時を刻む万感の第三作 ― Gourishankar『The World Unreal』(2016)
「ヒマラヤの頂」を意味する、ロシアのプログレッシヴ・ロック・バンド グリシャンカール。ギタリストのNomy AgransonとキーボーディストのDoran Usherを中心として2001年に結成され、ハードロック/ヘヴィメタル、ジャズ・ロック/フュージョン、シンフォニック・ロック、テクノ、デジロック、ニューエイジ、ワールドミュージックと、豊富な音楽要素とアイデアを盛り込み、新世代バンドらしい柔軟なセンスが発揮されたユニークなサウンドでシーンに話題を吹きこみました。2007年に2ndアルバム『2nd hands』をリリース後にヴォーカルとドラマーが脱退。2010年に新ドラマーのSvetoslav Bogdanovと英国人シンガー Jason Offenを迎えたものの、今度はオリジナルメンバーのDoranが個人的な事情により脱退と、相次いで大きな転機を迎えていたバンドですが、ついに本格的再始動。2015年にはbandcampアカウントを登録し、過去作のリマスターエディションもリリース。新作アルバムのレコーディングも着々と進められ、約10年ぶりに完成したのが本作『The World Unreal』。2016年2月時点ではデジタルリリースのみですが、後ほどCD/LPエディションのリリースも予定されております。
アルバムはNomy、Svetoslav、Jasonのトリオを主体に、ヴァイオリンやトランペット、バッキングヴォーカルのパートなどでセッション・ミュージシャンを起用して制作。Doran脱退後は後任を迎えず、Nomyがキーボードパートも請け負う形になっています。そのぶん、楽曲はこれまでと比べるとだいぶソフトなつくりになったと感じるのですが、むしろJasonのジェントリーなヴォーカルを活かす路線にシフトしたと言えます。持ち前の抜けの良さはそのままですし、要所でのアレンジの妙も健在。いくつかの楽曲ではDoranのアイデアが組み込まれてもいます。穏やかなインストゥルメンタル"Intro - Fate"で開幕し、続く"Order And Chaos"ではエスニックなヴォーカリゼーションも交えたエレクトロ・ジャズ・ロックともいうべきサウンドで硬質さをアピール。そして、"First Rush" "Let It Go"と、ポストロック サイドに強くアプローチをかけた浮遊感のある楽曲が続きます。クリアーなテクニカル・ロック・チューン "Place For Everything" "Heartland"、そして本作最長の12分の長尺曲"Truth Stays Silent"は、バンドとコーラスアレンジの絶妙な間のある駆け引きが繰り広げられるユニークな一曲。万感の想いすら感じさせるミドルテンポのシンフォニック・ロック"World Unreal"と、スロウなドリーミー・ポップ"Time Follows"を経て、ラストは2パートで構成されたポストロック meets プログレ大曲"Pleasure And Suffering"。じっくりと構築を重ねるかのような聴き応えの「Part.1」、メカニカルなフレーズとピアノソロを満載した「Part.2」と、それぞれのパートの対比の妙とともに幕を閉じます。
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